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異変~筒抜けだったあの夜~
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「えっと……レリスさん大丈夫ですか?」
「ご心配なくエナさん、大丈夫ですわ」
そう返すレリスの表情はなんだかとても疲れ切っていて、どう見ても大丈夫じゃないんだけど本人が大丈夫と言ってるんだから話を続けていこう。
「では話を続けていきます……どうして旦那様とティニア様の様子がおかしいかとわかったかというと、ある日を境にレリスお嬢様への関心をまるっとなくされてしまったからです」
「……レリっちへの関心をなくした?」
「お二方はそれはもうレリスお嬢様をご心配しておいででした……そしてそれと同時にレリスお嬢様の活躍を耳にする度に、それはもう大層喜ばれておりました」
なんだ、話を聞いてる限りじゃいい父親と姉じゃないか。
本来ならレリスのような立場の子なら有無を言わさず連れ戻そうとするだろうに……うん?待てよ?
「それちょっと矛盾してないか?確かレリスのもとには実家に連れ戻そうと何回か財閥の使いの人間が来たって言ってたけど?」
「財閥の人間も一枚岩ではございませんので。おそらくお嬢様を連れ戻そうとした者たちは財閥内の数ある派閥の一つでしょうね」
なるほど……家出当然で財閥を飛び出したレリスを連れ戻して上手く懐柔できれば、自分たちが財閥内の実権を握るための足掛かりになるから―――とかそんなところだろうな。
「話を戻しますね。そして三日ほど前でしたでしょうか……ティニア様より「もうレリスの監視はしなくてもいい」と連絡が来たのです」
「お姉様から?」
その言葉を聞いて、レリスが思わず椅子から立ち上がった。
立ち上がったレリスを見ながら、テレアが首を傾げながら口を開く。
「でも監視しなくてもいいってことは、レリスお姉ちゃんを認めてくれたってことなんじゃないのかな?」
まさしくテレアらしい平和な意見だ。
でも残念ながら俺はおろか、エナやフリルにレリスだってそうは思ってないだろう。
「残念ながらそうじゃないんですよテレアちゃん。……そうですよねレリスさん?」
「はい、お姉様なら「監視を止めて実家に帰るように説得してくれ」というところですが、「監視はしなくていい」だけだなんて言うはずがありません」
「……それだと、もうレリっちなんて放っておけってことになる」
「俺がレリスの姉の立場なら、例えレリスの成長を認めてたとして監視だけは続けさせるよ。放っておけるなんてできるわけがない」
俺たちの言葉を聞いて、テレアが何かに気が付いたようにハッとする。
「まさしくその通りです。そしてそのことを確認するために旦那様にも連絡を取りましたが、ティニア様と同じ答えが返ってきました」
恐らくエレニカ財閥内でレリスの監視にかまっていられないほどの何かが起きてるんだ。
もしくは、監視を命じた二人に何かが起きた……。
どちらにしても嫌な感じだ。
「でも急に変わったわけじゃないんですよね?もし急に変わったら明らかな洗脳を疑うところなんですが……」
「そうですね……ちょうど一か月前くらいからですね……お二人の様子が少しずつ変わっていったのは」
「一か月前……ちょうど実家からわたくしを連れ戻そうとする使いの者が来なくなった時期ですわね」
そのころはまだレリスがソロ活動してた頃だな。
「……もしかして、お姉様の結婚が決まった時期と合致するのでは?」
「はい、まさしくその通りでございます」
そうなると疑うべき要因は一つに絞られてくるな。
「ケニスとかいう貴族の息子が何かをしている……?」
「まさか、ありえませんわ!財閥とグウレシア家の付き合いは先代から続いているものです!ケニス様とも幼少の頃から顔を合わせておりますが、お姉様とも仲睦まじくわたくしや妹たちにも優しく接してくれて……そのケニス様が……!」
