風船葛の実る頃

風船葛の実る頃

4 蒼汰のゆめ

　蒼汰には夢があった。野球選手になると云う夢だ。たが、その夢は中学三年の春に打ち砕かれた。蒼汰は怪我をしたからだった。自転車で転び何針もひざから下を縫ったのだ。それは、骨折よりひどかった。なぜなら、まだ、義務教育中である身の蒼汰は筋肉をすべてやられたからだ。
蒼汰は思った《この足では、何億も稼ぐことのできる野球選手は無理だな。》それなのに蒼汰の母はこう言った。
「あんた又怪我してきて自転車は壊れてないんだろうね。」
蒼汰は幻滅した。
それからの蒼汰というと、まず髪を伸ばし始めた。今までは野球少年だったため、髪型はずっと丸坊主だったのだ。そこで当時やっていた『ビーバップハイスクール』バリに髪を上げたスタイルをしてみたかったのだ。そうすると俗にいう不良になったのかというと本人は少しもそんな気はなくて、只髪型をリーゼントにしただけだと思っていた。
　ある日いつものように哲ちゃんが来るとこう言った。
「蒼ちゃんその頭に似合うように体も鍛えないか？」
「そうだなそれもいいな。」
そこで、二人はいつもの柿ヶ瀬公園で体を鍛え始めることにした。体を鍛えると今度は誰しも試したくなるもので、哲也はこんなことを言い蒼太を誘うようになっていた。
「蒼ちゃん喧嘩売りに行こ。」
「どこへいくんだ哲ちゃん。」
「マーサでいいやん。」
蒼汰はしょうがないなと思ったが哲也に付き合うことにした。
元々、気性の荒い〈といっても元気がよすぎるぐらい〉の蒼汰だったが不良という言葉がある意味合う蒼汰と変わっていったのはこの頃だった。
　蒼太にとって京子とのことは、忘れられない事となった。だが、あの後、京子は、地元の岐北中学に戻り受験生となった。高校は岐阜市ではなく隣の本巣市にある本巣高校を受験した。京子は、この受験を失敗だと思った。なぜなら、京子のレベルなら市内の加納高校でも受験はできたからだった。当時、京子の頭には普通科で高校を通うことしかなかった。しかし、高校に通ってみると本巣では、岐阜市内の高校を競り合って視ているところがあり、先生方も生徒〈市内以外から通って来るわりとトップの成績〉も競り合いを普通だと思っていたため、競えない京子にとって学校は、苦痛なものとなった。
　京子は学校を辞めた。といっても、一年は、休学し、その後、通信科の高校に転校することにしたのだ。そのため元の中学に卒業証明書を書いて貰い、書類を揃え、岐阜高校に付属であった華陽高校へ送った。そういうわけで京子は、同学年とは一年やり直しをすることになった。
　春になると、京子の母が仕事を紹介されたが、やってみるかと言うのでどんな仕事かと尋ねると名鉄百貨店の中の〈めいしょく〉という会社だという。百貨店におにぎりや惣菜を出している会社で京子の仕事は、主に店舗でおにぎりを売ることだった。
京子は、平日はおにぎりを売る仕事をし、日曜日に学校へ通い、自宅でも単位を取るために勉強をした。だが、その仕事もお正月までだった。昭和天皇陛下が状態が良くないという話しになり、一週間程、百貨店の従業員が黒い衣服に着替え勤めなければならなくなり、その後、天皇陛下がお亡くなりになったということがきっかけになった。京子は、思った《陛下のお身体が悪くなったのは本当だが、それで従業員まで黒い衣服に着替えてしまって待つというのは余りにも心苦しくなるな》。京子はこうして蒼汰とは全く違う道を歩くことになった。