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追及~腹の探り合い~
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さて、ここからはブラフはったりなんでもありの、腹の探り合いの始まりだ。
リンデフランデ王まで動かしてギルドの正式な依頼として来てる以上は、それに見合った情報をきっちりと引き出さないといけない。
俺は密かに気合を入れなおした。
「まず聞きたいのは、昨日のルーデンス旅芸人一座で起こった事件についてだ」
「おや?昨日私が帰った後何かあったのですかな?」
しらっばくれやがって……。
俺は心の中で毒づきながらも、それを表情に出さないように我慢した。
「昨日あんたがあの仮設宿舎から出て行ったあと、一座の魔物が暴れ出したんだよ」
「ほう、そんなことがあったのですか」
「魔物には誰かが暴走させる魔法が掛けてたことが、俺の仲間の調べで判明してる」
「一座の誰かがそうしたのではないですか?」
「そんなことして得する人間があの一座にいるわけねえだろ?」
よくも悪びれもなくいけしゃあしゃあと言えたもんだ。
その開き直りっぷりには正直感心する。
「わかりませんよ?あの一座の中には座長に恨みを持つ人間の一人や二人いるかもしれないでしょう?」
「フリル?そんな奴あの一座にいるのか?」
「……一座にいるのはみんなおじじを慕って集まって来た人たち……おじじに恨みを持ってる人なんているわけがない」
「だそうだけど?」
「ふむ……なら別の誰かの仕業ではありませんかね?」
あくまでもしらを切るつもりみたいだ。
とはいえ俺もそんな簡単にこいつが口を割るだなんて思ってはいないので一旦この話題から離れよう。
「じゃあ話を変えるけど、お前さんはどうしてフリルを誘い込もうとしてるんだ?」
「フリルさんは新緑の歌姫として有名な方ですからね……ぜひ我が教団に入信していただいて教団のイメージアップに貢献していただきたく思いましてね」
「お前それ遠回しに「カルマ教団は周りのイメージが良くない」って自分から白状してるようなもんだぞ?わかってる?」
「ええ、ですからぜひともフリルさんを我が教団に入信させたいのですよ」
そう言ってロイがニッコリと笑った。
一見紳士スマイルだが、その裏でどす黒い何かがうごめいているのがよくわかる、見ていて不快になる類の笑顔だった。
「そのことと一座に遠回しに嫌がらせしてるのはなんか意味があるのか?」
「嫌がらせ……?」
「お前さんが引き込もうとしてる、俺の隣にいるこのフリルが、一座がこの国に来てから逐一この教団から嫌がらせ受けてるって俺に相談しに来たんだけど?」
「失礼ですが、なぜ我々だと思ったので?」
「……教団のワッペンつけた人が逃げていくのを何度か見かけた」
それが嘘か本当かはわからないが、もし事実ならアホなことこの上ないな。
「どうやら私のあずかり知らぬところで、教団の人間がそちらにご迷惑をおかけしたみたいですね」
「下のもんの失態は上のもんの責任だと思うけど?」
「そうですね……申し訳ありませんでした」
そういってロイが見るからに形だけの謝罪をしてきた。
相手の神経を逆なでするのが非常に上手なことで……多分わざとやってるんだろうが。
「自分のところに引き入れようとしてる相手の心情を悪くするようなことさせるとか、お前らの教団どうなってんだよ?」
「いやはや……お恥ずかしい限りで」
「そんで話変わるんだけど、お前さん「歌魔法」って知ってるか?」
「歌魔法……ですか?残念ながらご存じありませんね」
ロイの表情が一瞬だけピクリと動いたのを俺は見逃さなかった。
「本当に?ほんとーに知らないの?」
「今初めて聞いた単語ですね」
「へぇーそうか……んじゃとっととこの音楽止めてくれよ?ノイズが酷くてとても聞いてられねーんだよ」
「ノイズ?何の話ですか?」
「これこそしらばっくれんなって話だよ。この音楽に魔力がこもってんのはもうとっくにばれてんだよ。何かの洗脳系の魔法なんだろうけど、残念だが俺たちには効かないぜ?」