「レリスさん落ち着いてください!まだそうと決まったわけではないんですから!」
レリスがここまで言うんだから、そのケニスとかいう人を疑うのは止めてあげたいところだけど、残念ながらそうはいかない。
最悪ケニス自身に非がないとしても、グウレシア家の方になにか問題があるのかもしれないしな。
なるほど……疑うべき相手が大きすぎるな。これではソニアさんが自分の手には負えないというのもわかる。
「ソニアさん、お姉様の結婚式は何時頃になるのですか?」
「一週間後となっております」
「随分急じゃないですか?エレニカ財閥のトップとアーデンハイツで一番権力のあるご子息との結婚ですよ?もっと準備期間を設けるものだと思うんですが?」
「それだけ早く結婚をしてしまいたい理由があるんじゃないか?」
俺のその言葉に、場にいる全員が沈黙する。
俺の世界だって一般人が結婚式をするのにおおよそ半年は準備するんだから、この世界の権力を持つ者同士の結婚式が婚約してからわずか一か月だなんて異常事態にもほどがある。
エナの言う通り、もっと準備期間を設けて会場を抑えて関係者各位に連絡とかいろいろとやらないといけないのに、一か月しか期間がないなんていくらなんでも短すぎる。
「ソニアさんは、俺たちにどうしてほしいと思ってるんだ?」
「……もちろん、マグリドやリンデフランデで起きた事件……そしてこの国のダンジョンに潜んでいた神獣を鎮めたことを踏まえて、今回の異変を解決する力があなた方にはあると私は判断しました。差し当たってレリスお嬢様のためにも今回の異変解決のご助力を願いたいのです」
「ソニアさん……」
そう言ったソニアさんが、俺たち全員に向けて深々と頭を下げる。
「レリスはどうする?ぶっちゃけると今回の件をどうするかはレリスに一任してもいいと思ってるんだけど?」
「わたくしは……」
レリスが俯いて長考状態になった。
これは予想なんだけど、レリスはまだ俺たちに話してない実家を飛び出すに至った事情があると思う。
恐らくそれがレリスを実家に戻ることを躊躇わせる原因にもなってると思う。
だがそうした事情があると分かった上で、俺はレリスにこの件に関して全面的な決定権を委ねた。
俺のその意図に気が付かないレリスじゃないと思うけど、さてはて……。
「……シューイチ様……皆様……どうかわたくしに力を貸していただけないでしょうか?」
「勿論ですよ!」
「うん!テレアも頑張るよ!」
「……うい」
俯いていた顔を上げて、力強く言い放ったレリスの言葉に、エナもテレアもフリルも賛成してくれた。
短い期間ながらも仲間としてお互いにやってきたんだ、ここでみんながレリスを見捨てるわけがないんだよな。
「勿論俺も手伝うぞ?必ずレリスの実家を助けようぜ!」
「シューイチ様……皆様……本当にありがとうございますわ!!」
「レリスお嬢様……いいお仲間に恵まれましたね」
「ええ!わたくしの自慢の仲間ですもの!」
元々アーデンハイツには行くことは決定事項ではあったものの、妙にあの国に色んなものが集まっていくな……。
ついでに残りの所在のわからない白虎もそこにいてくれるとありがたいんだけど、さすがにそんなうまい話はないだろうし、いたらいたでこれ以上の厄介事を抱え込むのはごめんだ。
そんなこんなでひとしきり盛り上がった後、明日に備えて寝ることとなり今夜はお開きとなった。
「明日の昼にはアーデンハイツへ出発か」
ベッドに寝転がながら、独り言ちる。
このフカフカベッドともしばらくお別れか……当分は野宿生活になるからな。
恐らく二週間くらいは留守にするだろうけど、家のことはシエルとコランズに任せておけば大丈夫だな。
あっ、一応旅立つ前にルカーナさんには言っておかないとな。
「ハヤマ様」
「うわっ!!」
色々と考えながらウトウトとしていたら、突然名前を呼ばれてびっくりして声を上げてしまった。
身を起こして声の主を探すと、案の定闇に紛れるようにしてソニアさんが立っていた。
何なのこの人!?心臓に悪すぎるんだけど!!
