君に恋を

河嶋 亜津希

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携帯に表示されたのは宮塚春の文字。

「春くんだ。」

「もう着いたんじゃないか?」

奈津希は通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。携帯の向こうからザワザワした音と春の声が聞こえてきた。

『もしもし、奈津?今どこだ。』

「一階の喫茶店、葉津希といるの。」

『葉津と?』

驚いた声が返ってくる。当たり前だ。今朝までなんの進展もなかったのに急に会ってるなんて誰でもびっくりする。

『大丈夫か?俺、邪魔だよな。どっかで時間潰すけど…』

気を使ってくれている春に奈津希は慌てて声を出した。

「大丈夫っもうちゃんと話したから!」

『そうなのか?じゃあ今からそっち行くからちょっと待ってろ。』

奈津希は返事をして春に店の名前を伝えてから電話を切った。ぱっと顔を上げると葉津希が笑うのを我慢するように口を押さえている。奈津希は不思議そうな表情を浮かべて葉津希を見た。

「奈津希が心配するようなことないんじゃないか?」

「えー…そう?」

そうだよと葉津希は頷いた。志津希にも、なんなら華蓮にも言われたがどうしても奈津希はそう思えない。奈津希が不満そうに残ったコーヒーを飲み干すとカランカランと店のベルが鳴って春の姿が見えた。

「こっち。」

葉津希が春に手を上げて場所を知らせる。ヘルメットをしていたからなのか髪がぺたんこの春がふたりの席に近いてきた。

「葉津、もう大丈夫なのか?」

奈津希のとなりに座った春が葉津希に向かって心配そうに口を開く。

「あぁごめん。心配かけた」

「はぁ…よかったな。奈津。」

ほっとしたように息を吐いて奈津希の頭を撫でる。奈津希はうんと頷いた。

「あんま心配かけさせんなよ葉津。心臓が何個あってもたりなくなる。」

「反省してる…」

奈津希はほっとしていた。なにもかも普通に戻ろうとしている。葉津希と仲直りしてちゃんと葉津希の気持ちも聞けた。でも奈津希のなかでもやっとくすぶる気持ちがあるのも事実だ。春のそばにいる理由が、口実がなくなってしまった。奈津希は家に帰ってまた元の生活に戻ることになる。素直に葉津希との仲直りを喜べない自分が嫌だった。

「わかったらならいい。じゃあ、帰るか。奈津。」

「え?」

「なんだよ。」

当たり前のように奈津希と帰ろうとする春に奈津希は思わず顔を上げた。一緒に帰っていいの…?声にならない問いかけが頭の中に浮かぶ。すると葉津希が口を開いた。

「俺は人と会うからまだここにいるよ。ありがとう、春。」

「わかった。またな、お前も遊びにこいよ。」

「またそのうち邪魔する。」

春は奈津希の手を引いて立ち上がる。奈津希は驚いて葉津希を見ると葉津希は優しく笑っていた。なぜかその表情に安心する。

「またね、葉津希。」

「うん、また。」

葉津希に手を振る。あの冷たい葉津希はもういなかった。テーブルにふたり分のコーヒー代を置いて春は店を出た。奈津希は少し急ぎ足で春に手を引かれながら歩いた。
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