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✾ Episode.1 ✾ 『儚い命の一族』
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――私たちには、とても厄介な呪いがかけられている。
「おい、蛇柿!」
襟足を長く伸ばした焦げ茶色の髪の男が、酒樽を豪快にひっくり返したような土砂降りの雨の中を、衣が汚れるのも構わずに追いかけてきた。
「勝手に一人でどっか行くなよ!」
ふと後ろから強い力で手首を掴まれ、その勢いのまま、声のする方へと引き寄せられる。雨に濡れて、冷たく皺になっている男の衣がひんやりと頰に当たったが、それでも蛇柿は気が動転していて、自我を失ったように男の腕の中で暴れ回る。
「やめてよ! 今は一人にさせて‼」
ザアザア降りの雨にも負けないような金切り声が、容赦なく彼の鼓膜に襲い掛かる。
それでも男は蛇柿の手を放そうとはせず、かえって腕に込める力を一層強くさせた。
「放して‼」
雨に混じって嗚咽を繰り返す蛇柿。彼女は自分よりも圧倒的な力で動きを封じ込めようとする九つ上の相棒の腕に躊躇いなく噛みつくと、彼の赤い瞳をキッと睨みつけて、さらなる抵抗を見せる。
男は軽く舌打ちをした。
「おい、蛇柿! 正気に戻れ‼」
「…………っ‼」
そうやって何度も、何度も、蛇柿に呼びかけ、彼女の怒りが鎮まるのを辛抱強く待ち続ける。
やがて体力的にも、精神的にも、抗うのに疲れてきて、あっちこっちに突き出されていた蛇柿の両手が行き場を失ったように静かに下ろされるのを見ると、男はようやく詰めていた息を吐き出すことができた。
「――ちょっとは落ち着いたか?」
そう声をかけると、蛇柿は頼りなさげにコクリと頷く。けれどまた今朝のことが思い出されたのか、彼女は顔を覆って、「鈴瑪。わたし、どうしていいか分からない」と震える声で囁いた。
――ここには、長く生きられない人たちがあまりにも多すぎる。
弟の尊は昨日、五歳の誕生日を迎えたばかりだった。そのときは別段変わった様子はなく、料理人らが腕を奮って作ったご馳走が机の上に並べられるのを見て、「いつになったら、ご飯が食べられるのー?」と、目を輝かせて聞いてきたものだ。
誰も数時間後に彼が寿命で命を落とすことになるとは、予想もしていなかったことだろう。太陽が山端から顔を覗かせ、鳥たちが朝の囀りを始めるころ、尊はすでに布団の中で身体を冷たくさせていた。
それからすぐに雲行きが怪しくなって、吹き荒れる風が、遠くの地からずっしりと重たい黒雲を連れてきた。
ときどき雲の間を稲妻が駆け抜け、少し遅れて、地面を揺るがすような雷鳴が轟く。その勢いは夜になった今でも治まることはなく、生き延びた者たちの心に深く〝尊の死〟を刻みつけた。
「そんなに泣くなよ。俺まで泣きそうになるだろ」
鈴瑪は悲痛な面持ちで蛇柿の頭に手を置くと、白い塗り壁の向こうからくぐもって聞こえてくる〝死者の弔い歌〟に耳を澄ませた。
「この世界には、やっぱり俺たち人間の理屈じゃ説明できないようなものもあるんだな」
そう独り言ちると、蛇柿は「――このまま何もしないで一生を終えるのは、いや」と、雨にも負けそうな声で言う。
「俺もだよ」と、鈴瑪も諦めまじりの小さな声で短く答えた。
「空恋さん【現在の継国一族当主であり、蛇柿の産みの親】が今二十八だっけ? あの若さで既に命の危機に晒されているんだからなぁ。俺たちの運命ってのは、本当に残酷なもんだぜ」
そう言う鈴瑪も、今年二十五歳を迎える。世代で言えば蛇柿の一つ上にあたり、空恋と同じ立ち位置にいた。
「俺も年齢的にそろそろヤベェな」
鈴瑪は上を向いて、自虐的に笑った。
「俺の母親は、父親よりかは長生きしたけど、それでも三十三で力尽きた。父親はもっと早くて、死んだのは二十八のときだったかな。俺もあと何年、生きられるんだろうな」
鈴瑪の――自分を抱き寄せてくれる腕の力が少しだけ弱まった。
蛇柿はそれを受けて、怯えたように目を丸くする。ここで成り行き任せに怯えの情を全面に出してしまえば、弟を失った今よりもっと、ずっと恐ろしい気持ちになる。そしたら本当に自分が自分でいられなくなってしまいそうな、そんな危ない予感がした。
「バカ」
蛇柿が短く言った。
「私を置いて先に逝かないで」
そう小さく独り言ちて、より強く彼の身体をギュッと抱きしめる。込み上げてくるもののせいで、たった一言伝えるだけでも、声を震わせないよう言葉にするので精一杯だった。
