野生児少女の生存日記

花見酒

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三章 野生児少女と野生の王

野生児少女と野生の王

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 リオネル 城内
 数え切れない程の量の木の触手や槍がローニャに向かう。ローニャは多少の掠り傷を受けながらもギリギリで切り落とし、回避して凌いでいる。

「(外で物凄い音してる、戦ってるのかな…音的にかなり強敵っぽい。皆が来るのは無理そうかな。なら無理に耐えてたら逆にこっちが限界が来てやられる。それなら一人でもこいつを倒す!やられるならやられるで、少しでも消耗させて一矢報いてから死んでみせる!)」

 ローニャは頭の中で魔法を唱える。

「(身体強化魔法:極、全開放!)」

 持ちうる身体強化の魔法を全て使用し全力を出す。

「(制限時間は大体十分位、それ迄に終わらせる!)」

 ローニャは今までとは比べ物にならない速度で室内を駆けまわり、跳び回る。

「な!?」

 ローニャの明らかな強化に驚く、だが

「コバエが!」

 ローニャがメサイアに急接近するが周囲に張り巡らされた木々が鞭のように暴れ回りローニャはその内の一本に当たり撃ち落とされる。ローニャが床に落ちると同時にメサイアは触手を向かわせる。然し触手はローニャの体の真横を通過し床に刺さった。

「チッ!」

 ローニャは攻撃を外した事に驚きながらも再び室内を跳び回り隙を窺う。

「(くそ!まただ、あの男と相対してから、ずっと妙な気分だ。後一手、後寸手の所で殺す事を躊躇してしまう。何なのだこの感覚は!あの男の術ではないのか?仮にあいつの術とすれば、奴が死んでから既に十分以上は経っている、効果はすでに切れている筈だ!ならば剣か!いやしかしそれでもおかしい、仮にあの剣が魔剣の類ならば、魔法を施された刀身を砕いた時点で効果はなくなっている筈だ!何なのだこれは!奴の術でも無い、剣でも無い、なら何だ!)」

 メサイアは考えた、己の内にある筈の殺意が薄れてしまうその原因を、そして自分の脇腹にチクリと微かに痛みを感じた。

「(今のは…此処はあの男が掌を押し付けた箇所…)」

 そしてメサイアは漸く理解した、そして突如笑い始めた。

「ふっふっふっ…はーはっはっは!」

 ローニャは無知のように暴れまわる木を避けながら突然笑い始めたメサイアを訝しんだ。

「はっはっは!(そうか…そうかそうか!ようやくわかったぞ!これは奴の術ではない、剣の力だ!恐らく斬られる事で対象の悪意なんかに干渉する類の力、それがあの剣に宿ってい。そしてあの剣は魔剣等では無い、寧ろ魔剣や聖剣等という物として扱っていい代物ではない、あれは“天使の遺物”、その内の一つ!奴は死に際に儂の腹に出来た切り傷に、その破片を埋め込んだ!儂はそれに気付かずに傷を塞ぎ自らの体内に取り込んだ、それがこの感覚の正体だ!ふっふっふっ…なんとも…なんとも愉快な事だ、奴はアレが天使の遺物と知ってか知らずか儂に使った、そして今、儂はその力によってこの小娘を殺す事に手間取ってる居ると…)ふっふっふっ……ふざけるなーー!!」

 先程まで笑っていたのとは一変突然怒り叫び始めた。

「偶々天使の遺物だっただけで!偶々儂に手が届いただけで!なぜ儂がこんな小娘如きに手間取らねばならん!ただの偶然の重なりで小娘如きに、儂が…!」

 メサイアが怒りに任せ叫び散らしていたその時、何処からともなく、黒い狼がメサイアの左腕に噛み付いた。

「なん!?何処から!」

 メサイアは腕を振り払い狼を振り解く、狼は床に着地しメサイアを睨む。

「アォーン」

 別の場所から狼の遠吠えが聞こえる、すると突然ローニャの目の前弓と三本の矢が降ってきた。ローニャふと上を見上げると二匹の狼立っていた。

「お前たち…」

 ローニャが今迄餌を与えて来た三匹の野生の狼、それがローニャの前に突如現れたのだ。

「何処から来た…いやどうでもいい、たかだが犬三匹、変りは無い!」

 メサイアが触手を動かしローニャ達に差し向ける、上に居た狼二匹は攻撃を掻い潜りながら攻撃を引きつけ分散させる。ローニャもまた弓と矢を持って走っていく攻撃から逃げる、そして一匹の狼がメサイアに飛びつく、メサイアは寸前で狼を弾き飛ばした。その一瞬気を取られていた隙にローニャが死角から矢を射る。しかしメサイアは触手で矢を防御した。

