152 / 169
雪国~作戦本部~
しおりを挟む
「てなわけで今日は、港町が見えたところでこうして帰ってきたわけだ」
転移でアーデンハイツへと帰還した俺は、レリスに朱雀を返してから服を着てみんなと合流した。
今は夕食を取りながらこうして皆に今日の経過を聞かせているところだ。
まあ経過と言っても街道を全速力で突っ走っていただけなんだけども。
「マグリドから港町まで馬車で一週間はかかるはずなんやけどな」
「お兄ちゃん、どれだけのスピードで走ってたのかな……」
「……ひくわー」
見事に全員ドン引きである。
いや、俺自身もどうかと思うけどさ? でも仕方ないじゃん、今は一刻を争う時だし?
「明日は海を越えるのですか?」
「そのつもりだよ」
「ちなみにな? 港町からクルテグラのあるノウズフィラ大陸まで船で行くのに一週間は掛かるんやで?」
「それなら明日にはクルテグラに着けるかもな」
その発言にまたもみんながドン引きである。
「わかってはおりましたが、本当に全裸になったシューイチ様には常識が通用しませんのね」
「照れる」
「ほめてへんで?」
などとくだらない会話をしながらも、食事は続いていく。
その最中気になったことがあったので聞いてみることにする。
「そういえば、ケニスさんは今日何しに城に来てたんだ?」
「爵位の返上をする旨を王様に伝えに来ておりました」
そういやそっちの問題もあったな……エナ失踪のせいですっかり頭から抜け落ちてた。
「どうなったの?」
「えっとね……王様から正式な発表を式典を通じて行うから、少し保留にしてもらえないか……って言われたらしいよ?」
「ある意味で式典の主役であるうちらがそれどころじゃないからなぁ……その式典を一週間先延ばしにしたんやんからそうなるのも必然ちゃうの?」
それを聞いて少し安心した。
俺的にはケニスさんには爵位を捨てずに、ティニアさんと結婚して幸せになってほしいのだ。
王様だってケニスさんが爵位を捨てることを良しとしないだろうから、この一週間で何かしらの対策を考えてくれるはずだ。
本来なら俺もいい方法を考えたいところだが、今はそれどころじゃないからな。
「ごちそう様! それじゃ俺は風呂に入って一足先に休むよ」
「……早くない?」
「早く休んで、明日は朝一からクルテグラを目指したいからな。それに肉体的な疲労はないけど精神的には結構疲れてるんだよ」
人や馬車を跳ね飛ばさないように気を使って走ってるから、結構神経使うんだよね。
そう言った情報も朱雀がナビしてくれるから、今まで誰もぶつかったりすることなく港町に行けたわけだが、だからと言って疲れてないわけじゃないのだ。
「そんじゃごめんなみんな? おやすみー」
「おやすみなさいませ、シューイチ様」
「おやすみ、お兄ちゃん!」
皆に見送られながら、俺は会食場を後にし風呂へと向かうのだった。
明けて翌日。
朝早く目が覚めた俺は、俺よりも30分ほど早くに目が覚めていたレリスと合流し、再び朱雀を借り受けて昨日記憶した港町付近まで転移で飛んだ。勿論全裸で。
『最初はどうかと思ったあんたの全裸だけど、最早見慣れたわね』
「俺もここ数日は服着てる時間よりも全裸の時間の方が長い気がするよ」
恐らく今日なんてほぼ一日中全裸だろうしな。
ここまで長い時間全裸になるのって、この世界に転生して以来初じゃないかな?
