大聖女セレスティアは腹黒教団から逃げて自由を手に入れたい!!(目の前で素朴な青年のフリをしているのはこの国の死神皇帝です)

風野うた

文字の大きさ
17 / 40
本編

16 大聖女は祝福を受け取ります 下

しおりを挟む
 二人は箱を持って、イーリスの泉のほとりへ移動した。

「まずは開くかどうか、箱の状態を確認して・・・」

 セレスは箱を撫でながら、こっそりと神聖力を流す。予想通り、この箱は光魔法で封印されていた。ただ、このくらいの封印なら、セレスは難無く開けることが出来る。――――問題はフレドに気付かれないように開けなければならないということ。光魔法は一般的ではないからだ。

(フレドが私の魔法に違和感を持つ可能性は十分あるわ。そして、その源が神聖力と気付いたら・・・。そもそも神聖力を持っている人は少ない上、大体、大聖女や神官の職に就いているから、簡単に私の職業はバレてしまうでしょうね。だから彼の目の前で大掛かりな魔法は使いたくないのよ。ケーキを切るくらいなら、ともかく・・・。――――先程、転移して来たところを思い切り見られたけど、あれは発動後だったからセーフ?セーフよね??)

「フレドは何故、こんな早い時間にここへ来たの?」

(会話をしながら気を逸らしてみよう。上手く行くかな・・・)

「あ、ああ、それは・・・」

 フレドは成り行きで大聖女と婚約してしまったことを思い出し、言葉に詰まった。セレスへ経緯を説明しようにも、身分を隠して変装までしているという状況である。今更、『俺はこの国の皇帝だ!』と彼女に言っても『どうしたの、大丈夫?疲れているの?』と心配されて終わりそうだ。結局、セレスには何一つ本当のことは言えない。また嘘を重ねてしまうのかと罪悪感が湧き上がって来る。

(あっ、動揺している?理由は分からないけど、今のうちに封印を解こう!!)

 セレスは箱に神聖力を流し込む。一瞬で、封印は消え去った。

(よし!成功!!)

「――――徹夜でしないといけない仕事があって、それがひと段落したから休憩するために来た。ここで休むと身体が楽になるから」

 セレスはドキッとした。真実、彼の身体はここに来るたび回復している。その理由は、セレスが勝手に神聖力を彼の身体へ流し込んでいるからだ。それもかなりの量を・・・。

(私の仕業だと思われないよう、今後も慎重にしないといけないわね)

「フレドは本当に働き過ぎよ。私と箱を開けるより、少しでも寝ていた方がいいんじゃない?」

 セレスは天然のカーペット(草)を指差す。

「いや、寝ない。セレスの方を優先する」

 キッパリと言い切ったフレド。セレスは笑いが込み上げる。

「ウフフッ、ありがとう。では、開けますよ~」

 セレスはギシギシと錆びついた蝶番を小刻みに揺らしながら、蓋を開いて行く。

「・・・・・」

「セレス、これは・・・」

 箱を開けると中には繊細なレースで作られた真っ白なベールが入っていた。その上に白いカードが一枚乗せられている。

「これ、――――帳簿じゃないよね?」

「ああ、帳簿ではないな」

 セレスはカードを手に取る。見たことも無い文字が記されていた。

「――――古代文字か」

 フレドは横からカードを覗き込む。

「もしかして読めるの?」

「少しなら・・・」

(危なかった!フレドは文字が読める!!しかも、古代文字!?彼は何者なの。こんなに優秀な人が農園で見習い?一体、どんな農園!?――――もし、この箱の中身が帳簿だったら、私が大聖堂で働いているって、即座に知られるところだったわ。ふぅ・・・)

 『いやいやいや、農園の見習いが古代文字を読めるはずがないだろ!』とフレドは己に向かって、ツッコミを入れる。しかし、口に出してしまったからには、堂々としておくのが一番。幸い、古代文字を読めるとフレドが口走っても、セレスが怪しんでいる雰囲気はなかった。

 セレスからカードを受け取り、フレドは文字を読み上げる。

「『我がいとし子よ。婚約おめでとう。ささやかな贈り物。末永く幸せに。イーリス』と書いてある」

「――――どう見ても、かなり昔のものよね?」

「ああ、そうだろうな」

 セレスは背筋がゾワッとした。イーリスといえば、この泉の名にもなっている初代大聖女の名である。別名、大預言者イーリス。彼女は『イーリス記』という有名な預言書を残した。その『イーリス記』は、記されている未来の内容があまりにも正確過ぎると危険視され数百年前に禁書となった。もう見る事も叶わない幻の書だが、その存在はこの国の者なら誰もが知っている。

 そんな大預言者から、このタイミングで、『婚約おめでとう』なんて言われたら恐ろしくて堪らない。

(カードに星がひとつ描かれていたわ。――――気付きたくなかった・・・)

 これは間違いなく、セレスのミドルネーム『ステラ・星』のことだろう。

(私が大聖女であることも、死神皇帝と婚約したことも、フレドは知らないわ。この『我がいとし子』とか『イーリス』が何を指しているのかなんて、彼は想像も付かないでしょうね。――――それにしても怖っ、とにかく怖っ、時を超えての祝福なんて、そんなことある?しかも、イーリスさまは私と死神皇帝との婚約を祝福しているし・・・。出来ればフレドとのご縁を応援して欲しかったわ!!)

