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第一章 帝都の賢者
第83話 そして…
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メイヴィス「マルスにおかしな事を吹き込んでいた家庭教師は即解雇した」
「マルスは何も言わなかったにゃ?」
マルスが幼い頃から慕っていた教師を問答無用で解雇したらマルスは許さないのではないかと思ったのだ。
メイヴィス「もちろん、抗議してきたよ。温厚なマルスにしては珍しく怒ってムクレておった。
だが、タドゥルというその家庭教師本人があっさりと解雇を受け入れてな。家庭教師が自らマルスを諌め、そのまま去っていったんじゃ。そうなる事を予想していたのかもしれんな」
「盗聴の件は?」
メイヴィス「ただの通信機で盗聴などしていないと言い逃れられてしまった。マルスは熱心な子で、分からない事は何でも質問してくるので、家庭教師としてもできるだけ答えてやりたいと、『分からない事はいつでも尋ねていい』と言って渡していたと」
「別に通信機を使ってまでその場で訊く必要はないと思うにゃ…」
メイヴィス「うむ、怪しい言い訳だとは思うが、マルスもそれを認めたので、それ以上追求できなかった…」
・
・
・
ブライトン宰相は当然、その家庭教師の動向の追跡調査を命じた。だが、家庭教師は外国の者だったようで、クビになった後そのまま国を出て故郷に帰ったとの報告があったそうだ。(さすがに他国まで行って監視を続けろとは宰相も命じなかったらしい。)
「じゃぁこれで、マルスの教育も順調に進み、帝国の未来は明るくなったわけにゃ?」
メイヴィス「それがのう……そううまくは行かないようでのう…」
メイヴィスが改めて未来予知魔法を発動して確認してみたところ、未来はまた少し変わったのだが、どうも悪い方向に変わったと言う。
メイヴィスには、マルスが皇帝に即位した後、皇帝の権限でその家庭教師を呼び戻し側近に据える可能性が見えたそうだ。そうなると、その後、急速に帝国が瓦解していくルートへと入っていくらしい。
だが、別の選択肢もメイヴィスは予知した。それが、またしても俺なんだとか。
うーん…迷惑な話だ。巻き込まないでくれよ……。
メイヴィス「まぁお主に帝国と次期皇帝の面倒を見ろと言うつもりはないよ。そうではなく、お主をマルスの人生に登場させる、それだけで未来の流れが大きく変わるのじゃ」
バタフライエフェクト。
未来はちょっとした事で変わる。
小さな変化が、未来に徐々に大きな影響となって現れてくる。
帝国の未来は、崩壊と栄光の分岐路に差し掛かったのだそうだ。そして、栄光ルートに進むきっかけとなる要素として、新しい賢者が関わっているという予知なのである。
…うん、やっぱり迷惑な話だ。
メイヴィス「まぁ、既に事は動き出した。お主とマルスはすでに出会った。それで十分な気もする…」
メイヴィス「それに、あまりに未来予知に頼りすぎても良くないしの。マルスの時代に年寄りが干渉しすぎるのも良くないと皇帝陛下も言っておられる。
別に、そうまでして帝国を維持したいわけでもないのじゃ。帝国が崩壊して、それで人々がより幸せになれるなら、それでも良いと皇帝陛下もおっしゃっておる。だが、帝国瓦解のルートはどれも国民に多大な不幸をもたらす未来ばかりなのでのう…。
じゃぁ、未来を変えるためのきっかけはすでに与えた。後は野となれ山となれ。後の時代がどうなっていくかは、後の時代を生きる者達の選択じゃからな。その頃にはもう居ないであろう我々がどうこう言っても仕方ない…」
メイヴィス「あ、お主はその後もきっと生きていると思うがの?」
「にゃあ……」
+ + + +
マルスの件は、妨害がなくなったところで改めて賢者と宰相が本気で再教育をすると言う事なので後は任せる事にした。
任せるも何も、俺には関係ない話だ。
そして俺は今、何故か“冒険者ギルド”なるところに向かっている。
