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窮地~思い出す過去の記憶~
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目の前に立ちはだかった俺を、まるでゴミを見るような目でドレニクが見てきた。
失礼なじじいだな……。
「貴様一人に何が出来る?見たところ大した力も感じられん」
「試してみるか?くそじじい?」
「口だけは達者だな」
さてどうしたもんだろうか?
玄武の魔力でドーピングされる前からエナの魔法を軽々と防いでいたほどの魔法の使い手だ。
今までの敵って力押しばかりで魔法主体で戦ってくる相手ってあんまりいなかったから、どのようにして戦うべきなのか見当がつかない。
ぶっちゃけ今の俺では太刀打ちできないだろうな……だができる限りのことはしなくてならない。
「お兄ちゃん……テレアも戦う……」
「テレアは今の戦いでもう満足に立てないくらい消耗してるだろ?スチカとティアのところでフリルを一緒に守ってやってくれ」
よろよろと立ち上がろうとするテレアを制し、下がっているように指示する。
実際コランズを倒してくれただけでも十分すぎるほどだ。
ただでさえ神獣の力を使うには大量の魔力を消費するらしい上、加護を受けてないテレアではさらに多大な魔力を消費したことだろう……これ以上の戦闘は危険だ。
「逃がすはずがあるまい」
ドレニクがそう言ってテレアに向けて魔法を放とうと魔力を活性化させていく。
「フル・プロテクション!」
すかさずドレニクの周りにバリアを張った。
当然現れたそれに、ドレニクの表情に困惑の色が宿った。
「小癪な真似を……」
「今のうちに早く逃げろテレア!俺なら大丈夫だから!」
「……わかった……ありがとうお兄ちゃん」
残りの力を振り絞り立ち上がったテレアが、おぼつかない足取りながらもなんとかスチカたちのところまで走っていった。
テレアがスチカたちの所へ辿り着いたのとほぼ同じタイミングで、後ろからガラスの割れるような音が俺の耳に入って来た。
「こんなものでわしを止められると思ったか?」
「思うわけねーじゃん」
ドレニクを睨みつけながら剣を構える。
「少々物足りないが、貴様で玄武の力を試してみるとしようか」
「玄武の上辺だけの力だけしか引き出せてないくせに偉そうに言いやがって」
そもそもそれはフリルの物じゃねーか。
人様から横取りした物で偉そうなこと言いやがって、盗人猛々しいとはこういうことを言うんだろうな。
「口の減らぬ小僧だ……フル・エン・バレット!」
ドレニクが魔法を放った瞬間、俺の周囲に炎の玉が4つあらわれ、そこから俺に向けて一斉に炎の弾丸が発射された。
「フル・ぷろてく……」
「アンチ・プロテクション」
バリアを張ろうと魔力を活性化させた俺に向けて、ドレニクがすかさず魔法を掛けてきた。
バリアの為に活性化させたはずの魔力が一瞬で抑え込まれてしまった。
フル・プロテクションが発動しない!?まさか今の一瞬でプロテクションを張るのを封じられたのか!?
「くそっ!!」
身体強化を発動させて辛うじて四つの炎の弾丸を回避する。
あっ危なかった……どうやらプロテクションは使えないと思った方がいいな。
「今度はこっちの番だ!!」
身体強化を維持したまま地面を蹴ってドレニクへと斬りかかる。
「セルフ・バーニング!」
なにやら魔法を唱えたようだが、この距離なら俺の剣の方が先に届くはずだ!
そう思った瞬間、ドレニクに向けて振り下ろそうとした剣に突然火がついて燃え上がった。
「なんだっ!?」
危うく俺の手に火が届きそうになったので、慌てて剣から手を離した。
金属音を立てて地面へと落ちた剣が炎に包まれて、そのままあっという間に消し炭になってしまった。
ええ……そりゃあ特に名のある剣でもなかったけど、それでも金属を一瞬で消し炭にするって非常識だろう!?