ロイが俺たちを2秒ほど見てから、机の引き出しを開けて何やら操作した後、音楽がぴたりと止んだ。
「……なぜお気づきになったので?」
「最初に気が付いたのはフリルだ。さっきの音楽にノイズが乗ってるって教えてくれたんだよ」
「……」
「お前さんさっき歌魔法のこと知らないって言ったよな?それならなぜさっきの音楽に魔力を込めてたんだ?それは歌魔法のことを知ってるからできることじゃないのか?」
俺の指摘に、ロイが深くため息を吐いた。
「ご明察の通りさっきの音楽は聴いている人間の意志を希薄にさせて、判断力を低下させるものですよ。あなたたちの意志が思いのほかはっきりしていたので少しばかりおかしいと思っていましたが……まさか気が付いているとはね」
「もうしらを切るつもりも、隠す気もないのかよ?」
「さっきの音楽が君たちに効かない上に、それを看破されている以上、もはや適当な説明でうむやむにすることはできそうにありませんからね」
開き直ったってわけか……それならそれでこちらにとっても好都合だ。
「ちなみに音楽に含まれていたノイズですが、精神に浸食する魔法を身体がレジストする際にそれがノイズとして発生しているんですよ」
「そんなことまで教えてくれるわけ?」
「それとこの疑似歌魔法の音楽を鳴らす機械を作ったのはスチカ=リコレット嬢と言って……」
「そういうどうでもいい話で煙に巻こうとするのやめようぜ?こっちは本当のこととお前らが何を企んでるのかの二つにしか興味ねーからな?」
しかしその機械を作れるらしいスチカという人の名前は覚えておいてもよさそうだ。
いつか出会うことがあったらぜひとも色々と話を聞いてみたいもんだ。
「……それで?あなたの聞きたいこととは?」
「最初の話題に戻るけど、一座の魔物に細工したのお前さんなんだろ?」
「ええ、そうですよ」
先ほどとは違いあっさりと認めて、すこしばかり拍子抜けした。
「しかしまさか30分もしないうちに事態を鎮静化されるとは思いませんでしたよ」
「憲兵団が騒ぎを聞きつけて、あわよくば一座の解散まで追い込もうとしたんだろうが、当てが外れて残念だったな?」
「そうですね、あの場にエナさんもいたようですし、まさに当てが外れましたよ。エナさんならあの魔法も解除できるでしょうしね」
こいつエナのこと知ってるのか?
そういえばエナもこいつを見た時険しい表情してたな……後で確認する必要があるな。
「何でエナのことを知ってるのかはこの際聞かないでおいてやるけど……なんでフリルを狙ってる?教団のイメージアップの為とか勿論嘘なんだろ?」
「ええ、勿論嘘ですよ」
「やっぱり歌魔法が狙いなのか?もしかして歌魔法を使ってこの国の神獣の封印を解こうとか考えてんじゃねーだろうな?」
俺がそう言った途端、ロイがなにやら感心したような表情になった。
「いやはやそこまで発想を巡らせているとは!少しばかりあなたを見くびってましたが、これは考えを改めないといけませんね」
「お前さんの俺への評価なんてどうでもいいよ」
「くくく……あなたは面白い人だ!これは予想なんですがあなたとは多分長い付き合いになりそうですね!」
女の子ならともかく、お前みたいな何考えてるかわかんないキザ男と長い付き合いになるなんて死んでも御免だ。
「その通りですよ。我々……いえ私の目的はフリルさんの歌魔法を使いこの国に封じられている神獣をよみがえらせることです」
飛躍した予想だと思っていたが、まさかドンピシャとは……。
「お前さ、さっきから色んな事ベラベラ喋ってるけど、俺がギルドの……引いては国からの依頼で内部調査に来てるってこと忘れてないか?」
「存じておりますよ?教団的には不利になるでしょうが、はっきり言って私個人には関係のないことですからね」
何言ってんだこいつ?
教団が不利になる=支部長である自分も不利になることじゃないのか?
「言ってしまえばこの支部は私が自由に動く為のいわば隠れ蓑みたいなものですよ。私の目的さえ達成できればこの支部なんて私には用済みですから」
なんかとんでもないことを言い出したぞこいつ。
追い詰められてやけになってるわけではなさそうだし、本当にこの支部がどうなろうと知ったことじゃないってことなのか?