鈴瑪は心底驚いた表情で蛇柿を見つめる。
やがて「まぁ、それもそうか」と納得したように答えると、今度は身体を少し屈めて、蛇柿の首筋にそっと顔を埋めた。
「身近な人が死んだ直後だと、やっぱりどうしても悲観しやすくなるけれど、ちょっと冷静になって考えてみれば、俺達だってまだまだ若いんだよな。早々に自分の運命を諦めるには早すぎるんだよな」
「――――」
蛇柿が顔を上げる。
今朝、大好きだった弟が死んだ。あまりにも唐突すぎる別れに心が荒み、悲しみに暮れた一日を送っていた。でも、こうして鈴瑪の腕の温もりに触れていると、少しでも心安らぐ瞬間を得ることができる。
それを考えると、大切な誰かがいなくなるたびに自暴自棄になって、ただ悲観しているだけでは前に進めないのだろうと思う。
「私たちだって無力じゃない」
蛇柿は自分に言い聞かせるように言った。
「ほんの少しでも、何かできることはあるはずだわ」
目尻から伝う涙を拭いながら、蛇柿は透明感のある緑の瞳を鈴瑪に据える。いつの間にか雨足も弱まり、ずっしりと重たい雨雲も、また遠くの地へと流れつつあった。
~・~ ◇◆◇ ~・~
〝私たちは、短命の一族である〟
そう囁かれるようになったのは、ここ最近の話。むかしは特別、周りから憐れまれるほど特異な性質をもっているわけではなかった。
その証拠に最も古い文献の――今にも崩れてしまいそうな脆いページを捲っていくと、ここ〝継国〟という小さな島の名前とともに、この国の初代とされる五人の名前が残されていた。
一人は〝王雅〟と呼ばれるリーダー格の男性。彼はなんと九十歳まで生きたそうだ。
そして二人目は、彼の妻としてその生涯を終え、生前は美しい容貌を存分に振舞っていた〝呼鼓〟と呼ばれる妖艶な女性。彼女は王雅よりも二歳長く生きている。
そして次に名前を連ねるのは、〝千〟という名の男。彼は五人の中で最も早くに命を落としているが、〝笑柳〟という女性と結ばれ、子を三人ほど儲けているらしい。
残されたもう一人の男は〝彗〟という名前らしかったが、彼に関する情報は、ここではあまり明かされていない。
何はともあれ、彼らが生きていたのは今からおよそ九百年も昔のはなし。
――子が生まれるごとに十年。
私たちの寿命はどんどん短くなっていく。今じゃ平均年齢も十六歳にまで落ち、最年長とされる継国一族現当主ですら、二十八歳という若さで、早くも寿命の危機に直面していた。
その不思議を面白がっているのか、それとも憐れんでいるのか――。
噂を聞きつけ、一目見ようと、海の向こうから度々やって来る旅人たちは、私たちが頻繁に葬儀を繰り返しているのを目の当たりにすると、〝滅びゆく一族〟だとか〝儚い命の一族〟だとか言って、みな口を揃えて好き勝手に表現するのだ。
そして最後は私たちを人ではない別のもの――例えば、神や、仏などの類――として畏れ敬い、何とも言えない哀情を含んだ目をして、静かにこの島を去っていく。
すると余計に私たちは自分の運命を呪い、惨めに思うのだった。
「……はぁ」
蛇柿は小さなため息を吐いて、埃の被った古い書物を閉じた。
窓の外はすっかり秋模様。暑い夏の日差しが遠のいて、木々が色鮮やかな衣を纏う。
蛇柿はおもむろに立ち上がって、机の目の前の窓を開けると、しばらくの間、外の長閑な風景をじっと眺めていた。
尊が命を落としてから、はや一ヶ月。暇さえあればこうして書物を読み漁り、隅々にまで目を通しては、自分たちの〝血〟がいつから呪われているのか、その経緯について調べていた。
だが、その調査は思った以上に捗らない。これらの文献の中には、いつ、だれが、どのようにして命を落としたのか――その事実だけが淡々と記されているだけで、負の連鎖を断ち切る手がかりを一つも掴むことが出来なかったのだ。
おまけに、ところどころページが破れていたり、部分的に紙が引き千切られていたりするので、最も肝心なところが結局分からずじまいで終わってしまう。
そんな様子が一ヶ月以上も続いたとなれば、さすがに蛇柿もうんざりする他ない。
「はあ」
蛇柿はイスの背もたれに力なく身体を預けると、目を閉じて上を向いた。
「こうしている間にも刻一刻と、私の寿命は奪われていくのね……」
「…………」
「…………」
「…………」
「ねぇ鈴瑪」
蛇柿は、自分のベッドで堂々と寝そべっている鈴瑪の、悪戯っぽく笑った顔を横目で睨みつけた。
「さも私の言葉みたいに言わないでくれる?」