「驚かせてしまったようで申し訳ありません」
「いやまあ……大丈夫だよ……それで俺に何か用?」
「私は一足先にアーデンハイツに戻らせていただきます」
「レリスの監視はしなくてもいいの?」
「もうすでにその任は解かれておりますので……差し当たって私がどのように動いても問題はないはずです」
まあそうだよね。でもそんなことなら明日の朝にでも言いに来ればいいのに。
「あと、こちらが私のもつ通信機の番号となりますので、緊急時の為に控えておいてください」
「そういやソニアさんも通信機持ってんだっけ……わかった、ちゃんと登録しておくよ」
通信機の番号の書かれた紙を受け取った俺は、こちらの番号も教えるために、取り出した紙に二台の番号を書いてソニアさんに手渡した。
これで何かあった時に連絡が取れるな……いやはやスチカ様々である。
「それと、改めてお礼を……この度のご協力誠に感謝いたします」
「やめてくださいよ、まだ解決したわけじゃないんですから!それに最終的な判断を下したのはレリスですから!」
「……正直な話、レリスお嬢様がなぜあなたを選んだのか理解に苦しんでおりましたが、少しだけその理由がわかりました」
「選んだ?……えっと……ちょっと待って?もしかして……?」
俺の頬を冷や汗が伝う。
まずいぞ……どこまで知ってるんだこの人!?いや……全部知っていても過言じゃない!
「幼少よりお仕えして来たあのレリスお嬢様が初めて見染めた殿方……もしその方がどうしようもないただの馬の骨であったら私が秘密裏に処分しているところでした」
なんかすっげー怖いこと言ってるんだけどこの人!?
「えっと……冗談ですよね?」
「冗談を言っている顔に見えますか?」
気のせいか部屋の気温が下がったような感覚を覚えた。
まてよ……この人レリスの様子を逐一報告してるみたいなこと言ってたよな?
ってことはまさか!?
「もっもしかして、俺とレリスの関係って……筒抜け?」
「当然ですが?」
「当然ですか!?」
目の前が真っ暗になるとはまさにこのこと。
うわぁ……こんなことになるならレリスに告白の返事なんてするんじゃなかった!
いやでもあれ以上返事を待たすなんて出来っこなかったし、そこはもう仕方ないんだけどさ!!
でもまさかレリスの父親と姉に筒抜けになってるなんて普通思わないだろ!!
思わず頭を抱えてうずくまると、ソニアさんが不思議そうな顔をしながら俺を覗き込んでくる。
「どうなさいました?そんな風に頭を抱えて?」
「あんたのせいやろがっ!!!」
思わず突っ込む。
「……何かひどく誤解があるようですが、私はハヤマ様とお嬢様の関係を否定してるわけではありませんよ?それは旦那様もティニア様も同じでございます」
「あんたさっき秘密裏に処理するって言ったじゃん!!」
「それはハヤマ様がお嬢様にふさわしくない場合だったと仮定してのことですよ?……まあ思うところがないわけではありませんが、私から見てもハヤマ様でしたらお嬢様を任せられます」
思うところあるんかい。
とりあえず今すぐどうこうされるわけではなさそうなので、ほっと一安心だ。
「あのお二方が正常でございましたら、お嬢様との婚約の報告をぜひにともしていただきたいところですが、それは今回の件が無事に片付いたらでお願いします」
「婚約……そっかあれは一応婚約ということになるんだよな……」
なんかそんな感じが全然しないけどまあそういうことだよな。
思えばあれ以来レリスとああいう空気になることがないからつい忘れがちになってしまう。
いやそれは俺が勝手にそう思ってるだけで、向こうは絶対そんな風に思ってないだろうから、出来る限り俺が積極的に動いてそういう空気を作らないといけないんだよな……うん。
「……まさか婚約ではなかったと?」
「いえいえいえいえ!!!婚約です!レリスとはちゃんと婚約しました!!間違いありましぇん!!!」
一瞬にしてソニアさんが殺し屋みたいな冷徹な目をして睨みつけてきたので、台詞を噛みながらもなんとか否定した。
「わかりました、ではそのように伝えておきます。それでは無事にアーデンハイツに辿り着けることを願っておりますね」
そう言ってソニアさんが夜の闇へと溶けるように消えていった。
え?なにこれ忍術?
「……っていうか今あの人「伝えておきます」って言ったよな?」
誰に……ってそんなの一人しかいないよな……。
翌朝目が覚めて洗面所に顔を洗いに行った時に、偶然レリスと鉢合わせしたので挨拶しようとしたら、真っ赤になって逃げられてしまった。
走るレリスの背中を眺めながら、ソニアさんが誰にあの話を伝えに行ったのかを俺は知ることになった。
余計なことを……いや別に余計ではないのか……?