……ってここまできて魔法に常識を求めても仕方ないんだが……しかし武器を失ってしまったな。
どうやら攻撃してこようとした相手に自動で反撃する魔法を使ったみたいだな……迂闊に近寄れなくなってしまった。
「どうした?貴様の番ではなかったのか?もう終わりか?」
「まだ終わってねえよ!!マジック・ニードル!!」
魔力を活性化させて数十本の魔力針を作り出し、それらをドレニクに向けて発射した。
貫通力のあるこれならいけるはず……。
「着眼点は悪くないが、いかんせん練度が足りんな」
一直線に飛んでくるマジックニードルを、ドレニクが魔力を集めた右手で真っ向から受け止めた。
魔力針はドレニクの右手に傷一つつけることが出来ないまま、全てが消失してしまった。
なんだそれ……バリアを張る必要すらないってことか!?
そうなると困ったな……俺の攻撃手段がなくなってしまった。
マジックニードルが通じないとなると遠距離攻撃は通じないだろうし、身体強化で接近戦をしようにも炎による自動反撃で一瞬にして消し炭にされるだろう。
「どうやらもう打つ手がなくなったようだな?なら貴様には退場してもらおうか」
俺に対し冷徹に宣言したドレニクの魔力が急激に膨れ上がる。
その圧倒的魔力を前にした俺の本能が、明確な死のイメージを脳裏に押し付けてきた。
「アーク・ジャベリン!」
足元に魔力の反応を感じた俺は咄嗟にバックステップをすると、そこから巨大な土の槍が突き出してきた。
危なかった……あと少し反応が遅かったら串刺しにされ……。
「貴様の技を借りるぞ?マジック・ニードル!」
俺に向けたドレニクが右手の人差し指が光ったと思った瞬間、俺の右足に激痛が走った。
恐る恐る右足を見ると、太ももに5cmほどの綺麗な穴が開いていた。
「ぐっ……!?」
あまりの激痛に口から叫び声が出そうになるものの、歯を食いしばってそれを無理やり抑え込んだ。
なんだこれ!?痛いなんてもんじゃないぞ!!
叫び声は我慢できたものの激痛には耐えられず、俺はその場で倒れこんだ。
「シュウ!?」
「お兄ちゃん!!」
痛みで朦朧とする意識の向こうで、俺を呼ぶスチカとテレアの声が聞こえる。
そうだ……まだここで負けるわけには……。
その瞬間、今度は右肩に激痛が走る。
「がああああぁぁっ!!」
今度ばかりは激痛による叫びを抑えきれなかった。
あまりの激痛に意識を手放しそうになるも、それを何とか堪えて右肩に触れると太ももと同じようにぽっかりと小さな穴が開いていた。
「次はどこがいい?左手か?左足か?」
まるで虫けらでも見るような目で倒れる俺を見下しながら、ドレニクが俺に人差し指を向ける。
今度は左手に激痛が走るものの、すでに俺の精神の限界が臨界点を突破していて、自分が叫んでるのか痛みを感じているのかも曖昧になっていく。
「言っておくが、散々わしを馬鹿にしたのだ……この程度で済むと思ったら大間違いだぞ」
今度は左足になにやら衝撃が走った気がしたが、もう痛みすら感じなかった。
あっ……これダメな奴だな……。
いざという時の為の仕込みはしておいたはずなのに、それを使うことすらできなかったな。
ていうか今の状況で「アレ」が出来たのだろうか?
そんなことを思っていると、今度は右手に痛みが走る。
「……何の真似だ?」
「ええ加減にせえよ?これ以上シュウになにかしたらただじゃ済まんで!」
ぼんやりとしていく意識の外で、スチカがドレニクと言い争う声が聞こえる。
どうしてこんな近くからスチカの声が聞こえてくるんだ……もっと後ろにいたはずなのに……?
「スチカお姉ちゃん!!」
「何をしておるスチカ!!やめるのじゃ!!」
ぼやける視界でなんとか顔を上げると、俺の壁になるようにスチカが手を広げて立って……え?
何やってんだスチカ!?