そこで冒険者登録をするためである。
それは、メイヴィスのこんな言葉から始まった。
メイヴィス「カイト。カレーライスが食いたくないか?」
「もちろん食べたいにゃ!」
そう、地球の料理が目的で帝都までやってきたのだ。もう既にいくつかはごちそうになったが、しかし“カレー”はいまだ登場していない……。
「カレーライスは異世界ラノベでも再現日本料理の定番一位のはずにゃ。なんでそれが出てこないにゃ?」
メイヴィス「それには理由があるのじゃよ。実はな…カレーに必要ないくつかのスパイスが、現在帝国内で入手困難になっているのだ」
メイヴィス「そのスパイスは、とある国で手に入るのだが、その国は現在、帝国と敵対状態でのう、国交がないのじゃよ…」
「にゃんと!」
メイヴィス「だが、方法はある。その国に入れる者に頼んで運んできてもらえばよいのじゃ。例えば冒険者になれば、その国には入れるはずじゃ」
冒険者についてはもちろん知っている。休憩時間にラノベを読むのが前世で唯一の息抜きだったからな。とは言え別に憧れはなかったので、俺は異世界に来たからと言って冒険者になろうとは思わなかった。人間と関わり合いになる気はなかったからだ。
だが、カレーのためなら話は別だ! カレーは俺のソウルフードだからな。メイヴィスに遭わずとも、いずれ再現してやろうと、森の中でもいくつかスパイスを採集していたのだ。
それにしても、メイヴィスはウィン―ウィンの条件を出して上手く人を動かすと思う。
捻くれ者(を目指している)俺は、たとえメイヴィスの依頼だろうと、なんでもかんでも引き受ける気はないのだが、俺にもメリットのある話となると別である。
それに……メイヴィスと皇帝の、この世界での冒険譚を聞いて、冒険者をやってみるのも面白いかなと、ちょっとだけ、本当にちょっとだけだが、思ったのも事実だ。ケットシーとしての能力があれば、それなりに楽しめるかもしれないからな。
僅かなワクワク感を胸に、俺は冒険者ギルドの扉を開けた…。
「マルスは何も言わなかったにゃ?」
マルスが幼い頃から慕っていた教師を問答無用で解雇したらマルスは許さないのではないかと思ったのだ。
メイヴィス「もちろん、抗議してきたよ。温厚なマルスにしては珍しく怒ってムクレておった。
だが、タドゥルというその家庭教師本人があっさりと解雇を受け入れてな。家庭教師が自らマルスを諌め、そのまま去っていったんじゃ。そうなる事を予想していたのかもしれんな」
「盗聴の件は?」
メイヴィス「ただの通信機で盗聴などしていないと言い逃れられてしまった。マルスは熱心な子で、分からない事は何でも質問してくるので、家庭教師としてもできるだけ答えてやりたいと、『分からない事はいつでも尋ねていい』と言って渡していたと」
「別に通信機を使ってまでその場で訊く必要はないと思うにゃ…」
メイヴィス「うむ、怪しい言い訳だとは思うが、マルスもそれを認めたので、それ以上追求できなかった…」
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ブライトン宰相は当然、その家庭教師の動向の追跡調査を命じた。だが、家庭教師は外国の者だったようで、クビになった後そのまま国を出て故郷に帰ったとの報告があったそうだ。(さすがに他国まで行って監視を続けろとは宰相も命じなかったらしい。)
「じゃぁこれで、マルスの教育も順調に進み、帝国の未来は明るくなったわけにゃ?」
メイヴィス「それがのう……そううまくは行かないようでのう…」
メイヴィスが改めて未来予知魔法を発動して確認してみたところ、未来はまた少し変わったのだが、どうも悪い方向に変わったと言う。
メイヴィスには、マルスが皇帝に即位した後、皇帝の権限でその家庭教師を呼び戻し側近に据える可能性が見えたそうだ。そうなると、その後、急速に帝国が瓦解していくルートへと入っていくらしい。
だが、別の選択肢もメイヴィスは予知した。それが、またしても俺なんだとか。