エルサイムのダンジョンの時だって、正味半日も全裸になってなかったし。
『そんでどうする? 海の傍まで行ってから飛んでく?』
「いや、人に見られるのも面倒くさいしここから飛んで行こう」
『了解、そんじゃあんたの魔力借りるわね』
「おう、どんどん使っていいぞ!」
俺がそう言った途端、急に体がふわりと浮き上がった。
そのままぐんぐんと高度を上げていき、瞬く間に海を一望できるほどの高さでぴたりと止まる。
「おーすげー! 本当に飛んでるよ!!」
『一応誰かに見られないように隠蔽魔法を併用していくから、多分思ってるよりはスピード出せないと思うけどいい?』
「今日中にクルテグラのある大陸に着けるかな?」
『そこは大丈夫よ? そこまでは遅くないから』
「なら問題なしだ! そんじゃやってくれ!」
『はいはいっと』
こうして朱雀の自動運転(?)による、海越えが始まったのである。
朱雀はそんなにスピードは出せないと言ったが、感覚的にはそこまで遅いわけでもなく、十分なスピードだった。
確かに昨日の俺の全力疾走に比べたら劣るかもしれないが、あれと比べるのはさすがにどうかと思うしな。
それに昨日は周りの被害を考えて、本当の意味で全力疾走はしてないんだよね。
「おおっ凄い……陸地がどんどん遠ざかっていく!」
『風も穏やかだし、飛ぶには絶好のシチュエーションね』
「おっ船発見! 大きさからして漁船かな? おおっ! なんか豪華客船っぽいのがある!」
『子供かあんたは』
はしゃぐ俺を見て、朱雀が呆れたようにため息を吐いた。
はしゃぐのも無理もない……なぜなら機械などに頼らずに自力で空を飛ぶのは人類の夢だからだ!
それが人類の夢なのかは大げさかもしれないが、少なくとも俺は一度くらい自力で空を飛んでみたいと思っていたからオールオッケーだ!
そんな感じで快適な空の旅を楽しむこと二時間……。
「飽きた」
『極端なのよあんたは!』
「だって見渡す限り海ばっかりなんだもんよー! さすがに飽きるって!」
『まあ気持ちはわからなくもないけど』
陸地を離れたばかりの時はまだちらほらと船が見えたのだが、今は30分に一隻でも見つかればいいほどの頻度になってしまった。
そうなればもう周りに見えるのは海ばかりになるわけであって……。
「あとどのくらいで着くんだ?」
『今やっと折り返しくらいかしらね』
「後二時間もかかるのか……」
『見るからにゲンナリしないでよ……そういうのって魔力に影響与えるのよ?』
「いいじゃん、どうせ無限沸きなんだから……」
そんな俺に文句を言いつつも、こうしてしっかり自分の仕事をこなしてる朱雀は働き者だなぁ。
こういう根が真面目なところがレリスと波長が合った要因なんだろうか?
「そういや聞いておきたいことがあるんだけどさ、残ってる神獣は白虎だっけ? どんな奴なんだ?」
『そうねぇ……青龍のように長い年月をかけて性格が変わってなければ、義理堅くて何かと筋を通そうとする……頑固おやじみたいな奴?』
地震雷火事親父ってか?
「大体どこにいるのかわかる?」
『最近は私たちも玄武も大分全盛期の力を取り戻しつつあるし、朧気ながら大体の位置は把握できてるわね』
「そうなのか? エナを連れ戻してアーデンハイツの件が片付いたら、今度は白虎を探さないとだな」
『恐らくだけど、ノウズフィラ大陸のどこかにいるわね』
「マジか!?」
色々と面倒くさいことばかり起きているここ最近だけど、それに限ってはちょっと嬉しいニュースだ。
エナを探すついでに白虎の情報もさり気に探さないといけないなこれは。
『ただちょっとなんていうか……私の予感なんだけど白虎も青龍みたいに面倒くさいことになってる可能性があるわね』
「そうなの?」
『だって一か所に留まってないもの』
もしかして朱雀みたいにすでに封印が解けてる……?
もしくは青龍のように分け身を作ったとか……?
色々な可能性が考えられるが、なんにせよ朱雀の言う通り面倒くさいことになってそうだな。
「神獣関係が今まで何の苦労もなくスムーズに解決した試しがないから、そこはもう諦めてるよ」
『なんか悪いわね』
「そう思うならもうちょっと何とかしろよお前らさぁ!?」
事もあろうに俺のその抗議を、朱雀は引きつった半笑いをしつつスルーしたのだった。
「すげー……一面雪だらけじゃねーか……」
『あれ? 私言ってなかったっけ?』
「言ってねーよ!!」
あれから二時間ほど空の旅を楽しんだ後、ようやく陸地が見えてきたのだが、一面まさに銀世界だった。
晴れてはいるので雪が降ったりはしていないのだが、こりゃ相当寒い大陸なんじゃないのかな?