「ご心配なくエナさん、大丈夫ですわ」
そう返すレリスの表情はなんだかとても疲れ切っていて、どう見ても大丈夫じゃないんだけど本人が大丈夫と言ってるんだから話を続けていこう。
「では話を続けていきます……どうして旦那様とティニア様の様子がおかしいかとわかったかというと、ある日を境にレリスお嬢様への関心をまるっとなくされてしまったからです」
「……レリっちへの関心をなくした?」
「お二方はそれはもうレリスお嬢様をご心配しておいででした……そしてそれと同時にレリスお嬢様の活躍を耳にする度に、それはもう大層喜ばれておりました」
なんだ、話を聞いてる限りじゃいい父親と姉じゃないか。
本来ならレリスのような立場の子なら有無を言わさず連れ戻そうとするだろうに……うん?待てよ?
「それちょっと矛盾してないか?確かレリスのもとには実家に連れ戻そうと何回か財閥の使いの人間が来たって言ってたけど?」
「財閥の人間も一枚岩ではございませんので。おそらくお嬢様を連れ戻そうとした者たちは財閥内の数ある派閥の一つでしょうね」
なるほど……家出当然で財閥を飛び出したレリスを連れ戻して上手く懐柔できれば、自分たちが財閥内の実権を握るための足掛かりになるから―――とかそんなところだろうな。
「話を戻しますね。そして三日ほど前でしたでしょうか……ティニア様より「もうレリスの監視はしなくてもいい」と連絡が来たのです」
「お姉様から?」
その言葉を聞いて、レリスが思わず椅子から立ち上がった。
立ち上がったレリスを見ながら、テレアが首を傾げながら口を開く。
「でも監視しなくてもいいってことは、レリスお姉ちゃんを認めてくれたってことなんじゃないのかな?」
まさしくテレアらしい平和な意見だ。
でも残念ながら俺はおろか、エナやフリルにレリスだってそうは思ってないだろう。
「残念ながらそうじゃないんですよテレアちゃん。……そうですよねレリスさん?」
「はい、お姉様なら「監視を止めて実家に帰るように説得してくれ」というところですが、「監視はしなくていい」だけだなんて言うはずがありません」
「……それだと、もうレリっちなんて放っておけってことになる」
「俺がレリスの姉の立場なら、例えレリスの成長を認めてたとして監視だけは続けさせるよ。放っておけるなんてできるわけがない」
俺たちの言葉を聞いて、テレアが何かに気が付いたようにハッとする。
「まさしくその通りです。そしてそのことを確認するために旦那様にも連絡を取りましたが、ティニア様と同じ答えが返ってきました」
恐らくエレニカ財閥内でレリスの監視にかまっていられないほどの何かが起きてるんだ。
もしくは、監視を命じた二人に何かが起きた……。
どちらにしても嫌な感じだ。
「でも急に変わったわけじゃないんですよね?もし急に変わったら明らかな洗脳を疑うところなんですが……」
「そうですね……ちょうど一か月前くらいからですね……お二人の様子が少しずつ変わっていったのは」
「一か月前……ちょうど実家からわたくしを連れ戻そうとする使いの者が来なくなった時期ですわね」
そのころはまだレリスがソロ活動してた頃だな。
「……もしかして、お姉様の結婚が決まった時期と合致するのでは?」
「はい、まさしくその通りでございます」
そうなると疑うべき要因は一つに絞られてくるな。
「ケニスとかいう貴族の息子が何かをしている……?」
「まさか、ありえませんわ!財閥とグウレシア家の付き合いは先代から続いているものです!ケニス様とも幼少の頃から顔を合わせておりますが、お姉様とも仲睦まじくわたくしや妹たちにも優しく接してくれて……そのケニス様が……!」
「レリスさん落ち着いてください!まだそうと決まったわけではないんですから!」
レリスがここまで言うんだから、そのケニスとかいう人を疑うのは止めてあげたいところだけど、残念ながらそうはいかない。
