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しおりを挟む携帯の振動と着信音が葉津希を現実の世界へ引き戻す。葉津希は目を開けずにベッドを探り携帯を見つけると画面を見ずにそのまま通話ボタンを押した。
「…はい、」
『はぁちゃん?大丈夫?寝てた?』
「志津希、?」
声がかすれて上手く出ない。葉津希はようやく重い瞼をこじ開けた。電気の付いていない部屋は暗く自分が随分長く眠っていたことが分かった。
「寝てた…」
低い声が暗い部屋に消える。もう体は軽く寒気もない。もう熱は下がったらしかった。
『ごめんね、起こしちゃったね、』
「俺は大丈夫。だいぶ体楽になった…熱下がってる。」
『僕ももう下がったよ。』
どうやら今回はそこまで酷くならなかったらしい。眠い目を擦りながら体を持ち上げてベッドに座るとどこからかぽろんとあの保冷剤が落ちた。葉津希は握ったまま眠ってしまっていたようだ。葉津希は保冷剤を広い上げベッドサイドのテーブルに移動させる。手元に移った視界はそのまま写真立てを映し出した。笑う三つ子と春の姿見。ちくりと葉津希の心臓に針が刺さる。熱にと咲樹に侵されて働かなかった頭はクリアになり様々な問題を葉津希に突きつけた。
「…奈津希に連絡したか?、」
恐る恐る葉津希は口に出す。いつもはなんてことないし同じ家にいるから様子もすぐ分かる。でも今はこの世で1番志津希には聞きづらいことだった。
『今朝連絡した時は頭痛いって来てたから多分熱出たんじゃないかなぁ、この後連絡してみるけど…自分で聞いてみるのはどう?』
少し茶目っけのある声色。だけど葉津希の心には太い棘になって入り込む。葉津希は思わず黙り込んでしまう。部屋に掛けてある時計の秒針がやけにうるさく聞こえた。
『…はぁちゃん、ごめんね。意地悪した。』
申し訳なさそうに志津希は葉津希に謝る。葉津希は力なく首を振った。
「いや…俺が悪い、から。」
『ねぇ、はぁちゃん本当に大丈夫、?僕たちにも悩んでること、話せない?…僕もあんまり自分のこと話せないから無理に聞くつもりはないけど、心配してるよ。僕もなぁちゃんも。』
志津希が遠くにいる。その事実が今は辛くて仕方ない。物理的な距離だけではなく、志津希は葉津希のずっと上にいるような気がした。志津希が今の学校に入るために努力を弛まなかったのは1番近くで見てきた。ただ葉津希は志津希が躍起になっているのも分かっていた。なんとなくだが志津希は春の元から離れたかったのだと葉津希は憶測している。正しく言えば奈津希と春を見ているのが辛かったのだろうと。志津希は絶対に口にも態度にも出さなかった。絶対に悟らせないようにしていた。だからただの憶測でしかない。葉津希も自分からわざわざ掘り返しはしないし触れない。実際志津希は今、すっきりした表情になっているし数ヶ月前頻繁にあった不安も今は感じない。ルームメイトもいい人だと志津希の口から聞いている。なんであれ自分の道を自分で決めて歩いている志津希は葉津希にとって遠い存在に感じてしまう。葉津希は自分の悩みを言語化すらできないのだ。
『…はぁちゃん?、』
志津希の不安そうな声で葉津希ははっと意識を取り戻した。
「ごめん、志津希…漠然と不安で、怖くて。俺は弱いから言葉にもできなくて。奈津希に当たって…」
ただこの言葉にできない恐怖と渇きのようなものを苛つきと子供のような感情で1番近くにいた奈津希に当ててしまった。自己嫌悪が葉津希を襲う。ぐるぐるとあの日の苦しそうな表情の奈津希が巡る。息がしづらい。葉津希は自分を守るようにぎゅっと自分を抱きしめた。
『ごめんね、はぁちゃん。』
「志津希が謝ることじゃ、ない…」
『こういう時、そばにいれないのが辛いね。』
「そう、だな。」
志津希の優しい声がより一層、葉津希の胸を締め付けた。カチカチと時計の秒針は無慈悲に進む。
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