しかしこれだけの雪は、二年くらい前に冬に家族でスキー旅行に行った時以来だな。
「こうして空から見ると、結構大きな村とかあるな……こんな寒そうな土地でよくもまあ」
『どんなところでも住めば都って言うじゃない』
「俺の世界の北海道を彷彿とさせるなぁ……」
しかしこんな雪国で蒸気文明か……クルテグラは蒸気機関で暖を取っている国なんだろうか?
そしてなんでエナもわざわざそんな国行ったのだろう?
「朱雀って、クルテグラがどんな国か知ってる?」
『知ってるわよ? あそこは大昔に私たち四匹の神獣と二人の大天使の力で建てた塔があるし』
「何でそんなものを?」
『邪神カルマと戦うための作戦本部みたいなノリで作ったんだけど……結局数えるほどしか使わなかったわね』
ノリでそんなもの作んなや。
『塔全体が、その辺から搔き集めた、四匹の神獣の力を流し込んだ石で出来てるのよ』
この世界にも価値のある歴史的建造物は沢山あるだろうが、そのほとんどがこうした神獣たちの気まぐれで作られた物なんじゃないかと思えてきた。
まあ歴史建造物なんて大体がそんなものなのかもしれないが。
『今ではその塔に多くの魔術師たちが住んでるらしいわよ?』
「そうなのか……」
「塔全体が私たち神獣の力を宿した石で出来てるし、魔術師からしたらこれ以上ないくらいの環境なのかもしれないわね」
となると、エナはその塔に行くためにクルテグラに飛んだ可能性が高いな。
なんの意味もなくそこに行くとは思えないから、恐らく知り合いがいるんだろう。
クルテグラに着いたらまずはその塔に行くことにしよう。
『そろそろ見えてくるんじゃないかしら?』
「どれどれ……おっ?」
なんだかひと際大きな塔みたいなものが遠くに見えてきた……あれがそうか!
塔を取り囲むようにして沢山のパイプのようなものが見えてきて、そこから蒸気が噴き出している。
国に近づくにつれ雪が減っていってるのを見るに、クルテグラは周囲の環境に反して気温の高い国なのだろう。
「こりゃ一旦アーデンハイツに戻って、防寒具を買ってこないといけないな……」
『そういうところ人間って不便よねぇ』
今は全裸で無敵状態のおかげか、寒さを全く感じないからいいものの、ちゃんとした装備をしてこないと凍え死にしそうだ。
「朱雀、国の近くまで来たら一旦降りてくれ」
『了解』
そうして五分ほど飛んだあと、森の中に手ごろな開けた場所を見つけたのでそこへ降りていく。
蒸気による気温上昇のおかげか、俺の降りた場所には雪がないようだった。
「昨日みたいにその辺の木に印を付けて行ったんアーデンハイツへ戻ろう」
そしてみんなを連れてこないとな。
俺一人でエナを探しに行ってしまったら怒られてしまう。
『ちょいまち! ……ここから少し離れたところで誰かが戦ってるわ』
「どんな状況?」
『……二人組がたくさんの大型の魔物に囲まれてるみたいね』
それは穏やかじゃないな。
「助けに行こう!」
『別にいいけど……全裸で?』
「……緊急事態だからな!」
『妙な間があったわね……まあ、あんたがそれでいいなら反対しないわ。ナビしてあげるから付いてきて!』
先導するように前を飛ぶ朱雀の後をぴったりと付いて行き、木々の隙間を風のように駆け抜けていく。
二分ほど走ると、先程俺が降りたところと同じように開けた場所に出る。
そこには真っ白なライオンのような見た目のモンスター四匹に囲まれた、男女の二人組がいた。
「情報通りだけど、さすがにこの数は聞いてねえよ!」
剣を構えた男が魔物を睨みつけながらも、冷や汗を流しながら叫んだ。
「この数のスノウ・レイヴェがこんなところに出現するなんて、確かに異常事態ね」
剣を構えた男に寄り添いつつ、周囲を警戒しながらもう一人の女が呟く。
想像以上にヤバい状況だな……今すぐ助けに行かないと!
『ちょっと待って! その前に……』
「なに?」
朱雀から魔力があふれ出ると、それが俺を包み込むように集まってくる。
『視覚をごまかす魔法を掛けたわ! これで相手からは服を着てるように見えるはずよ!』
「超ナイス!!」
全裸であることには変わりないが、これで一応の体裁は保てる!