「もう会えないと思っとたんや……なのにこんなところでシュウを死なせるなんてできん!!」
「それはアーデンハイツで開発中だという魔力の弾丸を撃つ魔力銃というものか?そうか貴様がスチカ=リコレットか」
「どってぱらに風穴開けられたくなかったら、今すぐここから……」
「撃ってみるか?見たところその小僧が先ほど使った魔法と大差ない威力だと思うぞ?」
やめろ……スチカ逃げろ……。
俺なら大丈夫だから早く逃げてくれ……。
「面倒だな……その小僧共々始末してやろう」
「やれるもんならやってみろや!!こっちとらシュウと一緒に死ねるなら本望やで!!」
死……スチカが……死……?
俺と一緒に……?
ただでさえスチカになにかあったら、じいちゃんに頭をかち割られるんじゃないかって威力の拳骨をもらうというのに、万が一死なせてしまったら市中引き回しの刑どころじゃ済まないだろうな。
冗談じゃない!!!
気が付いたら身体が勝手に動き出していた。
人間死ぬ気になれば、こんな瀕死の状態でも動けるもんなんだな。
そのままスチカを庇うようにドレニクの前に立ちふさがった俺は、大きく深呼吸をし、そして叫ぶ。
「今だティア―――!!!!」
俺のその叫びと、ドレニクの放った魔法が俺の胸を貫くのは同時だった。
薄れゆく意識の中、俺の名前を叫ぶスチカの声のほかにもう一つ……直接俺の脳内に語り掛ける声が聞こえる。
『僕は男の頼みは聞かない主義なんだがねぇ……まあこれは一つ貸しにしておいてあげよう』
その声と共に、俺の意識と身体の痛みが急速に回復していく。
さっきまるで消えてなくなったような演出してたくせに、やっぱり『ふり』だったのかと呆れてしまう。
分け身とはいえ青龍が目の前で消えたというのに、ティアの慌てた様子がなかったから薄々そうなんじゃないかとは思ってたけどね。
「危なかった!!さすがに死ぬかと思ったわ!!!」
突然全快した俺を目にして、ドレニクが驚愕の表情になった。
うんいいね、その顔見たかったぜ?
「なっなんだ!?なぜ復活した!?」
「さっきも言ったけど、教えるわけないだろ自分で考えろよ」
その慌てぶりはいつぞやのガルムスを彷彿とさせるなぁ……ていうか今の状況ってあの遺跡の戦いのときとあんまり変わらないよな?
「シュウ……お前無事なんか?」
「見てのとおりね?」
スチカが信じられないと言った表情で、全裸の俺を見ている。
……そう全裸の俺をね。
「ていうかなんですっぱやねん!?」
「今更驚くなよ、昔は一緒にお風呂だって入ったことあるだろ?」
「それは子供の頃の……シュウ?」
何かに気が付いたようにスチカが俺の名前を呼んだ。
「色々と昔話をしたいところだけど、それはこのじじいをぶちのめした後でもいい?」
「お前……思い出したんか!?」
理由はわからないが全裸になった途端、今まで全く思い出せなかった日本でのスチカの記憶がはっきりと思い出せるようになった。
疑っていたわけじゃなかったけど、やっぱりスチカの言うことは本当のことだったんだな……落ち着いたら二人でゆっくり昔話に興じるとしよう。
「シューイチよ!お主の言う通り服だけを転移させたがこれで良かったのか?」
俺の服一式を手に持ったティアが、全裸になった俺に向かって叫ぶ。
そんなティアに向けて俺は何も言わずに、最大限の感謝を込めたサムズアップをした。
そう……俺のしていた『仕込み』というのは、いざという時に青龍の転移の力で俺の服だけを転移させるという物だった。
実はドレニクに転移を封じられた時は焦ったけど、あらかじめエナから転移を妨害する魔法の仕組みを聞いておいて正解だった。
一般的な転移を妨害する魔法は『魔力をもつ物質』を対象とするらしく『魔力を持たない物質』だけだと対象には含まれないらしい。
この辺は魔力で作る罠と同じ原理だな。
じゃあなんでさっき魔力を持たないスチカを魔法陣から転移させることができたかというと、背負ってるフリルを対象にしたからである。