最悪ケニス自身に非がないとしても、グウレシア家の方になにか問題があるのかもしれないしな。
なるほど……疑うべき相手が大きすぎるな。これではソニアさんが自分の手には負えないというのもわかる。
「ソニアさん、お姉様の結婚式は何時頃になるのですか?」
「一週間後となっております」
「随分急じゃないですか?エレニカ財閥のトップとアーデンハイツで一番権力のあるご子息との結婚ですよ?もっと準備期間を設けるものだと思うんですが?」
「それだけ早く結婚をしてしまいたい理由があるんじゃないか?」
俺のその言葉に、場にいる全員が沈黙する。
俺の世界だって一般人が結婚式をするのにおおよそ半年は準備するんだから、この世界の権力を持つ者同士の結婚式が婚約してからわずか一か月だなんて異常事態にもほどがある。
エナの言う通り、もっと準備期間を設けて会場を抑えて関係者各位に連絡とかいろいろとやらないといけないのに、一か月しか期間がないなんていくらなんでも短すぎる。
「ソニアさんは、俺たちにどうしてほしいと思ってるんだ?」
「……もちろん、マグリドやリンデフランデで起きた事件……そしてこの国のダンジョンに潜んでいた神獣を鎮めたことを踏まえて、今回の異変を解決する力があなた方にはあると私は判断しました。差し当たってレリスお嬢様のためにも今回の異変解決のご助力を願いたいのです」
「ソニアさん……」
そう言ったソニアさんが、俺たち全員に向けて深々と頭を下げる。
「レリスはどうする?ぶっちゃけると今回の件をどうするかはレリスに一任してもいいと思ってるんだけど?」
「わたくしは……」
レリスが俯いて長考状態になった。
これは予想なんだけど、レリスはまだ俺たちに話してない実家を飛び出すに至った事情があると思う。
恐らくそれがレリスを実家に戻ることを躊躇わせる原因にもなってると思う。
だがそうした事情があると分かった上で、俺はレリスにこの件に関して全面的な決定権を委ねた。
俺のその意図に気が付かないレリスじゃないと思うけど、さてはて……。
「……シューイチ様……皆様……どうかわたくしに力を貸していただけないでしょうか?」
「勿論ですよ!」
「うん!テレアも頑張るよ!」
「……うい」
俯いていた顔を上げて、力強く言い放ったレリスの言葉に、エナもテレアもフリルも賛成してくれた。
短い期間ながらも仲間としてお互いにやってきたんだ、ここでみんながレリスを見捨てるわけがないんだよな。
「勿論俺も手伝うぞ?必ずレリスの実家を助けようぜ!」
「シューイチ様……皆様……本当にありがとうございますわ!!」
「レリスお嬢様……いいお仲間に恵まれましたね」
「ええ!わたくしの自慢の仲間ですもの!」
元々アーデンハイツには行くことは決定事項ではあったものの、妙にあの国に色んなものが集まっていくな……。
ついでに残りの所在のわからない白虎もそこにいてくれるとありがたいんだけど、さすがにそんなうまい話はないだろうし、いたらいたでこれ以上の厄介事を抱え込むのはごめんだ。
そんなこんなでひとしきり盛り上がった後、明日に備えて寝ることとなり今夜はお開きとなった。
「明日の昼にはアーデンハイツへ出発か」
ベッドに寝転がながら、独り言ちる。
このフカフカベッドともしばらくお別れか……当分は野宿生活になるからな。
恐らく二週間くらいは留守にするだろうけど、家のことはシエルとコランズに任せておけば大丈夫だな。
あっ、一応旅立つ前にルカーナさんには言っておかないとな。
「ハヤマ様」
「うわっ!!」
色々と考えながらウトウトとしていたら、突然名前を呼ばれてびっくりして声を上げてしまった。
身を起こして声の主を探すと、案の定闇に紛れるようにしてソニアさんが立っていた。
何なのこの人!?心臓に悪すぎるんだけど!!
