訳あり侯爵令嬢は成り行きで身代わり占い師をしています(元婚約者の皇子が相談にやって来ました)

風野うた

文字の大きさ
10 / 11
本編

9、本日のお客様 上

しおりを挟む
 一人で開店準備を終えたカレンは、ドアの外にOPENと書いてあるプレートを吊るした。時刻は朝の九時を少し過ぎたばかり。この時間帯にやって来るお客様は商売人が多い。

 お客様が来るまでの間、カチコチと時間を刻む時計の音を聞きながら、読書をするのがカレンの日課だ。この占いの館の地下には書庫があり、多くの書物が置かれている。全体的に魔導書が多いのはレダが魔法使いだからだろう。

 本日の一冊は、魔法倫理学の本。カレンは魔力が作り出す空間についてのページを捲る。魔法で作り出す空間はこの世界とは別物であると一般的に言われているが、果たしてそうなのであろうかという疑問を検証した結果が載っていた。

(私が作り出した空間が誰かのおうちのお部屋の中だったとか、そういうことよね?それは確かにマズいわね・・・)

 その時、コンコンとドアをノックする音がした。

「おはようさん!レダ(カレン)。今日もお願い!!」

「おはようございます。マーガレットさん、それで今日は?」

「ええっと、朝市で出来のいいジャガイモと水揚げされたばかりの鱈を仕入れて来たよ。さて、何がいいかね?昨日のパプリカチキンは好評だったよ!」

「鱈って、どんな調理法が・・・?」

「そうだね、鱈はフライにしたら美味しいよ。ザクザクの衣とふわふわの身が最高でね。エールが進むよ」

「あー、いいですね。美味しそうです」

「じゃあ、占っておくれ。今日のランチメニューは何がいいかい?」

 ヤドリギ横丁で、ビストロを経営しているマーガレットはこの占いの館一番の常連客だ。彼女は“本日のランチメニュー”を占ってもらうため、毎朝ここに来る。その前に朝市で材料を仕入れている時点で、ほぼほぼメニューは完成していると思われるのだが、要は後押しして欲しいだけなのだろうとカレンは捉えている。

――――――レダはそれらしく、水晶をテーブルの下から取り出して、じーっと見詰める。

「お皿に鱈フライが見えます。ジャガイモは・・・」

「ああ、ジャガイモもフライにしてフィッシュ&チップスかい?最高だね。今日のメニューはそれに決定だ!さあ帰って、タルタルソースでも作ろうかね」

「とても美味しそうですね」

「ああ、そりゃ美味しいだろうよ!あんたもたまには食べにおいで!!」

「はい、いつもありがとうございます。お気持ちだけいただきます」

「まあ、つれないねー。ハハハ、いつもありがとね。はい、コレはお代だよ」

 マーガレットはテーブルに十ピールコインを置き、颯爽と去っていった。カレンはコインを手に取って、じーっと眺める。

(マーガレットさんに毎日お金をもらっているけど、私、全然占いなんかしていないのに・・・。本当にこんな感じでいいのかしら???)

 指で掴んだコインを机の下にある引き出しの中へ大切にしまう。コインだらけの引き出しの中を眺めながら、カレンは首を捻る。本物のレダが出て行った後、カレンはキュイの指示でずっとここにお金を入れ続けていた。当然、お金は貯まっていく。実際、引き出しの開け閉めも重くて大変だった。

(コインだけとはいえ、この量・・・。このまま入れ続けて強盗にでもあったら、今の私では弁償しきれないかも)

 一方、食事の材料などは倉庫にすべて用意されており、この半年間お金を払うようなことは一切無かった。

(よくよく考えると倉庫の品物が切れないというのは不自然なのよね。牛乳なんて、そんなに日持ちするものでもないでしょう?何故、今まで気づかなかったのかしら。昨日から、そういうことが多い気がする・・・)

 また、カレンは昨夜入浴する際に鏡に映った自分の姿を見て驚いた。余りに肌が青白くなっていたからだ。思い返せばこの半年の間、陽の光を直接浴びていない。

(ここに籠りっぱなしは良くないって分かっているのよ。殿下が言うように、一時的にお店を休んでどこかへ違う場所に行くのも悪くはないと思うけど、その宛も無いし、マーガレットさんは毎日ここに占いをしに来るだろうし・・・。やっぱり、レダさんと一度話し合った方が良いかもしれないわね)