「そんな目で見るなよ。本当のことだろ?」
口元に軽い笑みを浮かべながら、鈴瑪はゆっくり身体を起こす。
「で、探し物は見つかったのか?」
「ううん、全く」
蛇柿は首を横に振って答えた。
「〝死者に口がない〟ってまさにこのことだわ。私がどれだけページを捲っても、ぜんぜん欲しい答えが見つからないの」
「まぁここにある文献なんて、どれもそんなもんだろ」
鈴瑪が言うと、蛇柿の眉間に皺が寄った。
「どういうことよ」
「だってさ、」
そう言いながら、鈴瑪が頭の後ろで両手を組む。
「お前の家に代々その文献が残されてきて、今もなお情報が書き足されていっているのなら、絶対に誰かしら重要な情報は目にするはずだろ? でも誰も自分たちの〝血〟について、謎を解明する手立てを講じようとしない」
「うん」
「ということは、だ。いま手元に残されている文献のほとんどが意味をなさないということになる。重要な情報は誰かの手で意図的に破られているみたいだし、そりゃ、どこを隈なく探したって、欲しい答えは見つけられないだろうよ」
「じゃあ私が一か月以上も費やした時間と苦労は全部、水の泡だったってこと?」
「まずは自分の気が済むまで、とことん調べ上げる。その方がお前も納得できるだろ? 実際、尊を失くした悲しみを、文献を読み漁ることによって紛らわしていたんだから」
「だからって、一か月以上も放置することはないでしょ‼」
蛇柿は「むぅ」と頰を膨らませながら、椅子から立ち上がり、鈴瑪の身体をバシバシ叩き始める。
鈴瑪は蛇柿から飛んでくる拳やら、蹴りやらを軽く受け流しては、楽しそうに笑っていた。
~・~ ◇◆◇ ~・~
――秋。
それは落ち葉をかき集めて焼き芋をするには
最適の季節なのである。
~・~ ◇◆◇ ~・~
継国という小さな島は、海を隔てたモルスール大陸の南東に位置する小さな港町――ロットから、船で二~三時間の場所にある。
噂によれば継国の島に住む人はみな短命で、人口およそ六十人未満だという。そのほとんどが二十代の若者で、その未熟さゆえに、貿易などという他国との繋がりに対しては意欲の低い姿勢を示し、周りが海に囲まれていることもあってか、あまり積極的には外へも出ないという。
ゆえに多くの国は、継国の島のことを〝鎖国的な島〟と呼ぶようになり、あえて貿易国として仲間入りするようなことはなかった。
だが継国特有ともいえる〝ある噂〟をきっかけに、一部の物好きは好んでこの島を訪れたりする。
鎖国的とはいえ、継国の人間は来る者を拒まない。だがその一方で、来訪者のほとんどが巷で囁かれる噂が真実かどうかをその目で確かめに来る者たちだったので、継国の人間もあまり余所者に対して好意的な姿勢を見せることはなかった。
それでもまたここに一組、噂を聞きつけて島に降り立つ者がいた。
一人は濃い緑色のタイトなズボンに、腹上までの大きな橙色の上着を羽織った少女――ナライ。彼女は長旅のお供となる茜色の細長い棒――ステッキ――を地面に突き刺して、まだ見ぬ土地に興奮を抑えきれずにいた。
「ねぇ、ランタン! ここがあの〝噂に名高い継国の島〟だよ‼ 私たち、今から彼らの〝神秘〟に触れるんだよ‼」
「はいはい。分かったら少し落ち着こうね」
そう言って、やんちゃな子どもに言い聞かせるような口調で答えたのは、ナライの旅のコンパニオンとなるミンクと人間の獣人――ランタン。彼女はナライが両手を上げて万歳をしているその横で、さっき船の商人から買ったばかりの芋を五本、色々な道具の入った大きなリュックサックに詰め入れている最中だった。
「にしても上陸したのが私たちだけだなんて、少し寂しいな」
「まぁここは物好きが訪れることで有名な島だからね」
ランタンは五本のうち、一本の芋だけがどうしてもリュックサックの中に入らないことに気がつき、溜息を吐く。
「ねぇ、ナライ。どうやら芋を買いすぎたみたい。どこかで芋を消費しなくちゃ」
「そんなぁ。芋は結構保存がきくし、私たちの大切な食糧じゃん。こんな所で使うのは勿体ないよ」
「じゃあナライが芋をずっと手で持って歩いてくれる?」
「うっ……」
ナライは言葉に詰まった。
「ま、まぁさ、少しこの島を探索してからでもいいと思うんだよね。そこで小腹が空いたら芋を食べればいいよ。その間、仕方ないから私が持っていてあげる。でも裸で一本だけ芋を持っているのは、なんか恥ずかしいなぁ」
「でも約束は約束だからね。はい、芋。よろしくね」
ランタンは、ナライに見えないところでこっそり舌を出し、イタズラ顔でそっと笑った。