「そんな棒切で…」

 最後まで言い切る前にメサイアの右腕に刺さる。しかし当たり所が悪かったのか深くは刺さらなかった。

 メサイアは矢を引き抜き言葉を発する。

「あ…は…」

 「無駄だと言ったはずだ。」と言おうとしたのだろうが、声は出なかった。

「(これは…麻痺毒!矢に塗られていたか!)」

 その毒は狩りの為にローニャが作った物、少しの間体が痺れる程度の弱い毒だがその一瞬がメサイアの隙を生んだ。
 メサイアは毒によって指先を動かす事すら出来なくなる。その隙にローニャは高く跳び上がる。メサイアは痺れる体を無理矢理動かし防御の姿勢を取る。然しローニャはメサイアの横を通過し、空中で反転、メサイアの後ろの木を足場にした。

「(こいつが梟の姿なら…きっと私はこんなに戦えてなかったろうな。昔から梟は嫌いだ。あの夜、襲われてから苦手だった。一度は克服しようとした、見つけた梟を狩ろうと、音を立てずに後ろから忍び寄って、でも後少しの所で音を立ててしまった。するとそいつは首だけを真後ろの私に向けた。体と真逆に向いた顔と私を見つめる丸くて大きな、不気味な目。私はそれが恐ろしくて結局逃げてしまった。それ以来彼奴等の目が嫌いだった。全部見透かされてるようで、見張ってないとまた襲われるんじゃないかって怖くなる。…でも今のこいつは人の姿、心置きなく)狩り取られる!」

 ローニャは力一杯木を蹴った。衝撃波を起こし足場の木を砕きながらローニャはメサイアに剣を振った。
 メサイアは体が麻痺し、思考も鈍っている、ローニャが向かって来た時手で防御の姿勢を取り、目を瞑っていた。ローニャの動きは見えてはいなかった、筈だったがメサイアの脳裏にほんの一瞬自分が後ろから攻撃され地面に伏す姿を見た。その刹那メサイアは麻痺した体を全力で無理矢理捩り真後ろからのローニャの攻撃をスレスレで回避した。

「躱された!?」

 メサイアは一瞬見えた光景とあの状況で躱せた自分に驚いていた。

「今のは…まさか…“未来予知”?これが小僧の魔獣としての能力か?なんと…とんだハズレではないか、何とか反応出来たものの、ほんの一秒二秒先が見えるだけで反応出来るかどうかは本人の実力次第、単体では何の役にも立たん。まあ何でもいい、そろそろ毒も切れている、毒と言っても効果は数秒程の弱い毒、だがその数秒が儂を…」

 メサイアに向かって狼達が唸り、ローニャも一緒に睨む。メサイアは彼女らを見下ろしさらに怒りが込み上げる。

「はぁ…はぁ…!腹が立つ!こんな矮小な小娘と犬畜生に儂が苦戦だと?ふざけおって…もういい!捨て身の策だったが致し方なし。どの道直接殺せぬのなら、間接的に殺せば良い!」