「とても支部長のセリフとは思えないな」
「この支部が潰されたところで私にとっては痛くもかゆくもありませんからね」
そう言ってロイが「くくく」と笑う。
その笑いに底知れぬ『何か』を感じ、俺の背中に悪寒が走った。
「どうせこの支部はあなたのおかげで近いうちにこの国の騎士団あたりに潰されるでしょうが……私的にはただで潰されるわけにはいきません」
ロイが立ち上がり部屋の窓へと歩いて行く。
「一つ私とゲームをしましょう……なに、簡単なことですよ?私はこの国の神獣の封印を解きますので、あなたたちはそれを全力で阻止して下さい」
「はっ?何言ってんだお前は?」
「今日のところはあの手紙に免じてあなたたちに手は出しません。なので明日からですね。明日からゲームを開始します」
ロイがこちらを身体ごと大げさに振り返り、両手を広げて楽しそうに……まるで子供のような無邪気な笑顔で言葉を続ける。
「私はどんな手を使ってでも神獣の封印を解きますから、あなた方もどんな手を使っても構いません……私を止めてみてください!」
「そんなくだらねーことに付き合うわけないだろ?」
「付き合ってもらうしかありませんよ?さもなくば私はあなたたちを無事にこの部屋から出すつもりはありませんから?」
そう言ってロイの表情が冷たいものに変わる。
「ひとついいことを教えましょうか?私があなたたちに手を出さないのはあの手紙のおかげです。あれがなかったら速攻であなたを殺してフリルさんに洗脳魔法を掛けて、神獣の封印を解きに行ってるところです」
多分その言葉に嘘はないだろう……こいつはその気になれば誰にも知られることなく、この場で瞬時に俺を始末できるんだ。
ただあの手紙があったから……たったそれだけの理由でこいつは俺を殺さないようにしてるだけなのだろう……ゲーム感覚かよ恐れ入るぜ。
「それと……このままゲームを始めてしまっては私がちょっと不利ですからね……立場を対等にするために少しばかりハンデを背負ってもらいましょうか?」
「ハンデだと?」
俺が聞き返したその刹那、ロイの身体から目視できるほどの魔力があふれ出てきた。
やばい!こいつ何する気だ!?
「そんなに身構えないでくださいよ、別に殺すつもりではありませんから。ちょっとだけ忘れてもらうだけですよ?」
「なにをだ!?」
「ゲームのことをですよ」
受付嬢に見送られて俺とフリルは教団を後にした。
「適当なことを言ってのらりくらりとかわされたな……でもあの支部長が犯人だってことは確信が持てた」
俺の言葉にフリルが小さく頷いた。
だが確固たる証言を得られたわけじゃないからな……もう少し確実な証拠というか証言みたいなものを得られないとギルドには報告できないな。
「よし、とりあえずエナたちと合流しよう。疲れてないか、フリル?」
「……大丈夫」
「それじゃあ歴史資料館に行くか」
そうして俺たちは、エナとテレアと合流するために歴史資料館に向けて歩き出したのだった。
リンデフランデ王まで動かしてギルドの正式な依頼として来てる以上は、それに見合った情報をきっちりと引き出さないといけない。
俺は密かに気合を入れなおした。
「まず聞きたいのは、昨日のルーデンス旅芸人一座で起こった事件についてだ」
「おや?昨日私が帰った後何かあったのですかな?」
しらっばくれやがって……。
俺は心の中で毒づきながらも、それを表情に出さないように我慢した。
「昨日あんたがあの仮設宿舎から出て行ったあと、一座の魔物が暴れ出したんだよ」
「ほう、そんなことがあったのですか」
「魔物には誰かが暴走させる魔法が掛けてたことが、俺の仲間の調べで判明してる」
「一座の誰かがそうしたのではないですか?」
「そんなことして得する人間があの一座にいるわけねえだろ?」
よくも悪びれもなくいけしゃあしゃあと言えたもんだ。
その開き直りっぷりには正直感心する。
「わかりませんよ?あの一座の中には座長に恨みを持つ人間の一人や二人いるかもしれないでしょう?」
「フリル?そんな奴あの一座にいるのか?」
「……一座にいるのはみんなおじじを慕って集まって来た人たち……おじじに恨みを持ってる人なんているわけがない」
「だそうだけど?」
「ふむ……なら別の誰かの仕業ではありませんかね?」
あくまでもしらを切るつもりみたいだ。
とはいえ俺もそんな簡単にこいつが口を割るだなんて思ってはいないので一旦この話題から離れよう。
「じゃあ話を変えるけど、お前さんはどうしてフリルを誘い込もうとしてるんだ?」
「フリルさんは新緑の歌姫として有名な方ですからね……ぜひ我が教団に入信していただいて教団のイメージアップに貢献していただきたく思いましてね」
「お前それ遠回しに「カルマ教団は周りのイメージが良くない」って自分から白状してるようなもんだぞ?わかってる?」
「ええ、ですからぜひともフリルさんを我が教団に入信させたいのですよ」
そう言ってロイがニッコリと笑った。
一見紳士スマイルだが、その裏でどす黒い何かがうごめいているのがよくわかる、見ていて不快になる類の笑顔だった。
「そのことと一座に遠回しに嫌がらせしてるのはなんか意味があるのか?」
「嫌がらせ……?」
「お前さんが引き込もうとしてる、俺の隣にいるこのフリルが、一座がこの国に来てから逐一この教団から嫌がらせ受けてるって俺に相談しに来たんだけど?」
「失礼ですが、なぜ我々だと思ったので?」
「……教団のワッペンつけた人が逃げていくのを何度か見かけた」
それが嘘か本当かはわからないが、もし事実ならアホなことこの上ないな。
「どうやら私のあずかり知らぬところで、教団の人間がそちらにご迷惑をおかけしたみたいですね」
「下のもんの失態は上のもんの責任だと思うけど?」
「そうですね……申し訳ありませんでした」
そういってロイが見るからに形だけの謝罪をしてきた。
相手の神経を逆なでするのが非常に上手なことで……多分わざとやってるんだろうが。
「自分のところに引き入れようとしてる相手の心情を悪くするようなことさせるとか、お前らの教団どうなってんだよ?」
「いやはや……お恥ずかしい限りで」
「そんで話変わるんだけど、お前さん「歌魔法」って知ってるか?」
「歌魔法……ですか?残念ながらご存じありませんね」
ロイの表情が一瞬だけピクリと動いたのを俺は見逃さなかった。
「本当に?ほんとーに知らないの?」
「今初めて聞いた単語ですね」
「へぇーそうか……んじゃとっととこの音楽止めてくれよ?ノイズが酷くてとても聞いてられねーんだよ」
「ノイズ?何の話ですか?」
「これこそしらばっくれんなって話だよ。この音楽に魔力がこもってんのはもうとっくにばれてんだよ。何かの洗脳系の魔法なんだろうけど、残念だが俺たちには効かないぜ?」
ロイが俺たちを2秒ほど見てから、机の引き出しを開けて何やら操作した後、音楽がぴたりと止んだ。
「……なぜお気づきになったので?」
「最初に気が付いたのはフリルだ。さっきの音楽にノイズが乗ってるって教えてくれたんだよ」
「……」
「お前さんさっき歌魔法のこと知らないって言ったよな?それならなぜさっきの音楽に魔力を込めてたんだ?それは歌魔法のことを知ってるからできることじゃないのか?」
俺の指摘に、ロイが深くため息を吐いた。
「ご明察の通りさっきの音楽は聴いている人間の意志を希薄にさせて、判断力を低下させるものですよ。あなたたちの意志が思いのほかはっきりしていたので少しばかりおかしいと思っていましたが……まさか気が付いているとはね」
「もうしらを切るつもりも、隠す気もないのかよ?」
「さっきの音楽が君たちに効かない上に、それを看破されている以上、もはや適当な説明でうむやむにすることはできそうにありませんからね」
開き直ったってわけか……それならそれでこちらにとっても好都合だ。
「ちなみに音楽に含まれていたノイズですが、精神に浸食する魔法を身体がレジストする際にそれがノイズとして発生しているんですよ」
「そんなことまで教えてくれるわけ?」
「それとこの疑似歌魔法の音楽を鳴らす機械を作ったのはスチカ=リコレット嬢と言って……」
「そういうどうでもいい話で煙に巻こうとするのやめようぜ?こっちは本当のこととお前らが何を企んでるのかの二つにしか興味ねーからな?」
しかしその機械を作れるらしいスチカという人の名前は覚えておいてもよさそうだ。
いつか出会うことがあったらぜひとも色々と話を聞いてみたいもんだ。
「……それで?あなたの聞きたいこととは?」
「最初の話題に戻るけど、一座の魔物に細工したのお前さんなんだろ?」
「ええ、そうですよ」
先ほどとは違いあっさりと認めて、すこしばかり拍子抜けした。
「しかしまさか30分もしないうちに事態を鎮静化されるとは思いませんでしたよ」
「憲兵団が騒ぎを聞きつけて、あわよくば一座の解散まで追い込もうとしたんだろうが、当てが外れて残念だったな?」
「そうですね、あの場にエナさんもいたようですし、まさに当てが外れましたよ。エナさんならあの魔法も解除できるでしょうしね」
こいつエナのこと知ってるのか?