~・~ ◇◆◇ ~・~
自分よりも年若い蛇柿は、ちょっとからかうと、すぐに顔を赤らめて反撃してくる。言葉でからかえば、拳や蹴りが飛んできて、許可なくそっと身体に触れれば、それでも変わらず拳や蹴りが飛んでくる。
武術の心得がないお嬢様だから、反撃パターンはいつも単調で、目を瞑っていても攻撃を避けられる。
だから彼女の懇親の一撃がやって来たとしても、普段通り軽々と鈴瑪は攻撃を躱してしまうので、蛇柿は〝じゃんけん〟や〝鬼ごっこ〟などの勝負で負けた時みたいに、ものすごく怒ってくる。
幼いというか、そこがまた可愛いというか。いつしか鈴瑪は、その反応を見るのをとても楽しく感じていた。
「まずは自分の気が済むまで、とことん調べ上げる。その方がお前も納得できるだろ? 実際、尊を失くした悲しみを、文献を読み漁ることによって紛らわしていたんだから」
もっともらしく言ってみる。曲がりなりにも自分は、蛇柿の第二の育ての親のようなもんだ。空恋が蛇柿を産み、それからすぐに当主になると決まってからは、ほとんど自分が蛇柿の面倒を見ている。
まぁ、慣れたもんだ。
「だからって、一か月以上も放置することはないでしょ‼」
蛇柿は「むぅ」と頰を膨らませながら、椅子から立ち上がる。
鈴瑪はわざとらしく構えの姿勢をとった。すると真正面から堂々と、勢いのある平手が飛んでくる。鈴瑪はチロッと舌を出して、わざと情けない声を出しながら、ヒョイッと軽く身を躱す。
「何で避けるの! 一回くらいは潔く食らいなさいよ‼」
蛇柿が真っ赤な顔をして言う。それで可笑しさが更に増した。
「俺に当てるには、まだ百年早いぜ」
「そんな百年なんて――、絶対にむりよ!」
「そんなの、どうなるか分からないだろ? 俺たちの代で何かが変わるかもしれん」
そう言って笑いながら、鈴瑪がふと窓の外へ目を向けたとき――銀杏や楓の木々の間から、黒煙が立ち上っているのが見えた。
(火事か?)
一瞬そう疑ったが、それにしてはやけに局所的で、周囲の人間が騒ぎ立てているといった様子もない。
鈴瑪が黙って眉間に皺を寄せていると、蛇柿も部屋の中の煙臭さに気づいて、パタッと動くのをやめた。
「……なにアレ。山火事?」
「――俺も初めはそう思ったんだが、ありゃ、どうも焚火か何かやっているな」
「焚火? ここはウチの敷地よ? 勝手に焚火をされては困るわ」
蛇柿は窓辺に寄って、外の様子を確認する。鈴瑪も蛇柿のすぐそばに立ち、窓枠に肘をかけながら遠くに目をやるが、そこそこ距離が離れているようで、詳しい状況はよく分からなかった。
蛇柿は自分よりも頭二つ分ほど背の高い鈴瑪の顔をじっと見つめて言った。
「本当に火事になったら困るわ」
「――まぁ、そうだな」
そう言って、鈴瑪は何かを考え込むように顎を指で添える。
「でも、ちょっと待てよ。これはもしかすると好機かもしれん」
「どういうこと?」
キョトンとした顔で蛇柿が尋ねる。鈴瑪は観音開きの窓をゆっくり閉めた。
「俺たちの〝血〟のことを聞くいい機会かもしれないってことだよ。だって人ん家の敷地って分かっていながら、こんなことするのは、俺たち継国以外の人間しかいないだろう? 外国の人間に聞くのはお門違いかもしれないけどさ、俺たちじゃ既に手詰まりなんだ」
「……本気?」
蛇柿は至極驚いた表情になった。
「〝継国の血〟は、私たちから生まれているのよ。それを海を隔てた外国の人間に聞くなんて……そんなこと、あの人たちに分かるわけがないじゃない」
「でも俺たちは〝自分たちの血〟のことをほとんど分かっていない。ただ、子どもが生まれるごとに十年、命を紡げば紡ぐほど、次世代を生きる子らの寿命がどんどん奪われていっているんだ。その有様を成す術なく見守っているだけなんて、それこそ何も分かっていないのと同じ事だろ」
蛇柿は口を窄めて、その言葉にしぶしぶ頷くしかなかった。
「とりあえず、あそこで焚火をするのは止めてもらおう。周りには木が多いし、万が一火が他に燃え移ったら大変だ。それから、ついでに〝継国の血〟のことも聞いてみる。それでいいか?」
「――うん」
蛇柿はさらに渋い表情をして、こんもりと眉毛を盛り上がらせた。
「大丈夫だよ。そんなに心配するな。たぶん悪い人たちじゃない」
鈴瑪は蛇柿の眉間に皺が寄っているのを見てクスッと笑いながら、彼女を安心させるように頭を優しく撫でてやる。
「何事もまずは〝最初の一歩〟だ。なんで誰も思いつかなかったんだろうなー。行き止まるくらいなら、最初から誰かの助けを求めりゃ良かったんだ」
