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しおりを挟む快晴が続いている。葉津希はビルの隙間から空を見上げた。寒空の下、いつくるかも本当にくるかもわからない人を葉津希は待ち続けている。体はもう本調子で冷たい空気がむしろ心地よく感じた。
「あ、」
控えめな声を葉津希は聞き逃さなかった。振り向くと驚いたように目を見開き茫然と立っている咲樹がいる。太陽に透ける茶色い前髪が風に揺れた。
「だい、じょうぶ?」
ぱたぱたと小走りで咲樹は葉津希に近づいてしゃがむ葉津希と目線を合わせた。ふわりと香水のような甘い香りが漂う。葉津希の心臓がどきりと掴まれた。
「かわいい…」
思わず口から溢れた言葉。葉津希ははっと口に手を当てた。
「葉津希くん?」
咲樹は聞こえなかったのか焦る葉津希を不思議そうに見ていた。葉津希は誤魔化すように首を振る。ガサガサと学生鞄を探りあの保冷剤を咲樹の手にぎゅっと握らせた。
「これ、…よかったのに、」
「本当に迷惑をかけました。咲樹さんがいて良かった。」
ふたりの手は重なったまま葉津希はまっすぐ咲樹を見つめる。関われば関わるほど咲樹はキラキラと輝いて見える。ただの店員と客以上の関わりがこの場所に存在していることが葉津希は嬉しくてたまらなかった。
「熱、下がった、?」
目尻を下げて笑う咲樹に葉津希は違和感を感じる。昨日あんなにもひんやりとしていた咲樹の手は熱く熱がこもっている。葉津希は思わず咲樹の額に手を当てた。
「熱っ、咲樹さん大丈夫ですか、!」
葉津希からの接触に驚いた咲樹はふわりと体勢を崩した。ぐっと手を引き寄せて葉津希は咲樹の体を支える。葉津希は焦りと罪悪感に苛まされる。
「だ、いじょうぶ…薬のめば、いいから、」
「は、?だめです。今から勤務ですよね?俺が家まで送ります。」
「え?う、…ちょ、はづ、きくんっ」
咲樹の肩を抱き葉津希は重い裏口の扉を開け放つ。咲樹の体は葉津希が思っているよりも弱っている。体に触れてやっと葉津希は理解した。もうひとつの扉を開けると都合よく中には店長がいた。
「え?、」
「勝手に入ってすいません。昨日はお世話になりました。」
深々と葉津希が頭を下げると店長は慌てて立ち上がる。
「安斎くん?!大丈夫?」
ぐったりと葉津希にもたれる咲樹に店長は目を見開いた。店長は咲樹を座っていたソファに誘導する。抱いていた体を丁寧に扱いながら葉津希は咲樹を支える。咲樹の体の熱はどんどん上がっていた。葉津希は眉を下げながら店長に借りていた保冷剤を手渡した。
「すいません。俺の熱が移ってしまったみたいで、…新しい保冷剤借りれますか?」
「もちろん!ちょっと待ってて!」
店長は葉津希に頷くと慌ててロッカールームから出て行った。葉津希は咲樹に向き直り改めて額に手を当てる。熱い体温が伝わる。葉津希は鞄から水のペットボトルを取り出した。
「咲樹さん、薬どこにある?」
「リュックの、ポケットの…ポーチ、」
指定された場所をあけると小さな黒いポーチにピルケースを見つける。葉津希は手に錠剤を出し咲樹に手渡した。ペットボトルのキャップを開けて咲樹の唇にあてがう。一口、二口と咲樹の喉に水が通って行った。ペットボトルを離すと咲樹ははっと息を吐き出した。辛そうに息をする咲樹に葉津希の胸がズキンと痛くなった。咲樹の頬に手を当てる。一度ぴくんと体を震わせると咲樹は不思議そうに葉津希の目を見つめた。潤んだ瞳と蒸気した頬。普段は冷静で冷めている葉津希の心臓が強く脈を打ち暴れ出した。
「…ふふ、。ほんと、葉津希くんの、手冷たくてきもちい…」
ふんわり微笑んだ咲樹は触れる葉津希の手を取った。
「ごめん、咲樹さん。」
「え、?、」
葉津希は咲樹の後頭部に手を回しぐっと引き寄せた。触れるだけのキス。葉津希は目を伏せながら咲樹の茶色い髪を優しく撫でる。固まった咲樹の体をほぐすように葉津希は優しく咲樹を抱き寄せた。
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