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第二話【目覚め】
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「なっ...はぁっ...なんだ...」
どうやら、夢を見ていた。らしい。細かい事は覚えていないが、ひどく恐ろしい夢だった。思い出そうとするとぶるりと背筋が震える。やめよう。思い出したとしてもいい事は一つもない。ただでさえ、鬱々とした気分なのに。
ぶんぶん、と頭を大げさに振ってみる。今日は休講だ。バイトもない。だから気分を晴らそうと少し遠出しよう、と昨夜上機嫌で支度をした、というのに。朝っぱらからこれだ。先が思いやられる。
藤咲 明(ふじさき あきら)。これが俺の名前。ぱっとしない容姿、性格なのに、名前だけはずいぶん華やかだ。数少ない友人にもよくからかわれる。物心ついてからずっとその調子なので、今では慣れてしまった。諦めてしまった、の方が正しいか。
手頃な大学に進学し、三年が経つ。経ってしまった。そろそろ進路は、就職は、なんてとやかく言われだす時期だ。たかだか二十年生きたくらいで心の底からしたいこと、なんて湧き出るはずもない。むしろ、何もしたくない、が正しいくらいだ。
熱心に取り組んでいる趣味や活動なんてものも当然ない。故に、何かに金を費やすために汗水垂らして働く、という思考回路も存在しない。
自分は何が楽しくて生きているんだろう。そう思うくらいなら、いっそ。
――という、死ぬ勇気すら沸かない。ただひたすらに消費する毎日。
醒めない頭のまま、顔を洗って、動きやすい服装に着替える。確か冷蔵庫にコンビニで買ったおにぎりが二つ残っていたはずだ。テレビを流しながら食べ進める。今日は日本全国、お出かけ日和の快晴らしい。といっても、平日なのだから闊歩するのは自分のような暇人か、外国人観光客くらいだろう。平日の昼間は観光名所ですら人の出入りがまばらだ。うん。なんの不安もない。ひとつ頷いてたいらげたおにぎりの袋を片付けた。
用意しておいたリュックの中身を、念のため確認する。スマホ、財布、カメラ、そして、京都の観光名所が記された地図とパンフレット。
気分転換したい時、丸一日空いてしまった時に足を運ぶのは決まって京都だった。乗り換え二回、片道千円と一時間ほどで着く、日本の誇る観光名所・京都。最近では、京都で何をするか、ではなく、京都に行って雰囲気を楽しみ、それらしい気分になること、が目的のような気がする。なんとなく、リアルが充実した気分に浸れるから。
最寄り駅まで歩いて、電車に揺られる。地下鉄でさえも、ほんの少し地上に出ようものなら、まばゆいほどの朝日に照らされる。ああ、本当に羨ましいくらいの晴天だ。
本を読んでいるとあっという間に目的地に着いた。京都駅。ぐるりと回るようにして歩いていけば、大抵の名所や神社はお目にかかれるだろう。
と、いつになく意気揚々と足を踏み出した。その時だった。
どくり、と心臓が跳ねた。
ぞくり、と背筋が凍った。
反射的にあたりを見回す。何かの予感かと思ったが、そこにはなんら変哲のない、平和な京都の美しい町並みが並んでいるだけだ。それなのに、自分だけが世界から切り離されたかのような感覚を覚える。呼吸が乱れる。うまく息が吸えない。心臓がどくどくと波打つ。自分は、もしかして。このまま。
ふと、違和感を覚えて右腕を見る。
目を疑った。手首から肘にかけて、まばらではあるが緑色に変色している。質感も少し硬い。なん、だ。これは。病気だろうか?しかし、こんな奇怪な症状、見たことも聞いたこともない。脳裏に、電車で復習した京都の地図が浮かぶ。ここから歩いて五分ほどの距離に、総合病院があったはずだ。この症状がどうカテゴライズされるのかは全くもってわからないが、総合病院であればどうにか対処くらいはしてくれるだろう。
醜い腕を見られるのが嫌で、もう片方の腕で隠すようにして病院へと急いだ。
◆◆◆
あの暗い最果て。あそこからなんとか這い出てどのくらい経過しただろう。時間の感覚がうまく掴めない。数分かもしれないし、数時間?ひょっとすれば、数秒しか経ってないのかもしれない。なんにせよ、何もない、寂しい空間から出られてよかった。
反して、こちらは賑やかで、目が眩むほどの明るさだ。それに、少し温かい。厚手の毛布に包まった時のようなぬくもりと、安心感。
心地がいい。あんなところに閉じ込められていたのだ。もう少しくらい眠ってしまってもいいだろう。