 セレスは何か考え事をしているようだ。フレドは箱の中のベールを慎重に取り出した。両手で広げ、宙に透かしてみると緻密なレースの柄が浮かび上がる。――――ああ、これは素晴らしい。長い年月を経たとはとても思えない。この柄は天体を模しているのだろうか?手触りも滑らかで最高級のシルクを使っている。例えば、皇族が結婚式で身につけるようなレベルの・・・。

 セレスが花嫁衣裳を着た姿を想像してみる。きっと女神のように神々しいだろう。――――そんなことを考えていると、この美しいベールを愛しい彼女の頭上につい被せてみたくなった。

 ふわり。

 何かを被せられたと気付いたセレスは徐に顔を上げる。彼女のプラチナブロンドの髪とベールが重なるとイーリスの泉のような七色の輝きを放ち出す。神々しいセレスを間近にしてフレドは息を呑んだ。あまりに似合い過ぎていて、このベールは彼女のために作られたのではないか?と勘違いしてしまいそうになる。

 上目遣いのセレスと目が合った。彼女の艶っぽいルビー色の瞳に吸い込まれていく。フレドの体の奥底から熱情が込み上げて来る。これは抗わなければならない感情だ。今の二人は友人なのだから・・・。『いや、そんなの無理だ!!もう我慢出来ない』と素直な心が言い返してくる。どうしたら良いのかが分からず、胸が苦しい。フッと僅かに気が緩んだ瞬間、理性のカギが粉々に砕け散る音がした。己の心はこんなに脆かったのかと負けを宣言しなければならない。

 セレスの頬へ手を添え、フレドは顔を近づけていく。互いの吐息を感じる距離に・・・。

「ストップ!」

 セレスは両手でフレドの口を塞いだ。フレドはハッとした。『今、何をしようとした!?』と己の身勝手な行動にショックを受ける。

「フレドー!ダメよ!!こういうことは恋人同士がすることなのよ!!」

「――――すまない。セレスが余りに美しくて・・・」

(そんな真っ直ぐに見詰めて、甘い言葉を吐かれても、私はもう応えられないのよ・・・)

 本音をいうなら婚約なんかしてなければ、フレドとキスしたかった。だけど、もう彼のことをどんなに好きになっても気持ちは伝えられないし、受け取れない。

「誉めてくれてありがとう。えーっと、このベールはどうしようかな・・・。帳簿じゃないのなら、雇い主を告発することも出来ないよね。持って帰って他の人に見られてもマズいことになるから・・・。もう一度、モリ―に・・・」

「セレス、これは俺に預からせてくれないか?古代の物に興味があるんだ」

 勿論、これは真っ赤な嘘だった。単純に中身を検証し、セレスの職場を割り出そうと考えているだけである。

「まあ、フレドなら信用出来るから・・・」

 セレスはベールを畳んで箱に入れると、蓋を閉めてフレドへ渡した。不審に思われないよう封印は解いたままにしている。

「責任を持って預かる。必要な時は言ってくれ」

「ええ、こちらこそ、よろしくお願いします!」

 セレスはニコっと笑顔を見せる。フレドは先ほどの愚行を思い出してしまい、上手く笑顔を作ることが出来なかった。事情があるとはいえ、婚約者がいる身になったのである。軽率な行動をしてはならないと気を引き締めた。

「――――そろそろ戻る時間だから、俺は帰る。セレスは?」

「私も朝の仕事があるから帰るわ。次はいつ会える?」

 二人は次の約束を交わし、解散した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

乙女ゲーの世界に聖女様として召喚されたけど興味がないので妹に譲ります

ゆずぽんず
恋愛
ある日、ユウとチカの姉妹が乙女ゲームの世界に聖女様として召喚された。 好きなゲームの世界に入れたと喜ぶ妹のチカ。 本来、聖女様として召喚されるのだったの一人。どちらかが死に、召喚された。 妹のことが大切な姉のユウは、妹がこの世界にいたいのならば私が偽物となってこの世界から消えようと決意する。 *乙女ゲーマーによる小説です。乙女ゲーになろう設定混ぜ込んでみました。 *乙女ゲーによくある設定(共通ルートやバッドエンドなどのよくある設定)の説明があります。分かりにくかったらすみません。

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

そんな世界なら滅んでしまえ

キマイラ
恋愛
魔王を倒す勇者パーティーの聖女に選ばれた私は前世の記憶を取り戻した。貞操観念の厳しいこの世界でパーティーの全員と交合せよだなんてありえないことを言われてしまったが絶対お断りである。私が役目をほうきしたくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえばよいのでは? そんなわけで私は魔王に庇護を求めるべく魔界へと旅立った。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...