14 / 18
13
しおりを挟む軽い鉄製の玄関ドアがかちゃんと音を立てる。咲樹から預かった鍵を開けた葉津希は咲樹を支えながらドアをこじ開けた。そのまま傾れ込むようにふたりは玄関へ入る。玄関と部屋を隔てるドアは無く、そのまま廊下にキッチンが続き奥にベッドが見えた。
「大丈夫か?」
のろのろと靴を脱ぐ咲樹に声をかけると頷きはするものの咲樹の体は動かなかった。葉津希は少し考え込むと素早く自分の靴を脱ぎぐったりする咲樹の体をふわりと持ち上げる。男とは思えないほど、驚くぐらい咲樹は軽い。手首を掴んだときも細さに驚いたのをぼんやり思い出した。葉津希は疑問に思うもののぐったりする咲樹に意識を戻した。そっと割れ物を扱うように咲樹をベッドへ下ろす。
「ごめ、んね…」
ぽつりと呟く咲樹に葉津希は黙って首を振る。元は葉津希の熱だ。葉津希が看病をするべきだ。と自分のいいように解釈する。そうするように努める。こうして咲樹に触れることに言い訳をしていた。咲樹の上着を脱がせハンガーにかける。咲樹は体力が限界なのかそのままぱたんとベッドに倒れ込んだ。
「咲樹さん。辛いけど寝る前に服、着替えよう。どこにある?」
なるべく優しく肩を叩く。葉津希はすぐ効いた薬は咲樹はあまり効き目が良くないらしい。咲樹の体温は高いままで顔が赤く火照っている。
「洗濯の、棚のとこ…」
「わかった。取ってくるからこれ飲んで。」
辛そうな咲樹に罪悪感を感じながら体を起こし葉津希は咲樹にペットボトルを差し出した。咲樹が受け取って飲み始めたのを確認すると素早く水回りへ移動する。玄関横にある洗濯機の上にアルミの軽い棚が設置されていた。葉津希は綺麗に折り畳まれたスウェットを取って急いで咲樹の元へ戻る。咲樹は少しでも目を離すと消えてしまいそうなそんな危うさがあった。ペットボトルと交換でスウェットを受け取った咲樹はのろのろとシャツのボタンを開け着替え始めた。なんとなく気まずい葉津希は買い物袋を取ってキッチンに向かう。一口コンロに小さな背の低い冷蔵庫。咲樹のアパートはカフェに立つしゃんとした咲樹のイメージと少し離れていた。スポーツドリンク、パウチのお粥に冷えピタ、3つ繋がったりんご味のゼリー。咲樹のバイト先からの道中、薬局に寄って目についた風邪の看病に必要そうなものを片っ端から買い物カゴに詰めた。葉津希はふっと息を吐き出して自分の唇に指を這わせる。重なった唇の感覚が消えない。葉津希は首を振り冷えピタの箱を誤魔化すように雑に開けた。
「咲樹さん。これ貼ろう。体温下げないとな。」
スウェットに着替えた咲樹はぼーっとしながらベッドに座っている。少し大きいスウェットのシルエットが可愛くて仕方ない。葉津希は咲樹が抵抗しないことを良いことに額に触れシートを貼り付けた。冷たい感覚が不快なのか咲樹はぎゅっと強く目を瞑る。体温を確かめるように咲樹の首に触れる。
「まだ熱いな…。寝よう、咲樹さん。」
咲樹の体をそっと横たえて丁寧に布団をかける。咲樹は潤んだ目で葉津希を見上げていた。
「脱いだ服片付けたり買ったもの整理したりしてもいいか?いろいろ家のもの触ることになるけど、」
優しく呟くと咲樹は何も言わずふるふると首を横に振った。思わず葉津希の眉が歪む。
「駄目か…?」
「も、だいじょうぶ…ほんと、迷惑かけたく、ないから、」
「迷惑じゃない、迷惑じゃないから。看病させてほしい。咲樹さん。」
「は、づきくん…」
なんとなく葉津希が強く望んだことを咲樹が拒否できないのはわかっていた。ずるい考えを巡らせてでも葉津希は咲樹のそばにいたかった。ベッドの横に膝をついてぎゅっと咲樹の手を握る。
「わかった、から…見ないで、」
小さくつぶやいた咲樹は見つめる葉津希の顔を手で押した。そのまま背中を向けて布団に潜ってしまう。葉津希はふふっと声をあげて笑い、布団を優しく掛け直した。咲樹に拒否されなかったことに葉津希は心底安心した。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる