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本編
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カレンの目の前に現れたのはニルス帝国の現皇帝ニコラス陛下だった。この国で一番高貴なお方がどうして護衛も引き連れずに、フラフラとここへやって来たのか?カレンの頭に疑問符が浮かぶ。
(殿下に続いて、陛下まで・・・。どうして立て続けに???)
言うまでもなく半年前まで、カレンはニコラス陛下の息子アルフレッドの婚約者だった。義母が捏造した不祥事で表舞台から去ったとはいえ、流石にカレンの存在をニコラス陛下が忘れているということはないだろう。そして、そのカレンが今、この『レダの家』で、レダの身代わりとして占い師稼業に励んでいるなどとは夢にも思わないはず。
この急に訪れた事態に戸惑いつつも、どう対応すべきかをカレンは頭の中で必死に考えた。
(陛下に、私の変装が見破られる可能性って、どのくらいあるのかしら?陛下も魔法が使えるのだとしたら、バレる可能性が高い?それとも・・・)
しかし、脳内でいくら考えても答えは出てこない・・・。カレンは無意識に腕まで組んで考え込んでいた。ニコラス陛下は、その様子を黙って見ている。
(それに陛下とレダさんは知り合いみたいだわ。だけど、どの程度のお付き合いなのかも分からないし、こんな時に限ってキュイはお人形に戻ってしまっているし、本当にどうしたらいいのか分からないわ)
「レダ(カレン)、どうしたのだ?そんなに悩んでいる姿は初めて見た。どこか調子でも悪いのか」
何も知らないニコラス陛下は、俯いたままで考え込んでいるレダ(カレン)にとうとう話し掛けた。
(あー、陛下もそろそろ私の行動を怪しいと思うわよね。うーん、自ら本当のことを言う?それとも、ギリギリまでレダさんを演じて隠し通す?どうしよう・・・)
「レダ(カレン)?」
(とりあえず声はレダさんだから・・・挨拶くらいはしてみようかしら)
「ごきげんよう、陛下」
カレンは淡々と挨拶をした。すると、ニコラス陛下は渋柿を齧ったような表情になる。カレンは何か失敗したのかもと不安になってきた。
「レダ(カレン)、私がしばらく来なかったから拗ねているのか?それにしても“ごきげんよう”は余りに他人行儀じゃないか」
ニコラス陛下は口を尖らして、不満をブツブツと呟いている。
(この様子から察するに、レダさんと陛下はかなり親密な関係だったってこと?やっぱり、本当のことを話そうかな)
カレンは意を決し、目深に被っている真っ黒なフードを後ろに下げて顔を露わにした。しかし・・・。
「おお、レダ(カレン)!久しぶりにその顔を見た。本当に大魔法使いは年を取らないのだな。羨ましい限りだ。私は白髪も増えて、皺も・・・」
(ん?私を見ても驚かない???どういうこと?)
「陛下、ちょっと!ちょっと待ってください!!」
カレンはニコラス陛下の言葉を遮る。占い師レダとカレンでは見た目が明らかに違うのに、なぜ驚かないのかが気になったからだ。
「レダ(カレン)、どうした?」
「あのう、私はレダさんではありません。ええっと、声は魔法で変えています。今、元に戻しますので、少しお待ちください」
カレンは小声で呪文を詠唱し、低くてハスキーな声から自身の地声に戻した。
「お待たせしました。陛下」
「―――なっ!?その声は!!カ、カレン嬢か?」
「はい、カレン・マーレ・シュライダーです。ご無沙汰しております」
いつも冷静なイメージだった陛下が驚きを隠そうともせず、口をあんぐりと開けている。
「カレン嬢、そなたがここに居るということは・・・。レダのことを知っていたのか?」
「はい、私は半年前に実家であるシュライダー侯爵邸から逃げてここへやって来ました。そして、その時レダさんと初めて会いました」
「―――そうか」
「はい、あの賊に私が襲われたという一連の事件の頃です」
「カレン嬢が賊に襲われた事件!?一体どういうことだ・・・」
陛下はブツブツと何かを呟いているが、カレンには聞き取れない。
「カレン嬢、レダは今どこへ?」
「レダさんは半年前、占い師の身代わりを私に頼んで、そのままシュライダー侯爵邸へ行ってから、ずっと帰って来ていません。義母レベッカにお見舞いをしないといけないとか言ってて・・・。それと、レダさんは今私の姿をしていて・・・」
陛下は、左手を顎にかけ、少し考え込む。
「陛下、レダさんは私のことを前から知っていると言っていました。それで私が無実だということも知っていると・・・。だから、私が幸せになるために力を貸して下さると・・・」
(ああ、ダメだわ。焦って上手く話せない・・・)
カレンがアタフタしながら説明している様子を咎めることも無く、ニコラス陛下は静かに話を聞いていた。
「カレン嬢、少し確認したいことがあるのだが、構わないだろうか?」
「はい」
「カレン嬢が半年前、賊に襲われたという話のことを聞きたい」
「はい、あの私が賊に襲われ辱めを受けたという噂は義母レベッカが流した嘘です。私が賊に襲われたという事実はありません」
「―――――そうか。そなたの義母は、とんでもないことをしたのだな。私は今朝、目覚めると同時にレダに会わなければならない気がして、ここへ足を運んだのだ。それにしても、まさかカレン嬢とここで会えるとは・・・。半年も待たせてしまい、申し訳ない」
(待たせてしまい?え、どういう意味!?)
