無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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記憶~精神攻撃~

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 それは翌日のことだった。

「……シューイチ!」

 時間にしてお昼前頃、俺の宿屋の自室に全員で集まり一座のところに向かおうと話をしていたところ、驚いたことにあの冷静なフリルが血相を変えて飛び込んできたのだ。

「どうしたんだフリル?今ちょうど一座に行こうと……」
「……ダックスが……ダックスが」

 ダックス?
 確か一座にいるフリルと同年代っぽいあの男の子ことか。

「落ち着いてくださいフリルちゃん!ダックス君がどうかしたんですか?」

 よほど急いできたんだろう、肩で息をして額に汗を滲ませたフリルを、エナが汗をハンカチで拭いながら落ち着かせていく。
 テレアもあまりの急な事態にオロオロしている。

「……ダックスが襲われて怪我した」
「襲われた……って、誰に!?」
「……わからない……一緒にいたラフタが戦って撃退したらしいけど……」

 そりゃフリルが血相変えて飛び込んでくるわけだ。
 まさかの事態に、実際俺も表には出さないようにしてるが結構動揺してる。

「とりあえず二人に会わせてくれ、詳しい話を聞かないと」

 俺の言葉にフリルが頷いた。
 そうして俺たちは準備もそこそこに一座の仮設宿舎へと向かうことになった。



「フリルは大げさなんだよ!ちょっとビックリして足捻っただけなんだから!」
 仮設宿舎に辿り着くと、そこには足首に包帯を巻いたダックスがいたのだが……。

「襲われたなんてフリルが言うから、びっくりしたぞ」

 思ってたよりも元気そうで安心した。
 そばについていたラフタさんがこっちに気が付いて、俺の前にやってきた。
 相変わらず大柄な人なので威圧感が半端ない。

「悪いね、止めるのを聞かずにフリルが飛び出して行っちゃってさ」
「いえ、大変なことになってなくて良かった……とは言えないよな……」

 捻挫とはいえ襲われて怪我をしているのは事実なのだ。

「ダックスと一緒に昼飯の材料を買いに行って、その帰りに人通りの少ない道通ってったら急に囲まれてさ」
「襲ってきた奴らの特徴とか覚えてますか?」
「顔を隠してたからねぇ……そこそこ戦える奴らだったけど、アタシに敵わないとわかった途端あっという間に逃げられちまったよ」

 奴らってことは複数人か。
 ……まさかとは思うけど、あのズッコケ三人組じゃあるまいな?
 しかし複数人の奴らに敵わないと思わせるってことは、ラフタさんはかなりの手練れなんだろうなぁ。
 ふとフリルを見ると、ダックスの傍に寄り添って申し訳なさそうな顔をしていた。

「……ごめん、私のせいで」
「なに言ってんだよ!フリルのせいじゃないって!」

 ダックスは笑いながら返すものの、フリルの表情は晴れないままだ。
 俺でさえ、巻き込んでしまったことでかなりの罪悪感を感じてしまっているんだ。
 狙われている当事者であるフリルの感じる罪悪感は、俺の比じゃないはずだ。
 しかしなぜダックスを狙った?奴らの目的はフリルの歌魔法のはずだろ?ダックスは関係ないじゃないか。
 いや……関係ないから狙われたのか。
 
「ラフタさん、ちょっと話があるんですが」
「ああいいよ、座長のところに行くかい?」

 さすが、察しが早くて助かる。
 ヤクトさんが前に「君は察しが早くて助かる」と言っていたが、こういうことなんだなと思った。

「俺たちはちょっと座長さんと話をしてくるから、テレアはフリルと一緒にダックスの傍についててあげてくれないか?」
「うん……」

 俺の言葉に、テレアが神妙な顔で頷いた。
 万が一にもないとは思うが、今この場を襲撃されてもテレアがいればなんとかなるはずだ。
 まあそれ以上に、フリルのことを見ててあげてほしいってのがあるんだけどな。

 ラフタさんに連れられて、もう何度目かのルーデンスさんの部屋へとやってきた。

「……話はラフタから聞いておるよ」
「すいません、俺たちが首を突っ込んでしまったばかりに」

 俺はルーデンスさんに頭を下げる。
 正直土下座したっていいくらいの心境だ。

「顔を上げなさい、儂はおろかそこのラフタや当のダックスですらお前さんのせいだとは思っとらんよ」

 その言葉を受けて顔を上げるものの、俺の中の罪悪感が晴れることはない。
 ……フリルも今、こんな心境なのかもしれないな。

「儂らも完全に油断しとった……フリルさえ守っておればなんとかなると、思っておったんだからな」

 ルーデンスさんのその判断は実のところ間違ってはない、そうすることで物理的にはフリルを守れるのだから。
 だが実際に襲われたのはフリルではなくダックスだ。
 なぜ関係ないダックスを……と考えたが、俺はすでに一つの結論に辿り着いてた。

「ダックスが襲われたのは、多分こちらの……フリルの動揺を誘うためだと思います」
「……そうであろうな……」

 いわゆる一つの精神攻撃だ。
 多分これはダックスじゃなくても良かったんだろう。
 身近な人間を傷つけることで、フリルを精神的に動揺させる。
 しかも「次は自分かもしれないと」思わせることで、一座全体に不安感を植え付けられて、一石二鳥ってわけだ。
 あまりに理に適った作戦に、思わず感心して反吐が出そうになる。
 誰が考えた作戦だこれは、ぶん殴ってやるから今すぐその面見せに来い。