「人の体にぽんぽんと穴を開けていきやがって……覚悟できてんだろうなくそじじい?」
「なにやら不思議な魔法で復活したようだが、立ち上がったところでまた同じ結果になるだけだ」
そう言ってドレニクが俺に向けて魔力針を放った。
だがその魔力針は俺の身体を貫通することもなければ傷つけることすら叶わず、砕けて消えていった。
「……で?」
言いながら俺は針の当たった部分をぽりぽりと掻いた。
失礼なじじいだな……。
「貴様一人に何が出来る?見たところ大した力も感じられん」
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今までの敵って力押しばかりで魔法主体で戦ってくる相手ってあんまりいなかったから、どのようにして戦うべきなのか見当がつかない。
ぶっちゃけ今の俺では太刀打ちできないだろうな……だができる限りのことはしなくてならない。
「お兄ちゃん……テレアも戦う……」
「テレアは今の戦いでもう満足に立てないくらい消耗してるだろ?スチカとティアのところでフリルを一緒に守ってやってくれ」
よろよろと立ち上がろうとするテレアを制し、下がっているように指示する。
実際コランズを倒してくれただけでも十分すぎるほどだ。
ただでさえ神獣の力を使うには大量の魔力を消費するらしい上、加護を受けてないテレアではさらに多大な魔力を消費したことだろう……これ以上の戦闘は危険だ。
「逃がすはずがあるまい」
ドレニクがそう言ってテレアに向けて魔法を放とうと魔力を活性化させていく。
「フル・プロテクション!」
すかさずドレニクの周りにバリアを張った。
当然現れたそれに、ドレニクの表情に困惑の色が宿った。
「小癪な真似を……」
「今のうちに早く逃げろテレア!俺なら大丈夫だから!」
「……わかった……ありがとうお兄ちゃん」
残りの力を振り絞り立ち上がったテレアが、おぼつかない足取りながらもなんとかスチカたちのところまで走っていった。
テレアがスチカたちの所へ辿り着いたのとほぼ同じタイミングで、後ろからガラスの割れるような音が俺の耳に入って来た。
「こんなものでわしを止められると思ったか?」
「思うわけねーじゃん」
ドレニクを睨みつけながら剣を構える。
「少々物足りないが、貴様で玄武の力を試してみるとしようか」
「玄武の上辺だけの力だけしか引き出せてないくせに偉そうに言いやがって」
そもそもそれはフリルの物じゃねーか。
人様から横取りした物で偉そうなこと言いやがって、盗人猛々しいとはこういうことを言うんだろうな。
「口の減らぬ小僧だ……フル・エン・バレット!」
ドレニクが魔法を放った瞬間、俺の周囲に炎の玉が4つあらわれ、そこから俺に向けて一斉に炎の弾丸が発射された。
「フル・ぷろてく……」
「アンチ・プロテクション」
バリアを張ろうと魔力を活性化させた俺に向けて、ドレニクがすかさず魔法を掛けてきた。
バリアの為に活性化させたはずの魔力が一瞬で抑え込まれてしまった。
フル・プロテクションが発動しない!?まさか今の一瞬でプロテクションを張るのを封じられたのか!?
「くそっ!!」
身体強化を発動させて辛うじて四つの炎の弾丸を回避する。
あっ危なかった……どうやらプロテクションは使えないと思った方がいいな。
「今度はこっちの番だ!!」
身体強化を維持したまま地面を蹴ってドレニクへと斬りかかる。
「セルフ・バーニング!」
なにやら魔法を唱えたようだが、この距離なら俺の剣の方が先に届くはずだ!
そう思った瞬間、ドレニクに向けて振り下ろそうとした剣に突然火がついて燃え上がった。
「なんだっ!?」
危うく俺の手に火が届きそうになったので、慌てて剣から手を離した。
金属音を立てて地面へと落ちた剣が炎に包まれて、そのままあっという間に消し炭になってしまった。
ええ……そりゃあ特に名のある剣でもなかったけど、それでも金属を一瞬で消し炭にするって非常識だろう!?
