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本編
35 大聖女は死神皇帝の私室へ招かれます 下
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セレスの返事を聞いて安心したフレドは、机の方へ歩いていく。
(フレドとモリ―は私の知らないところで色々と頭を悩ませていたのね。まさかあの姿を誰かに見られていたなんて・・・、油断していたわ。――――今度、モリ―と会ったら本当のことを話して謝ろう。私のせいで禁足地に人を侵入させてしまったのだもの)
「セレス、これを・・・」
考え事をしていたセレスの前にフレドが立つ。彼は手に持っていた小箱を彼女へ渡した。
「いつ渡そうかとタイミングを見計らっていたら、すっかり遅くなってしまった」
セレスは小箱を受け取る。真っ黒な箱には金色のリボンが掛けられていた。
(この箱とリボン・・・、フレドみたい)
「開けてもいい?」
「どうぞ」
セレスは左の手のひらに箱を乗せ、右手の人差し指と親指でリボンの端を摘まんで、ゆっくりと引く。――――蝶々結びのリボンはスルスルッと滑らかに解けた。次に上の箱の部分を持ち上げると黒革張りの四角いケースが現れる。
(豪華な箱、これはもしかして・・・)
「セレス、その黒いケースの中身を見て欲しい」
フレドは視線を革張りのケースへ向けた。セレスは何となく中に入っているのは指輪のような気がして、緊張してしまう。
「何だか、ドキドキしてしまうわね。あ、開けるわよ?」
「うん、開けて」
セレスが革張りのケースを開けると真っ赤なルビーの指輪が強烈な存在感を放っていた。思わず、目が釘付けになってしまう。
「こ、これは・・・」
(凄い・・・。想像していたよりも、かなり大きな宝石が・・・。この真っ赤な宝石、これはルビーだよね?金色のリング部分に散りばめられているのはダイアモンド!??こんなに豪華なジュエリーを手にしたのは初めてだわ)
フレドは一度、深呼吸をしてから、煌めく宝石に目を奪われているセレスへ語り掛けた。
「婚約が・・・、いや、俺たちの婚約は政略的に進められてしまっただろう。だが、本当は互いに相手のことを愛していて、結婚を心から望んでいる」
真剣な面持ちでフレドリックは言葉を紡いでいく。
「だからこそ、きちんとプロポーズをしたいと思っていた。セレス、指輪を・・・」
フレドリックはセレスの手のひらの上にあるケースから指輪を抜き取ると、その場で跪く。――――長身の彼がひらりと身を翻す仕草がとても格好良くて、セレスは見惚れてしまう。
「セレスティア・ステラ・メルトン嬢、どうか私と結婚して下さい。あなたとなら互いを高め合い、我が国の民を愛し、平和で幸せな未来を築くことが出来る。だから、この手を取って欲しい」
彼は指輪をセレスの前へ差し出す。
(フレドは絵本で見た王子様のようだわ。ということは私がお姫様!?――――嘘みたい。そして今、私は求婚されている・・・)
セレスは呼吸を整えてから、口を開いた。
「はい、いつ如何なる時もあなたを愛し、敬い、慈しむことを誓います。死が二人を分かち合うまで・・・」
セレスはフレドの手に自分の手を添える。
「――――――死、分かち合う!?不吉だ・・・」
フレドはセレスの手を掴んだまま、ボソッと呟きながら立ち上がった。
「だって!!フレドのプロポーズの言葉が定例文みたいな文言だったから、それに合わせて聖職者らしく答えたの!!」
負けずに不満をボヤキ返す、セレス。――――フレドは考えに考えたプロポーズの言葉を定例文と言われ、地味に凹む。そして、失敗しないようにと手引書を参考にしたことを酷く後悔している。
「すまない。こういうことに慣れていないが故、色々と間違えた。――――やり直したい」
(や、やり直したい!?プロポーズを?そういうのって、アリなの?)
「――――え、ええ、良いわよ」
戸惑いつつ、セレスはやり直しを許可した。
――――室内は静寂に包まれる。
(どうしよう!!フレドがこめかみを押さえて真剣に悩んでいる!?もしかして、私の余計なひと言が彼を追い詰めてしまった??)