「驚かせてしまったようで申し訳ありません」
「いやまあ……大丈夫だよ……それで俺に何か用?」
「私は一足先にアーデンハイツに戻らせていただきます」
「レリスの監視はしなくてもいいの?」
「もうすでにその任は解かれておりますので……差し当たって私がどのように動いても問題はないはずです」
まあそうだよね。でもそんなことなら明日の朝にでも言いに来ればいいのに。
「あと、こちらが私のもつ通信機の番号となりますので、緊急時の為に控えておいてください」
「そういやソニアさんも通信機持ってんだっけ……わかった、ちゃんと登録しておくよ」
通信機の番号の書かれた紙を受け取った俺は、こちらの番号も教えるために、取り出した紙に二台の番号を書いてソニアさんに手渡した。
これで何かあった時に連絡が取れるな……いやはやスチカ様々である。
「それと、改めてお礼を……この度のご協力誠に感謝いたします」
「やめてくださいよ、まだ解決したわけじゃないんですから!それに最終的な判断を下したのはレリスですから!」
「……正直な話、レリスお嬢様がなぜあなたを選んだのか理解に苦しんでおりましたが、少しだけその理由がわかりました」
「選んだ?……えっと……ちょっと待って?もしかして……?」
俺の頬を冷や汗が伝う。
まずいぞ……どこまで知ってるんだこの人!?いや……全部知っていても過言じゃない!
「幼少よりお仕えして来たあのレリスお嬢様が初めて見染めた殿方……もしその方がどうしようもないただの馬の骨であったら私が秘密裏に処分しているところでした」
なんかすっげー怖いこと言ってるんだけどこの人!?
「えっと……冗談ですよね?」
「冗談を言っている顔に見えますか?」
気のせいか部屋の気温が下がったような感覚を覚えた。
まてよ……この人レリスの様子を逐一報告してるみたいなこと言ってたよな?
ってことはまさか!?
「もっもしかして、俺とレリスの関係って……筒抜け?」
「当然ですが?」
「当然ですか!?」
目の前が真っ暗になるとはまさにこのこと。
うわぁ……こんなことになるならレリスに告白の返事なんてするんじゃなかった!
いやでもあれ以上返事を待たすなんて出来っこなかったし、そこはもう仕方ないんだけどさ!!
でもまさかレリスの父親と姉に筒抜けになってるなんて普通思わないだろ!!
思わず頭を抱えてうずくまると、ソニアさんが不思議そうな顔をしながら俺を覗き込んでくる。
「どうなさいました?そんな風に頭を抱えて?」
「あんたのせいやろがっ!!!」
思わず突っ込む。
「……何かひどく誤解があるようですが、私はハヤマ様とお嬢様の関係を否定してるわけではありませんよ?それは旦那様もティニア様も同じでございます」
「あんたさっき秘密裏に処理するって言ったじゃん!!」
「それはハヤマ様がお嬢様にふさわしくない場合だったと仮定してのことですよ?……まあ思うところがないわけではありませんが、私から見てもハヤマ様でしたらお嬢様を任せられます」
思うところあるんかい。
とりあえず今すぐどうこうされるわけではなさそうなので、ほっと一安心だ。
「あのお二方が正常でございましたら、お嬢様との婚約の報告をぜひにともしていただきたいところですが、それは今回の件が無事に片付いたらでお願いします」
「婚約……そっかあれは一応婚約ということになるんだよな……」
なんかそんな感じが全然しないけどまあそういうことだよな。
思えばあれ以来レリスとああいう空気になることがないからつい忘れがちになってしまう。
いやそれは俺が勝手にそう思ってるだけで、向こうは絶対そんな風に思ってないだろうから、出来る限り俺が積極的に動いてそういう空気を作らないといけないんだよな……うん。
「……まさか婚約ではなかったと?」
「いえいえいえいえ!!!婚約です!レリスとはちゃんと婚約しました!!間違いありましぇん!!!」
一瞬にしてソニアさんが殺し屋みたいな冷徹な目をして睨みつけてきたので、台詞を噛みながらもなんとか否定した。
「わかりました、ではそのように伝えておきます。それでは無事にアーデンハイツに辿り着けることを願っておりますね」
そう言ってソニアさんが夜の闇へと溶けるように消えていった。
え?なにこれ忍術?
「……っていうか今あの人「伝えておきます」って言ったよな?」
誰に……ってそんなの一人しかいないよな……。
翌朝目が覚めて洗面所に顔を洗いに行った時に、偶然レリスと鉢合わせしたので挨拶しようとしたら、真っ赤になって逃げられてしまった。
走るレリスの背中を眺めながら、ソニアさんが誰にあの話を伝えに行ったのかを俺は知ることになった。
余計なことを……いや別に余計ではないのか……?
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