26 / 40
本編
25 大聖女は死神皇帝の側近を慮ります
謁見の間、もとい謁見室(国内の客人専用)は、セレスティアが想像していたよりもかなり広かった。室内は落ち着いた色合いで整えられ、勇ましい騎馬の彫刻や、かなり大きいサイズの戴冠式を描いた絵画も飾られている。ただ、奥の壇上に皇帝陛下の玉座はあるものの来客用の椅子は見当たらなかった。どうやら来客は立ったまま、皇帝に話しかけるというスタイルなのようだ。ちなみに謁見の間というのは他国の貴賓と会う部屋のことなのだとか、兎に角この部屋とは違うらしい。
(謁見室という名だけど、この広さ!!十分、大広間じゃない。ということは謁見の間はもっと広いのかしら。皇宮は凄いわね)
謁見室に入ったのはフレドリックとセレスティアの他、側近のミュゼとブルックリン、そして、大聖堂からセレスティアを護衛して来た第一騎士団の団長ノルトとその部下の五名だった。
「では、謁見の準備をします。大聖女様、少々お待ちください。」
ミュゼはセレスに一言、断りを入れてから、第一騎士団へ指示を出す。 五人の護衛は部屋の入口と窓辺、そして玉座の斜め後ろに分かれて立ち、ミュゼとブルックリンは壇下の右側へ。フレドリックはサッサと壇上に上がり、玉座へ掛けた。後から入場するなどという手間は取らないらしい。そして、セレスティアの後方には団長ノルトが立つ。――――セレスティアはその場で皆の動きを何となく眺めていた。
(まさか裏方の動きを見られるなんて思わなかった。ああ、もしかしたら、私がひとりで来たから?付き添いの侍女や専属護衛騎士が居たら、他の部屋で用意が出来るまでお待ちくださいと言われたのかも知れないわね。だって、皇宮の職員は男性ばかりだったもの。私と二人で部屋に置くというのは色々と問題があるわよね)
「では、始めましょう。大聖女様、本日は皇宮へようこそ。私は陛下の側近を務めておりますルモンド侯爵家の当主ミュゼと申します。以後、お見知りおきを」
「初めまして、ルモンド侯爵さま。大聖女のセレスティア・ステラ・メルトンです。よろしくお願いします」
セレスティアはミュゼにニコっと微笑み掛ける。いつも眉間に皺を寄せているミュゼの顔がわずかに緩んだのをフレドリックは見逃さなかった。
「大聖女どの、ルモンド卿に気を遣わなくていい。バルマン卿、挨拶をしろ」
フレドリックが割って入る。セレスティアは笑いそうになってしまったが、何とか堪えた。
「ご紹介に預かりました。私はバルマン侯爵家の長男ブルックリンと申します。大聖女様、よろしくお願いいたします」
「バルマン侯爵令息さま、どうぞよろしくお願いいたします」
ブルックリンはセレスティアに微笑み掛けられて、顔を赤くする。
「第一騎士団は自己紹介をしたか?」
「いえ、私だけしか名乗っておりません」
ノルトが答えると、フレドリックは騎士を指差しながら、ルイージ、アルフォース、チェイズ、リック、ベルナールと五人の名を呼んでいく。彼らは「はい!」と元気よく返事をした。ただ、フレドリックは彼らの名前しか言ってくれなかったので、家門は分からない。
(いつもこんな感じなのかしら、側近より皇帝が場を取り仕切っているような気がするのだけど・・・)
気付けばフレドリックが司会者のように場を切り盛りしている。しかし、いつものことなので側近たちはそれをおかしいと感じていなかった。その原因は至ってシンプル。新皇帝が大粛清をした結果、皇宮は人員不足に陥り、各自が出来ることをするという習慣がついてしまったからだ。――――先代皇帝の御代までは、来客と皇帝が直接会話をするなど、あり得なかった。まず側近が皇帝の言葉を聞き、それを皆に伝えるという回りくどい方法が一般的だったのである。
