パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】(※タイトル変更-旧題「天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す」)

田中寿郎

文字の大きさ
84 / 85
第一章 帝都の賢者

第84話 冒険者ギルド

しおりを挟む
冒険者など興味なかった。むしろ人と関わる事を嫌っていたのだから、質の悪い荒くれ者が多数集まっていそうな冒険者ギルドで活動するなど、俺的にはありえなかった話なのだが。カレーライスと天秤に掛けた結果……

…カレーライスが勝った。

子供っぽいと言われるかも知れないが、カレーライスは俺にとっての一番の好物、いわばソウルフードなのだ。

前世では、あまり高級な料理など食べた事はなかった。特に幼少時はネグレクトにあっていたため、まともな食事は与えられておらず。食い物はあるにはあったがカップ麺が主食だったのだ。(そんな育ち方してたらそりゃ突然死するわな。)

そんな中、そんな状況を薄々察していたのだろう、隣の家のオバサンが時々持ってきてくれたカレーライスは、俺にとっては豪華なご馳走だった。隣のおばさんのカレーは絶品だったしな。(凝ったカレーを作るのは趣味だったらしい。『趣味なので~』と俺の親にお裾分けの言い訳をして、わざと多めに作ってくれていたようだ。)

俺には本当にありがたい存在だった。カレーを初めて食べた時は泣いたね。隣の家の子に生まれたかった。

だが結局、親切なオバサンは俺の毒親と(原因は分からないが)揉めて、家と隣家は険悪になってしまい、お裾分けもなくなってしまった。たまにオバサンの姿を見かけたが、俺と目が合うと気まずそうな表情をしていた。分かってる、まぁオバサンが悪いわけじゃないからそんな顔しないで…と俺は心の中で思っていたが、やがて気がついたら隣家は引っ越して居なくなっていた…。

高校生になってバイトを始めてからは自分でコンビニ弁当くらいは買って食べられるようになった。オバサンのカレーに匹敵するカレーには出会えなかったが。ただ、代わりに新しい食べ方? を見つけた。カツをカレーライスに乗せて、はちみつとソースを掛けて食べるのだ。いわゆるカツカレーである。

それから、金に余裕がある時や特別な時にはカツカレーにコーラをつけるのが、俺にとってのご馳走になったのだった。

余談だが、この世界でカレーの次はコーラを再現してやるというのが密かな俺の野望である。

メイヴィスに訊いてみたが、コーラは再現しようとは思わなかったので作っていないそうだ。ただ、おそらくハーブを入れた飲み物を作っている時に似たような風味になる事があったので、ハーブの調合次第だろうと言う。世界中のハーブを集めて試行錯誤していれば、いつか再現できるんじゃないかと思っている。

というわけで、スパイスとハーブを集め、カレーとコーラを再現するというのが俺の目標になった。まぁカレーは俺が冒険者になって材料を取ってくれさえすれば達成できそうだが。ついでに各地でハーブを集めれば、コーラにも近づく事ができるだろう。

さて、冒険者ギルドだが。中に入り、受付カウンターに向かう。何人か冒険者が周囲に居たが、カウンターの前には誰も居ない。

空いてる、ラッキーと思った俺はカウンターに直行する。ただ、カウンターが俺の身長に対して少し高かったので、亜空間収納にたまたま入っていた木箱を取り出して床に置き、その上に登って声を掛けた。

「冒険者登録に来たにゃ!」

だが…

カウンターの奥の部屋に並べてある机のところには女性職員が2人座って居るのだが、対応に出てこようとはしない。

「…受付はここじゃにゃいのか?」

すると、周囲に居た冒険者が教えてくれた。

『今は休憩時間中だよ。受付嬢だって休みは必要だろ? みんな休ませてやろうと気を使って待ってるんだよ。お前も気を使え』

「そうにゃのか。じゃぁ待つにゃ」

だが、カウンターの奥の扉から出てきた若い女が俺を見つけて近寄ってきた。

女「おお?! 喋る猫ちゃん? かわいー!」

「休憩時間は終わったにゃ?」

受付嬢「まだだけどいいよー、かわいいし。お話しましょー」

「かわいいとか言われたのは初めてにゃ」

受付嬢「それでー、猫さんはどんな御用なのかなー?」

「冒険者登録に来たにゃ!」

受付嬢「猫さんが?」

「誰でも登録できると聞いたにゃ」

受付嬢「うん、まぁ、そうなんだけどねー」

『おい!』

だが、その時、俺の後ろから声を掛けてきた奴が居た。

受付嬢「なんですかぁ……ニーゾさんだっけ?」

ニーゾ「業務を再開するなら俺のほうが先だろ! さっきからずっと待ってたんだぞ?」

そうだそうだと周囲の冒険者達から声が上がる。

「先に待ってた人が居るならそっちを先にやるにゃ。俺も順番を待つにゃ」

受付嬢「まだ休憩時間は終わってませんー。私が個人的に猫ちゃんとお話してるだけよ~」

ニーゾ「ちっ…! …おいチビ猫! 冒険者登録だと? やめとけやめとけ! お前みたいなチビ猫が冒険者など務まるわけねぇだろうが! 冒険者舐めてんじゃねぇぞ?」

「別に舐めてはいないにゃ」

受付嬢「ちょ、やめてよ! 私が猫ちゃんと話してるんだからー。あっち行ってぇ!」

ニーゾ「このくそチビ猫! 覚えてろよ?!」

「なんで俺にゃ!?」

だがニーゾは去り際、俺の足の下の箱を蹴り飛ばしてくれた。

ニーゾ「おっと悪い、足が引っかかっちまった」

だるま落としのように床に落下した俺は、即座に床を蹴り飛び上がる。そして、ニーゾの腹に蹴りを入れてやった。

俺の後ろ蹴りで吹き飛ばされニーゾが床に転がる。

小柄な猫の蹴りとは思えない威力に一瞬、ギョッとした顔をしたが、ニーゾはすぐに立ち上がって吠えた。

ニーゾ「てんめぇ、やりやがったな! ぶち殺してやる!」


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...