「あの、陛下?待たせてって?」
「いや、実は半年前から私は昏睡状態に陥っていたのだ。ところが今朝、突然すっきりと目覚めた。気持ち悪い出来事だった故、レダに助言をもらおうとここへ来たのだよ」
(陛下が昏睡!?それって・・・大事件じゃない!!)
「今すぐ私の名で真実を公表しよう。そうすれば、カレン嬢への誤解も晴れる。責任を持ってアルフレッドにもこの件は私から伝えておく」
「陛下、殿下もこの事件の真相をご存じです。私が話しました」
「なっ、アルフレッドもここへ来たのか?」
「はい、所用で来られました」
「そうか」
(だけど、陛下が事件の真相を今、発表したところで何も変わりはしないのよね。すでに婚約者はエマに内定しているし・・・)
ふと、カレンの脳裏にエマの怒り狂う様子が思い浮かぶ。カレンの名誉回復など彼女が最も嫌がりそうなことである。
「―――――あのう、陛下が私のために動かれると、エマが嫌がりそうです」
「エマとは誰だ?」
(えっ、エマをご存じでない?)
「エマは私の義妹で、今はアルフレッド殿下の婚約者です」
「はっ?義妹がアルの婚約者!?」
「ええ」
「カレン嬢、すまないが、この半年間の話をもう少し詳しく聞かせてくれないか?」
ニコラス陛下の顔色が急に悪くなったのは気のせいではなさそうだ。カレンは、ご要望通り、半年前の出来事から丁寧に話し始めた。
ーーーーーそして、ニコラス陛下は自身の名のもと、カレンとアルフレッド婚約破棄し、その後エマを息子の新たな婚約者として公表したという恐ろしい事実を知ったのだった。
(殿下に続いて、陛下まで・・・。どうして立て続けに???)
言うまでもなく半年前まで、カレンはニコラス陛下の息子アルフレッドの婚約者だった。義母が捏造した不祥事で表舞台から去ったとはいえ、流石にカレンの存在をニコラス陛下が忘れているということはないだろう。そして、そのカレンが今、この『レダの家』で、レダの身代わりとして占い師稼業に励んでいるなどとは夢にも思わないはず。
この急に訪れた事態に戸惑いつつも、どう対応すべきかをカレンは頭の中で必死に考えた。
(陛下に、私の変装が見破られる可能性って、どのくらいあるのかしら?陛下も魔法が使えるのだとしたら、バレる可能性が高い?それとも・・・)
しかし、脳内でいくら考えても答えは出てこない・・・。カレンは無意識に腕まで組んで考え込んでいた。ニコラス陛下は、その様子を黙って見ている。
(それに陛下とレダさんは知り合いみたいだわ。だけど、どの程度のお付き合いなのかも分からないし、こんな時に限ってキュイはお人形に戻ってしまっているし、本当にどうしたらいいのか分からないわ)
「レダ(カレン)、どうしたのだ?そんなに悩んでいる姿は初めて見た。どこか調子でも悪いのか」
何も知らないニコラス陛下は、俯いたままで考え込んでいるレダ(カレン)にとうとう話し掛けた。
(あー、陛下もそろそろ私の行動を怪しいと思うわよね。うーん、自ら本当のことを言う?それとも、ギリギリまでレダさんを演じて隠し通す?どうしよう・・・)
「レダ(カレン)?」
(とりあえず声はレダさんだから・・・挨拶くらいはしてみようかしら)
「ごきげんよう、陛下」
カレンは淡々と挨拶をした。すると、ニコラス陛下は渋柿を齧ったような表情になる。カレンは何か失敗したのかもと不安になってきた。
「レダ(カレン)、私がしばらく来なかったから拗ねているのか?それにしても“ごきげんよう”は余りに他人行儀じゃないか」
ニコラス陛下は口を尖らして、不満をブツブツと呟いている。
(この様子から察するに、レダさんと陛下はかなり親密な関係だったってこと?やっぱり、本当のことを話そうかな)
カレンは意を決し、目深に被っている真っ黒なフードを後ろに下げて顔を露わにした。しかし・・・。
「おお、レダ(カレン)!久しぶりにその顔を見た。本当に大魔法使いは年を取らないのだな。羨ましい限りだ。私は白髪も増えて、皺も・・・」
(ん?私を見ても驚かない???どういうこと?)