「大聖女どの、本日の謁見の目的を述べよ」
(よし、いよいよ今日の本題ね。きちんとお礼を伝えよう)
「はい、皇帝陛下。わたくしはお礼を申し上げるために参りました。先日は大聖堂へ第四騎士団を迅速に派遣して下さりありがとうございました。また、ベリル教団の不祥事はお詫びの言葉もございません」
ミュゼは二人の会話が突然ビジネスライクになったので、万年筆を懐から出して、謁見記録簿へ記していく。――――人手不足のため、彼は書記の役割もこなしている。
「礼は受け取る。しかし、ベリル教団の幹部が引き起こした事件と大聖女どのは無関係だろう。あなたは彼らから銀貨一枚しか月給を与えられなかった。これは常識では考えられない金額だ。従って、大聖女はベリル教団に金銭を搾取された被害者であると私は認識している。故にお詫びの言葉は要らぬ。今後、大聖女どのをトップとした清く正しく人々に愛される大聖堂に生まれ変わることを帝国は願っている。それに伴う支援や協力は惜しまない。要望があれば、ロドニー伯爵を通じて提出するように」
「はい、ご配慮いただきありがとうございます。ロドニー伯爵にも大変お世話になっております。帝国のご期待にお応え出来るよう、帝国民の祈りと安らぎの場として相応しい大聖堂を目指し、聖女たちと力を合わせて立て直して行きたいと思います。ご協力のほど、よろしくお願いいたします」
ここまで話したところでフレドリックは突然ミュゼの方を見た。
「形式的にはこれくらいでいいだろう。ここからは記録しなくていい」
この言葉を聞いてセレスティアは今までのやり取りが記録されていたということに気付く。
(うわ~、フレドが急に真面目な口調で話し出したから合わせたけど、危なかった!!)
「はい、記録はここまでにいたします」
ミュゼは万年筆を懐にしまい、謁見記録簿も閉じる。
「セレス、この後の予定は?」
「今日の午後はロドニー伯爵が大聖堂に来られるわ。それまでには大聖堂へ戻りたくて。それでひとつお願いしたいことがあるのだけど・・・」
「お願いが・・・か。セレス、その話は執務室で聞く。いいか?」
フレドリックは第一騎士団が居る前で余り私的な話をするのは好ましくないと考え、場所を変えることにした。――――しかし、既にフレドリックと大聖女が互いに愛称で呼び合っているのは彼らに聞かれている。この二人のやり取りは程なく噂となるだろう。
「ええ、それで構わないわ」
「これをもって謁見は終了とする。ミュゼ、ブルックリン戻るぞ。第一騎士団は早朝からご苦労だった。解散だ」
「はい、承知いたしました」
ノルトは返事をし、ミュゼとブルックリンは頷いた。
―――――――
「陛下、大聖女様、私の勘違いでしたら申し訳ございませんが、お二人は以前からお知り合いなのでしょうか?」
執務室へ入るなり、ミュゼは二人に向かって質問した。セレスティアは答えるべきかどうか迷う。フレドリックと口裏を合わせて無かったからだ。――――セレスティアはフレドリックの袖を引いた。彼は少し屈んで、セレスティアの耳元へ囁く。
「済まないが話を合わせてくれ。ノキニアの森以外は話す」
(ある程度は話すけど、ノキニアの森は秘密ということね)
セレスティアは「分かったわ」と小声で返した。
「これから話すことは他言無用にして欲しい・・・」
フレドリックはミュゼとブルックリン、それぞれの顔を見る。
「はい、口外いたしません」
即答したミュゼに対し、ブルックリンはモジモジしている。
「約束出来ないのなら、退室してもらうぞ」
「あ、いえ、トレイシーについ話してしまいそうで・・・」
(トレイシーって誰?)