 そう言ってメサイアは手に火を宿す、そしてその手で木に触れる、触れた木から火が広がり始める、そして瞬く間に周りの木が火に包まれた。

「あっつ…ごほ!」

 あたり一面を火の海、灼熱の空間となった。当時に煙が充満し始めローニャは煙に咽る。

「勝ったなどと思うなよ!この場を掌握した等と思い上がるなよ!貴様らがいるこの場所は…地獄ゲヘナであると知るかいい!」

 狼の悲鳴が聞こえる、それと同時に、一匹の狼が火に包まれて床に倒れ込む。

「あぁ…そんな…ごほ…!ごほ」

 火と煙で酸素が薄れ呼吸ができなくなる、ローニャは床に倒れ込み、少しずつ意識が遠退いていく。

「う…ごほ…は…ごほ…」

 視界がぼやけていく、ローニャは頭の中で死を覚悟してしまった。

「ふん…」

 メサイアは死にかけのローニャを見下ろす。

「放おっておいても死ぬだろうが、念の為とどめを刺しとくか。」

 メサイアはローニャに触手をけしかける。然し寸前で頭痛が走る。

「っ…!」

 触手はローニャの真横の床に刺さる。

「チッ…外したか…だが次は当てる。」

 メサイアは再び手を翳し触手を動かす、そして再びローニャにとどめを刺そうとした瞬間、メサイアの鼻先に水滴が落ちる。

「水?…!?」

 瞬間理解し上を見上げる、すると上から雨が降り注ぐ、火の海だった室内は雨水でどんどんと鎮火していく。

「はぁ!はぁ!」

 火が消え、灰と化して脆くなった木の一部が、雨の勢いで崩れ空気穴が出来た室内に空気がながれこみローニャは息を吹き返す。

「雨だと!?さっきまで晴れていた筈だ!」

 
「アリス!無理しないで!あんな大魔法撃ったばかりなんですから早く退避を!」
「嫌!ローニャちゃんが戦ってるのに…何もせずじっとなんかしてたくない!」

 高い建物の屋上でアリス、マテリア、レーナが立っている。先程の雨を降らしたのはアリスだった。

 城前

 マーリン、カーバッツ、ベオウルフの三人が木のドラゴンと戦闘を繰り広げている、マーリンは少し離れて魔法を放ち、カーバッツとベオウルフが注意を引き付けながら攻撃を叩き込む。然しその巨大からなる攻撃を避ける事で精一杯、攻撃を当てたとしても大したダメージになり得ない、そうして長期戦となっていた時、ドラゴンは尾や前足で二人を攻撃し距離を取らせる、その瞬間口に火を溜める。

「まただ!ブレスを吐くぞ!退避しろ!」

 マーリンの声で三人はマーリンが展開した何重もの障壁の後ろに隠れる。そして次の瞬間、ドラゴンは途轍も無い火力のブレスを吐く。ブレスはマーリンの作った強固な障壁を何枚も破壊した。

「くっそ!切りが無い!」

 ブレスを吐き終わり再び攻撃を再開しようとした時、ドラゴンは間髪入れず再びブレスを溜め始めた。

「また!?」

 マーリンが再び障壁を作る、ドラゴンが再びブレスを吐こうとした瞬間。空から光の柱がドラゴンを包んだ。
 ドラゴンは悲鳴を上げ倒れ込む。

「なんだ!?」

 三人が驚いていると。

「おとーさん!」

 そう声が聞こえる、三人が声のする方を見ると、空に天使の姿をしたロザリアが飛んでいた。

「ロザリア!?その姿は、首飾りを使ったのか!?」
「そうだよ!」
「なんて事を…早く逃げ…」
「嫌!私も戦う!」
「…全く…親として情けない。ロザリア!援護頼んだぞ!」
「うん!」

 ロザリアは光の弓を番える。三人も構えドラゴンに向き直す、ドラゴンはむくりと起き上がり、四人を睨みつけ、咆哮を上げる。

 城下

 花を開いた木から無尽蔵に魔物が産み落とされ続ける、戦っていた者達は既に疲弊し、満身創痍だった。

「もう…無理だ…体力が。」
「こんなん…無理だ…。」

 増え続ける魔物とは減り続ける体力と味方、どう足掻いても勝機は無いと諦め掛けていた、その時だった。
 街の外から声を上げながら大量の騎士達が現れた。

「ユリストラム聖国、聖騎士団、ただいま到着した!これより加勢する!」

 聖国より騎士団、及び聖女とシスターが増援に現れた。
 万全の状態の聖騎士達が魔物達を次々に倒していく、その間に聖女やシスターが、疲弊し怪我をした戦士達を癒していった。
 予想だにしなかったさらなる増援で戦況は良い方向へと傾いた。

 城内

「ふざけるなー!何処までコケにすれば気が済む!たかが人の分際で!儂の邪魔をするな!」

 メサイアは度重なる予想外でさらに激昂し始めた、だがそれによって冷静さを掻き、ローニャから気をそらしてしまった。そしてはっと思い出したかのようにローニャの方を向き直す、然しローニャは既にそこには居なかった。

「何処行った!」

 次の瞬間メサイアの後ろに影が見える、メサイアは瞬時に気配に反応し影に焦げた木の槍を幾つか飛ばす。木は影を貫いたがそれはローニャの着ていたマントだった。

「マント!?デコイか!」

 そう気付いた時には既にローニャは下に回り込んており、下からメサイアを殴る、メサイアは咄嗟に右に逸れる、ローニャはそのまま通過し体を反転させ木を蹴る。メサイアは焦げた木で自分の周囲に丸い障壁を作りながら突っ込んで来るローニャを焦げた木の触手で追う、後ろから追う触手はローニャの速度に追いつけず、正面から来る触手はローニャが全て剣で粉砕する。そしてローニャは木の球体に突っ込み、反対側からメサイアの顔面を鷲掴みし突き抜ける。
 メサイアはローニャの手を振り解こうと足掻く、木を操りローニャを追うが追いつけず二人は真っ逆さまに落下する。メサイアは必死にローニャの手を振り解こうと藻掻きながら叫ぶ。