To Be Continue……
「おい、蛇柿!」
襟足を長く伸ばした焦げ茶色の髪の男が、酒樽を豪快にひっくり返したような土砂降りの雨の中を、衣が汚れるのも構わずに追いかけてきた。
「勝手に一人でどっか行くなよ!」
ふと後ろから強い力で手首を掴まれ、その勢いのまま、声のする方へと引き寄せられる。雨に濡れて、冷たく皺になっている男の衣がひんやりと頰に当たったが、それでも蛇柿は気が動転していて、自我を失ったように男の腕の中で暴れ回る。
「やめてよ! 今は一人にさせて‼」
ザアザア降りの雨にも負けないような金切り声が、容赦なく彼の鼓膜に襲い掛かる。
それでも男は蛇柿の手を放そうとはせず、かえって腕に込める力を一層強くさせた。
「放して‼」
雨に混じって嗚咽を繰り返す蛇柿。彼女は自分よりも圧倒的な力で動きを封じ込めようとする九つ上の相棒の腕に躊躇いなく噛みつくと、彼の赤い瞳をキッと睨みつけて、さらなる抵抗を見せる。
男は軽く舌打ちをした。
「おい、蛇柿! 正気に戻れ‼」
「…………っ‼」
そうやって何度も、何度も、蛇柿に呼びかけ、彼女の怒りが鎮まるのを辛抱強く待ち続ける。
やがて体力的にも、精神的にも、抗うのに疲れてきて、あっちこっちに突き出されていた蛇柿の両手が行き場を失ったように静かに下ろされるのを見ると、男はようやく詰めていた息を吐き出すことができた。
「――ちょっとは落ち着いたか?」
そう声をかけると、蛇柿は頼りなさげにコクリと頷く。けれどまた今朝のことが思い出されたのか、彼女は顔を覆って、「鈴瑪。わたし、どうしていいか分からない」と震える声で囁いた。
――ここには、長く生きられない人たちがあまりにも多すぎる。
弟の尊は昨日、五歳の誕生日を迎えたばかりだった。そのときは別段変わった様子はなく、料理人らが腕を奮って作ったご馳走が机の上に並べられるのを見て、「いつになったら、ご飯が食べられるのー?」と、目を輝かせて聞いてきたものだ。
誰も数時間後に彼が寿命で命を落とすことになるとは、予想もしていなかったことだろう。太陽が山端から顔を覗かせ、鳥たちが朝の囀りを始めるころ、尊はすでに布団の中で身体を冷たくさせていた。
それからすぐに雲行きが怪しくなって、吹き荒れる風が、遠くの地からずっしりと重たい黒雲を連れてきた。
ときどき雲の間を稲妻が駆け抜け、少し遅れて、地面を揺るがすような雷鳴が轟く。その勢いは夜になった今でも治まることはなく、生き延びた者たちの心に深く〝尊の死〟を刻みつけた。
「そんなに泣くなよ。俺まで泣きそうになるだろ」
鈴瑪は悲痛な面持ちで蛇柿の頭に手を置くと、白い塗り壁の向こうからくぐもって聞こえてくる〝死者の弔い歌〟に耳を澄ませた。
「この世界には、やっぱり俺たち人間の理屈じゃ説明できないようなものもあるんだな」
そう独り言ちると、蛇柿は「――このまま何もしないで一生を終えるのは、いや」と、雨にも負けそうな声で言う。
「俺もだよ」と、鈴瑪も諦めまじりの小さな声で短く答えた。
「空恋さん【現在の継国一族当主であり、蛇柿の産みの親】が今二十八だっけ? あの若さで既に命の危機に晒されているんだからなぁ。俺たちの運命ってのは、本当に残酷なもんだぜ」
そう言う鈴瑪も、今年二十五歳を迎える。世代で言えば蛇柿の一つ上にあたり、空恋と同じ立ち位置にいた。
「俺も年齢的にそろそろヤベェな」
鈴瑪は上を向いて、自虐的に笑った。
「俺の母親は、父親よりかは長生きしたけど、それでも三十三で力尽きた。父親はもっと早くて、死んだのは二十八のときだったかな。俺もあと何年、生きられるんだろうな」
鈴瑪の――自分を抱き寄せてくれる腕の力が少しだけ弱まった。
蛇柿はそれを受けて、怯えたように目を丸くする。ここで成り行き任せに怯えの情を全面に出してしまえば、弟を失った今よりもっと、ずっと恐ろしい気持ちになる。そしたら本当に自分が自分でいられなくなってしまいそうな、そんな危ない予感がした。
「バカ」
蛇柿が短く言った。
「私を置いて先に逝かないで」
そう小さく独り言ちて、より強く彼の身体をギュッと抱きしめる。込み上げてくるもののせいで、たった一言伝えるだけでも、声を震わせないよう言葉にするので精一杯だった。
鈴瑪は心底驚いた表情で蛇柿を見つめる。
やがて「まぁ、それもそうか」と納得したように答えると、今度は身体を少し屈めて、蛇柿の首筋にそっと顔を埋めた。