……ってここまできて魔法に常識を求めても仕方ないんだが……しかし武器を失ってしまったな。
どうやら攻撃してこようとした相手に自動で反撃する魔法を使ったみたいだな……迂闊に近寄れなくなってしまった。
「どうした?貴様の番ではなかったのか?もう終わりか?」
「まだ終わってねえよ!!マジック・ニードル!!」
魔力を活性化させて数十本の魔力針を作り出し、それらをドレニクに向けて発射した。
貫通力のあるこれならいけるはず……。
「着眼点は悪くないが、いかんせん練度が足りんな」
一直線に飛んでくるマジックニードルを、ドレニクが魔力を集めた右手で真っ向から受け止めた。
魔力針はドレニクの右手に傷一つつけることが出来ないまま、全てが消失してしまった。
なんだそれ……バリアを張る必要すらないってことか!?
そうなると困ったな……俺の攻撃手段がなくなってしまった。
マジックニードルが通じないとなると遠距離攻撃は通じないだろうし、身体強化で接近戦をしようにも炎による自動反撃で一瞬にして消し炭にされるだろう。
「どうやらもう打つ手がなくなったようだな?なら貴様には退場してもらおうか」
俺に対し冷徹に宣言したドレニクの魔力が急激に膨れ上がる。
その圧倒的魔力を前にした俺の本能が、明確な死のイメージを脳裏に押し付けてきた。
「アーク・ジャベリン!」
足元に魔力の反応を感じた俺は咄嗟にバックステップをすると、そこから巨大な土の槍が突き出してきた。
危なかった……あと少し反応が遅かったら串刺しにされ……。
「貴様の技を借りるぞ?マジック・ニードル!」
俺に向けたドレニクが右手の人差し指が光ったと思った瞬間、俺の右足に激痛が走った。
恐る恐る右足を見ると、太ももに5cmほどの綺麗な穴が開いていた。
「ぐっ……!?」
あまりの激痛に口から叫び声が出そうになるものの、歯を食いしばってそれを無理やり抑え込んだ。
なんだこれ!?痛いなんてもんじゃないぞ!!
叫び声は我慢できたものの激痛には耐えられず、俺はその場で倒れこんだ。
「シュウ!?」
「お兄ちゃん!!」
痛みで朦朧とする意識の向こうで、俺を呼ぶスチカとテレアの声が聞こえる。
そうだ……まだここで負けるわけには……。
その瞬間、今度は右肩に激痛が走る。
「がああああぁぁっ!!」
今度ばかりは激痛による叫びを抑えきれなかった。
あまりの激痛に意識を手放しそうになるも、それを何とか堪えて右肩に触れると太ももと同じようにぽっかりと小さな穴が開いていた。
「次はどこがいい?左手か?左足か?」
まるで虫けらでも見るような目で倒れる俺を見下しながら、ドレニクが俺に人差し指を向ける。
今度は左手に激痛が走るものの、すでに俺の精神の限界が臨界点を突破していて、自分が叫んでるのか痛みを感じているのかも曖昧になっていく。
「言っておくが、散々わしを馬鹿にしたのだ……この程度で済むと思ったら大間違いだぞ」
今度は左足になにやら衝撃が走った気がしたが、もう痛みすら感じなかった。
あっ……これダメな奴だな……。
いざという時の為の仕込みはしておいたはずなのに、それを使うことすらできなかったな。
ていうか今の状況で「アレ」が出来たのだろうか?
そんなことを思っていると、今度は右手に痛みが走る。
「……何の真似だ?」
「ええ加減にせえよ?これ以上シュウになにかしたらただじゃ済まんで!」
ぼんやりとしていく意識の外で、スチカがドレニクと言い争う声が聞こえる。
どうしてこんな近くからスチカの声が聞こえてくるんだ……もっと後ろにいたはずなのに……?
「スチカお姉ちゃん!!」
「何をしておるスチカ!!やめるのじゃ!!」
ぼやける視界でなんとか顔を上げると、俺の壁になるようにスチカが手を広げて立って……え?
何やってんだスチカ!?
「もう会えないと思っとたんや……なのにこんなところでシュウを死なせるなんてできん!!」
「それはアーデンハイツで開発中だという魔力の弾丸を撃つ魔力銃というものか?そうか貴様がスチカ=リコレットか」
「どってぱらに風穴開けられたくなかったら、今すぐここから……」
「撃ってみるか?見たところその小僧が先ほど使った魔法と大差ない威力だと思うぞ?」
やめろ……スチカ逃げろ……。
俺なら大丈夫だから早く逃げてくれ……。
「面倒だな……その小僧共々始末してやろう」
「やれるもんならやってみろや!!こっちとらシュウと一緒に死ねるなら本望やで!!」
死……スチカが……死……?
