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16. 連携の基本と、小さな違和感
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「……健吾なら。彼なら、何か気がつくかもしれません」
警視庁、鑑識課の自称エース。
手がかりを掴むための、とっておきの切り札。
私はエドヴァルトに向き直り、意を決して口を開いた。
「副隊長。私の『友人』に助言を求める許可をいただけませんか??」
「彼なら何かに気がつくと??」
私の提案に、エドヴァルトの鋭いグレーの瞳が、戸惑いの色を見せた。
「はい。……映像越しに彼に現場を見てもらえれば、見落としている何かに気づくかもしれない。彼にはそれだけの知識と経験があります」
私の提案に、エドヴァルトは腕を組み、沈黙した。
ここで通話することのリスクと、事件解決の糸口。これを天秤にかけているのだろう。
しばらく後、エドヴァルドは口を開いた。
「……いいだろう。手詰まりなのは事実だ。人払いを済ませて――」
そう言って許可を出そうとした、その時だった。
「待て」
凛とした声が、その場を制した。
振り返ると、いつの間にか到着していたアレクサンドラ隊長が、腕を組んで私たちを見下ろしている。
「隊長……」
「蒼。その『切り札』とやらを切るのは、まだ早い」
隊長は、私とエドヴァルトを交互に見つめ、呆れたように溜息をついた。
「その前に、やるべきことがあるだろう?」
「やるべきこと……」
私が首を傾げると、隊長は視線を私に向けた。
「蒼。お前たちは今、互いに何と報告し合った?」
「えっと……『何も見つからなかった』と」
「それが間違いだ」
隊長は一歩、私に近づいた。
「『何も見つからなかった』というのは結果だ。報告ではないんだよ、蒼。お前がその目で何を見て、何を感じて、その結果として『無し』と判断したのか。その過程を共有せずに、どうして『見落としがない』と言い切れる??」
図星だ。
私は、「自分が見つけられていない」ことだけを確認しただけだった。
「蒼。お前の仕事が『人を観察する』ことなのはわかっている。きっと、こんな事件現場には不慣れだろう。だがな、こんな現場に慣れている者は隣にもいるだろう??」
そう言った隊長の視線は、弟であるエドヴァルトへと向いた。
「エドヴァルト。お前もお前だ」
「……姉上」
「お前は、一人でなんでもこなすから『誰かと協力する』ということに一切慣れていないのは分かるがな」
隊長は、ビシッとエドヴァルトの胸を指差した。
「お前のわがままで、蒼を下につけてやったんだぞ?? それなら、連携の基本ぐらい思い出せ」
その言葉に、エドヴァルトの肩がわずかに跳ねた。
どうやら何も言い返せないようだ。
彼もまた、無意識のうちに自分の判断だけで完結し、私に「答え合わせ」を求めていなかったらしい。
いや。その前に。
わたし自身が「無い」と結論したのが原因なのだろうけど。
「……すまん。姉上の言う通りだ」
エドヴァルトは素直に非を認め、私に向き直った。
「いえ、私が軽率でした」
互いに謝罪をしたところで、改めてエドヴァルドが私に言った。
「すり合わせをしよう。お前がこの現場で見たもの、違和感を持ったもの……どんな些細なことでもいい。すべて話してくれ」
「はい!!」
きっと。わたしは心のどこかで「こんな事件では、わたしは役に立てない」と思っていたのだろう。
隊長の叱責で、自分の落ち度に気がついたわたしは再び、現場の中央に向き直った。
ただし、今度は漫然と見るのではない。
エドヴァルドと、互いの視点を重ね合わせるのだ。
とはいえ……。
「私は……申し訳ありません。やはり、この現場を見ても、ガラスがどうやって割られたのかすらわからなくて」
気持ち一つで、知識が増えるわけでもなく。わたしが見た感想は変わらなかった。
それでも、何もわからないでは終わりたくなくて、疑問を口に出してみる。
だが、エドヴァルドは「ガラスが割れた原因」は、わかっていたらしい。
「おそらく閃光弾だろう」
小さく細かいガラスを指さして、彼は続けた。
「一部だけガラス片が細かい。ガラスに打ち込まれた閃光弾は目眩しと、ガラスの破壊の両方の役割を果たしていたのだろう。……とは言え、これがわかったところで、どこから打ち込まれたかすらわからないが」
そこで切られたエドヴァルトの言葉に、私は納得した。
けれど、なんとも言えない奇妙な違和感を感じる。
「じゃあ……光の発生源は、ここだった。そう言うことですよね??」
「ああ。俺はそう見ている」
改めて、「青い薔薇」が展示されていた場所全体を眺めてみる。
もし、あの中央で閃光弾が使われたのなら。
「……全員が、何も見ていないのはおかしくないですか」
その瞬間、私の中で何かがカチリと音を立てて嵌った。
「『青い薔薇』の展示を護っていたのは、4人とおっしゃいましたよね」
私の問いで、エドヴァルドも気がついたらしい。
「そうか。警備の立ち位置か」
そうなのだ。
通常、美術品などの警備をするのなら。
全員が、対象に背を向けて護るはずなのだ。
それなのに、全員が「閃光で何も見ていない」と口を揃えていた。
「警備の者共から話を聞くぞ。――真実は、必ず矛盾の中に潜んでいる」
