大聖女セレスティアは腹黒教団から逃げて自由を手に入れたい!!(目の前で素朴な青年のフリをしているのはこの国の死神皇帝です)

風野うた

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本編

34 大聖女は死神皇帝の私室へ招かれます 上

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 フレドの言う『いつもの場所』とは、当然イーリスの泉のことだ。

「もう急に移動するなんて!どうしたの!?」

(まだ、お茶を一口も飲んでないのに・・・)

「いや、ここの方が安心だろう」

「安心?まぁ、誰も居ないという点では安心かもね」

 セレスは執務室に戻ることを諦めた。

(ああ、ここに来るのならもう少し軽装で来れば良かったわ。執務室へ行くからローブを着て行ったのに・・・)

 セレスは豪奢な装飾が付いたローブを脱いだ。そして、それを宙に投げる。

(汚したくないから、部屋へ送っておこう)

 ローブは地面に落ちることなく消えた。フレドリックは一部始終を見ていたのだが特に驚かない。何故なら、彼も同じようなことが出来るからだ。

――――だが、問題はそこではなかった。

「何故、脱いだ?」

 薄いワンピース一枚になったセレスへ、フレドは呆れた声で尋ねる。

「えっ?ローブを汚したくなかったから」

「汚したくないとは言っても、それは流石に・・・」」

 フレドは羽織っていたジャケットを脱ぐと、セレスの肩へ掛けた。

「――――気を遣わせてごめんなさい。ありがとう」

(フレドのジャケットからウッディな香水のにおいがする。そして、暖かい・・・)

「ほら、やっぱり・・・。セレス、その薄いワンピースは寒いだろう?――――すまない、外に連れ出したのが失敗だった」

 フレドリックは後悔している。新人ゴードンに目を奪われていたセレスを強引に連れ出したものの、初冬の森はそれなりに寒かった。

「フレド、そんなに心配しなくても大丈夫よ」

「体調を崩したら大変だ。――――良かったら、俺の私室に行かないか?」

(俺の私室?皇宮へ戻るということかしら・・・)

 セレスは何処へ連れて行かれるのかよく分からないまま頷く。――――再び、フレドに手を掴まれて転移した。

――――

 降り立ったのは、落ち着いた色調の広い部屋だった。

「ここは皇宮?戻って来たってこと・・・?」

「ああ、ここは東の棟の一番奥だ。少し待っていてくれないか?」

 そう言うとフレドは廊下へ出て行った。セレスは床から天井近くまである大きな窓から外を眺める。ここは三階だった。上から見ると中庭を取り囲むように建物が立っているのが分かる。

 美しい中庭は木立と花壇のバランスが良い。季節の花と常緑樹が華やかさを演出し、落葉樹は冬の訪れを告げている。中央には噴水もあった。

(あら、花壇までゆっくり歩いていけそうな小道も作られているのね。お散歩したら楽しそう。あっ、バラ園もあるわ!まだお花は咲いていないけど、その季節になったらきれいでしょうね)

 一通り、中庭を眺めた後、室内へ目を向けてみる。大きなこの部屋には応接セットとフレドの机、そして壁面には大きな書棚。寝室はいくつかあるドアの先だろうか。また、壁際のサイドボードの上にはフレームが並べてある。

(もしかして、フレドの絵姿?)

 セレスは興味津々でサイドボードへ近づく。

「うわーっ!!なにこれ可愛い!!お目目クリクリ~!!」

 フレームは全部で三つあった。――――赤ちゃんが黒髪の女性に抱かれているもの、少年が友人たちと一緒に描かれているもの、幼児がおめかしをして一人で立っているものである。

(これを見られただけで、ここに来た甲斐があったわ。フレド、赤ちゃんの頃は可愛いし、少年時代は美少年だし、今は凛々しいわね)

 セレスが、まじまじとフレームを掴んで、絵姿を眺めているとコンコンとノックをする音がした。

(フレドかしら、答えても大丈夫よね?)

「――――はい」

 念のため、セレスは上品な声(余り大きくない声)で返事する。

「セレス、入ってもいいだろうか?」

 ドアの外からフレドが尋ねた。セレスは何故、彼は直ぐにドアを開けないのだろうと小首を傾げる。ただ、返事だけはきちんとしておく。

「はい、大丈夫です」

 ガチャリとドアを開くと・・・、そこにはフレドと一緒に黒髪の女性が立っていた。

(あ、フレド一人じゃなかった!!――――あの女性はフレドと一緒に描かれていた女性だわ!!もしかして、フレドの・・・)

「ここにセレスが来ていると管理人に一言、断りを入れに行ったら、一緒に付いて来てしまった」

 申し訳なさそうにフレドは謝る。先程、執務室でミュゼに嫌味を言っていたのが、嘘のように真摯な態度だ。

(お母様を前にするとフレドも普通の男の子なのね。少し安心したわ・・・)

「陛下、謝らなくても大丈夫です。初めまして、私は大聖女のセレスティアと申します。よろしくお願いします」

「初めまして、陛下の乳母のテレッツァと申します。よろしくお願いいたします」

(ん、んんん?乳母って言った?この女性はフレドの乳母さまということ?お母さまではない?)

