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しおりを挟む穏やかな咲樹の寝息を確認する。葉津希はほっと息をついた。
「…咲樹、さん…」
呟く名前は隙間風が入り込む寒い部屋へ溶ける。あれから泣き出してしまった咲樹を葉津希は抱きしめてずっと背中を撫でていた。咲樹は葉津希の助けようとする手を必ず一度は拒んだ。寄りかかる小さくて細い体を葉津希はもう一度確認するように抱きしめた。葉津希は咲樹の〝事情〟がどうも気になっている。必要最低限の生活空間。冷蔵庫にも食材はほとんどなかった。家具も家電も本当に最低限しかない。葉津希には引っかかることがあった。
『お客様。周りのお客様に迷惑になりますから、そのような行為はやめていただいてよろしいですか。』
ナンパ男たちに啖呵を切った咲樹と葉津希とふたりきりの時の咲樹にはあまりにもギャップがある。自信がなさげで話す言葉はひとつひとつ戸惑いを感じる。この言葉は言ってもいいのか、葉津希がどんな反応をするのか咲樹は確認しながら話している。葉津希は小さな肩を優しく撫でる。出会ったばかりのただの高校生だ。警戒も戸惑いも当たり前かもしれない。だけど葉津希はどこかでそれだけじゃないような気がしてならなかった。
「、ごめ、…ごめんなさいっ、…」
震える肩をぎゅっと抱く。夢の中で咲樹はずっと誰かに謝っている。帰ってきて眠った後も咲樹は震えて謝りながらうなされていた。本人はおそらくこのことに気づいていない。こんな様子じゃ普段からまともに眠れていないのだろう。咲樹はなにに謝りなにに苦しんでいるのか。自分はそこに踏み込んでもいいのか。葉津希にはわからない。ただ抱きしめて肩の震えがなくなるように撫で続けるしかない。
「咲樹さん。大丈夫、大丈夫…」
切望に近い言葉は本人に届くことはない。葉津希はそっと咲樹の体をベッドに寝かせ、優しく布団をかける。咲樹の頬に伝う涙を優しく拭った。咲樹に踏み込みたい気持ちが積もって山になっていく。葉津希は息吐き出して立ち上がった。ぱちんと部屋の電気を消すと月明かりだけが差し込む。なるべく音を立てないように全ての片付けを終わらせて行く。全て食べ切ったりんご味のゼリーのカップに少し安心した。ローテーブルに水とスポーツドリンク、コップと薬を念のために用意して葉津希は少し罪悪感を抱きながら咲樹のリュックに手を伸ばした。チャリンとひよこの形の鈴が鳴る。その幼さに葉津希は少し笑みが溢れた。
「また明日。咲樹さん。」
最後に葉津希は咲樹の頭を優しく撫でて軽い玄関のドアを開けた。
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