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しおりを挟む遠くにビル群の夜景が見える。麓は逆に人口的な光が少なく暗闇が広がっていた。高層ホテルの15階。高い場所は嫌いではないがこの景色は志津希を憂鬱にさせた。まるで逃げ場のない檻の中だ。
「河嶋様。お紅茶をお持ちしました。」
志津希は見つめていた夜景を背にしてじぃやを振り返った。凪都と別れてから志津希はホテルのカフェラウンジに案内された。入り口にはガラス窓に沿ってオープンな席が並んでいたが志津希は奥に通され無駄に広い個室にひとり取り残されていた。
「苦手なものはございますか?お食事は凪坊ちゃんと一緒にとられるとお聞きしておりますので軽食をご用意したのですが…」
じぃやに導かれて席に着くと次々とティーセットが目の前に並んでいく。魔法のような光景に現実味がなく志津希はただ戸惑うことしかできない。
「あの、お気遣いありがとうございます。でも…本当にもう大丈夫です。あ、!お金!お金払い、ます…」
おそらくだが志津希の財布に入っている全財産では目の前に並ぶ魔法の金額には届かない。どうなるの…僕、。志津希は心の中でため息を吐き出した。
「河嶋様。こちらがお招きしたのです。なので何も考えず、じぃの気持ちと思ってどうかお受け取りくださいませんか?」
じぃやは手際よく綺麗なカップに紅茶を注いで志津希の前に置いた。紅茶の良い香りがふわっと広がる。志津希はただ黙ってじーっとじぃやの手元を見ていた。
「さぁ、こちらを。」
金色のはちみつがきらきらと輝きながら紅茶に吸い込まれていく。綺麗だ。おずおずと志津希はティーカップに手を伸ばす。じぃやの気持ちと言われると無碍にしてしまうとバチが当たるような気がした。
「…おいしい、」
暖かい紅茶が少しだけ志津希の緊張をほぐす。甘いけどくどくない。はちみつの香りなのか紅茶からは少しだけ爽やかな花の香りが漂っている。
「お口に合いましたでしょうか?」
「はいっ、とっても!美味しい、です、…」
「ふふ、それはよかったです。こちらもどうぞ。凪坊ちゃんから河嶋様に気に入っていただけたとお聞きしましたのでご用意しました。」
ティーセットと揃いのお皿に乗せられたプリン。あの日のプリンだ。柔らかくて甘い。でも少しだけ苦い。頭には心配そうな凪都の顔と暁美の勝ち誇った笑顔が浮かんだ。
「凪都が…?」
志津希はぽつんとつぶやいた。じぃやは相変わらず穏やかな表情で頷く。
「先日お帰りになられた際も、じぃにいろいろ話してくださいました。あんなに楽しそうに坊ちゃんから学園のお話を聞いたのは初めてです。」
「ほんと、ですか?」
凪都が他人にどんなふうに志津希のことを話しているのか正直少し気になってしまう。伺うようにじぃやを見るとじぃやは微笑みながら志津希に金のスプーンを差し出した。志津希はスプーンを受け取って戸惑いながらプリンに手をつける。
「河嶋様は凪坊ちゃんの言う通りのお方ですね。他の方の気持ちに敏感で気配りができて…」
「気配り、」
別に気配りをしているつもりはない。なんなら他人の関わりを断絶していて距離を取ったりしている。学園内では空気が読めない変人扱いだ。他人の気持ちはなぜか昔からいやでもわかった。目の前の人が何を考えていて自分に何を求めているのか。わかるけどあえて人がして欲しいように動くこともあれば無視することだってある。要は自分勝手なだけなのだ。
「凪坊ちゃんはこうもおっしゃっていました…河嶋様は、与えたくなるお人だと。確かにこの数時間ですが私もそう思いました。」
じぃやは志津希の目を見ながらふふっと柔らかく笑う。与えたくなる人。確かに中庭の時もバングルの時も凪都は志津希にそう言った。
「…わかりません、僕はそこまで何かをしてもらえるような人間じゃ…ないです。凪都はなんで、」
凪都はなんでそこまで自分を好いているのか。わからない。気を抜けば志津希は涙が込み上げてきそうだった。
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