無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

みなみ

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文献~謎の古代文字~

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 思い出せば出すほど、怒りが湧き上がってくる。それこそもうその怒りで何か新しい力に目覚めるんじゃないかってくらい。
 だが怒りに身を任せてばかりもいられない、全てを思い出せた今やるべきことがある。
 突然態度が豹変した俺をドン引きしながら見てくるシエルに向き直る。

「シエル!俺今から大事な用事があってギルドに行ってくるから、この図書館にいるエナとテレアにそのこと伝えておいてくれ!」
「いいですけど……どうしたんですか急に?」
「すまん!ちょっと説明してる暇がないんだ!それじゃ頼む!」

 返事もそこそこに俺は冒険者ギルドに向けて走り出した。
 後ろからシエルの非難する声が聞こえてくるが、今はちょっと聞いてられないので後でゆっくり聞いてやろう。俺が帰ってくるまでいればの話だけど。


 図書館から5分ほど走って、冒険者ギルドに辿り着く。思ってたよりも距離が近くて助かった。
 すぐに受付へと駆け込み、ギルドマスターに会いたい旨を伝え、しばし待たされる。
 ほどなくてして奥の部屋に通され、5分ほど待っていると昨日も散々お世話になったギルドマスターがやって来た。

「昨日も言ったが、本来ならギルドマスターには会いたいとって言ってもすぐに会えるものじゃないんだがね」
「昨日も言いましたが、割と緊急事態なので」
「マグリド王の推薦状を見せられたら出てこないわけにはいかないからね……用件は昨日アレについてかい?」

 テーブルを挟んで俺の反対側のソファに座りながら、このギルドのマスター「クエス」さんがやや呆れた表情で言ってきた。

「はい、当然昨日の件についてです。結果だけ言えば真っ黒でした」

 その言葉を皮切りに昨日の教団での出来事と、今日の一座での襲撃事件を包み隠さずクエスさんに話していく。
 話を聞き終わったクエスさんがため息を吐き、椅子に深く座りなおした。

「君が昨日報告に来ないからどうしたのかと思ったが、そういう事情だったのか」
「まさか記憶操作されるとは思ってなくて……完全に油断してました」
「自分もあれから少し気になってね……そのロイのことについてギルドのネットワークを介して調べてみたんだが、大なり小なりそこかしこで事件を引き起こしてるね」

 ほんとすました顔してとんでもない男だ。
 エナとも因縁があるみたいだし、今後も油断できないな。

「君が来なければ下手したらこの国も危なかったかもしれないな」
「正直まだ安心できません、さっきも言った通りあの男はこの国の神獣を蘇らせるとはっきり言いましたからね」

 俺がこうしている間にもあの男は着々と準備を進めているはずだ。
 本当なら今すぐにでもあの男をぶん殴りに行きたいところだが、こちらもできる限りの対策はしておかないといけない。
 攻めるにも守るにも、俺には情報も準備も圧倒的に不足しているのだ。

「とりあえずこの後すぐにでも国にこの件を伝えて、教団支部だけでもなんとかしておいてもらえると……」
「それは勿論。……少し待っててくれるなら、今すぐにでも国に動いてもらうように話をしてくるけど、どうする?」
「それはもうぜひお願いします」

 俺が快諾すると、クエスさんは「じゃあ少し失礼するよ」と言い残し、部屋を出ていった。
 とにもかくにも、一刻も早くフリルと一座の安全だけでも確保しておきたい。
 あの教団支部と教徒たちを抑えることが出来れば、一座への被害を抑えることに繋がるだろうしな。
 あんな襲撃事件が二度三度も続いてしまうことだけは何としても避けなければいけない。

「……多分あのロイはだけは捕まらないだろうけどな」

 一人ごちり、思わずため息が出る。
 立場を対等にするとかなんとか言い、俺とフリルの記憶を操作したあの男を思い出すと怒りがふつふつと沸いてくる。
 おかげで俺たちはロイの先制攻撃を許してしまった。
 記憶を操作されていなければ……というのは言い訳だな。油断していた俺たちが悪いのだ。
 しかし「明日からゲームを始める」宣言の通り、本当に昨日はなにもしてこなかったことが、ちょっとだけ意外だった。
 されていても困るが、こちらは記憶操作されてゲームのことなんが覚えてなかったんだから、それをいいことに先手を打って行動をしておけばいいものを……あの男なりのポリシーかなにかなのだろうか?
 俺が言えた義理ではないが、敵ながら変わった男である。

「やあ、お待たせ」

 そんなことを考えていると、クエスさんが戻ってきて再びソファに座りテーブルを挟んで俺と向かい合う。

「今すぐは無理だが、今日中に騎士団と憲兵団を教団支部に向かわせるとのことだよ」
「ありがとうございます!すいません無理を言ってしまって」

 感謝の意を示すべく、俺はクエスさんに深々と頭を下げた。

「いや、君のおかげで各国のギルドにカルマ教団の異常性を伝えられる切っ掛けもできたからね、実のところ感謝するのはこちらのほうだよ」

 聞けば国を動かすことが出来たことが大きな説得力になるとのこと。
 あの教団はあっちこちで迷惑をかける連中故、ギルドも少し手を焼いていたらしい。
 ほんと毒にも薬にもならない連中だよ……。

「そういえば、君に見てもらい物がある」
「見てもらいたい物?」

 そう言ってクエスさんが持っていた一枚の紙を俺に手渡す。
 何だろうと思い紙を見ると、なんだかよくわからない文字が羅列されていた。

「なんですかこれ?」
「この国のはずれにある、神獣が封印されていたと言われる遺跡から発掘された古代文献の写しだよ」

 なんか凄い物を持ってきたなおい。
 改めてその写しを見るものの、当然のごとく読めない。 

「これなんて書いてあるんですか?」
「残念ながら解読はされてない」

 解読されてないのかよ。じゃあ何で持ってきたんだ?

「実のところその紙に書かれている言語はこの国には伝わっていないらしいんだよ。神獣が暴れて封印されたのは1000年も前の話なのは判明しているが、一説によると神獣を封印したのはこの国の人間ではなく、外部から来た人間じゃないかって言われている」
「つまり外部から来た人間の使う言語だから、この国の人間では解読することができない……と?」
「有り体に言うとそういうことだ。容易に神獣を復活させられないようその外部から来た人間がわざとそうした説が有力だね」

 そんなもの世界中の言語を調べ上げれば判明することなのでは?

「この国だってバカじゃないし勿論この言語のことを調べたらしいが、とある小国に伝わる言語だというところまで突き止めた物の、そこから先はわからなかったらしい」
「そこまでわかってなぜ?」
「その国が意図的に各国との交友を絶っていたからだよ。まさに徹底的でね、その国が存在していたということはわかっているがどんな国だったのかは終ぞわからなかったらしいよ」

 まあ広い世界だ、そういう国の一つや二つもあるだろうけどな。
 じゃあなぜ尚更この文献の写しをここに持ってきたんだ?

「君には申し訳ないが、君たちの仲間のことを少しばかり調べさせてもらってね……君の仲間に「エナ=アーディス」という女性がいるはずだ」
「いるにはいますが……エナがなにか?」

 なんでここでエナの話が出てくるんだ?

「先日君のことをマグリドに確認する際にヤクトさんから進言されてね。彼曰く「もしかしたら彼女ならその文字を読めるかも」とのことだよ」
「ヤクトさんが?」

 エナの名前が出てきただけでもあれなのに、今度はヤクトさんの名前まで出てきて、本格的に頭が混乱してきたぞ!?
 ……そういえばリリアさんはエナの正体についてなにか感づいている様子だった。
 ならばリリアさん経由でヤクトさんがそれを知っていても不思議ではない。
 なんとなくだが、ヤクトさんとクエスさんの思惑がわかってきたぞ……。

「エナがその小国に関わりのあるかもしれない人間だから、読めるかもってことですか?」
「つまるところそういうことだよ。まあヤクトさんも絶対にそうだという確信はないらしいがね」

 う~む……実のところあまりエナの過去に踏み込みたくはないんだけどなぁ。
 俺的には無理に聞き出すんじゃなくエナが話してくれるのを待つ方針なんだけど……まあ事が事だしこの文字が読めるかだけでも聞いてみるか。

「わかりました、この文献の写しは俺がもらっても?」
「問題ないよ。用途が済んだら煮るなり焼くなり好きにするといい」

 ついでだしこの文献が発掘された遺跡のことについても聞いておくか。

「神獣が封印されていたという遺跡に行くことはできますか?」
「残念ながら無理だ……最近になって入り口で落盤が起きていて完全にふさがってしまったんだよ」

 「落盤なんて起きる場所じゃないはずなんだけどね」とクエスさんが付け加えてため息をひとつ。
 どうやらすでにあの男に先手を打たれてしまっているようだ。
 返す返すも本当に憎らしい男だよあの野郎。

「わかりました!それじゃあ突然お邪魔してすみませんでした!」
「ああ、わかってるとは思うけど充分気を付けて」

 俺はクエスさんにお礼を言って、ギルドを後にした。

 この5時間後に国の騎士団と憲兵団が大挙して押し掛け、教団支部を抑えられた教徒たちが一人残らず捕縛されていくことになるが、肝心の支部長であるロイは終ぞ見つからなかったそうだ。


 大急ぎで図書館に戻って来た俺は、乱れた息を整える暇も惜しく、エナたちのいるテーブルへと向かう。
 さっきから走ってばっかりだな俺……。
 ほどなくして、エナたちのところへ来たが―――

「はあぁぁ~……テレアちゃん可愛いです~」
「えっと……」
「あのかみ……シエルさん、私たち調べものをしてる最中なので……」

 そこには隣に座るシエルに頭を撫でられ続け、困惑してるテレアを見て、エナが若干あきれ顔で苦言を促す光景が繰り広げられていた。

「あっお兄ちゃん!おかえりなさい!」

 俺を目ざとく見つけたテレアがこれ幸いとばかりに席を立ち、俺のもとに駆け寄ってきた。
 テレアはいつも一番に俺を見つけてくれるなぁ。

「お前、調べものしてる最中なんだから邪魔すんなよな……」
「だってテレアちゃんの頭、凄い撫で心地なんですよ!?撫でたくなるじゃないですか!?」

 気持ちはわかるが、そんなことを大声で叫ぶなよ。周りの視線が痛いだろうが。

「おかえりなさいシューイチさん。シエルさんの話ではギルドに行っていたとか?」
「詳しくは今から話すけど、とりあえず対策はしてきたからこれで一座は安全になると思う」

 言いながらテレアを伴いテーブルに着く。
 シエルのなでなで攻撃を避けるため、ちゃっかりテレアが俺の隣に座った。

「実は昨日、あの男に記憶操作されていたらしくてさ……」
「記憶操作ですか……?」

 エナの言葉に頷いた俺は、昨日の教団での出来事をエナたちに話していく。

「ゲームですか……あの男の言い出しそうなことですね」

 すべて話し終わると、微妙な表情でエナが呟いた。
 今の俺ならエナの気持ちが痛いほどよくわかるな。ほんとあの男は害でしかない。

「そんでさっきギルドから渡された物があるんだよね」

 言いながら先ほどの文献の写しの紙をエナに手渡す。

「これは……」
「その……ヤクトさんがエナなら多分読めるはずだって……」

 エナのタブーに触れてしまうかもしれないデリケートな話題なので、俺は恐る恐る様子を伺うようにそう言った。
 文献の写しに一通り目を通したエナが、軽くため息を吐く。

「……読めました。神獣を封印する方法が書いてありますねこれ」

 どうやらヤクトさんの予想は当たっていたようだった。
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