そういえばエナもこいつを見た時険しい表情してたな……後で確認する必要があるな。
「何でエナのことを知ってるのかはこの際聞かないでおいてやるけど……なんでフリルを狙ってる?教団のイメージアップの為とか勿論嘘なんだろ?」
「ええ、勿論嘘ですよ」
「やっぱり歌魔法が狙いなのか?もしかして歌魔法を使ってこの国の神獣の封印を解こうとか考えてんじゃねーだろうな?」
俺がそう言った途端、ロイがなにやら感心したような表情になった。
「いやはやそこまで発想を巡らせているとは!少しばかりあなたを見くびってましたが、これは考えを改めないといけませんね」
「お前さんの俺への評価なんてどうでもいいよ」
「くくく……あなたは面白い人だ!これは予想なんですがあなたとは多分長い付き合いになりそうですね!」
女の子ならともかく、お前みたいな何考えてるかわかんないキザ男と長い付き合いになるなんて死んでも御免だ。
「その通りですよ。我々……いえ私の目的はフリルさんの歌魔法を使いこの国に封じられている神獣をよみがえらせることです」
飛躍した予想だと思っていたが、まさかドンピシャとは……。
「お前さ、さっきから色んな事ベラベラ喋ってるけど、俺がギルドの……引いては国からの依頼で内部調査に来てるってこと忘れてないか?」
「存じておりますよ?教団的には不利になるでしょうが、はっきり言って私個人には関係のないことですからね」
何言ってんだこいつ?
教団が不利になる=支部長である自分も不利になることじゃないのか?
「言ってしまえばこの支部は私が自由に動く為のいわば隠れ蓑みたいなものですよ。私の目的さえ達成できればこの支部なんて私には用済みですから」
なんかとんでもないことを言い出したぞこいつ。
追い詰められてやけになってるわけではなさそうだし、本当にこの支部がどうなろうと知ったことじゃないってことなのか?
「とても支部長のセリフとは思えないな」
「この支部が潰されたところで私にとっては痛くもかゆくもありませんからね」
そう言ってロイが「くくく」と笑う。
その笑いに底知れぬ『何か』を感じ、俺の背中に悪寒が走った。
「どうせこの支部はあなたのおかげで近いうちにこの国の騎士団あたりに潰されるでしょうが……私的にはただで潰されるわけにはいきません」
ロイが立ち上がり部屋の窓へと歩いて行く。
「一つ私とゲームをしましょう……なに、簡単なことですよ?私はこの国の神獣の封印を解きますので、あなたたちはそれを全力で阻止して下さい」
「はっ?何言ってんだお前は?」
「今日のところはあの手紙に免じてあなたたちに手は出しません。なので明日からですね。明日からゲームを開始します」
ロイがこちらを身体ごと大げさに振り返り、両手を広げて楽しそうに……まるで子供のような無邪気な笑顔で言葉を続ける。
「私はどんな手を使ってでも神獣の封印を解きますから、あなた方もどんな手を使っても構いません……私を止めてみてください!」
「そんなくだらねーことに付き合うわけないだろ?」
「付き合ってもらうしかありませんよ?さもなくば私はあなたたちを無事にこの部屋から出すつもりはありませんから?」
そう言ってロイの表情が冷たいものに変わる。
「ひとついいことを教えましょうか?私があなたたちに手を出さないのはあの手紙のおかげです。あれがなかったら速攻であなたを殺してフリルさんに洗脳魔法を掛けて、神獣の封印を解きに行ってるところです」
多分その言葉に嘘はないだろう……こいつはその気になれば誰にも知られることなく、この場で瞬時に俺を始末できるんだ。
ただあの手紙があったから……たったそれだけの理由でこいつは俺を殺さないようにしてるだけなのだろう……ゲーム感覚かよ恐れ入るぜ。
「それと……このままゲームを始めてしまっては私がちょっと不利ですからね……立場を対等にするために少しばかりハンデを背負ってもらいましょうか?」
「ハンデだと?」
俺が聞き返したその刹那、ロイの身体から目視できるほどの魔力があふれ出てきた。
やばい!こいつ何する気だ!?
「そんなに身構えないでくださいよ、別に殺すつもりではありませんから。ちょっとだけ忘れてもらうだけですよ?」
「なにをだ!?」
「ゲームのことをですよ」
受付嬢に見送られて俺とフリルは教団を後にした。
「適当なことを言ってのらりくらりとかわされたな……でもあの支部長が犯人だってことは確信が持てた」
俺の言葉にフリルが小さく頷いた。
だが確固たる証言を得られたわけじゃないからな……もう少し確実な証拠というか証言みたいなものを得られないとギルドには報告できないな。
「よし、とりあえずエナたちと合流しよう。疲れてないか、フリル?」
「……大丈夫」
「それじゃあ歴史資料館に行くか」
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