 セレスの考えていることが分かったフレドは事情を説明した。

「セレス、母上はここに住んで居ない。俺が離宮へ追い出した。そして、二度と皇宮へは戻らせない。だから、母上の心配はしなくていい」

(待って、待って、待ってー!!何、その話。今初めて聞いたわ。追い出したというのは穏やかではない話よね?)

「あのう、ええっと、皇太后さまのことは、余り口にしない方がいいということでしょうか?」

 セレスは直球を投げる。上手く気を回そうにも皇家の内部事情など何も知らない。こういう時は拗らせないよう、素直に聞いた方がいいと己の経験が言っている。

「うふふふ、陛下の婚約者さまはとても素直な御方なのですね。あっ、この発言は聖女様には失礼だったでしょうか?」

 黒髪の女性は笑みを浮かべている。フレドは居心地が悪そうな顔をしていた。

「もう、セレスの顔を見たからいいだろう!」

「ええ、とても愛らしい御方ですね。セレスティアさま、今日はお会い出来て良かったです。皇宮で分からないことがございましたら遠慮なく、このテレッツァをお呼び下さいませ。では失礼いたします。お邪魔いたしました~」

「は、はい、私もお会い出来て良かったです。ごきげんよう」

 あっさりと去っていくテレッツァをセレスは慌てて見送る。――――彼女は廊下をスタスタと進み、階段の前で一度立ち止まると、セレスへ向かって手を軽く振ってくれた。

 終始、気さくな雰囲気を醸し出していたテレッツァにセレスは驚いてしまう。正直なところ、『新参者のセレスティア』は宮廷物語のように古株から嫌がらせを受けるのではないかと身構えていたからだ。

「ああ、素直に帰ってくれて良かった」

 フレドはドアを閉めると同時にカギを掛けた。

(わっ!カギを掛けた!?――――今日はフレドの新たな一面を色々見たような気がする・・・)

「セレスに会ってみたいと言い出した時はどうしようかと思った。テレッツァは元々皇宮で働いていた侍女だった。夫は帝国軍、息子二人は騎士団に所属していて、しがらみも無い。だから、東の棟の管理人を任せることにした」

「分かったわ。テレッツァさまは信用して良いお方ということね」

 セレスは相槌を打つ。

「ああ、セレスの侍女が決まるまでは身の回りのことも任せようと考えている」

「私の身の回り?自分で出来るから必要ないわ」

 彼女はあっけらかんと言い放つ。大聖堂でも自分のことは自分でしていたので、侍女などいなくとも何の苦もない。

「そこも変えていくか・・・。大体、大神殿があるから、皇家をそんなに神格化しなくてもいいのではないかと前々から考えていた。だが、臣下たちが急に変えすぎるのは良くないと言うから何も進まない。本当は街も普通に歩きたいくらいで・・・」

 フレドはブツブツと不満を口にする。

「街も歩けない?」

「そうだ。既に廃したが、父の御代までは言葉を交わしていいと決められた側近としか話してはいけないというルールもあった。だが、外出の件はまだ何も変わっていない。――――皇宮から出られるのは多くとも年に数回程度。それも全て行事絡みだから、自由に歩いて回ることは出来ない」

「だから、あんなにしっかり変装をしていたの!?」

「ああ、そうだ」

 セレスが閃いたことを口にすると、フレドは肯定した。

「少し前に変装姿で各地方へランダムで足を運び、民の様子を見に行くと臣下に宣言した。――――セレスも一緒に行くか?」

「行っていいのなら是非、行きたいわ。実は私も大聖堂から全く出たことが無かったの。今まで外出するには教団の許可が必要で・・・、面倒だから一度も申請したことが無いわ。だから、そういう時は蝶に姿を変えて・・・」

「ちょっと待ってくれ。蝶!?それはキラキラ輝く蝶のことか?」

「うーん、キラキラしていたかどうかは分からないけど」

 セレスはガラスに映った自分(蝶)の姿を思い返してみたが、記憶が曖昧で良く分からなかった。

「蝶の姿でノキニアの森に行ったことは?」

「ええ、あるわよ。というか、転移で行った回数の方が少ないわ」

「あーあ、そういうことだったのか」

 フレドは以前、ノキニアの森へ迷い込んでいた調査隊のことを思い出していた。彼らは周辺住民から聞いた情報を元にキラキラ光り輝く美しい蝶を探していたのだ。――――セレスが捕獲されなくて本当に良かった。

「どうしたの?」

 調査隊の話を伝えると彼女は大笑いした。

「まっ、まさか、あの姿を見られていたなんて思わなかったわ。良かったー!捕まらなくてー!!」

「笑い事じゃないだろう」

「ええ、そうね。今後、蝶の姿では出掛けないわ」

 セレスはフレドに約束した。
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