「身近な人が死んだ直後だと、やっぱりどうしても悲観しやすくなるけれど、ちょっと冷静になって考えてみれば、俺達だってまだまだ若いんだよな。早々に自分の運命を諦めるには早すぎるんだよな」
「――――」
蛇柿が顔を上げる。
今朝、大好きだった弟が死んだ。あまりにも唐突すぎる別れに心が荒み、悲しみに暮れた一日を送っていた。でも、こうして鈴瑪の腕の温もりに触れていると、少しでも心安らぐ瞬間を得ることができる。
それを考えると、大切な誰かがいなくなるたびに自暴自棄になって、ただ悲観しているだけでは前に進めないのだろうと思う。
「私たちだって無力じゃない」
蛇柿は自分に言い聞かせるように言った。
「ほんの少しでも、何かできることはあるはずだわ」
目尻から伝う涙を拭いながら、蛇柿は透明感のある緑の瞳を鈴瑪に据える。いつの間にか雨足も弱まり、ずっしりと重たい雨雲も、また遠くの地へと流れつつあった。
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〝私たちは、短命の一族である〟
そう囁かれるようになったのは、ここ最近の話。むかしは特別、周りから憐れまれるほど特異な性質をもっているわけではなかった。
その証拠に最も古い文献の――今にも崩れてしまいそうな脆いページを捲っていくと、ここ〝継国〟という小さな島の名前とともに、この国の初代とされる五人の名前が残されていた。
一人は〝王雅〟と呼ばれるリーダー格の男性。彼はなんと九十歳まで生きたそうだ。
そして二人目は、彼の妻としてその生涯を終え、生前は美しい容貌を存分に振舞っていた〝呼鼓〟と呼ばれる妖艶な女性。彼女は王雅よりも二歳長く生きている。
そして次に名前を連ねるのは、〝千〟という名の男。彼は五人の中で最も早くに命を落としているが、〝笑柳〟という女性と結ばれ、子を三人ほど儲けているらしい。
残されたもう一人の男は〝彗〟という名前らしかったが、彼に関する情報は、ここではあまり明かされていない。
何はともあれ、彼らが生きていたのは今からおよそ九百年も昔のはなし。
――子が生まれるごとに十年。
私たちの寿命はどんどん短くなっていく。今じゃ平均年齢も十六歳にまで落ち、最年長とされる継国一族現当主ですら、二十八歳という若さで、早くも寿命の危機に直面していた。
その不思議を面白がっているのか、それとも憐れんでいるのか――。
噂を聞きつけ、一目見ようと、海の向こうから度々やって来る旅人たちは、私たちが頻繁に葬儀を繰り返しているのを目の当たりにすると、〝滅びゆく一族〟だとか〝儚い命の一族〟だとか言って、みな口を揃えて好き勝手に表現するのだ。
そして最後は私たちを人ではない別のもの――例えば、神や、仏などの類――として畏れ敬い、何とも言えない哀情を含んだ目をして、静かにこの島を去っていく。
すると余計に私たちは自分の運命を呪い、惨めに思うのだった。
「……はぁ」
蛇柿は小さなため息を吐いて、埃の被った古い書物を閉じた。
窓の外はすっかり秋模様。暑い夏の日差しが遠のいて、木々が色鮮やかな衣を纏う。
蛇柿はおもむろに立ち上がって、机の目の前の窓を開けると、しばらくの間、外の長閑な風景をじっと眺めていた。
尊が命を落としてから、はや一ヶ月。暇さえあればこうして書物を読み漁り、隅々にまで目を通しては、自分たちの〝血〟がいつから呪われているのか、その経緯について調べていた。
だが、その調査は思った以上に捗らない。これらの文献の中には、いつ、だれが、どのようにして命を落としたのか――その事実だけが淡々と記されているだけで、負の連鎖を断ち切る手がかりを一つも掴むことが出来なかったのだ。
おまけに、ところどころページが破れていたり、部分的に紙が引き千切られていたりするので、最も肝心なところが結局分からずじまいで終わってしまう。
そんな様子が一ヶ月以上も続いたとなれば、さすがに蛇柿もうんざりする他ない。
「はあ」
蛇柿はイスの背もたれに力なく身体を預けると、目を閉じて上を向いた。
「こうしている間にも刻一刻と、私の寿命は奪われていくのね……」
「…………」
「…………」
「…………」
「ねぇ鈴瑪」
蛇柿は、自分のベッドで堂々と寝そべっている鈴瑪の、悪戯っぽく笑った顔を横目で睨みつけた。
「さも私の言葉みたいに言わないでくれる?」
「そんな目で見るなよ。本当のことだろ?」
口元に軽い笑みを浮かべながら、鈴瑪はゆっくり身体を起こす。
「で、探し物は見つかったのか?」
「ううん、全く」
蛇柿は首を横に振って答えた。