セレスティアは小首を傾げる。
「セレス、トレイシーはロドニー伯爵の孫だ。口は禍の元というのを体現したような奴だ」
「――――そうなのね」
(トレイシーさんは余計なことまで言ってしまう人ということかしら?隙のないロドニー翁とは随分違うのね)
「ブルックリン、俺の側近になったのだから、そこは口外しないとハッキリ言って欲しいのだが、無理か?」
フレドリックは彼を部屋から追い出す前に、最後の確認をした。するとそれまでモジモジしていたトレイシーが意を決したように、シャキッ背筋を伸ばしフレドリックに向かって宣言する。
「はい、絶対に口外いたしません。トレイシーとは友人をやめます!」
執務室から数秒、音が消えた。フレドリックとミュゼは頭を抱えるような仕草をしている。
「あ、あのう、そこまでなさらなくても宜しいのでは?」
セレスティアはつい口を出してしまった。話ひとつ聞くために友人をやめるのは行き過ぎだろうと思ったからだ。だが、セレスティア以外の三人は彼女の意見に賛同しようとしない。そして、フレドリックの一言が更に追い打ちをかける。
「いや、いいんじゃないか。この際、トレイシーは出禁にしよう。今後、執務室にあいつを入れるのは止めよう」
(友人をやめるとか、出禁にするとかトレイシーさんって、そんなに問題児なの?)
「陛下が冗談を言われるなんて・・・」
ミュゼは驚きで言葉が続かない。そんなミュゼを置いて、フレドリックは話を始めた。
「俺たちの関係だが、そう難しい話ではない。俺とセレスは恋人だ。婚約の話が出る前から二人で会っていた」
「は!?いつそんな時間がありました?もしや、陛下はお二人居るのですか?」
真面目な顔でミュゼが問う。ボケているのか本気で言っているのかが分からなかったので、セレスは聞き流した。
「休憩すると言って部屋を出た時は大体、セレスに会いに行っていた。別に時間はあったぞ」
「いえ、それは最低限の睡眠を確保するためのお時間だったのでは?どうして、そんな生活をして生きていられるのです!?私なんて、五分十分の隙間を見つけては仮眠して乗り切っているのに!!」
興奮した口調でミュゼが何故?と何度もいう。セレスは少し彼の疲れを取ってあげた方がいいかも知れないと思った。
「ルモンド侯爵さま、宜しければお疲れを癒しましょうか?」
セレスティアはミュゼの方へ手を伸ばす。意味が分からないミュゼはポカンとしていた。
――――セレスティアはミュゼの手の甲を掴むと、一気に神聖力を流し込んだ。
(ルモンド侯爵様、よくよく見たら目の下のクマがどす黒くて死んでしまいそうだわ。いつものフレドよりも状態が悪い気がする)
執務室内に妙な沈黙が流れる。フレドリックはセレスが突然、ミュゼの手を掴んだことにショックを受けたし、ブルックリンはそれを羨ましいと思っていた。
「はい、完了しました。どうでしょう。かなり視界が良くなっていませんか?」
「うおおおお!!!確かに!!あの書棚の背表紙が読めます。うわっ、何なんだコレ!?身体も軽い!!」
ミュゼはその場でピョンピョンと飛んだ。
(まるでモリ―みたいだわ、ウフフフ)
セレスはクスクス笑う。
「セレス、何かしたのか?」
フレドリックはこめかみを押しながらセレスティアに尋ねる。
「ええ、神聖力を流し込んだの。人はこれを癒しというわね」
「もしかして・・・(俺にもしたのか?)」
フレドリックが言い掛けたところで、セレスはコクリと頷いた。
(謁見室という名だけど、この広さ!!十分、大広間じゃない。ということは謁見の間はもっと広いのかしら。皇宮は凄いわね)
謁見室に入ったのはフレドリックとセレスティアの他、側近のミュゼとブルックリン、そして、大聖堂からセレスティアを護衛して来た第一騎士団の団長ノルトとその部下の五名だった。
「では、謁見の準備をします。大聖女様、少々お待ちください。」
ミュゼはセレスに一言、断りを入れてから、第一騎士団へ指示を出す。 五人の護衛は部屋の入口と窓辺、そして玉座の斜め後ろに分かれて立ち、ミュゼとブルックリンは壇下の右側へ。フレドリックはサッサと壇上に上がり、玉座へ掛けた。後から入場するなどという手間は取らないらしい。そして、セレスティアの後方には団長ノルトが立つ。――――セレスティアはその場で皆の動きを何となく眺めていた。
