姉が愛の逃避行をしました(スペア(妹)でいいと言った王子と、それなりに楽しく暮らしていきます)

風野うた

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本編

17 王子様に担がれちゃいました

 階段を上って直ぐ、公爵が療養しているらしき部屋の前に警備兵が二人立っているのが見えた。そのうちの一人にマリアベルは見覚えがあった。慌ててレオナルドを引っ張って立ち止まらせ、耳打ちをする。

「殿下、私、あの人を知っています」

 マリアベルが視線を警備兵の方へ向けると、レオナルドはマリアベルをサッと抱き上げて踵を返し、階段を下りだした。アリーは意味が分からず一瞬、焦ったが置いて行かれないように二人を追う。

(えっ!?なんで急に抱っこ!!)

 マリアベルは落ちないようにレオナルドに抱きつく。レオナルドはスタスタと歩きながら、小声で話し掛けて来た。

「マリー、あいつを知っているという話を聞かせて欲しい。どこか部屋に入るか?」

「出来ればその方が良いかもしれません」

 レオナルドは、マリアベルを抱えたまま階段を降りて、次は廊下を左に曲がり、突き当たりの階段をまた上っていく。

(やっぱり、殿下って力持ちよね。私を抱えたままで、こんなに軽々と階段を上ったり下ったりしてしまうのだもの)

 三階まで上がると目の前に男性が立っていた。レオナルドがマリアベルを抱えているのを見て、彼は少し驚いている。

「ルシウス、しばらく人を通さないでくれ」

「はい、殿下。かしこまりました」

 ルシウスはレオナルドの指示に即答した。

(この状況で落ち着いて返答出来るなんて、ルシウスさんはかなり落ち着いた方なのね)

 マリアベルはルシウスの正体をまだ知らないのだが、彼はレオナルドのプライベートエリアの管理をしている執事のような存在で勿論、マリアベル専属侍女のアリーとも面識がある。アリーはルシウスのところで立ち止まった。レオナルドがマリアベルに簡潔な状況説明をする。

「マリー、ここは俺のプライベートエリアだ。悪いがアリーは入れない。ここで待ってもらう」

「マリアベル様、わたくしは大丈夫です。ここでお待ちしております」

 アリーが大丈夫と言っているのなら、マリアベルが断る理由もない。

「分かりました」

「では、こっちだ」

 マリアベルを抱えたまま、レオナルドは廊下の先へと突き進んでいった。
――――――――――

 レオナルドは部屋に入ると彼は漸くマリアベルを床に降ろした。

「殿下、わざわざ抱っこまでしなくても良かったのでは?」

 マリアベルは大して息も上がっていないレオナルドへ嫌味っぽく尋ねる。

「まだ、警備兵が俺たちに気付いていないようだったから急いだだけだ。マリーを狙っているのなら、あそこで鉢合わせたら大変だろう?」

 レオナルドは逆にマリアベルへ問う。

(例えそうだとしても、抱っこする必要はないわよね?しかも、結構な距離を歩いて来たわ。殿下って、王族の義務で結婚する相手に対して頑張り過ぎじゃない???)

 マリアベルが斜め上な解釈をしている中、レオナルドは敵かも知れない警護兵とニアミスしなくて良かったと安堵していた。今のレオナルドにとって、マリアベルより優先するものはない。

「――――確かに鉢合わせていたらマズかったかもしれませんね。警備兵の一人は、ベンが来られない時の代理として我が家へ来ていた騎士です。名前はアシュレイです」

「第一騎士団から派遣されている護衛騎士の代わりが警備兵?何だ、その采配は・・・」

 レオナルドは、第一騎士団のおかしな行動に違和感を持った。常ならば、第一騎士団に所属するベンが公爵邸に向かえない時は他の第一騎士団所属の騎士を派遣する。代理として管轄の違う警備兵を送るなど、あり得ないことなのだ。それをレオナルドの側近で第一騎士団・副団長のホーリーが把握していないとなると根源は団長?第一騎士団・団長が怪しいのか!?ん、いや待て、警備兵の管理は王宮警備隊の管轄だ。ならば、王宮警備隊と第一騎士団が癒着しているのか。そうなると話がかなり厄介になってくるのだが?と右へ左へ考えを巡らせる。

 マリアベルは腕を組んで考え込むレオナルドを眺めていた。先ほど大荷物マリアベルを抱えて階段を上り下りしたとは思えないほど、レオナルドは涼しげである。

(殿下が何を考えているのかは分からないけど、アシュレイが廊下に居ると言うことは、今も誰かにお父様は監視されているという可能性があるということよね。ベンとアシュレイを動かしているのは誰なのかしら)