「よし……そんじゃいっちょ暴れますか!!」
転移でアーデンハイツへと帰還した俺は、レリスに朱雀を返してから服を着てみんなと合流した。
今は夕食を取りながらこうして皆に今日の経過を聞かせているところだ。
まあ経過と言っても街道を全速力で突っ走っていただけなんだけども。
「マグリドから港町まで馬車で一週間はかかるはずなんやけどな」
「お兄ちゃん、どれだけのスピードで走ってたのかな……」
「……ひくわー」
見事に全員ドン引きである。
いや、俺自身もどうかと思うけどさ? でも仕方ないじゃん、今は一刻を争う時だし?
「明日は海を越えるのですか?」
「そのつもりだよ」
「ちなみにな? 港町からクルテグラのあるノウズフィラ大陸まで船で行くのに一週間は掛かるんやで?」
「それなら明日にはクルテグラに着けるかもな」
その発言にまたもみんながドン引きである。
「わかってはおりましたが、本当に全裸になったシューイチ様には常識が通用しませんのね」
「照れる」
「ほめてへんで?」
などとくだらない会話をしながらも、食事は続いていく。
その最中気になったことがあったので聞いてみることにする。
「そういえば、ケニスさんは今日何しに城に来てたんだ?」
「爵位の返上をする旨を王様に伝えに来ておりました」
そういやそっちの問題もあったな……エナ失踪のせいですっかり頭から抜け落ちてた。
「どうなったの?」
「えっとね……王様から正式な発表を式典を通じて行うから、少し保留にしてもらえないか……って言われたらしいよ?」
「ある意味で式典の主役であるうちらがそれどころじゃないからなぁ……その式典を一週間先延ばしにしたんやんからそうなるのも必然ちゃうの?」
それを聞いて少し安心した。
俺的にはケニスさんには爵位を捨てずに、ティニアさんと結婚して幸せになってほしいのだ。
王様だってケニスさんが爵位を捨てることを良しとしないだろうから、この一週間で何かしらの対策を考えてくれるはずだ。
本来なら俺もいい方法を考えたいところだが、今はそれどころじゃないからな。
「ごちそう様! それじゃ俺は風呂に入って一足先に休むよ」
「……早くない?」
「早く休んで、明日は朝一からクルテグラを目指したいからな。それに肉体的な疲労はないけど精神的には結構疲れてるんだよ」
人や馬車を跳ね飛ばさないように気を使って走ってるから、結構神経使うんだよね。
そう言った情報も朱雀がナビしてくれるから、今まで誰もぶつかったりすることなく港町に行けたわけだが、だからと言って疲れてないわけじゃないのだ。
「そんじゃごめんなみんな? おやすみー」
「おやすみなさいませ、シューイチ様」
「おやすみ、お兄ちゃん!」
皆に見送られながら、俺は会食場を後にし風呂へと向かうのだった。
明けて翌日。
朝早く目が覚めた俺は、俺よりも30分ほど早くに目が覚めていたレリスと合流し、再び朱雀を借り受けて昨日記憶した港町付近まで転移で飛んだ。勿論全裸で。
『最初はどうかと思ったあんたの全裸だけど、最早見慣れたわね』
「俺もここ数日は服着てる時間よりも全裸の時間の方が長い気がするよ」
恐らく今日なんてほぼ一日中全裸だろうしな。
ここまで長い時間全裸になるのって、この世界に転生して以来初じゃないかな?
エルサイムのダンジョンの時だって、正味半日も全裸になってなかったし。
『そんでどうする? 海の傍まで行ってから飛んでく?』
「いや、人に見られるのも面倒くさいしここから飛んで行こう」
『了解、そんじゃあんたの魔力借りるわね』
「おう、どんどん使っていいぞ!」
俺がそう言った途端、急に体がふわりと浮き上がった。
そのままぐんぐんと高度を上げていき、瞬く間に海を一望できるほどの高さでぴたりと止まる。
「おーすげー! 本当に飛んでるよ!!」
『一応誰かに見られないように隠蔽魔法を併用していくから、多分思ってるよりはスピード出せないと思うけどいい?』
「今日中にクルテグラのある大陸に着けるかな?」
『そこは大丈夫よ? そこまでは遅くないから』
「なら問題なしだ! そんじゃやってくれ!」
『はいはいっと』
こうして朱雀の自動運転(?)による、海越えが始まったのである。
朱雀はそんなにスピードは出せないと言ったが、感覚的にはそこまで遅いわけでもなく、十分なスピードだった。
確かに昨日の俺の全力疾走に比べたら劣るかもしれないが、あれと比べるのはさすがにどうかと思うしな。
それに昨日は周りの被害を考えて、本当の意味で全力疾走はしてないんだよね。
「おおっ凄い……陸地がどんどん遠ざかっていく!」
『風も穏やかだし、飛ぶには絶好のシチュエーションね』
「おっ船発見! 大きさからして漁船かな? おおっ! なんか豪華客船っぽいのがある!」
『子供かあんたは』
はしゃぐ俺を見て、朱雀が呆れたようにため息を吐いた。
はしゃぐのも無理もない……なぜなら機械などに頼らずに自力で空を飛ぶのは人類の夢だからだ!