(まさか裏方の動きを見られるなんて思わなかった。ああ、もしかしたら、私がひとりで来たから?付き添いの侍女や専属護衛騎士が居たら、他の部屋で用意が出来るまでお待ちくださいと言われたのかも知れないわね。だって、皇宮の職員は男性ばかりだったもの。私と二人で部屋に置くというのは色々と問題があるわよね)
「では、始めましょう。大聖女様、本日は皇宮へようこそ。私は陛下の側近を務めておりますルモンド侯爵家の当主ミュゼと申します。以後、お見知りおきを」
「初めまして、ルモンド侯爵さま。大聖女のセレスティア・ステラ・メルトンです。よろしくお願いします」
セレスティアはミュゼにニコっと微笑み掛ける。いつも眉間に皺を寄せているミュゼの顔がわずかに緩んだのをフレドリックは見逃さなかった。
「大聖女どの、ルモンド卿に気を遣わなくていい。バルマン卿、挨拶をしろ」
フレドリックが割って入る。セレスティアは笑いそうになってしまったが、何とか堪えた。
「ご紹介に預かりました。私はバルマン侯爵家の長男ブルックリンと申します。大聖女様、よろしくお願いいたします」
「バルマン侯爵令息さま、どうぞよろしくお願いいたします」
ブルックリンはセレスティアに微笑み掛けられて、顔を赤くする。
「第一騎士団は自己紹介をしたか?」
「いえ、私だけしか名乗っておりません」
ノルトが答えると、フレドリックは騎士を指差しながら、ルイージ、アルフォース、チェイズ、リック、ベルナールと五人の名を呼んでいく。彼らは「はい!」と元気よく返事をした。ただ、フレドリックは彼らの名前しか言ってくれなかったので、家門は分からない。
(いつもこんな感じなのかしら、側近より皇帝が場を取り仕切っているような気がするのだけど・・・)
気付けばフレドリックが司会者のように場を切り盛りしている。しかし、いつものことなので側近たちはそれをおかしいと感じていなかった。その原因は至ってシンプル。新皇帝が大粛清をした結果、皇宮は人員不足に陥り、各自が出来ることをするという習慣がついてしまったからだ。――――先代皇帝の御代までは、来客と皇帝が直接会話をするなど、あり得なかった。まず側近が皇帝の言葉を聞き、それを皆に伝えるという回りくどい方法が一般的だったのである。
「大聖女どの、本日の謁見の目的を述べよ」
(よし、いよいよ今日の本題ね。きちんとお礼を伝えよう)
「はい、皇帝陛下。わたくしはお礼を申し上げるために参りました。先日は大聖堂へ第四騎士団を迅速に派遣して下さりありがとうございました。また、ベリル教団の不祥事はお詫びの言葉もございません」
ミュゼは二人の会話が突然ビジネスライクになったので、万年筆を懐から出して、謁見記録簿へ記していく。――――人手不足のため、彼は書記の役割もこなしている。
「礼は受け取る。しかし、ベリル教団の幹部が引き起こした事件と大聖女どのは無関係だろう。あなたは彼らから銀貨一枚しか月給を与えられなかった。これは常識では考えられない金額だ。従って、大聖女はベリル教団に金銭を搾取された被害者であると私は認識している。故にお詫びの言葉は要らぬ。今後、大聖女どのをトップとした清く正しく人々に愛される大聖堂に生まれ変わることを帝国は願っている。それに伴う支援や協力は惜しまない。要望があれば、ロドニー伯爵を通じて提出するように」
「はい、ご配慮いただきありがとうございます。ロドニー伯爵にも大変お世話になっております。帝国のご期待にお応え出来るよう、帝国民の祈りと安らぎの場として相応しい大聖堂を目指し、聖女たちと力を合わせて立て直して行きたいと思います。ご協力のほど、よろしくお願いいたします」
ここまで話したところでフレドリックは突然ミュゼの方を見た。
「形式的にはこれくらいでいいだろう。ここからは記録しなくていい」
この言葉を聞いてセレスティアは今までのやり取りが記録されていたということに気付く。
(うわ~、フレドが急に真面目な口調で話し出したから合わせたけど、危なかった!!)