俺と一緒に……?
ただでさえスチカになにかあったら、じいちゃんに頭をかち割られるんじゃないかって威力の拳骨をもらうというのに、万が一死なせてしまったら市中引き回しの刑どころじゃ済まないだろうな。
冗談じゃない!!!
気が付いたら身体が勝手に動き出していた。
人間死ぬ気になれば、こんな瀕死の状態でも動けるもんなんだな。
そのままスチカを庇うようにドレニクの前に立ちふさがった俺は、大きく深呼吸をし、そして叫ぶ。
「今だティア―――!!!!」
俺のその叫びと、ドレニクの放った魔法が俺の胸を貫くのは同時だった。
薄れゆく意識の中、俺の名前を叫ぶスチカの声のほかにもう一つ……直接俺の脳内に語り掛ける声が聞こえる。
『僕は男の頼みは聞かない主義なんだがねぇ……まあこれは一つ貸しにしておいてあげよう』
その声と共に、俺の意識と身体の痛みが急速に回復していく。
さっきまるで消えてなくなったような演出してたくせに、やっぱり『ふり』だったのかと呆れてしまう。
分け身とはいえ青龍が目の前で消えたというのに、ティアの慌てた様子がなかったから薄々そうなんじゃないかとは思ってたけどね。
「危なかった!!さすがに死ぬかと思ったわ!!!」
突然全快した俺を目にして、ドレニクが驚愕の表情になった。
うんいいね、その顔見たかったぜ?
「なっなんだ!?なぜ復活した!?」
「さっきも言ったけど、教えるわけないだろ自分で考えろよ」
その慌てぶりはいつぞやのガルムスを彷彿とさせるなぁ……ていうか今の状況ってあの遺跡の戦いのときとあんまり変わらないよな?
「シュウ……お前無事なんか?」
「見てのとおりね?」
スチカが信じられないと言った表情で、全裸の俺を見ている。
……そう全裸の俺をね。
「ていうかなんですっぱやねん!?」
「今更驚くなよ、昔は一緒にお風呂だって入ったことあるだろ?」
「それは子供の頃の……シュウ?」
何かに気が付いたようにスチカが俺の名前を呼んだ。
「色々と昔話をしたいところだけど、それはこのじじいをぶちのめした後でもいい?」
「お前……思い出したんか!?」
理由はわからないが全裸になった途端、今まで全く思い出せなかった日本でのスチカの記憶がはっきりと思い出せるようになった。
疑っていたわけじゃなかったけど、やっぱりスチカの言うことは本当のことだったんだな……落ち着いたら二人でゆっくり昔話に興じるとしよう。
「シューイチよ!お主の言う通り服だけを転移させたがこれで良かったのか?」
俺の服一式を手に持ったティアが、全裸になった俺に向かって叫ぶ。
そんなティアに向けて俺は何も言わずに、最大限の感謝を込めたサムズアップをした。
そう……俺のしていた『仕込み』というのは、いざという時に青龍の転移の力で俺の服だけを転移させるという物だった。
実はドレニクに転移を封じられた時は焦ったけど、あらかじめエナから転移を妨害する魔法の仕組みを聞いておいて正解だった。
一般的な転移を妨害する魔法は『魔力をもつ物質』を対象とするらしく『魔力を持たない物質』だけだと対象には含まれないらしい。
この辺は魔力で作る罠と同じ原理だな。
じゃあなんでさっき魔力を持たないスチカを魔法陣から転移させることができたかというと、背負ってるフリルを対象にしたからである。
「人の体にぽんぽんと穴を開けていきやがって……覚悟できてんだろうなくそじじい?」
「なにやら不思議な魔法で復活したようだが、立ち上がったところでまた同じ結果になるだけだ」
そう言ってドレニクが俺に向けて魔力針を放った。
だがその魔力針は俺の身体を貫通することもなければ傷つけることすら叶わず、砕けて消えていった。
「……で?」
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