ピンと張り詰めた空気の中。私達の結論に、アレクサンドラ隊長は、満足そうに頷いたのだった。
警視庁、鑑識課の自称エース。
手がかりを掴むための、とっておきの切り札。
私はエドヴァルトに向き直り、意を決して口を開いた。
「副隊長。私の『友人』に助言を求める許可をいただけませんか??」
「彼なら何かに気がつくと??」
私の提案に、エドヴァルトの鋭いグレーの瞳が、戸惑いの色を見せた。
「はい。……映像越しに彼に現場を見てもらえれば、見落としている何かに気づくかもしれない。彼にはそれだけの知識と経験があります」
私の提案に、エドヴァルトは腕を組み、沈黙した。
ここで通話することのリスクと、事件解決の糸口。これを天秤にかけているのだろう。
しばらく後、エドヴァルドは口を開いた。
「……いいだろう。手詰まりなのは事実だ。人払いを済ませて――」
そう言って許可を出そうとした、その時だった。
「待て」
凛とした声が、その場を制した。
振り返ると、いつの間にか到着していたアレクサンドラ隊長が、腕を組んで私たちを見下ろしている。
「隊長……」
「蒼。その『切り札』とやらを切るのは、まだ早い」
隊長は、私とエドヴァルトを交互に見つめ、呆れたように溜息をついた。
「その前に、やるべきことがあるだろう?」
「やるべきこと……」
私が首を傾げると、隊長は視線を私に向けた。
「蒼。お前たちは今、互いに何と報告し合った?」
「えっと……『何も見つからなかった』と」
「それが間違いだ」
隊長は一歩、私に近づいた。
「『何も見つからなかった』というのは結果だ。報告ではないんだよ、蒼。お前がその目で何を見て、何を感じて、その結果として『無し』と判断したのか。その過程を共有せずに、どうして『見落としがない』と言い切れる??」
図星だ。
私は、「自分が見つけられていない」ことだけを確認しただけだった。
「蒼。お前の仕事が『人を観察する』ことなのはわかっている。きっと、こんな事件現場には不慣れだろう。だがな、こんな現場に慣れている者は隣にもいるだろう??」
そう言った隊長の視線は、弟であるエドヴァルトへと向いた。
「エドヴァルト。お前もお前だ」
「……姉上」
「お前は、一人でなんでもこなすから『誰かと協力する』ということに一切慣れていないのは分かるがな」
隊長は、ビシッとエドヴァルトの胸を指差した。
「お前のわがままで、蒼を下につけてやったんだぞ?? それなら、連携の基本ぐらい思い出せ」
その言葉に、エドヴァルトの肩がわずかに跳ねた。
どうやら何も言い返せないようだ。
彼もまた、無意識のうちに自分の判断だけで完結し、私に「答え合わせ」を求めていなかったらしい。
いや。その前に。
わたし自身が「無い」と結論したのが原因なのだろうけど。
「……すまん。姉上の言う通りだ」
エドヴァルトは素直に非を認め、私に向き直った。
「いえ、私が軽率でした」
互いに謝罪をしたところで、改めてエドヴァルドが私に言った。
「すり合わせをしよう。お前がこの現場で見たもの、違和感を持ったもの……どんな些細なことでもいい。すべて話してくれ」
「はい!!」
きっと。わたしは心のどこかで「こんな事件では、わたしは役に立てない」と思っていたのだろう。
隊長の叱責で、自分の落ち度に気がついたわたしは再び、現場の中央に向き直った。
ただし、今度は漫然と見るのではない。
エドヴァルドと、互いの視点を重ね合わせるのだ。
とはいえ……。
「私は……申し訳ありません。やはり、この現場を見ても、ガラスがどうやって割られたのかすらわからなくて」
気持ち一つで、知識が増えるわけでもなく。わたしが見た感想は変わらなかった。
それでも、何もわからないでは終わりたくなくて、疑問を口に出してみる。
だが、エドヴァルドは「ガラスが割れた原因」は、わかっていたらしい。
「おそらく閃光弾だろう」
小さく細かいガラスを指さして、彼は続けた。
「一部だけガラス片が細かい。ガラスに打ち込まれた閃光弾は目眩しと、ガラスの破壊の両方の役割を果たしていたのだろう。……とは言え、これがわかったところで、どこから打ち込まれたかすらわからないが」
そこで切られたエドヴァルトの言葉に、私は納得した。
けれど、なんとも言えない奇妙な違和感を感じる。
「じゃあ……光の発生源は、ここだった。そう言うことですよね??」
「ああ。俺はそう見ている」
改めて、「青い薔薇」が展示されていた場所全体を眺めてみる。
もし、あの中央で閃光弾が使われたのなら。
「……全員が、何も見ていないのはおかしくないですか」
その瞬間、私の中で何かがカチリと音を立てて嵌った。
「『青い薔薇』の展示を護っていたのは、4人とおっしゃいましたよね」
私の問いで、エドヴァルドも気がついたらしい。
「そうか。警備の立ち位置か」
そうなのだ。
通常、美術品などの警備をするのなら。
全員が、対象に背を向けて護るはずなのだ。
それなのに、全員が「閃光で何も見ていない」と口を揃えていた。
「警備の者共から話を聞くぞ。――真実は、必ず矛盾の中に潜んでいる」
ピンと張り詰めた空気の中。私達の結論に、アレクサンドラ隊長は、満足そうに頷いたのだった。
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