パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】(※タイトル変更-旧題「天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す」)

田中寿郎

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序章(プロローグ)

第58話 子供の頃、剣豪に憧れてたにゃ

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俺は八相に構えてワズローと対峙する。

…俺の身長が子供並なのでいまいち格好がつかないが。

サイズを調整して身長を合わせる方法あるのだが、あえてそのまま行ってみる事にした。この世界に降り立って以来十数年、ずっとこの身体で生き抜いてきたのだから。山のようなサイズのドラゴンともこの身体で戦ったのだから今更だ。

さて、剣で相手してやると乗りで言ったのは、俺は剣が得意だったからである。……イメージの中だけのエア剣術だけどな。

前世の日本では、剣道部に所属して剣の修練に勤しんでいた……なんて事もない。前世での剣道の経験は、体育の授業で少し習ったくらいだ。

ただ、そこは日本人の男の子だった俺だ。ネグレクトでほとんど娯楽も与えられなかった少年時代だったが、親の居ない間に家にあるテレビを見て過ごしていたのだ。そして、時代劇の再放送もたくさん見ていた。(お気に入りは村上弘明の編笠十兵衛であった。)それから興味を持って、図書館などで剣豪の本なども読み漁ったのだ。

道具代が掛かるからと部活も参加させてもらえなかったので、実際に剣道をやる機会はなかったのだが。学校の授業でも、みな自分用の防具や竹刀を親に買ってもらって準備していたのに、俺だけはボロボロで臭い学校の備品を借りての授業だった。

なので知識だけはある(つもり…ほとんど妄想に近い)のだが、憧れの気持ちだけで、実際に真剣を振った経験など皆無である。

ただ、この世界に来て、龍爪の逆刃刀を手に入れた後、幸いにも? 剣を使う機会を得た。

この世界では魔物相手にかなりの戦闘(狩り)を経験したが、当然相手はいずれも自分より大きな魔獣なので、効率的にも剣を使う事はなかったのだが……ある時、森の中で深夜、剣を持った骸骨の魔物に出会ったのだ。(人間の街に大分近づいていたので、このような魔物も現れるようになったのかも知れない。)

もちろん、これまでの魔物と同様に普通に戦っても余裕で勝てる。なんならアンデッド系の魔物は光属性の【ターンアンデッド】という魔法一発で済む相手だ。だが、剣を持って凛と構えるそのスケルトンの姿に、俺は忘れていた剣への憧れが胸中に蘇り、俺は魔法を使わず剣で戦う事にしたのだ。

そのスケルトンは生前は名のある剣士だったのだろうか、相当な腕前で、最初はかなり苦戦を強いられてしまった。イメージトレーニングは完璧だったはずだが、やはり実戦は勝手が違う。まぁ【加速】を使って対処したのでなんとか戦えたが。しばらく斬り合い、なるべく相手の技を盗ませてもらってから倒す。

それからしばらくは、スケルトンを探してなるべく戦うようにしていた。まぁ、森の中でそれほど多くの魔物の剣士に出会える事もなかったので、それほど多くの経験は積めなかったのだが。

さて、ワズローだが、俺もさすがに、現役の剣の達人相手に、まともにやったら通用するわけない事は理解している。

だが、特に心配はしていない。それは、様々な補助魔法が使えたからである。【身体強化】【加速】【防御障壁】、さらには相手の力を削ぐデバフ効果のある魔法も色々ある。(さすがにデバフを使うのはちょっと可哀想なのでやめておくが。)

とりあえず、【加速アクセル】の魔法を十回ほど自分に重ねがけしておく。もちろん身体強化によって筋力や視力などもアップ。さらに万が一の時のために、魔法障壁による鎧を身体に纏わせている。

さて、少し達人の剣とやらを見せてもらおうか。シックスの師匠だと言っていたので、それなりに腕はあるのだよな? よく考えたら、シックスとは剣を交えずに終わってしまった。剣で戦って技を見せてもらえば良かったな、と今更思う。

剣を構えたワズロー。口角が少しあがり、次の瞬間、踏み込んで斬り掛かってきた。

おお! 思ったより速い!

かろうじて受け流した俺は、慌てて【加速】をさらに二十回ほど重ねがけした。これでやっと、相手の動きがかなりスローに見えるようになった。

いかな達人の振る剣であっても、スローモーションならば怖くはない。もちろんこちらは相手よりはるかに速く動けるのだから、負けるわけがない。

俺は何度か剣を受け止め、今度はそれを受け流すようにしてみた。さらに、受け流すと同時に攻撃のバックスイングも完了するようにして、反撃に繋げていく。日本でネットで見た柳生新陰流の技にそんなのがあった気がするので真似してみたのだ。

さすが、剣の達人だけあって、反撃は躱されてしまったが。スローモーションなのに最低限の動きで躱すって、どれだけ修練を積んだらそんな事ができるようになるんだよ……正直、素直に感嘆する。

ワズローのほうも、攻撃を躱しはしたものの驚愕の表情をしていたが。

俺は昔(前世で)何かで読んだ、剣の(拳の?)極意を思い出し、実践してみることにした。それは…

相手の“武器”を攻撃すること。

相手の身体に致命の一撃を入れようと思えば難しいが、手足に軽症を与えるだけでよいなら難易度は下がる。さらに、相手の“武器”を攻撃するのは最も簡単である。

相手の武器を破壊する事はできなくとも、武器を攻撃されると、その瞬間は相手は武器を使う事ができなくなるからである。

それではお互いにダメージを与えられないので膠着状態になってしまうと思うが、攻撃をする側とされる側では、する側のほうが有利なのである。自分の体勢や立ち位置をより有利な位置に整える事ができる。

それに対し、武器で受け止めてしまった(あるいは武器を弾かれてしまった)相手は体制を崩してしまう。

当たれば必殺の武器を持っているほど、相手の身体を狙いがちである。そういう相手にはこの戦法は非常に有効なのだ。

俺はワズローの身体を狙わず、剣を狙って龍爪の逆刃刀を打ち込みまくった。激しくぶつかり合う剣。

だが、ここで武器の性能差が現れてしまう。龍爪の逆刃刀はただの鋼の剣よりもずっと頑丈である。それで力任せに剣を打たれ続け、ついにワズローの剣が折れてしまったのだ。

だが、さすがである。ワズローは剣が折れてもまったく躊躇することなく、短くなった剣をそのまま突き出して攻撃してきた。

折れた瞬間に勝ったと気を緩めてしまった俺。(こういうところが経験値の差に出るのだろう。)俺は想定外のその攻撃、眼前に迫ってくる半ばで折れた剣に反応できず、まともに食らってしまったのだった……。


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