「あ、あのフレド・・・?」
セレスは心配になって声を掛ける。フレドは視線をセレスへ戻して微笑を浮かべると、もう一度、跪いた。――――これから、二度目のプロポーズをするようだ。
(ああ、ドキドキする・・・。何を言うつもりなのかしら・・・)
「――――セレス、世界の誰よりも君のことが好きだ。その赤い瞳も煌めくプラチナブロンドの髪も、明るく透き通った声も美しい指先も・・・、全て欲しい。愛している!!俺と結婚してくれ!!」
セレスへの思いを情熱的な言葉で列挙する、フレド。セレスは心臓をグワッと手で掴まれたように胸が締め付けられた。感情が高ぶったフレドは立ち上がって、彼女を腕の中へ閉じ込める。
(そ、そんなに熱烈な愛を語られたら、もう、もう・・・)
セレスはおでこを彼の胸板にコツンと押し当てた。そして、フレドへの気持ちを言葉にしていく。
「フレド、嬉しい言葉をありがとう。――――私も、フレドのことが・・・、大好き。――――いつも、沢山・・・話を聞いてくれてありがとう。―――――褒めてくれて、ありがとう。――――――アドバイスを・・・してくれてありがとう。――――――――グスッ、――――心配してくれて、ありがとう。―――――――――ギュ、ギュッーと、抱きしめてくれて・・・、ありがとう・・・」
ありがとうと言う度に涙が溢れて来て、どうしても言葉が途切れがちになってしまう。でも、それでも、今の気持ちはきちんと彼に伝えたい。セレスは涙を拭いながら、言葉を紡いでいく。
「とても、――――愛しているわ。――――――フレドを誰にも渡したくない。だから、ずっと、ずっと私の側に居て・・・」
彼への気持ちを伝えている途中で、セレスは嗚咽するほど泣いてしまい、とうとう何も言えなくなってしまった。彼に背中を摩られ、時だけが過ぎる。
(ううう、上手く言葉に出来ない。沢山、もっと沢山言いたいことがあるのに・・・)
ひとしきり泣いて、呼吸が整うまでの間、フレドは黙ってセレスを抱き締めていてくれた。
―――――しばらく経ち、セレスは真っ赤な目で彼を見上げる。
「――――もう、大丈夫・・・」
「セレス、想いを伝えてくれてありがとう」
優しく耳元へ語り掛け、セレスの左手を取り、指先に口づけを落とす。
「泣いていても可愛い・・・」
フレドが無意識に発した言葉で、セレスはクスッと笑う。
「セレス、指輪を・・・」
光り輝くルビーの指輪を彼女の細い指に嵌めると、フレドは再び、セレスの手の甲へ口づけをした。
「これでセレスは俺のものになった」
フレドは悪巧が成功したような顔をする。セレスはまた一筋零れて来た涙を手の甲で拭ってから、強気に言い添えた。
「これで、フレドも私のものになったってことよね!!」
「ああ、そうだ。俺の全てはセレスのものだ。どうぞ、好きにしてくれ、ブッ、クククク」
強気な主張をして来るセレスが可愛くて、フレドは声を出して笑ってしまう。彼は彼女のこういうところが大好きだ。セレスが居てくれたら、いつも笑いの絶えない楽しい人生が送れるだろうとフレドは幸せな未来を想像をする。
――――彼が笑いのツボに入っている間、セレスは指に嵌められた指輪を眺めていた。
(金色と赤は私たちの色ね。私もフレドに指輪を贈ろうかな。色はプラチナブロンドと黒?――――お互いの髪色にしてもいいかもね)
指輪を見詰めて何か考えているセレスへ、フレドは不意打ちで口づけをする。
「!?」
セレスはビックリした。そこで先ほどフレドの言い放った言葉を思い出す。――――――「どうぞ、好きにしてくれ」という言葉を。
セレスは背伸びをして、フレドの首に腕を回すと自分から口びるを重ねた。だが、フレドは動揺しない。彼女がやり返してくることくらい想定済みだったからである。
ところがセレスはそれだけでは飽き足らず、彼の口びるを舌先で優しくなぞり始めた。フレドは全身の毛が逆立つくらいゾクッとしてしまう。危険を感じたフレドは直ぐにセレスの両肩を掴んで、身体を遠ざけた。
(あっ、えっ!?どうして???)