「〝死者に口がない〟ってまさにこのことだわ。私がどれだけページを捲っても、ぜんぜん欲しい答えが見つからないの」
「まぁここにある文献なんて、どれもそんなもんだろ」
鈴瑪が言うと、蛇柿の眉間に皺が寄った。
「どういうことよ」
「だってさ、」
そう言いながら、鈴瑪が頭の後ろで両手を組む。
「お前の家に代々その文献が残されてきて、今もなお情報が書き足されていっているのなら、絶対に誰かしら重要な情報は目にするはずだろ? でも誰も自分たちの〝血〟について、謎を解明する手立てを講じようとしない」
「うん」
「ということは、だ。いま手元に残されている文献のほとんどが意味をなさないということになる。重要な情報は誰かの手で意図的に破られているみたいだし、そりゃ、どこを隈なく探したって、欲しい答えは見つけられないだろうよ」
「じゃあ私が一か月以上も費やした時間と苦労は全部、水の泡だったってこと?」
「まずは自分の気が済むまで、とことん調べ上げる。その方がお前も納得できるだろ? 実際、尊を失くした悲しみを、文献を読み漁ることによって紛らわしていたんだから」
「だからって、一か月以上も放置することはないでしょ‼」
蛇柿は「むぅ」と頰を膨らませながら、椅子から立ち上がり、鈴瑪の身体をバシバシ叩き始める。
鈴瑪は蛇柿から飛んでくる拳やら、蹴りやらを軽く受け流しては、楽しそうに笑っていた。
~・~ ◇◆◇ ~・~
――秋。
それは落ち葉をかき集めて焼き芋をするには
最適の季節なのである。
~・~ ◇◆◇ ~・~
継国という小さな島は、海を隔てたモルスール大陸の南東に位置する小さな港町――ロットから、船で二~三時間の場所にある。
噂によれば継国の島に住む人はみな短命で、人口およそ六十人未満だという。そのほとんどが二十代の若者で、その未熟さゆえに、貿易などという他国との繋がりに対しては意欲の低い姿勢を示し、周りが海に囲まれていることもあってか、あまり積極的には外へも出ないという。
ゆえに多くの国は、継国の島のことを〝鎖国的な島〟と呼ぶようになり、あえて貿易国として仲間入りするようなことはなかった。
だが継国特有ともいえる〝ある噂〟をきっかけに、一部の物好きは好んでこの島を訪れたりする。
鎖国的とはいえ、継国の人間は来る者を拒まない。だがその一方で、来訪者のほとんどが巷で囁かれる噂が真実かどうかをその目で確かめに来る者たちだったので、継国の人間もあまり余所者に対して好意的な姿勢を見せることはなかった。
それでもまたここに一組、噂を聞きつけて島に降り立つ者がいた。
一人は濃い緑色のタイトなズボンに、腹上までの大きな橙色の上着を羽織った少女――ナライ。彼女は長旅のお供となる茜色の細長い棒――ステッキ――を地面に突き刺して、まだ見ぬ土地に興奮を抑えきれずにいた。
「ねぇ、ランタン! ここがあの〝噂に名高い継国の島〟だよ‼ 私たち、今から彼らの〝神秘〟に触れるんだよ‼」
「はいはい。分かったら少し落ち着こうね」
そう言って、やんちゃな子どもに言い聞かせるような口調で答えたのは、ナライの旅のコンパニオンとなるミンクと人間の獣人――ランタン。彼女はナライが両手を上げて万歳をしているその横で、さっき船の商人から買ったばかりの芋を五本、色々な道具の入った大きなリュックサックに詰め入れている最中だった。
「にしても上陸したのが私たちだけだなんて、少し寂しいな」
「まぁここは物好きが訪れることで有名な島だからね」
ランタンは五本のうち、一本の芋だけがどうしてもリュックサックの中に入らないことに気がつき、溜息を吐く。
「ねぇ、ナライ。どうやら芋を買いすぎたみたい。どこかで芋を消費しなくちゃ」
「そんなぁ。芋は結構保存がきくし、私たちの大切な食糧じゃん。こんな所で使うのは勿体ないよ」
「じゃあナライが芋をずっと手で持って歩いてくれる?」
「うっ……」
ナライは言葉に詰まった。
「ま、まぁさ、少しこの島を探索してからでもいいと思うんだよね。そこで小腹が空いたら芋を食べればいいよ。その間、仕方ないから私が持っていてあげる。でも裸で一本だけ芋を持っているのは、なんか恥ずかしいなぁ」
「でも約束は約束だからね。はい、芋。よろしくね」
ランタンは、ナライに見えないところでこっそり舌を出し、イタズラ顔でそっと笑った。
~・~ ◇◆◇ ~・~
自分よりも年若い蛇柿は、ちょっとからかうと、すぐに顔を赤らめて反撃してくる。言葉でからかえば、拳や蹴りが飛んできて、許可なくそっと身体に触れれば、それでも変わらず拳や蹴りが飛んでくる。