「この!クソガキーー!!」
「いい加減、起きろー!」

 ローニャは二階の床を突き抜け、一階の床に思い切りメサイアを叩きつけた。
 床に大きなクレーターが出来る。メサイアはバタンと脱力し気を失った。ローニャは立ち上がりふらふらと後退りした後、床に倒れ込んだ。

 城外

 城から物凄い爆発音が聞こえる。

「何だ?中で何が起きてる?」

 マーリンがそんな事を気にしている間に、ドラゴンは再びブレスを吐こうとする。

「この短期間に何度も何度も、私の魔力も無限じゃないんだけどな。」
「ロザリア!」

 カーバッツがロザリアに援護を頼む。ロザリアは再び光の柱を出そうとした、がドラゴンがブレスを吐く姿勢のまま動かなくなった。マーリンは直ぐに魔力を溜め、巨大な光の刃でドラゴンを両断した。ドラゴン再生する事は無かった。

「これは…まさか…ベオウルフは下に行って!私とカーバッツくんは中に行く!」

 ベオウルフはただ頷いて街に向かった。

 街では溢れかえっていた魔物達がピタリと動きを止めている、兵士達が不思議がっている。そんな中で木の頂上の花の中心にあるクリエイタルはガタガタと振動し始める、そして次第に亀裂が出来始め、そこから光が溢れ出し、遂にはバラバラに砕け散った。

 城内

 城の正面玄関を突き破り中に入る、玉座の間の丁度ましたに二人が倒れているのをマーリンとカーバッツが見つける。

「ローニャくん!」

 二人がローニャに駆け寄る。

「大丈夫かい?」
「まさか…倒したのか?一人で?」

 マーリンがローニャに声を掛ける、ローニャは薄く目を開き絶え絶えの息で声を発する。

「ごめん…ころ…しちゃった…かも。」
「心配ない、一人位なら蘇生できる。」

 マーリンが無理に起き上がろうとするローニャを抑えながら安心させる、その時ラッシュから声が聞こえる。

「愚か者…」

 声が聞こえた瞬間二人は身構えた。

を…誰だと思っている…僕は…英雄になる…男だぞ。」

 意識はラッシュのものだった。身構えた二人はラッシュの意識が戻ったと安堵したのも束の間、ラッシュとローニャは気を失ってしまった。


「は!」

 梟が息を吹き返す、ばっと起き上がり開口一番怒号を上げる。

「あのクソガキ!あの小娘さえ居なければ、儂は!」

 梟は怒りながらも周りを見渡す、梟は鳥籠の中に居た、その鳥籠には扉は無い。

「なんだ?籠?こんなもの!」

 思い切り体当たりをするがびくともしない、それどころか体当たりする度に痛みを感じる。

「つ…!これは…あの時蹴った時に羽が折れたか。失敗だったな。せめて非常用にかくまって置くべきだったか。」

 そうこうしていると梟の居る部屋の扉が開き誰かが入ってくる。

「お、お目覚めのようだね、君が目覚めたという事は君は負け、我々が勝利したという事かな。」
「(こいつは…確かレオンハールの王子のオルガ・レオンハール。ふ…丁度良い、こいつを何とか言いくるめて儂を連れ出してもらおう。)おお、これはこれは殿下、お初にお目にかかります、出会って早々ではありますが、もしよければこの籠から出しては頂けませんか?目が覚めたらいきなりこんな籠に閉じ込められていて、理由がわからず。」
「…」
「ああ、勿論タダでは有りませんよ、見返りとして貴方が欲するものを与えましょう。富?女ですかな?」
「君はそうやって賢者殿の生徒をたぶらかし、操ったのか?」
「(チッ…)なんの事やら…」
「誤魔化しても無駄だ、君の事はよーく知ってる。僕の故郷を脅かし、奪おうとした。流石に知っていながら君の口車には乗らないよ。」
「…儂を…どうするつもりだ?」
「お、本性を現したね。何簡単な事さ、僕はね、趣味で生物学者をやったいてね、生物の生態やその肉体の構造何かを研究している。そして今ちょうど僕の目の前に喋る梟が居る。」
「は?」
「すごく気になるな、どんな声帯をしていて、どうやって人と同じように発声しているのか、言葉選びをする為の脳はどれ程発達しているのか、とても知りたい。」
「何を…」
「君は妖精国を滅ぼし、そして僕の故郷であるレオンハールをも滅ぼしうとした、どの道死刑は免れないだろうね、だからせめて僕の教材に成ってもらおうと思ってね。」
「や…やめ…」 

 オルガはひょいと籠を持ち上げる。

「さあ行こうか、此処は借り物の屋敷だから大した設備は無いがまあ、解剖位は出来るだろう」
「何処へ行く?やめろ!」

 オルガは梟を持って部屋を去った。
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