「セレス・・・。ここが何処か分かっていて、そんなことをして来るのか?」
フレドは部屋を見回した後、書棚の横にあるドアで視線を止める。
「これ以上、俺を煽ったら、あの奥へ連れて行く」
(あのドアの奥?何の部屋?もしかして、寝室だったりする?そうだとしたら・・・、そういう意味?)
「・・・・・・」
セレスは上目遣いで、彼をじーっと見詰める。
「ごめん。最低な発言だった」
「うううん、違うの。あのドアの先のお部屋を見てみたいなぁと思って!」
セレスは彼の袖を引く。フレドは困惑する。これはどういう意味なのだろうかと・・・。
「この部屋に繋がっているのは、どんなお部屋なの?」
彼女は室内に三つあるドアを見回した。
「左の壁面、右のドアは洗面所とクローゼットルーム。左のドアはトレーニングルームとバスルーム。右の壁面のドアの奥は寝室」
「なるほど!!ということは私を寝室に誘ったということで間違いないのね!」
「・・・・・・」
そんなに明るく言われたら、後ろめた過ぎて辛い。フレドは凹んだ。本日二回目である。
「いいわよ」
「――――何が?」
今、飛んでもない答えを聞いたような気がした。フレドは恐る恐るセレスへ確認する。しかし・・・。
「えーっと、一つお願いがあるの。キスの痕はつけないで!!前回、他の聖女に見られてしまって、凄く気まずかったから・・・」
あーっ、あれか!?とフレドは思い出す。あの時は真っ暗だったから、痕が付いたかどうかなんて何も確認してなかった。しかし、それを他の聖女に見られたとは一体、どういう状況なのだろう。だが、それを確認するよりも、今は目の前の問題を考えなければ・・・。仮に寝室へ彼女を連れ込んだとしたら?抱き合ってキスをするだけで終われるだろうか?否、それは絶対に無理だ。間違いなく、明日の朝まで抱き続ける。いや、もしかすると、もっと長くなる・・・かも知れない。
「セレス・・・、痕をつけるとか付けないとかそういうレベルではなくて・・・、絶対にダメだ。寝室は危険過ぎる」
「じゃあ、部屋の中を見るだけだったら?」
「無理。絶対に寝てしまう」
フレドは抵抗した。結婚する前にそういうことをしたらダメだと理性が耳元で言っている。
「眠たいの?」
「そう言う意味じゃない・・・。セレス、結婚するまでは守ろう」
「何を?」
彼女は分かって言っているのか、ふざけているのかが分からない。フレドはやんわりと答えるのは止めた。ハッキリと意思を伝える。
「結婚するまでは抱かない。子供が出来たらどうする?」
「ああ、そう言うことか!!」
(結婚前に子供が出来ると世間体が悪いということね。でも、それなら、世間の人々がしているように・・・)
ああ、やっと理解してくれたとフレドはホッとする。彼女は自分の美しさを自覚していない上、フレドが健全な男であるということも分かっていない。だから、無防備なところがある。今後、大聖堂から頻繁に市井へ出ると考えると、この危機感の無さは非常に心配だ。
ここでセレスは袖を引き、彼の耳元へ囁きかける。
「―――――――したら?」
「はぁ?避妊!?大聖女の口から出てはいけないワードのような気が・・・。残念ながら、俺は皇帝という立場上、避妊は出来ない。理由は無闇に得体の知れない薬を摂取して種なしになってしまうと皇家が滅びる可能性があるからだ。――――ただ、正直なところ、前皇帝の子は俺一人で、前王弟の子も男一人しかいないから既に危機的状況ではある」
「それなら、尚更、自然に従えばいいのではないかしら。私はフレドと触れ合いたいし、子供も沢山欲しいと思っているわ。フレドは?」
「待て、もしかして今、俺は説得されている?」
触れ合いたいか?と聞かれたら当然、触れ合いたいに決まっている。だが、セレスはそれで本当にいいのだろうか。
「そうかもね」
セレスはウフフフと楽しそうに笑う。フレドはとても複雑な気分だ。大聖女からセックスしたいならしたらいいじゃないかと説得されているのだから。
「本心は?」
セレスは険しい表情を浮かべているフレドの顔を覗き込む。
「――――言えない」
「フレドって案外、頑固?」
「ああ、そうかも知れない」
プイッと視線を逸らしたフレドの腕にセレスは自分の腕を絡めると、そのまま強引に寝室へ引き摺って行った。
――――フレドの理性が勝利したのか、セレスの魅力が勝利したのか?それはトップシークレットである。
(フレドとモリ―は私の知らないところで色々と頭を悩ませていたのね。まさかあの姿を誰かに見られていたなんて・・・、油断していたわ。――――今度、モリ―と会ったら本当のことを話して謝ろう。私のせいで禁足地に人を侵入させてしまったのだもの)
「セレス、これを・・・」
考え事をしていたセレスの前にフレドが立つ。彼は手に持っていた小箱を彼女へ渡した。
「いつ渡そうかとタイミングを見計らっていたら、すっかり遅くなってしまった」
セレスは小箱を受け取る。真っ黒な箱には金色のリボンが掛けられていた。
(この箱とリボン・・・、フレドみたい)
「開けてもいい?」
「どうぞ」
セレスは左の手のひらに箱を乗せ、右手の人差し指と親指でリボンの端を摘まんで、ゆっくりと引く。――――蝶々結びのリボンはスルスルッと滑らかに解けた。次に上の箱の部分を持ち上げると黒革張りの四角いケースが現れる。
(豪華な箱、これはもしかして・・・)
「セレス、その黒いケースの中身を見て欲しい」
フレドは視線を革張りのケースへ向けた。セレスは何となく中に入っているのは指輪のような気がして、緊張してしまう。
「何だか、ドキドキしてしまうわね。あ、開けるわよ?」
「うん、開けて」
セレスが革張りのケースを開けると真っ赤なルビーの指輪が強烈な存在感を放っていた。思わず、目が釘付けになってしまう。
「こ、これは・・・」
(凄い・・・。想像していたよりも、かなり大きな宝石が・・・。この真っ赤な宝石、これはルビーだよね?金色のリング部分に散りばめられているのはダイアモンド!??こんなに豪華なジュエリーを手にしたのは初めてだわ)
フレドは一度、深呼吸をしてから、煌めく宝石に目を奪われているセレスへ語り掛けた。
「婚約が・・・、いや、俺たちの婚約は政略的に進められてしまっただろう。だが、本当は互いに相手のことを愛していて、結婚を心から望んでいる」
真剣な面持ちでフレドリックは言葉を紡いでいく。
「だからこそ、きちんとプロポーズをしたいと思っていた。セレス、指輪を・・・」
フレドリックはセレスの手のひらの上にあるケースから指輪を抜き取ると、その場で跪く。――――長身の彼がひらりと身を翻す仕草がとても格好良くて、セレスは見惚れてしまう。
「セレスティア・ステラ・メルトン嬢、どうか私と結婚して下さい。あなたとなら互いを高め合い、我が国の民を愛し、平和で幸せな未来を築くことが出来る。だから、この手を取って欲しい」
彼は指輪をセレスの前へ差し出す。
(フレドは絵本で見た王子様のようだわ。ということは私がお姫様!?――――嘘みたい。そして今、私は求婚されている・・・)
セレスは呼吸を整えてから、口を開いた。
「はい、いつ如何なる時もあなたを愛し、敬い、慈しむことを誓います。死が二人を分かち合うまで・・・」
セレスはフレドの手に自分の手を添える。
「――――――死、分かち合う!?不吉だ・・・」
フレドはセレスの手を掴んだまま、ボソッと呟きながら立ち上がった。
「だって!!フレドのプロポーズの言葉が定例文みたいな文言だったから、それに合わせて聖職者らしく答えたの!!」
負けずに不満をボヤキ返す、セレス。――――フレドは考えに考えたプロポーズの言葉を定例文と言われ、地味に凹む。そして、失敗しないようにと手引書を参考にしたことを酷く後悔している。
「すまない。こういうことに慣れていないが故、色々と間違えた。――――やり直したい」
(や、やり直したい!?プロポーズを?そういうのって、アリなの?)
「――――え、ええ、良いわよ」
戸惑いつつ、セレスはやり直しを許可した。
――――室内は静寂に包まれる。
(どうしよう!!フレドがこめかみを押さえて真剣に悩んでいる!?もしかして、私の余計なひと言が彼を追い詰めてしまった??)