それが人類の夢なのかは大げさかもしれないが、少なくとも俺は一度くらい自力で空を飛んでみたいと思っていたからオールオッケーだ!
そんな感じで快適な空の旅を楽しむこと二時間……。
「飽きた」
『極端なのよあんたは!』
「だって見渡す限り海ばっかりなんだもんよー! さすがに飽きるって!」
『まあ気持ちはわからなくもないけど』
陸地を離れたばかりの時はまだちらほらと船が見えたのだが、今は30分に一隻でも見つかればいいほどの頻度になってしまった。
そうなればもう周りに見えるのは海ばかりになるわけであって……。
「あとどのくらいで着くんだ?」
『今やっと折り返しくらいかしらね』
「後二時間もかかるのか……」
『見るからにゲンナリしないでよ……そういうのって魔力に影響与えるのよ?』
「いいじゃん、どうせ無限沸きなんだから……」
そんな俺に文句を言いつつも、こうしてしっかり自分の仕事をこなしてる朱雀は働き者だなぁ。
こういう根が真面目なところがレリスと波長が合った要因なんだろうか?
「そういや聞いておきたいことがあるんだけどさ、残ってる神獣は白虎だっけ? どんな奴なんだ?」
『そうねぇ……青龍のように長い年月をかけて性格が変わってなければ、義理堅くて何かと筋を通そうとする……頑固おやじみたいな奴?』
地震雷火事親父ってか?
「大体どこにいるのかわかる?」
『最近は私たちも玄武も大分全盛期の力を取り戻しつつあるし、朧気ながら大体の位置は把握できてるわね』
「そうなのか? エナを連れ戻してアーデンハイツの件が片付いたら、今度は白虎を探さないとだな」
『恐らくだけど、ノウズフィラ大陸のどこかにいるわね』
「マジか!?」
色々と面倒くさいことばかり起きているここ最近だけど、それに限ってはちょっと嬉しいニュースだ。
エナを探すついでに白虎の情報もさり気に探さないといけないなこれは。
『ただちょっとなんていうか……私の予感なんだけど白虎も青龍みたいに面倒くさいことになってる可能性があるわね』
「そうなの?」
『だって一か所に留まってないもの』
もしかして朱雀みたいにすでに封印が解けてる……?
もしくは青龍のように分け身を作ったとか……?
色々な可能性が考えられるが、なんにせよ朱雀の言う通り面倒くさいことになってそうだな。
「神獣関係が今まで何の苦労もなくスムーズに解決した試しがないから、そこはもう諦めてるよ」
『なんか悪いわね』
「そう思うならもうちょっと何とかしろよお前らさぁ!?」
事もあろうに俺のその抗議を、朱雀は引きつった半笑いをしつつスルーしたのだった。
「すげー……一面雪だらけじゃねーか……」
『あれ? 私言ってなかったっけ?』
「言ってねーよ!!」
あれから二時間ほど空の旅を楽しんだ後、ようやく陸地が見えてきたのだが、一面まさに銀世界だった。
晴れてはいるので雪が降ったりはしていないのだが、こりゃ相当寒い大陸なんじゃないのかな?
しかしこれだけの雪は、二年くらい前に冬に家族でスキー旅行に行った時以来だな。
「こうして空から見ると、結構大きな村とかあるな……こんな寒そうな土地でよくもまあ」
『どんなところでも住めば都って言うじゃない』
「俺の世界の北海道を彷彿とさせるなぁ……」
しかしこんな雪国で蒸気文明か……クルテグラは蒸気機関で暖を取っている国なんだろうか?