わたしは、眠気に任せて目を閉じる。
次に、目を醒ます時は、きっと――。
どうやら、夢を見ていた。らしい。細かい事は覚えていないが、ひどく恐ろしい夢だった。思い出そうとするとぶるりと背筋が震える。やめよう。思い出したとしてもいい事は一つもない。ただでさえ、鬱々とした気分なのに。
ぶんぶん、と頭を大げさに振ってみる。今日は休講だ。バイトもない。だから気分を晴らそうと少し遠出しよう、と昨夜上機嫌で支度をした、というのに。朝っぱらからこれだ。先が思いやられる。
藤咲 明(ふじさき あきら)。これが俺の名前。ぱっとしない容姿、性格なのに、名前だけはずいぶん華やかだ。数少ない友人にもよくからかわれる。物心ついてからずっとその調子なので、今では慣れてしまった。諦めてしまった、の方が正しいか。
手頃な大学に進学し、三年が経つ。経ってしまった。そろそろ進路は、就職は、なんてとやかく言われだす時期だ。たかだか二十年生きたくらいで心の底からしたいこと、なんて湧き出るはずもない。むしろ、何もしたくない、が正しいくらいだ。
熱心に取り組んでいる趣味や活動なんてものも当然ない。故に、何かに金を費やすために汗水垂らして働く、という思考回路も存在しない。
自分は何が楽しくて生きているんだろう。そう思うくらいなら、いっそ。
――という、死ぬ勇気すら沸かない。ただひたすらに消費する毎日。
醒めない頭のまま、顔を洗って、動きやすい服装に着替える。確か冷蔵庫にコンビニで買ったおにぎりが二つ残っていたはずだ。テレビを流しながら食べ進める。今日は日本全国、お出かけ日和の快晴らしい。といっても、平日なのだから闊歩するのは自分のような暇人か、外国人観光客くらいだろう。平日の昼間は観光名所ですら人の出入りがまばらだ。うん。なんの不安もない。ひとつ頷いてたいらげたおにぎりの袋を片付けた。
用意しておいたリュックの中身を、念のため確認する。スマホ、財布、カメラ、そして、京都の観光名所が記された地図とパンフレット。
気分転換したい時、丸一日空いてしまった時に足を運ぶのは決まって京都だった。乗り換え二回、片道千円と一時間ほどで着く、日本の誇る観光名所・京都。最近では、京都で何をするか、ではなく、京都に行って雰囲気を楽しみ、それらしい気分になること、が目的のような気がする。なんとなく、リアルが充実した気分に浸れるから。
最寄り駅まで歩いて、電車に揺られる。地下鉄でさえも、ほんの少し地上に出ようものなら、まばゆいほどの朝日に照らされる。ああ、本当に羨ましいくらいの晴天だ。
本を読んでいるとあっという間に目的地に着いた。京都駅。ぐるりと回るようにして歩いていけば、大抵の名所や神社はお目にかかれるだろう。
と、いつになく意気揚々と足を踏み出した。その時だった。
どくり、と心臓が跳ねた。
ぞくり、と背筋が凍った。
反射的にあたりを見回す。何かの予感かと思ったが、そこにはなんら変哲のない、平和な京都の美しい町並みが並んでいるだけだ。それなのに、自分だけが世界から切り離されたかのような感覚を覚える。呼吸が乱れる。うまく息が吸えない。心臓がどくどくと波打つ。自分は、もしかして。このまま。
ふと、違和感を覚えて右腕を見る。
目を疑った。手首から肘にかけて、まばらではあるが緑色に変色している。質感も少し硬い。なん、だ。これは。病気だろうか?しかし、こんな奇怪な症状、見たことも聞いたこともない。脳裏に、電車で復習した京都の地図が浮かぶ。ここから歩いて五分ほどの距離に、総合病院があったはずだ。この症状がどうカテゴライズされるのかは全くもってわからないが、総合病院であればどうにか対処くらいはしてくれるだろう。
醜い腕を見られるのが嫌で、もう片方の腕で隠すようにして病院へと急いだ。
◆◆◆
あの暗い最果て。あそこからなんとか這い出てどのくらい経過しただろう。時間の感覚がうまく掴めない。数分かもしれないし、数時間?ひょっとすれば、数秒しか経ってないのかもしれない。なんにせよ、何もない、寂しい空間から出られてよかった。
反して、こちらは賑やかで、目が眩むほどの明るさだ。それに、少し温かい。厚手の毛布に包まった時のようなぬくもりと、安心感。
心地がいい。あんなところに閉じ込められていたのだ。もう少しくらい眠ってしまってもいいだろう。
わたしは、眠気に任せて目を閉じる。
次に、目を醒ます時は、きっと――。
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