「あ、あのフレド・・・?」
セレスは心配になって声を掛ける。フレドは視線をセレスへ戻して微笑を浮かべると、もう一度、跪いた。――――これから、二度目のプロポーズをするようだ。
(ああ、ドキドキする・・・。何を言うつもりなのかしら・・・)
「――――セレス、世界の誰よりも君のことが好きだ。その赤い瞳も煌めくプラチナブロンドの髪も、明るく透き通った声も美しい指先も・・・、全て欲しい。愛している!!俺と結婚してくれ!!」
セレスへの思いを情熱的な言葉で列挙する、フレド。セレスは心臓をグワッと手で掴まれたように胸が締め付けられた。感情が高ぶったフレドは立ち上がって、彼女を腕の中へ閉じ込める。
(そ、そんなに熱烈な愛を語られたら、もう、もう・・・)
セレスはおでこを彼の胸板にコツンと押し当てた。そして、フレドへの気持ちを言葉にしていく。
「フレド、嬉しい言葉をありがとう。――――私も、フレドのことが・・・、大好き。――――いつも、沢山・・・話を聞いてくれてありがとう。―――――褒めてくれて、ありがとう。――――――アドバイスを・・・してくれてありがとう。――――――――グスッ、――――心配してくれて、ありがとう。―――――――――ギュ、ギュッーと、抱きしめてくれて・・・、ありがとう・・・」
ありがとうと言う度に涙が溢れて来て、どうしても言葉が途切れがちになってしまう。でも、それでも、今の気持ちはきちんと彼に伝えたい。セレスは涙を拭いながら、言葉を紡いでいく。
「とても、――――愛しているわ。――――――フレドを誰にも渡したくない。だから、ずっと、ずっと私の側に居て・・・」
彼への気持ちを伝えている途中で、セレスは嗚咽するほど泣いてしまい、とうとう何も言えなくなってしまった。彼に背中を摩られ、時だけが過ぎる。
(ううう、上手く言葉に出来ない。沢山、もっと沢山言いたいことがあるのに・・・)
ひとしきり泣いて、呼吸が整うまでの間、フレドは黙ってセレスを抱き締めていてくれた。
―――――しばらく経ち、セレスは真っ赤な目で彼を見上げる。
「――――もう、大丈夫・・・」
「セレス、想いを伝えてくれてありがとう」
優しく耳元へ語り掛け、セレスの左手を取り、指先に口づけを落とす。
「泣いていても可愛い・・・」
フレドが無意識に発した言葉で、セレスはクスッと笑う。
「セレス、指輪を・・・」
光り輝くルビーの指輪を彼女の細い指に嵌めると、フレドは再び、セレスの手の甲へ口づけをした。
「これでセレスは俺のものになった」
フレドは悪巧が成功したような顔をする。セレスはまた一筋零れて来た涙を手の甲で拭ってから、強気に言い添えた。
「これで、フレドも私のものになったってことよね!!」
「ああ、そうだ。俺の全てはセレスのものだ。どうぞ、好きにしてくれ、ブッ、クククク」
強気な主張をして来るセレスが可愛くて、フレドは声を出して笑ってしまう。彼は彼女のこういうところが大好きだ。セレスが居てくれたら、いつも笑いの絶えない楽しい人生が送れるだろうとフレドは幸せな未来を想像をする。
――――彼が笑いのツボに入っている間、セレスは指に嵌められた指輪を眺めていた。
(金色と赤は私たちの色ね。私もフレドに指輪を贈ろうかな。色はプラチナブロンドと黒?――――お互いの髪色にしてもいいかもね)
指輪を見詰めて何か考えているセレスへ、フレドは不意打ちで口づけをする。
「!?」
セレスはビックリした。そこで先ほどフレドの言い放った言葉を思い出す。――――――「どうぞ、好きにしてくれ」という言葉を。
セレスは背伸びをして、フレドの首に腕を回すと自分から口びるを重ねた。だが、フレドは動揺しない。彼女がやり返してくることくらい想定済みだったからである。
ところがセレスはそれだけでは飽き足らず、彼の口びるを舌先で優しくなぞり始めた。フレドは全身の毛が逆立つくらいゾクッとしてしまう。危険を感じたフレドは直ぐにセレスの両肩を掴んで、身体を遠ざけた。
(あっ、えっ!?どうして???)
「セレス・・・。ここが何処か分かっていて、そんなことをして来るのか?」
フレドは部屋を見回した後、書棚の横にあるドアで視線を止める。
「これ以上、俺を煽ったら、あの奥へ連れて行く」
(あのドアの奥?何の部屋?もしかして、寝室だったりする?そうだとしたら・・・、そういう意味?)