うーん…迷惑な話だ。巻き込まないでくれよ……。
メイヴィス「まぁお主に帝国と次期皇帝の面倒を見ろと言うつもりはないよ。そうではなく、お主をマルスの人生に登場させる、それだけで未来の流れが大きく変わるのじゃ」
バタフライエフェクト。
未来はちょっとした事で変わる。
小さな変化が、未来に徐々に大きな影響となって現れてくる。
帝国の未来は、崩壊と栄光の分岐路に差し掛かったのだそうだ。そして、栄光ルートに進むきっかけとなる要素として、新しい賢者が関わっているという予知なのである。
…うん、やっぱり迷惑な話だ。
メイヴィス「まぁ、既に事は動き出した。お主とマルスはすでに出会った。それで十分な気もする…」
メイヴィス「それに、あまりに未来予知に頼りすぎても良くないしの。マルスの時代に年寄りが干渉しすぎるのも良くないと皇帝陛下も言っておられる。
別に、そうまでして帝国を維持したいわけでもないのじゃ。帝国が崩壊して、それで人々がより幸せになれるなら、それでも良いと皇帝陛下もおっしゃっておる。だが、帝国瓦解のルートはどれも国民に多大な不幸をもたらす未来ばかりなのでのう…。
じゃぁ、未来を変えるためのきっかけはすでに与えた。後は野となれ山となれ。後の時代がどうなっていくかは、後の時代を生きる者達の選択じゃからな。その頃にはもう居ないであろう我々がどうこう言っても仕方ない…」
メイヴィス「あ、お主はその後もきっと生きていると思うがの?」
「にゃあ……」
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マルスの件は、妨害がなくなったところで改めて賢者と宰相が本気で再教育をすると言う事なので後は任せる事にした。
任せるも何も、俺には関係ない話だ。
そして俺は今、何故か“冒険者ギルド”なるところに向かっている。
そこで冒険者登録をするためである。
それは、メイヴィスのこんな言葉から始まった。
メイヴィス「カイト。カレーライスが食いたくないか?」
「もちろん食べたいにゃ!」
そう、地球の料理が目的で帝都までやってきたのだ。もう既にいくつかはごちそうになったが、しかし“カレー”はいまだ登場していない……。
「カレーライスは異世界ラノベでも再現日本料理の定番一位のはずにゃ。なんでそれが出てこないにゃ?」
メイヴィス「それには理由があるのじゃよ。実はな…カレーに必要ないくつかのスパイスが、現在帝国内で入手困難になっているのだ」
メイヴィス「そのスパイスは、とある国で手に入るのだが、その国は現在、帝国と敵対状態でのう、国交がないのじゃよ…」
「にゃんと!」
メイヴィス「だが、方法はある。その国に入れる者に頼んで運んできてもらえばよいのじゃ。例えば冒険者になれば、その国には入れるはずじゃ」
冒険者についてはもちろん知っている。休憩時間にラノベを読むのが前世で唯一の息抜きだったからな。とは言え別に憧れはなかったので、俺は異世界に来たからと言って冒険者になろうとは思わなかった。人間と関わり合いになる気はなかったからだ。
だが、カレーのためなら話は別だ! カレーは俺のソウルフードだからな。メイヴィスに遭わずとも、いずれ再現してやろうと、森の中でもいくつかスパイスを採集していたのだ。
それにしても、メイヴィスはウィン―ウィンの条件を出して上手く人を動かすと思う。
捻くれ者(を目指している)俺は、たとえメイヴィスの依頼だろうと、なんでもかんでも引き受ける気はないのだが、俺にもメリットのある話となると別である。
それに……メイヴィスと皇帝の、この世界での冒険譚を聞いて、冒険者をやってみるのも面白いかなと、ちょっとだけ、本当にちょっとだけだが、思ったのも事実だ。ケットシーとしての能力があれば、それなりに楽しめるかもしれないからな。
僅かなワクワク感を胸に、俺は冒険者ギルドの扉を開けた…。
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