「はい、記録はここまでにいたします」
ミュゼは万年筆を懐にしまい、謁見記録簿も閉じる。
「セレス、この後の予定は?」
「今日の午後はロドニー伯爵が大聖堂に来られるわ。それまでには大聖堂へ戻りたくて。それでひとつお願いしたいことがあるのだけど・・・」
「お願いが・・・か。セレス、その話は執務室で聞く。いいか?」
フレドリックは第一騎士団が居る前で余り私的な話をするのは好ましくないと考え、場所を変えることにした。――――しかし、既にフレドリックと大聖女が互いに愛称で呼び合っているのは彼らに聞かれている。この二人のやり取りは程なく噂となるだろう。
「ええ、それで構わないわ」
「これをもって謁見は終了とする。ミュゼ、ブルックリン戻るぞ。第一騎士団は早朝からご苦労だった。解散だ」
「はい、承知いたしました」
ノルトは返事をし、ミュゼとブルックリンは頷いた。
―――――――
「陛下、大聖女様、私の勘違いでしたら申し訳ございませんが、お二人は以前からお知り合いなのでしょうか?」
執務室へ入るなり、ミュゼは二人に向かって質問した。セレスティアは答えるべきかどうか迷う。フレドリックと口裏を合わせて無かったからだ。――――セレスティアはフレドリックの袖を引いた。彼は少し屈んで、セレスティアの耳元へ囁く。
「済まないが話を合わせてくれ。ノキニアの森以外は話す」
(ある程度は話すけど、ノキニアの森は秘密ということね)
セレスティアは「分かったわ」と小声で返した。
「これから話すことは他言無用にして欲しい・・・」
フレドリックはミュゼとブルックリン、それぞれの顔を見る。
「はい、口外いたしません」
即答したミュゼに対し、ブルックリンはモジモジしている。
「約束出来ないのなら、退室してもらうぞ」
「あ、いえ、トレイシーについ話してしまいそうで・・・」
(トレイシーって誰?)
セレスティアは小首を傾げる。
「セレス、トレイシーはロドニー伯爵の孫だ。口は禍の元というのを体現したような奴だ」
「――――そうなのね」
(トレイシーさんは余計なことまで言ってしまう人ということかしら?隙のないロドニー翁とは随分違うのね)
「ブルックリン、俺の側近になったのだから、そこは口外しないとハッキリ言って欲しいのだが、無理か?」
フレドリックは彼を部屋から追い出す前に、最後の確認をした。するとそれまでモジモジしていたトレイシーが意を決したように、シャキッ背筋を伸ばしフレドリックに向かって宣言する。
「はい、絶対に口外いたしません。トレイシーとは友人をやめます!」
執務室から数秒、音が消えた。フレドリックとミュゼは頭を抱えるような仕草をしている。
「あ、あのう、そこまでなさらなくても宜しいのでは?」
セレスティアはつい口を出してしまった。話ひとつ聞くために友人をやめるのは行き過ぎだろうと思ったからだ。だが、セレスティア以外の三人は彼女の意見に賛同しようとしない。そして、フレドリックの一言が更に追い打ちをかける。
「いや、いいんじゃないか。この際、トレイシーは出禁にしよう。今後、執務室にあいつを入れるのは止めよう」
(友人をやめるとか、出禁にするとかトレイシーさんって、そんなに問題児なの?)