「・・・・・・」
セレスは上目遣いで、彼をじーっと見詰める。
「ごめん。最低な発言だった」
「うううん、違うの。あのドアの先のお部屋を見てみたいなぁと思って!」
セレスは彼の袖を引く。フレドは困惑する。これはどういう意味なのだろうかと・・・。
「この部屋に繋がっているのは、どんなお部屋なの?」
彼女は室内に三つあるドアを見回した。
「左の壁面、右のドアは洗面所とクローゼットルーム。左のドアはトレーニングルームとバスルーム。右の壁面のドアの奥は寝室」
「なるほど!!ということは私を寝室に誘ったということで間違いないのね!」
「・・・・・・」
そんなに明るく言われたら、後ろめた過ぎて辛い。フレドは凹んだ。本日二回目である。
「いいわよ」
「――――何が?」
今、飛んでもない答えを聞いたような気がした。フレドは恐る恐るセレスへ確認する。しかし・・・。
「えーっと、一つお願いがあるの。キスの痕はつけないで!!前回、他の聖女に見られてしまって、凄く気まずかったから・・・」
あーっ、あれか!?とフレドは思い出す。あの時は真っ暗だったから、痕が付いたかどうかなんて何も確認してなかった。しかし、それを他の聖女に見られたとは一体、どういう状況なのだろう。だが、それを確認するよりも、今は目の前の問題を考えなければ・・・。仮に寝室へ彼女を連れ込んだとしたら?抱き合ってキスをするだけで終われるだろうか?否、それは絶対に無理だ。間違いなく、明日の朝まで抱き続ける。いや、もしかすると、もっと長くなる・・・かも知れない。
「セレス・・・、痕をつけるとか付けないとかそういうレベルではなくて・・・、絶対にダメだ。寝室は危険過ぎる」
「じゃあ、部屋の中を見るだけだったら?」
「無理。絶対に寝てしまう」
フレドは抵抗した。結婚する前にそういうことをしたらダメだと理性が耳元で言っている。
「眠たいの?」
「そう言う意味じゃない・・・。セレス、結婚するまでは守ろう」
「何を?」
彼女は分かって言っているのか、ふざけているのかが分からない。フレドはやんわりと答えるのは止めた。ハッキリと意思を伝える。
「結婚するまでは抱かない。子供が出来たらどうする?」
「ああ、そう言うことか!!」
(結婚前に子供が出来ると世間体が悪いということね。でも、それなら、世間の人々がしているように・・・)
ああ、やっと理解してくれたとフレドはホッとする。彼女は自分の美しさを自覚していない上、フレドが健全な男であるということも分かっていない。だから、無防備なところがある。今後、大聖堂から頻繁に市井へ出ると考えると、この危機感の無さは非常に心配だ。
ここでセレスは袖を引き、彼の耳元へ囁きかける。
「―――――――したら?」
「はぁ?避妊!?大聖女の口から出てはいけないワードのような気が・・・。残念ながら、俺は皇帝という立場上、避妊は出来ない。理由は無闇に得体の知れない薬を摂取して種なしになってしまうと皇家が滅びる可能性があるからだ。――――ただ、正直なところ、前皇帝の子は俺一人で、前王弟の子も男一人しかいないから既に危機的状況ではある」
「それなら、尚更、自然に従えばいいのではないかしら。私はフレドと触れ合いたいし、子供も沢山欲しいと思っているわ。フレドは?」
「待て、もしかして今、俺は説得されている?」
触れ合いたいか?と聞かれたら当然、触れ合いたいに決まっている。だが、セレスはそれで本当にいいのだろうか。
「そうかもね」
セレスはウフフフと楽しそうに笑う。フレドはとても複雑な気分だ。大聖女からセックスしたいならしたらいいじゃないかと説得されているのだから。
「本心は?」
セレスは険しい表情を浮かべているフレドの顔を覗き込む。
「――――言えない」
「フレドって案外、頑固?」
「ああ、そうかも知れない」
プイッと視線を逸らしたフレドの腕にセレスは自分の腕を絡めると、そのまま強引に寝室へ引き摺って行った。
――――フレドの理性が勝利したのか、セレスの魅力が勝利したのか?それはトップシークレットである。
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