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しおりを挟む板書の音が響く。いつもは気にならないトーンが高いその音が葉津希の頭にガンガンと響き渡っていた。英語教師が発する言葉の意味が一切理解できなくなるほど脳の血管が脈を打っている。外は晴れているから絶対に低気圧ではない。一昨日水をテラスで冷やされた上に水を被ってコートもセーターも無しで1日出かけていればそりゃ風邪も引くだろう。葉津希は頭痛を誤魔化すように眉間に手を当てた。ふいにズボンのポケットに入った携帯が振動する。葉津希は教師に気付かれないようこっそりと画面を表示させた。
〝はぁちゃん?本当に大丈夫?〟
送信者欄には志津希の文字が並んでいた。朝は気付かなかったが志津希は数件葉津希の体調を気遣うメールを入れてくれている。三つ子は昔から同じタイミングで風邪をひいたり熱が出たりすることがあった。最近は気持ちのリンクと同様格段に共有は減ったがそれでもまだ残っている。両親が生きていた頃は本当に世話が大変だっただろう。3人同時に寝込めば看病も3倍だ。両親がバタバタとそれぞれの看病をしていたのを鮮明に覚えていた。
〝今朝、気付かなかった。今授業中。でもまだ大丈夫だ。〟
下を向きながらメールを返して葉津希はそのまま机に突っ伏する。志津希からの返信は早かった。
〝はぁちゃんまた登校してる!?なに考えてるの!早退して!〟
不思議と文字が志津希の声で再生される。葉津希は本格的にだるくなってきた体をゆっくりと動かす。関節が少し痛くて体の表面は熱いのに寒くて仕方ない。
〝俺は志津希より体が強いから大丈夫だ。〟
見栄を張ってはみるものの志津希に通用しないことはわかっていた。三つ子はそもそもそこまで体が強くない。冬には必ず風邪をひくしストレスが強いと熱を出すのはよくあることだった。葉津希は昔から奈津希と志津希が熱で休んでも無理に学校へ出掛けて結局早退して帰ってくるを繰り返している。自分でもよくわからないが葉津希は休むことがとてつもなく悪いことのように昔から思い込んでしまっていた。
〝毎回そう言ってフラフラになってるでしょ?今3時間目だよね?終わったら帰りなさい。絶対に!怒るよ。〟
葉津希は声を出さずに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。とことんついていない。働かない頭のくせに体のだるさははっきりと認識させてくる。小さく吐き出したため息でさえ熱を帯びていた。突っ伏した頭を上げる。見渡せる教室に勉学に励むクラスメイトたち。体調が悪いと碌なことが思い浮かばない。こんな日常に葉津希は嫌気がさしていた。自分の弱さもなにもかももう嫌だった。
「つまらない…」
熱を帯びた吐息と小さな小さな言葉が虚無に消えていった。
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