「陛下が冗談を言われるなんて・・・」
ミュゼは驚きで言葉が続かない。そんなミュゼを置いて、フレドリックは話を始めた。
「俺たちの関係だが、そう難しい話ではない。俺とセレスは恋人だ。婚約の話が出る前から二人で会っていた」
「は!?いつそんな時間がありました?もしや、陛下はお二人居るのですか?」
真面目な顔でミュゼが問う。ボケているのか本気で言っているのかが分からなかったので、セレスは聞き流した。
「休憩すると言って部屋を出た時は大体、セレスに会いに行っていた。別に時間はあったぞ」
「いえ、それは最低限の睡眠を確保するためのお時間だったのでは?どうして、そんな生活をして生きていられるのです!?私なんて、五分十分の隙間を見つけては仮眠して乗り切っているのに!!」
興奮した口調でミュゼが何故?と何度もいう。セレスは少し彼の疲れを取ってあげた方がいいかも知れないと思った。
「ルモンド侯爵さま、宜しければお疲れを癒しましょうか?」
セレスティアはミュゼの方へ手を伸ばす。意味が分からないミュゼはポカンとしていた。
――――セレスティアはミュゼの手の甲を掴むと、一気に神聖力を流し込んだ。
(ルモンド侯爵様、よくよく見たら目の下のクマがどす黒くて死んでしまいそうだわ。いつものフレドよりも状態が悪い気がする)
執務室内に妙な沈黙が流れる。フレドリックはセレスが突然、ミュゼの手を掴んだことにショックを受けたし、ブルックリンはそれを羨ましいと思っていた。
「はい、完了しました。どうでしょう。かなり視界が良くなっていませんか?」
「うおおおお!!!確かに!!あの書棚の背表紙が読めます。うわっ、何なんだコレ!?身体も軽い!!」
ミュゼはその場でピョンピョンと飛んだ。
(まるでモリ―みたいだわ、ウフフフ)
セレスはクスクス笑う。
「セレス、何かしたのか?」
フレドリックはこめかみを押しながらセレスティアに尋ねる。
「ええ、神聖力を流し込んだの。人はこれを癒しというわね」
「もしかして・・・(俺にもしたのか?)」
フレドリックが言い掛けたところで、セレスはコクリと頷いた。
あなたにおすすめの小説
初恋の還る路
みん
恋愛
女神によって異世界から2人の男女が召喚された。それによって、魔導師ミューの置き忘れた時間が動き出した。
初めて投稿します。メンタルが木綿豆腐以下なので、暖かい気持ちで読んでもらえるとうれしいです。
毎日更新できるように頑張ります。
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。
豆丸
恋愛
竜神都市アーガストに三人の聖女が召喚されました。バツイチ社会人が竜神のお手当てをしてさっくり日本に帰るつもりだったのに、竜の神官二人に溺愛されて帰れなくなっちゃう話。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
恋愛初心者の恋の行方
あおくん
恋愛
魔法がある世界で生まれ育ったサラは、とあるきっかけで冒険者に憧れる。
冒険者になるために名門校といわれる王都のオーレ学園に入学し、周りが貴族だらけという環境の中、平民でありながらも優秀な成績をおさめ、そして卒業。さぁ冒険者として活動しようじゃないかという中、聖女じゃなければ倒せないと言われる魔物が現れた。
え?ソロで活動しちゃダメ?地元の同年代の人達はもうパーティー組んでいるし、そもそも実力とランクが合わない為にパーティーを組めない。一体どうやって活動していけばいいのよ!と悩んだサラの前に、学生時代のライバル…いや師匠ともいえる人が現れた。
一緒にパーティーメンバーとしてクエストやってくれるの?嬉しい!…ってアンタ騎士団所属じゃん!冒険者じゃないじゃん!…うえええ、いいの!?どうなってんだ騎士団……まぁこれからよろしくね!
といった感じで冒険者になったサラと騎士団に入った男の子とのラブコメを目指しつつ、世界を平和に導く?物語です。
続きを読みたいと思っていただけたら、是非ともお気に入り登録していただけると嬉しいです!
長編への挑戦なので、応援していただけると作者のモチベーションも上がりやすくなりますので、どうぞよろしくお願いします!
また投稿するまでの間に30万文字分は書いている為、ストックが尽きるまでに完結迄目指して毎日投稿していきますので、どうぞよろしくお願いします。
一話につき4000文字を超えないように調節してみましたが、文字数が多く感じられましたらすみません。
投稿時間は朝と夜の6時に更新するよう設定しています。
完結までの大体の流れは決めていますので、完結は保証させていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。