「殿下、どうしますか?父に近づいて話を聞こうにも、聞き耳を立てている者が居る状況です。父も流石に重要なことは口にしないのではないですかね?」

「俺もそう思う。あの警備兵が邪魔だな。ホーリーを呼ぶか」

「アーデル小侯爵様を?」

「今後、公爵の警護は第一騎士団であいつの配下の者に入れ替えよう」

「そんなあからさまに動かして大丈夫ですかね?」

「マリーがお父上と一緒に居たいと言ったということにして、部屋も移動させる」

(あー、なるほど、娘が父親の心配をしているという話なら自然かもしれない)

「マリー、もしもの話なのだが、マリーが知っている者をちらつかせるのが、俺たちを動かさないためのトラップだったらどうする?これに対応していたら、時間だけが過ぎていくだろう?」

(殿下が私に意見を求めるなんて珍しいわね。確か、今モディアーノ領は戦闘中なのよね。殿下に駆け付けられないうちに何かをもみ消そうとするなら、余り早く来ないで欲しいわよね)

「私たちがお父様に話を聞くのは取りあえず止めましょう」

 (ここで時間を割いてお父様に話を直接聞くよりも、早くモディアーノ領に行って、現状を目で見た方が速そうだわ)

「それから、父から話を聞く役はアーデル小侯爵様に任せましょう」

「――――話すと思うか?」

「ええ、多分。殿下、アーデル小侯爵様が殿下の側近だということを父は知っているのですよね?」

「当然、知っている。なら、マリーの言う通りホーリーに任せてみるとするか」

「はい、それなら殿下の出発も遅れません」

 レオナルドは、マリアベルの頭を撫でる。

(殿下はよく私の頭を撫でるのよね。この仕草がお好きなのかしら)

「殿下、お願いがあります」

 マリアベルはレオナルドを見上げた。目が合い、レオナルドは首を傾げる。

「私も連れて行ってもらえませんか?」

「それはダメだ。戦闘が発生しているんだぞ」

 最近、レオナルドの柔らかい表情ばかりを見ていたマリアベルは、厳しい眼差しのレオナルドを見て、これは全く連れて行く気がないなと悟った。しかし、今回の襲撃事件や第二騎士団を巻き込んだ戦闘はモディアーノ公爵家がらみなのである。マリアベルも解決の糸口を出来れば一緒に探したい。

「殿下、私は殿下が思っているより、強いですよ」

 マリアベルは勇気を出して反論した。レオナルドは、まさか“私、強いですよ”などと言う言葉が出てくるとは思っていなかったので、怪訝な顔でマリアベルを見る。

「殿下、よく考えて下さい。治安がいいとは言え、七歳から街に一人で降りていたのです。当然、身を守る術すべは持っています。それに街に下りるときは常に男装をしていました。この姿が危ないというのなら男装で行きます」

 レオナルドはずっと疑問だったことが一つ解決した。どうしてこんなに可愛いご令嬢が誘拐事件に巻き込まれることも無く、街に一人で降りられたのだろうかと思っていたからだ。なるほど、男装をしていたのかと感心すると共にマリアベルの言う身を守る術とは一体?何なのだろうかという新たな疑問が湧いて来る。

(殿下、困惑している?そうよね、男装をするご令嬢なんて身の回りにいないでしょうし・・・。この問題が片付いたら、いよいよ婚約破棄って言われるかもね。妃教育は魅力的だけど、私には身に余る話だもの。断られるときは潔く身を引きましょう。殿下はこんなにお優しい方だし、私じゃなくてもいい人が直ぐに見つかると思うわ)

「マリー、何が出来る?」

「剣術と体術が出来ます。あと、馬にも乗れます」

「一体、どうやって身につけた?」

(あ、それ聞いちゃうのですね、殿下)

「秘密です。では、ダメですか?」

「ダメだ!!」

(そうは言われても・・・。殿下の知っている人の名前が出てきたら、絶対驚くというか、場合によっては怒られそうで怖いのだけど・・・。でも、殿下のこの表情は言うまで許してくれなさそうな気がする。私も現地に行って、何が起こっているのかを知りたいし、どうしようかなぁ・・・)

「あの、これを聞いて婚約破棄だって言われるのは仕方ないのですけど、先方に迷惑を掛けたくないので、私がこれから話すことは秘密にしてもらえませんか?」

 レオナルドは頭を殴られたような気がした。“婚約破棄されても仕方ない”などと、マリアベルが軽く言ったからである。思わずレオナルドは、彼を見上げているマリアベルの頤を手で持ち上げ、上を向かせた。

「何があろうと婚約破棄をする気はない」

 そういうと、レオナルドはマリアベルの小さな唇に自身の唇を重ねた。マリアベルは突然のことに、頭が真っ白になった。
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