武術の心得がないお嬢様だから、反撃パターンはいつも単調で、目を瞑っていても攻撃を避けられる。
だから彼女の懇親の一撃がやって来たとしても、普段通り軽々と鈴瑪は攻撃を躱してしまうので、蛇柿は〝じゃんけん〟や〝鬼ごっこ〟などの勝負で負けた時みたいに、ものすごく怒ってくる。
幼いというか、そこがまた可愛いというか。いつしか鈴瑪は、その反応を見るのをとても楽しく感じていた。
「まずは自分の気が済むまで、とことん調べ上げる。その方がお前も納得できるだろ? 実際、尊を失くした悲しみを、文献を読み漁ることによって紛らわしていたんだから」
もっともらしく言ってみる。曲がりなりにも自分は、蛇柿の第二の育ての親のようなもんだ。空恋が蛇柿を産み、それからすぐに当主になると決まってからは、ほとんど自分が蛇柿の面倒を見ている。
まぁ、慣れたもんだ。
「だからって、一か月以上も放置することはないでしょ‼」
蛇柿は「むぅ」と頰を膨らませながら、椅子から立ち上がる。
鈴瑪はわざとらしく構えの姿勢をとった。すると真正面から堂々と、勢いのある平手が飛んでくる。鈴瑪はチロッと舌を出して、わざと情けない声を出しながら、ヒョイッと軽く身を躱す。
「何で避けるの! 一回くらいは潔く食らいなさいよ‼」
蛇柿が真っ赤な顔をして言う。それで可笑しさが更に増した。
「俺に当てるには、まだ百年早いぜ」
「そんな百年なんて――、絶対にむりよ!」
「そんなの、どうなるか分からないだろ? 俺たちの代で何かが変わるかもしれん」
そう言って笑いながら、鈴瑪がふと窓の外へ目を向けたとき――銀杏や楓の木々の間から、黒煙が立ち上っているのが見えた。
(火事か?)
一瞬そう疑ったが、それにしてはやけに局所的で、周囲の人間が騒ぎ立てているといった様子もない。
鈴瑪が黙って眉間に皺を寄せていると、蛇柿も部屋の中の煙臭さに気づいて、パタッと動くのをやめた。
「……なにアレ。山火事?」
「――俺も初めはそう思ったんだが、ありゃ、どうも焚火か何かやっているな」
「焚火? ここはウチの敷地よ? 勝手に焚火をされては困るわ」
蛇柿は窓辺に寄って、外の様子を確認する。鈴瑪も蛇柿のすぐそばに立ち、窓枠に肘をかけながら遠くに目をやるが、そこそこ距離が離れているようで、詳しい状況はよく分からなかった。
蛇柿は自分よりも頭二つ分ほど背の高い鈴瑪の顔をじっと見つめて言った。
「本当に火事になったら困るわ」
「――まぁ、そうだな」
そう言って、鈴瑪は何かを考え込むように顎を指で添える。
「でも、ちょっと待てよ。これはもしかすると好機かもしれん」
「どういうこと?」
キョトンとした顔で蛇柿が尋ねる。鈴瑪は観音開きの窓をゆっくり閉めた。
「俺たちの〝血〟のことを聞くいい機会かもしれないってことだよ。だって人ん家の敷地って分かっていながら、こんなことするのは、俺たち継国以外の人間しかいないだろう? 外国の人間に聞くのはお門違いかもしれないけどさ、俺たちじゃ既に手詰まりなんだ」
「……本気?」
蛇柿は至極驚いた表情になった。
「〝継国の血〟は、私たちから生まれているのよ。それを海を隔てた外国の人間に聞くなんて……そんなこと、あの人たちに分かるわけがないじゃない」
「でも俺たちは〝自分たちの血〟のことをほとんど分かっていない。ただ、子どもが生まれるごとに十年、命を紡げば紡ぐほど、次世代を生きる子らの寿命がどんどん奪われていっているんだ。その有様を成す術なく見守っているだけなんて、それこそ何も分かっていないのと同じ事だろ」
蛇柿は口を窄めて、その言葉にしぶしぶ頷くしかなかった。
「とりあえず、あそこで焚火をするのは止めてもらおう。周りには木が多いし、万が一火が他に燃え移ったら大変だ。それから、ついでに〝継国の血〟のことも聞いてみる。それでいいか?」
「――うん」
蛇柿はさらに渋い表情をして、こんもりと眉毛を盛り上がらせた。
「大丈夫だよ。そんなに心配するな。たぶん悪い人たちじゃない」
鈴瑪は蛇柿の眉間に皺が寄っているのを見てクスッと笑いながら、彼女を安心させるように頭を優しく撫でてやる。
「何事もまずは〝最初の一歩〟だ。なんで誰も思いつかなかったんだろうなー。行き止まるくらいなら、最初から誰かの助けを求めりゃ良かったんだ」
To Be Continue……
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