「陛下、ちょっと!ちょっと待ってください!!」
カレンはニコラス陛下の言葉を遮る。占い師レダとカレンでは見た目が明らかに違うのに、なぜ驚かないのかが気になったからだ。
「レダ(カレン)、どうした?」
「あのう、私はレダさんではありません。ええっと、声は魔法で変えています。今、元に戻しますので、少しお待ちください」
カレンは小声で呪文を詠唱し、低くてハスキーな声から自身の地声に戻した。
「お待たせしました。陛下」
「―――なっ!?その声は!!カ、カレン嬢か?」
「はい、カレン・マーレ・シュライダーです。ご無沙汰しております」
いつも冷静なイメージだった陛下が驚きを隠そうともせず、口をあんぐりと開けている。
「カレン嬢、そなたがここに居るということは・・・。レダのことを知っていたのか?」
「はい、私は半年前に実家であるシュライダー侯爵邸から逃げてここへやって来ました。そして、その時レダさんと初めて会いました」
「―――そうか」
「はい、あの賊に私が襲われたという一連の事件の頃です」
「カレン嬢が賊に襲われた事件!?一体どういうことだ・・・」
陛下はブツブツと何かを呟いているが、カレンには聞き取れない。
「カレン嬢、レダは今どこへ?」
「レダさんは半年前、占い師の身代わりを私に頼んで、そのままシュライダー侯爵邸へ行ってから、ずっと帰って来ていません。義母レベッカにお見舞いをしないといけないとか言ってて・・・。それと、レダさんは今私の姿をしていて・・・」
陛下は、左手を顎にかけ、少し考え込む。
「陛下、レダさんは私のことを前から知っていると言っていました。それで私が無実だということも知っていると・・・。だから、私が幸せになるために力を貸して下さると・・・」
(ああ、ダメだわ。焦って上手く話せない・・・)
カレンがアタフタしながら説明している様子を咎めることも無く、ニコラス陛下は静かに話を聞いていた。
「カレン嬢、少し確認したいことがあるのだが、構わないだろうか?」
「はい」
「カレン嬢が半年前、賊に襲われたという話のことを聞きたい」
「はい、あの私が賊に襲われ辱めを受けたという噂は義母レベッカが流した嘘です。私が賊に襲われたという事実はありません」
「―――――そうか。そなたの義母は、とんでもないことをしたのだな。私は今朝、目覚めると同時にレダに会わなければならない気がして、ここへ足を運んだのだ。それにしても、まさかカレン嬢とここで会えるとは・・・。半年も待たせてしまい、申し訳ない」
(待たせてしまい?え、どういう意味!?)
「あの、陛下?待たせてって?」
「いや、実は半年前から私は昏睡状態に陥っていたのだ。ところが今朝、突然すっきりと目覚めた。気持ち悪い出来事だった故、レダに助言をもらおうとここへ来たのだよ」
(陛下が昏睡!?それって・・・大事件じゃない!!)
「今すぐ私の名で真実を公表しよう。そうすれば、カレン嬢への誤解も晴れる。責任を持ってアルフレッドにもこの件は私から伝えておく」
「陛下、殿下もこの事件の真相をご存じです。私が話しました」
「なっ、アルフレッドもここへ来たのか?」
「はい、所用で来られました」
「そうか」
(だけど、陛下が事件の真相を今、発表したところで何も変わりはしないのよね。すでに婚約者はエマに内定しているし・・・)
ふと、カレンの脳裏にエマの怒り狂う様子が思い浮かぶ。カレンの名誉回復など彼女が最も嫌がりそうなことである。
「―――――あのう、陛下が私のために動かれると、エマが嫌がりそうです」
「エマとは誰だ?」
(えっ、エマをご存じでない?)
「エマは私の義妹で、今はアルフレッド殿下の婚約者です」
「はっ?義妹がアルの婚約者!?」
「ええ」
「カレン嬢、すまないが、この半年間の話をもう少し詳しく聞かせてくれないか?」
ニコラス陛下の顔色が急に悪くなったのは気のせいではなさそうだ。カレンは、ご要望通り、半年前の出来事から丁寧に話し始めた。
ーーーーーそして、ニコラス陛下は自身の名のもと、カレンとアルフレッド婚約破棄し、その後エマを息子の新たな婚約者として公表したという恐ろしい事実を知ったのだった。
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