「恐らくこれで終わりではないと思います」

 俺が口を閉じてしまっていたので、エナが俺の考えてることを代弁してくれた。

「フリルちゃんは勿論ですが、今後は一座のみんなや、コックルちゃんやピースケちゃんといった檻にいる魔物たちも見ていてあげないといけないですね」
「チクショウあいつら、卑怯な真似しやがって!」

 自身の掌に拳をぶつけながら、ラフタさんが怒りをあらわにする。

「やはり公演をやめるわけには……?」
「すまんのう……やはりそれは無理じゃ」

 このままでは一座の公演を教団の奴らに滅茶滅茶にされる恐れもある。
 もしそんなことになってしまったら、今でさえ罪悪感で潰されそうになってるフリルは……。
 結局、周辺の警備を強化するしかないと結論付け、重苦しい気分を引きずったまま、俺たち三人は一座を後にした。



 場所は変わって、ここはリンデフランデの王立図書館。
 俺たちは歌魔法のことを調べるため足を運んできたわけだが……。

「「「……」」」

 空気が重い。
 ただでさえ空気が重いのに、俺たち三人分の沈黙も重なって、潰されてしまいそうな勢いだ。
 おかげで本の内容なんてちっとも頭に入ってこない。

「フリルお姉ちゃん、大丈夫かな……」

 沈黙を破るように、テレアがひとり呟く。
 その言葉に一座からの帰るときに垣間見た、何とも言えないフリルの表情を思い出し、再び気分が沈んでくる。

「あーくそっ!なんだってんだよチクショウ!!」

 頭を掻きむしりながら叫ぶと、周りから「静かにしろ」視線が集まってきてしまったので、気まずい気分を味わいながら椅子に座りなおす。

「シューイチさん、気持ちはわかりますけど、少し頭を冷やして来たらどうですか?歌魔法について調べるのは私とテレアちゃんでやりますから」
「……そうするわ」

 エナの厚意に甘え、俺は静かに椅子から立ち上がりトボトボと、図書館の出口へと歩いて行く。
 ルーデンスさんの言う通り、俺たちは完全に油断していたのだ。
 そしてその油断を最悪の形で突かれた。
 たったの一回でこれだけの精神的ダメージを受けたのだ、これが二回も三回も続いたらどうなるかわからない。
 なによりも俺はともかく、フリルがそれに耐えられるとは思えないのだ。
 誰かを想う心とは、自分を奮い立たせるものであると同時に、大きな弱点にもなりうる。
 フリルのルーデンスさんや一座への想いは俺が考えているよりもずっと大きくて強い。
 だからこそ、そこを的確に突かれてしまうと簡単に壊れてしまうのだ。

「確かに俺たちには手を出してないもんな……実に理に適ったやり方だよあの野郎」

 あのロイのアルカイックスマイルを思い出して、再び心がざわめき立つ。
 図書館を出て壁にもたれかかり空を見上げる。
 空は俺の心の中とは正反対に晴れ渡っていた。

「俺がこんなにしんどい思いをしてるというのに……」
「なーにがしんどいんですか?」

 突然聞こえた能天気な声に驚いて、とっさに視線を空から声のした方に向ける。
 そこには白を基調とした清楚なワンピースに身を包んだブロンドの髪の少女―――

「シエル!?」
「はーいシエルさんですよー?」

 ニコニコと笑う上機嫌な様子の、神様見習い少女のシエルが立っていた。
 見たところ背中の羽がなくなっているが、これは混乱を防ぐために見えないようにしているんだろうか?
 ……ってそうじゃなくて!

「えっ?何しに来たの!?」
「開口一番にそれですか」

 シエルがジト目を向けてくる。

「いやごめん!いきなりだったから驚いちゃってさ」
「この前の念話もいきなりで驚いたんですけどねー?……ん?」

 嫌味たっぷりにそう言ってきた、シエルの表情が突然強張る。

「どうした?」
「どうした?はこっちの台詞ですよ?シューイチさんこそどうしたんですか?」

 多分俺の気分が落ち込んでいることを察したんだろう。
 突然のシエルの登場に驚いたものの、再びあの重苦しい気持ちが俺を支配しにかかる。

「ちょっと色々とあってさ」
「まあ色々とあったんでしょうね、そんな見るからに禍々しい魔力を植え付けられてるんですから」
「魔力?」

 何を言ってるんだこいつは?
 俺に今植え付けられてるのは魔力じゃなくて……。

「面倒くさい書類整理も終わって、今日の私は気分がいいですからね!特別にシューイチさんを植え付けられているその胡散臭い魔力を取っ払ってあげます!」
「だから何を言って―――」

 そう言いかけた俺のおでこに、シエルが人差し指を当てる。
 シエルのほっそりとした指が俺のおでこを「トンッ」と軽く押した瞬間、俺の心の奥底に渦巻いていた自分自身ですら気が付いていなかった『何か』が弾けて消えた。
 その刹那、急激に俺の脳内に流れ込んでくるのは、昨日の教団でのロイとの会話の光景。
 次々と覚えのない光景が浮かんではまるでパズルのピースのように俺の記憶に収まっていく。

「ゲームのことをですよ」

 そのロイの言葉を最後に俺の脳内になだれ込んでくる記憶の濁流が収まった。

「あ――――――――――――っ!!!!」
「うわっ!?」

 突如叫び出した俺に、シエルだけでなく周りの通行人も何事かと驚き俺を見た。
 これが叫ばずにいられるか!
 何が対等にするためだ!どう考えても立場ひっくり返ってんだろうが!!

「あの野郎、やりやがったな!!!」
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