 アルフレッドは今日シュライダー侯爵邸へ行くと言っていた。本当にカレン(レダ)と面会が叶うのかは分からないが今夜、ここへ来るならその時にシュライダー侯爵邸の現状くらいは聞けるだろう。

 カレンは、無意識に鼻歌を歌っていた。



―――――次のお客様は、貿易商のシューマンだった。

 シューマンは買い付けの旅の前に必ずこの占いの館へやって来る。今回は南方航路の船に乗るらしい。

「レダ(カレン)、南方には色とりどりのフルーツや香辛料、そして薬草があるらしくてね。どれに注目すべきだと思う?」

 こげ茶のスリーピースに縦じまの入った白ワイシャツ、黄金色の蝶ネクタイ。いかにも羽振りの良さそうな出で立ちのシューマンは身を乗り出してレダに尋ねる。

「運びやすいのはどれですか?」

「そうだね、フルーツは傷みやすいかもしれないね。香辛料は粒のままか粉末にしてある物が多いかもしれない。薬草は乾燥しただけで加工していない状態だろうから、かさばる可能性があるだろうね」

「では、占います」

 カレンは机下から恭しく水晶を取り出し、シューマンの顔を映した。別に何も見えては来ないので、先ほどの会話をヒントにして答えを導く。

「香辛料ですね」

「そうか!分かった。今回は香辛料を多く買い付けて来るよ」

「どうぞ、お気をつけて」

「いつもありがとう」

 シューマンはテーブルの上にコインを置いた。

「また、戻って来たらお土産を持ってくる。レダ(カレン)も元気でね」

 シューマンはひらひらと手を振りながら、ドアを出て行った。カレンは置かれた百ピールコインをじっーと見詰める。

(貿易商って儲かるのね。こんな簡単な占いで百ピールは多過ぎでしょー!?)

 そしてそのコインを引き出しに入れた。

(一体この引き出しにはいくら入っているのかしら。今までキュイが居たから何となく数えるのは気が引けたけど、今なら・・・数えてみよう!!)

  ほんの出来心から、カレンは引き出しの中にあるコインを数えてみることにした。早速、大きくて四角い缶を倉庫から取って来て、引き出しの中のコインを缶に移し替えながら数え始める。

 時刻は正午を回りいつもなら昼食の時間だった。しかし、それを知らせる者はもういない。カレンはお金を数えることに没頭する・・・。

―――――数え続けること数時間。とうとう合計金額が出た!

(――――噓でしょ!?百四十五万七千六百三十三ピール!!これだけあったら、当分というか、庶民の生活では使い切れない金額なのでは???)

 ニルス帝国では庶民の月給が千四百ピールくらいなのである。この引き出しにはその約千倍の金額が入っていたということである。急に怖くなって来たカレンは引き出しの中にさっさとお金を戻した。

 一段落して、遅くなってしまったが、昼食を取るためキッチンへ行こうとしたところで・・・。

 ガチャ!!

 背後のドアがノックも無しに開かれた。カレンが咄嗟に振り返ると。そこに立っていたのはアルフレッドを超えるやんごとなき御仁だったのである。

「レダ(カレン)!久しいな。息災か?」

 そう言いながら、超やんごとなき御仁はカレンの元へと笑顔で歩み寄って来るのだった。

(何で!?ここに陛下が・・・・)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

美人な姉と『じゃない方』の私

LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。 そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。 みんな姉を好きになる… どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…? 私なんか、姉には遠く及ばない…

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

私の婚約者とキスする妹を見た時、婚約破棄されるのだと分かっていました

あねもね
恋愛
妹は私と違って美貌の持ち主で、親の愛情をふんだんに受けて育った結果、傲慢になりました。 自分には手に入らないものは何もないくせに、私のものを欲しがり、果てには私の婚約者まで奪いました。 その時分かりました。婚約破棄されるのだと……。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...