無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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帰宅~捻じ曲がる過去の伝説~

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 カルマ教団リンデフランデ支部から歩くこと30分。
 俺とフリルの二人はこの国の歴史資料館へとやってきた。
 中はシーンと静まり返っていて、この国の歴史を写真に収めたパネルや歴史的遺物の飾られたショーケースなどが規則正しく並べられており、それを見学している人がちらほらといた。
 パッと見た感じそんなに人はいないみたいだな。
 というかこの世界にも写真ってあるんだな?
 しかし図書館といい、こういう空間は声を出してはいけないという空気が蔓延してるせいで、妙な息苦しさを感じてしまうので少し苦手だ。

「エナとテレアはどこにいるんだろうな?」
「……二階に本とかそういうコーナーがあるからそこかも」

 それならということで、俺たちは二階へと階段で上がっていく。
 二階はフリルの言った通りちょっとした図書館のようにたくさんの本棚がこれまた規則正しく並べられていた。
 この国ひとつだけでこんなに本棚使うほど資料なんてあるもんなのかな?
 とはいえエナ曰く「歴史が長い国」らしいので俺の想像以上に沢山の資料があるんだろう。
 声を出して二人を探そうと思ったが、場所が場所だけに大声を出すわけには行かず、フリルと二人で地道に探そうと足を踏み出したところで、テーブルとイスの置かれた読書スペースにて沢山の資料と睨めっこしてるエナとテレアを見つけることができた。

「……あっ、お兄ちゃんとフリルお姉ちゃん」
「えっ?」

 テレアが俺たちを目ざとく見つけて、エナがそれに続く。

「おまたせー、そっちの首尾はどう?」
「まあぼちぼちですね……それにしても二人とも大丈夫でしたか?何も変なことされてませんか!?」

 エナが心配そうな目で俺とフリルを交互に見る。
 相手が相手だけに、エナも相当心配してたのだろうということが、その行動から見て取れる。

「心配かけて悪かったな、この通り全然大丈夫だ」
「……平気へっちゃら」

 俺はテレアへと近づいていき、沢山の資料と睨めっこして若干疲れ気味になってる様子のテレアの頭を優しくなでてあげる。

「テレアもお疲れさん、何かわかったか?」
「うん!エナお姉ちゃんと頑張って調べて、色々わかったよ」

 にっこりと笑うテレアの頭を「偉いぞ~」とか言いながらさらに撫でてあげると、頬を赤くしながらも少し困ったような表情をしだす。

「前から思ってましたけど、シューイチさんってテレアちゃんに激甘ですよね?」
「そうか?これでも結構厳しくしてるぞ?」

 言いながらもテレアの頭を撫でることをやめない俺をエナが冷たい目で見てくる。

「どの口がそんなことを……」
「……シューイチ、どうやらエナっちもなでなでをご所望の様子」
「なんだそうだったのか?よしそこで待ってろ、俺の超絶テクでなんかもうよくわかんないテロンテロン状態にしてやるから」
「なんでそうなるんですか!?ちょっ、手をワキワキさせながら近づいてこないでください!!なんかいやらしいです!!」

 「ごほんっ!!」

「「あっ」」

 周りから露骨な咳払いが聞こえてきて俺たちは口にチャックする。
 人が少ないとはいえ、いないわけではなかったことをすっかり失念してしまっていた。

「……二人とももっと真面目にやるべき」
「「どの口がそんなことを……」」

 我関せずといつの間にかテーブルについて資料と睨めっこしていたフリルがあきれ顔でそう言った。
 お前ほんといい性格してるよ……。


「そうですか……やはりあまり有力な情報は得られませんでしたか」
「ああ、でもここ一連の一座関連の事件は全部教団とあの男の仕業だってのには確信持てたから、それだけでも収穫かな?」

 元々そこまで重要な情報を得られるとも思ってなかったしな。
 せいぜい俺の予想の裏付けが出来ればそれで充分だと思ってたわけだし。

「連中の狙いはやっぱり歌魔法だと思う。施設の中で歌魔法の原理を応用してるんじゃないかっていう洗脳音楽みたいの流れてたし」
「……なんかノイズが乗ってて不快な曲だった」
「ノイズですか……それ多分音楽に含まれる洗脳魔法をレジストするさいにノイズという形で現れたんだと思います」
「魔力を活性化させることで俺にも聞こえたのはそういうことだったのか……」
「ちゃんと体内の魔力がその魔法をレジストしてたっていう証拠みたいなものですから、安心していいですよ」

 エナがそう言うのなら大丈夫なんだろう。

「しかしあのロイ=マフロフですか……やっぱり見間違いじゃなかったんですね」
「エナはあの男と知り合いなのか?」
「昔ちょっと……この話とてつもなく長くなるんで今は割愛しますけど、あの男は態度こそ紳士的ですがその本性は狡猾で残忍ですから気を付けてくださいね?」

 うん、それはもう十分に堪能してきた。
 今後もあの男に対しては一切の油断をしない方がよさそうだ。

「そんでそっちはどう?」
「お兄ちゃんが予想してた感じだったよ」

 俺の言葉にテレアが答える。

「やっぱり昔に神獣が暴れた時、この国の人たちが封印したみたい」
「どうやって封印したのかわかるか?」
「えっと……色々と諸説があって……生贄とか核である角を切り落として封印したとか……あと魔法でーとか」

 見事に情報がとっちらかってるな。
 まあ過去の伝説とかそういうのって、確認のしようもないし口伝でどんどん形を変えてく物だしな。

「歌魔法で封印したという記述もあるにはありましたが、どうにも信憑性にかけるんですよねぇ」
「多分だけど、封印した方法ってのはこの際あまり重要じゃないと思うんだよね」

 俺の言葉にエナとテレアが俺を見ながら耳を傾けてくる。

「要は封印を解く方法が重要なんだよ。そして今日教団に行くことで確信を持てたことだけど、やっぱり連中が狙ってるのはフリルの歌魔法なんだ」
「でも教団が神獣の復活を目論んでるという確証自体は得られなかったんですよね?」
「そうなんだけどね、でも神獣復活を目論んでるという線で予想していってもいいと思う。あの教団……引いてはあのロイを見ててそう確信した」

 エナが俺から目を逸らし「たしかにあの男なら……」と呟いた。
 よほどの因縁がエナとあの男の間にあるんだろうなぁ……さすがに今ここでそれを聞く気にはなれないが。

「じゃあ調べる方向性を変えようか!歌魔法にどんな種類があるのかってのにさ」
「魔法のことならエナお姉ちゃんが詳しいんじゃないかな?」

 テレアの言葉を受けてエナが若干申し訳なさそうな顔をする。

「ごめんなさい、歌魔法については存在や原理を知ってるだけでどんな物があるのかは全然知らないんですよ……」
「そうなのか……それなら仕方ないし、じゃあ魔法のことについて調べられるとこに行ってみよう」
「……ごめんみんな」

 俺がそう言って席を立とうとしたところ、突然フリルが手を挙げて俺たちを制止する。

「……そろそろ一座に帰らないといけない」
「そういやお前さん、誰にも何も言わずに俺のとこに来たって朝言ってたよな」

 歌魔法のことを調べに行く前にルーデンスさんのところによる必要が出来てしまった。


「お・ま・え・と・い・う・や・つ・は・!」
「……痛い痛い痛い」

 一座の仮設宿舎にフリルを送り届けに来た途端、たまたま宿舎前で剣の素振りをしていたラフタさんと遭遇してしまい、フリルがおでこぐりぐりの刑に処されてしまった。

「やーすまないね!またフリルが迷惑をかけたみたいでさ」
「いやそれは別に気にしてないんで、そろそろ解放してやってください」

 俺がそう言うと、ラフタさんがパッと手を離し解放されたフリルが、テレアの後ろに隠れた。

「……テレアあの妖怪筋肉ゴリラをやっつけて。……テレアの得意の空手を見せてやって」
「テレアが使うのは空手じゃないんだけど……」

 あまりツッコミが得意でないテレアが、見当違いの方向にツッコミを入れていた。
 つーか筋肉ゴリラってお前……。

「それにしてもラフタさん剣なんて使うんですか?」
「ああ、アタシは元々衛兵上がりでね!いつだったかこの一座の公演を見る機会があってさ、その時の感動が忘れられなくて、その数日後に衛兵やめて押し掛ける形でこの一座に入団したんだよ」

 随分アクロバティックな経歴をお持ちなことで。

「そうだ、座長さんに会いたいんですけど、今大丈夫ですかね?」
「座長に?問題ないと思うけど何か大事な話でもあるのかい?」
「ついでだしラフタさんにも聞いてもらった方がいいかもしれませんね」

 エナがそう提案し、俺もそれに頷いた。

「なんだい?穏やかじゃないね?……もしかして昨日の件と何か関係ある?」
「ご明察……案内してもらってもいいですかね?」
「いいよ、どうせ今日は公演ないし練習も休みだから時間ならあるしね」

 そうして俺たちはラフタさんの後に続く形でルーデンスさんの部屋へと赴くのだった。


「……そうか」

 早朝にフリルが俺のもとに助けを求めに来たこと、二人で教団に足を運びロイと直接話をしてきたこと、そして連中がフリルを狙う理由が歌魔法であることを説明すると、ルーデンスさんはそう言って目を閉じてため息を吐く。

「フリルが迷惑をかけたようだね」
「いえそれはいいんですよ、どの道俺も放ってはおけませんでしたし」
「お前さん方も大概お人よしじゃのう……せっかく儂が気を利かせたというのに」
「すいません」

 エナが謝ると、ルーデンスさんがケタケタと笑いだす。

「いいんじゃよ、若者が年寄りの話をまともに聞かないのはいつの時代も同じじゃて。フリルも儂の言うことなど聞きゃあしないからのう」
「……そんなことはない」

 笑うルーデンスさんを、ふくれっ面なフリルが咎める。
 なんとなくだけど、その二人のやり取りだけで普段の二人がどんな様子なのかが手に取るようにわかってしまった。

「それで、お前さん方はこれからどうするのかね?そして儂らはどうしたらよいのかの?」
「今回の件で狙われているのはさっきも説明した通りフリルなんですよ。だからフリルを守ることが俺たちの共通目的ですね」

 フリルが奴らの手に渡った場合、恐らくあのロイという男は絶対に神獣の封印を解きに行くはずだ。
 それだけは何としてでも避けなければいけない。
 最悪神獣が復活したとして、俺の全裸になったら無敵になる能力なら何とかなるんじゃないかと思ったりもしたが、さすがに神と名の付く獣には太刀打ちできないだろうなぁ……やってみないとわからないけど、試したくもないし。

「できることなら公演自体取りやめてもらいたいところなんですが……」
「申し訳ないがそれはちと無理じゃ……ここの土地代金を公演料から支払うことになっておってな……規定回数の公演をしないとそれを払えんのじゃよ」

 なんとも世知辛い事情を知ってしまった。
 とはいえそれじゃあ公演をやめるわけには行かないよなぁ……いくら解散することが決まっていてもそういうところはきっちりしてこそだしな。

 結局その日は碌な案が出ず、「フリルの守りを厳重にする」ということくらいしかないと結論付け、解散する運びとなったのだった。
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