そしてなんでエナもわざわざそんな国行ったのだろう?
「朱雀って、クルテグラがどんな国か知ってる?」
『知ってるわよ? あそこは大昔に私たち四匹の神獣と二人の大天使の力で建てた塔があるし』
「何でそんなものを?」
『邪神カルマと戦うための作戦本部みたいなノリで作ったんだけど……結局数えるほどしか使わなかったわね』
ノリでそんなもの作んなや。
『塔全体が、その辺から搔き集めた、四匹の神獣の力を流し込んだ石で出来てるのよ』
この世界にも価値のある歴史的建造物は沢山あるだろうが、そのほとんどがこうした神獣たちの気まぐれで作られた物なんじゃないかと思えてきた。
まあ歴史建造物なんて大体がそんなものなのかもしれないが。
『今ではその塔に多くの魔術師たちが住んでるらしいわよ?』
「そうなのか……」
「塔全体が私たち神獣の力を宿した石で出来てるし、魔術師からしたらこれ以上ないくらいの環境なのかもしれないわね」
となると、エナはその塔に行くためにクルテグラに飛んだ可能性が高いな。
なんの意味もなくそこに行くとは思えないから、恐らく知り合いがいるんだろう。
クルテグラに着いたらまずはその塔に行くことにしよう。
『そろそろ見えてくるんじゃないかしら?』
「どれどれ……おっ?」
なんだかひと際大きな塔みたいなものが遠くに見えてきた……あれがそうか!
塔を取り囲むようにして沢山のパイプのようなものが見えてきて、そこから蒸気が噴き出している。
国に近づくにつれ雪が減っていってるのを見るに、クルテグラは周囲の環境に反して気温の高い国なのだろう。
「こりゃ一旦アーデンハイツに戻って、防寒具を買ってこないといけないな……」
『そういうところ人間って不便よねぇ』
今は全裸で無敵状態のおかげか、寒さを全く感じないからいいものの、ちゃんとした装備をしてこないと凍え死にしそうだ。
「朱雀、国の近くまで来たら一旦降りてくれ」
『了解』
そうして五分ほど飛んだあと、森の中に手ごろな開けた場所を見つけたのでそこへ降りていく。
蒸気による気温上昇のおかげか、俺の降りた場所には雪がないようだった。
「昨日みたいにその辺の木に印を付けて行ったんアーデンハイツへ戻ろう」
そしてみんなを連れてこないとな。
俺一人でエナを探しに行ってしまったら怒られてしまう。
『ちょいまち! ……ここから少し離れたところで誰かが戦ってるわ』
「どんな状況?」
『……二人組がたくさんの大型の魔物に囲まれてるみたいね』
それは穏やかじゃないな。
「助けに行こう!」
『別にいいけど……全裸で?』
「……緊急事態だからな!」
『妙な間があったわね……まあ、あんたがそれでいいなら反対しないわ。ナビしてあげるから付いてきて!』
先導するように前を飛ぶ朱雀の後をぴったりと付いて行き、木々の隙間を風のように駆け抜けていく。
二分ほど走ると、先程俺が降りたところと同じように開けた場所に出る。
そこには真っ白なライオンのような見た目のモンスター四匹に囲まれた、男女の二人組がいた。
「情報通りだけど、さすがにこの数は聞いてねえよ!」
剣を構えた男が魔物を睨みつけながらも、冷や汗を流しながら叫んだ。
「この数のスノウ・レイヴェがこんなところに出現するなんて、確かに異常事態ね」
剣を構えた男に寄り添いつつ、周囲を警戒しながらもう一人の女が呟く。
想像以上にヤバい状況だな……今すぐ助けに行かないと!
『ちょっと待って! その前に……』
「なに?」
朱雀から魔力があふれ出ると、それが俺を包み込むように集まってくる。
『視覚をごまかす魔法を掛けたわ! これで相手からは服を着てるように見えるはずよ!』
「超ナイス!!」
全裸であることには変わりないが、これで一応の体裁は保てる!
「よし……そんじゃいっちょ暴れますか!!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜
秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。
そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。
クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。
こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。
そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。
そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。
レベルは低いままだったが、あげればいい。
そう思っていたのに……。
一向に上がらない!?
それどころか、見た目はどう見ても女の子?
果たして、この世界で生きていけるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる