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神様ごっこ
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「ねえ! もうやめて! 消えてよ! ユキミ!!」
悲痛な叫び声が、光一つ差さぬ箱の中で響いた。
返事は、無い。
「もう、許してぇ……」
20年前。
「あのね、あのね、きょうね、かみさまごっこしたんだよ」
4歳になるリナが母親にそう報告をした。
幼稚園の帰り道、電動自転車の後ろでご機嫌な様子だった。
リナの母親はパートの帰りで話を半分も聞いておらず、はいはいとおざなりに返す。
今晩の夕食とパート先の人間関係の事で頭が一杯だった。
「おかあさん、かみさまごっこで、かみさまにだれがなったとおもう? ねえ、おかあさん、きいてよ、もーう」
不満げに鼻を鳴らしたリナの声にも、リナの母親ははいはいと答えた。
帰宅するとすぐにスマホが鳴った。
幼稚園からである。
見れば十数件の着信が残っていた。
「はい! 木下です! すみません、自転車に乗ってて……は?」
リナの母親は、担任のサツキ先生の言葉に思わず聞き返した。
「ユキミちゃんが、居ないんです」
「え、と、すみません。私も見てないです」
「何かわかったら幼稚園までお願いします」
ユキミと言うと、リナと同じクラスの女の子だ。
「ねぇ、リナ。ユキミちゃんと仲良かったっけ?」
仲が良いと聞いたことはない。
だが、担任が滅多矢鱈に電話をかけるだろうか?
「ううん。ふつうだよ」
「そう。そうよね」
ユキミが居なくなった事を話すべきか数瞬迷い、やめた。
子供をパニックに陥らせても良い事は一つもない。
夜、22時。再び幼稚園の担任から電話があった。
警察に届けて捜索中だと言う。
どこかで見かけたら教えて欲しい、とも。
警察の連絡先を聞いてメモを取り、通話を切ると溜め息が出た。
我が子で無くて良かったという思いと、何が起きているかわからない不安からの溜め息だ。
夫に伝えるも、夫がリナのクラスメイトを覚えているわけがない。
一応、スマホの画像フォルダの幼稚園のお友達の中からユキミを探す。
が、これが中々無いもので、やっと見つけたものはボヤけてリナの後方で横を向いているモノだけだった。
「この子なんだけどね」
「えー、これじゃわかんないよ」
夫の言う事も尤もであるが、気に障る。
「……そうね。変な場所に変な時間に小さな子がいたら幼稚園に連絡してね」
「いや、人違いだったらどうすんだよ? やだよ、俺」
この男は、居なくなったのが自分の娘でも、こう言うのだろうか?
言いかねないな……と思ってしまい、リナの母親は深く溜め息を付いた。
翌朝、幼稚園に行くと、園児の母親達があちらこちらで固まって話をしている。
子供達はと言うと、いつも通り元気一杯に駆け出していた。
「おはようございますー」
リナの母親は知り合いの一人に声をかけ、輪に入れて貰う。
「おはようございます、リナちゃんママ」
「リナちゃんママのとこにもサツキ先生から電話ありました?」
やはり、話題はユキミの行方不明の件だ。
「ええ、でも、うちの子特段仲良かった訳じゃなくて」
「うちもよ」
「どうもね、幼稚園のお迎え前に突然消えたみたい」
「不審者に連れて行かれちゃったのかしら?」
「やだこわい」
皆が皆、どこか他人事のように好き勝手話している。
「そう言えば、神様ごっこにユキミちゃんは入ってたのかしら?」
一人の保護者の言葉に、思わずそちらを凝視する。
「神様ごっこ?」
「ええ。昨日、神様ごっこしたんだーって、うちの子が」
「そう言えば、うちの子もそんな事言ってたわ」
「リナも言ってた……」
最初に声を上げた保護者の子供は男の子である。
男の子も女の子も遊べる遊び……と言うことだろうか?
結局、その後もユキミちゃんの消息は掴めず、神様ごっこについても、何もわからないまま、20年の時が過ぎて行った。
リナは24になっていた。
上京し短大を卒業後、就職先で幼稚園で一緒だったトシヤと再開し、交際を始め、この秋に結婚式が控えている。
「ほんと、凄い偶然だよね」
「ここまで来ると運命だよね」
婚約指輪を眺め、トシヤにもたれ掛かる。
「ここだけの話、幼稚園の時の将来の夢、トシヤのお嫁さんだったんだ」
「まじかー。あ、お盆に帰省した時に幼稚園にも顔出してみようか」
「いいね! 行きたい!」
地元が同じだと、やはりこう言う時にどちらの田舎に行くか揉めなくて良い。
トシヤの実家もリナの実家も車で5分の距離だ。
「他に、同窓会とかあったりする?」
「そうだな、中学の時の友達が、折角だから集まろうかとか言ってるけど」
「じゃあ、私も地元の友達と会っておこうかな」
「だなー」
結婚式に招待している人も、招待してないけれど会っておきたい人もいる。
「凄いじゃん、運命じゃん」
マリエがカンパリオレンジのおかわりを頼み、再度言った。
「クマさん組の時のトシヤくんでしょ? 当時から足は速いしカッコよかったよね! モテモテだったもんね!」
「あっはっは、そうそう! それで私、絵馬に『トシヤくんのおヨメさんになりたい』って書いて……」
リナとマリエ、それにナナキの手が止まる。
「えっと、その話は、さ……」
「ごめん、浮かれてた」
「いや、でも、あれ、私達のせいじゃなくない?」
「もう良いじゃん、その話は!」
ナナキが強い口調で言う。
「でも」
リナが口を開こうとした瞬間、ナナキがリナを睨み付けた。
「カズくん、死んだんだよ」
「え? いつ?」
唐突な話の展開に付いていけない。
「やめなよ」
マリエがナナキを制しようとするが、ナナキは止まらない。
「カズくん、小学校上がってすぐ、海で溺れて死んだの!」
「え? 何で?」
「海釣りで事故だって」
「知らなかった」
「小学校別の子には知らせないようにって、大人達がさ」
「そうなんだ……」
それは、とても悲しい事だし、だけど、それが何の関係があると言うのかと俯くリナに、ナナキは続けた。
「あのね、溺れたカズくんの胸ポケットに、折り紙の絵馬が入ってたの」
絵馬には『一人で大物を釣り上げたい』と書いてあった。
その日、カズトの釣り針にかかった大きな魚に引っ張られ、海に引きずり込まれたために起こった事故だったと言う。
「え? おかしくない? あの後、絵馬、どこにも無かったよね」
「だから、辞めようってこの話」
再度マリエが間に入ってきた。
「だって」
「一人じゃないの!」
リナの言葉にマリエが泣き出す。
「シズくんもなの」
シズマは、小3のサッカークラブの試合中にゴールポストが倒れてきたらしい。
鞄から出てきた折り紙の絵馬には『レギュラーになりたい』とあり、その日、レギュラーとして初試合だったのだと言う。
あの時に、神様ごっこに参加した6人の内、一人は行方不明、二人が亡くなっている。
お願い事が叶うと死ぬのなら、それなら、次はリナの番ではないか。
「え、やだ。なんでそんな事、今言うの?」
「だから辞めようって言ったのに」
「リナが聞きたがったんじゃん」
「だってそんなの気になるじゃない!」
「かみさま、だーれだ?」
「はい、あたし!」
ユキミが手を上げると大きな石の上に座る。
ユキミの前にティッシュの箱が裏返しに置かれ、その上に持ち寄ったオヤツが置かれる。
「かみさまは、おそなえものがなくっちゃね」
大きな段ボールをかぶせ、扉を書く。
「かみさまは、おやしろがなくっちゃね」
ハサミで段ボールに横長の穴を開けると、折り紙で作った絵馬を一人ずつ入れた。
「かみさまはおねがいごとをしなくちゃね」
「かなえてくれるまで、でちゃダメなんだよ」
「がんばってかなえてね」
おねがいします、と手を合わせ、声を揃えて頭を下げる。
「よきにはからえー」
ユキミが段ボールの社の中から、すました声で返し、みんなは笑いながら走って戻って行く。
残されたユキミが、オヤツを食べながら折り紙の絵馬を一枚一枚眺め、解読を始める。
と、外で気配がした。
先生かな? とユキミが息を潜める。
オヤツの事がバレたら、怒られるだろう。
数日して、ユキミの行方不明の件は、子供達も知る所になった。
ユキミの母親が、半狂乱で幼稚園の子達に何か知らないかと迫ったからだ。
だが、誰からも何の情報も得られなかったらしい。
ユキミは子供達から好かれていなかった。
すぐにズルいズルいと言うので、ズルいズルい病なのだと子供達の間で言われていた。
「いないんだって」
「ねぇ、かみさまって、めにみえないよね」
「そうだよね」
「でも、いるよね」
「いるよね」
「おそなえ、なくなってたよね」
「たべたのかな?」
「おやしろ、こわれてたね」
「また、あたらしいの、つくらなきゃね」
「えま、なくなってたね」
「なくなってたね」
「はやく、おねがい、かなうといいなぁ」
夢を、見た。
あの日の夢だった。
ユキミがどうなったのかはわからないし、あの後警察がどう結論付けたかわからない。
「あらおはよ。やぁね、飲み過ぎ? 顔すごいわよ」
リビングへ入ると母が一目見てそう言った。
「そんな顔でトシヤくんに会えないでしょ。顔洗ってらっしゃい」
今回は、トシヤとはそれぞれ実家へ帰省している。
昼にこちらに顔を出し、夕食はあちらへ行く事になっていた。
洗面台で鏡を見ると、なるほど、ひどい。
水死体の様だなと思った瞬間、寒気がした。
風呂を沸かしながら湯船に浸かる。
そう言えば、ナナキとマリエは絵馬に何と書いたのだろうか?
聞くのを忘れてしまったなと飲み込んだ氷が溶けていくような感覚に、肩の力が抜ける。
すっかり温まり、湯船から立ち上がろうとしたその時、足首を掴まれたような気がした。
体制を崩し、そのまま湯船へと沈む。
無我夢中で浴槽の縁を掴むと、誰かに腕を引っ張り上げられた。
トシヤだった。
「何やってんだよ? ドジだなぁ」
「と、とし……」
咳き込んで上手く話せないリナを抱き上げ、バスタオルを頭からかけて水滴を拭う。
「誰かに足、掴まれて……」
「誰かって、誰がいるの、もう」
確かに、風呂場には、他に誰もいなかった。
けれども、足首を掴まれた感触は、確かに残っている。
「わぁ、トシヤ君、なにやってるの?」
びしょ濡れのトシヤに、リナの母親が呆れた声を上げた。
「ちょっとしたハプニングですよー。夏なんですぐ乾きます」
「あなた達、何やってんのよ。実家でいちゃつかないでね」
「まぁ、ちょっとくらい目を瞑ろうじゃないか」
リナの父親が、場を宥めた。
昼食を和やかに過ごし、仏壇に結婚の挨拶をしてから、家を出る。
トシヤの家まで徒歩で20分というところだろうか。
「そうそう、幼稚園、今から行ってみようか」
「え?」
「行きたいって言ってただろ?」
幼稚園は、お互いの実家から丁度10分程度、真ん中と言うわけでもないが、寄って行ったとしても大幅に時間が狂うわけでもない。
「えっと」
リナが言い淀んでいる間に、トシヤは幼稚園への道を歩き出していた。
嫌とも言えず、手を引かれてリナも歩き出す。
「懐かしいなぁ。あの頃の記憶とか全然覚えてないけど、リナ、なんか覚えてる?」
「え? 覚えてないの?」
「うーん。毎日楽しかったなーくらい?」
「え、単純過ぎない?」
「そういうリナは?」
聞かれて、今朝の夢が脳裏に浮かぶ。
「私、今朝、変な夢見ちゃって」
「ふうん?」
「幼稚園の頃の」
「どんな?」
「ほら、行方不明になった子が居たでしょ?」
「んー、そう言われると居たような……」
「その子が……」
「あ、いたわ」
リナの言葉を遮って、トシヤが口を開く。
「あれだ。何でも願いを叶えてあげるから願い事書いてって言ってきた子だ」
「え?」
初耳である。
神様ごっこに関わっているのは、ユキミと亡くなった二人とナナキとマリエとリナだけの筈だ。
「こう、五角形に折った折り紙を持ってきてさ。何でも良いから書いてって」
ユキミがトシヤに絵馬を書かせていた?
なぜ?
いつ?
「……書いたの?」
「書いたよ? 書いてって凄く頼まれたし」
「なんて? なんて書いたの?」
「なんだっけなー? なんせ20年も前の話だしなー」
「良いから、思い出して!」
「え? なんで怒ってんの?」
怪訝な表情を向けるトシヤに、リナは頭を抱えたくなった。
これは八つ当たりだと自分でもわかっている。
だけれど、こればっかりは聞き出さなくてはと言う焦燥感に駆り立てられる。
「お、見えてきたぞ」
幼稚園は、子供の減少のせいだろうか、廃園になっていた。
遊具は錆びれ、壁もカーテンも色褪せ、何年も人の手が入ってないように見えた。
「あれ? リナ?」
低い門の内側から、マリエが現れる。
「と、もしかしてトシヤ君? ひゃー、カッコヨクなっちゃってまー」
「え、マリエ、なんでいるの?」
「なんでって、そりゃこっちの台詞よ」
ガラガラと門を横に滑らせて開けるマリエに、それもそうかなと首を傾げる。
「ナナキもいるの?」
「いるよ?」
背後から聞こえたナナキの声に、思わず飛び上がる。
「やややめてよ! 脅かすの!」
「デートの邪魔はしないわよ」
「そそ、野暮な真似はしませんって」
「あ! トシヤ、ちょっと待ってて」
リナは、建物へと入って行こうとする二人を追い掛ける。
「ねぇ! ちょっと待って!」
「なぁに?」
二人が足を止めて振り返る。
電気も止まった薄暗い建物内では、顔が良くわからない。
何となく、これ以上近寄るのは躊躇われて、リナは足を止めた。
「一つだけ教えて。二人は絵馬に何て書いたの?」
二人の姿が、揺らいだ気がした。
「私はね……」
マリエの声が、頭の上から聞こえる。
「シズくんがレギュラーになれますようにって」
「私はね……」
ナナキの声が、足の下から聞こえる。
「カズくんと同じ小学校に行けますようにって」
二人の影が揺らぎながら、一歩、また一歩近付いてくる。
じりと後退りしたリナの背に、ドンと何かがぶつかった。
振り返ると、トシヤがそこには立っていた。
「一人で何やってるの? 肝試し?」
慌てて二人の方へ目をやると、マリエもナナキも消えていた。
なんだか嫌な感じも消えている。
リナは、ふぅと溜め息を付くとトシヤの腕に絡み付いた。
「ううん、なんでもない。もうトシヤん家、行かなきゃ。所で、本当に何て書いたのか思い出してよー」
トシヤの家での挨拶も順調に終わり、今日は泊まっていけとトシヤと共に客間へと案内された。
「ごめんねぇ、トシヤの部屋は早々に物置にしちゃったものだから」
「ひでぇよなー。俺の人権とか無いわけ?」
「まぁ、お金入れてない人には無いわねぇ」
トシヤと母親のやり取りが心地好い。
「良いのかな? こんなに至れり尽くせりで」
寝巻きも下着も新品だからと渡されたが、どう見てもお泊まり用に買っておいてくれたようだ。
「うちの親も楽しんでるから良いんだよ」
そう言って布団に寝転がるトシヤの寝巻きはお揃いだ。
「気恥ずかしいけど、楽しいね」
リナが横に寝転がる。
「こんな幸せで良いのかな」
「あ! 思い出した!」
唐突に、トシヤがすっとんきょうな声を上げた。
「え? 何?」
「願い事。折り紙に書いた」
「……あ、うん」
幸せな気分が一気に暗転する。
「『せかいへいわ』だ!」
「……は?」
「だから『世界平和』だって!」
「世界平和って書いたの?」
「うん、間違いない!」
笑いが込み上げる。
「あ、笑うなよ! 当時は七夕の短冊にもサンタさんへの手紙も初詣の時も必ず『せかいへいわ』って書いてたんだからな。間違いない」
「ううん、トシヤらしくて良いと思うよ。私、好きだな」
「て言いながら思いきり笑いやがってー」
ふと、リナは、狭く暗い場所で目を覚ました。
トシヤの実家で寝ていた筈なのに、と光が差し込む隙間から外を除く。
そこには、トシヤとリナが寝ていた。
リナが目を開け、起き上がる。
目が、合った。
呆然とするリナの目の前で、リナがトシヤにしなだれかかる。
「ん……、リナ、ダメだよ。流石に実家じゃ……」
「だって……ねぇ……」
「しょうがないなぁ」
目の前で繰り広げられる睦事に、思わずリナは壁を叩いていた。
だが、一向に気付く様子はない。
いや、違う。
リナは気付いている。
リナに見せ付けるかのように行為に及んでいるのだ。
「違う! トシヤ! その女は私じゃない!! 気付いて!!」
目の前で行われているのに、壁には隙間があるのに、声が届かぬ筈がないのに、トシヤのみならず家の誰にも気付いて貰えない。
やがて、果てたトシヤがシャワーへと向かった。
全裸のリナが、こちらへ近付いてくる。
薄い壁一枚挟んで、リナとリナが向かい合う。
「あなた、誰なの? 私のふりして、トシヤとあんな……あんな事して!」
「だって、リナちゃんばっかりズルい」
その声に、聞き覚えが、あった。
「リナちゃんは、トシヤくんと結婚できてズルい」
「……ユキミちゃん……?」
「リナちゃんだけ、生きてて、ズルい」
「やだ……やだよ……」
「みんな死んだのに」
「ごめんなさい! お願い! お願いだから!!」
「ねぇ、リナちゃん。かみさま、交代してよ」
ユキミがリナの顔で嗤う。
「苦しかったけど、怖かったけど、悲しかったけど、かみさまやってて良かった」
ユキミが窓を閉めるかのように隙間を消していく。
光が一つ一つ奪われる。
「リナちゃん。あたしね、『リナちゃんになりたい』て書いたの」
ユキミが最後の隙間を消す。
「ねえ! もうやめて! 消えてよ! ユキミ!!」
悲痛な叫び声が、光一つ差さぬ箱の中で響いた。
返事は、無い。
「もう、許してぇ……」
悲痛な叫び声が、光一つ差さぬ箱の中で響いた。
返事は、無い。
「もう、許してぇ……」
20年前。
「あのね、あのね、きょうね、かみさまごっこしたんだよ」
4歳になるリナが母親にそう報告をした。
幼稚園の帰り道、電動自転車の後ろでご機嫌な様子だった。
リナの母親はパートの帰りで話を半分も聞いておらず、はいはいとおざなりに返す。
今晩の夕食とパート先の人間関係の事で頭が一杯だった。
「おかあさん、かみさまごっこで、かみさまにだれがなったとおもう? ねえ、おかあさん、きいてよ、もーう」
不満げに鼻を鳴らしたリナの声にも、リナの母親ははいはいと答えた。
帰宅するとすぐにスマホが鳴った。
幼稚園からである。
見れば十数件の着信が残っていた。
「はい! 木下です! すみません、自転車に乗ってて……は?」
リナの母親は、担任のサツキ先生の言葉に思わず聞き返した。
「ユキミちゃんが、居ないんです」
「え、と、すみません。私も見てないです」
「何かわかったら幼稚園までお願いします」
ユキミと言うと、リナと同じクラスの女の子だ。
「ねぇ、リナ。ユキミちゃんと仲良かったっけ?」
仲が良いと聞いたことはない。
だが、担任が滅多矢鱈に電話をかけるだろうか?
「ううん。ふつうだよ」
「そう。そうよね」
ユキミが居なくなった事を話すべきか数瞬迷い、やめた。
子供をパニックに陥らせても良い事は一つもない。
夜、22時。再び幼稚園の担任から電話があった。
警察に届けて捜索中だと言う。
どこかで見かけたら教えて欲しい、とも。
警察の連絡先を聞いてメモを取り、通話を切ると溜め息が出た。
我が子で無くて良かったという思いと、何が起きているかわからない不安からの溜め息だ。
夫に伝えるも、夫がリナのクラスメイトを覚えているわけがない。
一応、スマホの画像フォルダの幼稚園のお友達の中からユキミを探す。
が、これが中々無いもので、やっと見つけたものはボヤけてリナの後方で横を向いているモノだけだった。
「この子なんだけどね」
「えー、これじゃわかんないよ」
夫の言う事も尤もであるが、気に障る。
「……そうね。変な場所に変な時間に小さな子がいたら幼稚園に連絡してね」
「いや、人違いだったらどうすんだよ? やだよ、俺」
この男は、居なくなったのが自分の娘でも、こう言うのだろうか?
言いかねないな……と思ってしまい、リナの母親は深く溜め息を付いた。
翌朝、幼稚園に行くと、園児の母親達があちらこちらで固まって話をしている。
子供達はと言うと、いつも通り元気一杯に駆け出していた。
「おはようございますー」
リナの母親は知り合いの一人に声をかけ、輪に入れて貰う。
「おはようございます、リナちゃんママ」
「リナちゃんママのとこにもサツキ先生から電話ありました?」
やはり、話題はユキミの行方不明の件だ。
「ええ、でも、うちの子特段仲良かった訳じゃなくて」
「うちもよ」
「どうもね、幼稚園のお迎え前に突然消えたみたい」
「不審者に連れて行かれちゃったのかしら?」
「やだこわい」
皆が皆、どこか他人事のように好き勝手話している。
「そう言えば、神様ごっこにユキミちゃんは入ってたのかしら?」
一人の保護者の言葉に、思わずそちらを凝視する。
「神様ごっこ?」
「ええ。昨日、神様ごっこしたんだーって、うちの子が」
「そう言えば、うちの子もそんな事言ってたわ」
「リナも言ってた……」
最初に声を上げた保護者の子供は男の子である。
男の子も女の子も遊べる遊び……と言うことだろうか?
結局、その後もユキミちゃんの消息は掴めず、神様ごっこについても、何もわからないまま、20年の時が過ぎて行った。
リナは24になっていた。
上京し短大を卒業後、就職先で幼稚園で一緒だったトシヤと再開し、交際を始め、この秋に結婚式が控えている。
「ほんと、凄い偶然だよね」
「ここまで来ると運命だよね」
婚約指輪を眺め、トシヤにもたれ掛かる。
「ここだけの話、幼稚園の時の将来の夢、トシヤのお嫁さんだったんだ」
「まじかー。あ、お盆に帰省した時に幼稚園にも顔出してみようか」
「いいね! 行きたい!」
地元が同じだと、やはりこう言う時にどちらの田舎に行くか揉めなくて良い。
トシヤの実家もリナの実家も車で5分の距離だ。
「他に、同窓会とかあったりする?」
「そうだな、中学の時の友達が、折角だから集まろうかとか言ってるけど」
「じゃあ、私も地元の友達と会っておこうかな」
「だなー」
結婚式に招待している人も、招待してないけれど会っておきたい人もいる。
「凄いじゃん、運命じゃん」
マリエがカンパリオレンジのおかわりを頼み、再度言った。
「クマさん組の時のトシヤくんでしょ? 当時から足は速いしカッコよかったよね! モテモテだったもんね!」
「あっはっは、そうそう! それで私、絵馬に『トシヤくんのおヨメさんになりたい』って書いて……」
リナとマリエ、それにナナキの手が止まる。
「えっと、その話は、さ……」
「ごめん、浮かれてた」
「いや、でも、あれ、私達のせいじゃなくない?」
「もう良いじゃん、その話は!」
ナナキが強い口調で言う。
「でも」
リナが口を開こうとした瞬間、ナナキがリナを睨み付けた。
「カズくん、死んだんだよ」
「え? いつ?」
唐突な話の展開に付いていけない。
「やめなよ」
マリエがナナキを制しようとするが、ナナキは止まらない。
「カズくん、小学校上がってすぐ、海で溺れて死んだの!」
「え? 何で?」
「海釣りで事故だって」
「知らなかった」
「小学校別の子には知らせないようにって、大人達がさ」
「そうなんだ……」
それは、とても悲しい事だし、だけど、それが何の関係があると言うのかと俯くリナに、ナナキは続けた。
「あのね、溺れたカズくんの胸ポケットに、折り紙の絵馬が入ってたの」
絵馬には『一人で大物を釣り上げたい』と書いてあった。
その日、カズトの釣り針にかかった大きな魚に引っ張られ、海に引きずり込まれたために起こった事故だったと言う。
「え? おかしくない? あの後、絵馬、どこにも無かったよね」
「だから、辞めようってこの話」
再度マリエが間に入ってきた。
「だって」
「一人じゃないの!」
リナの言葉にマリエが泣き出す。
「シズくんもなの」
シズマは、小3のサッカークラブの試合中にゴールポストが倒れてきたらしい。
鞄から出てきた折り紙の絵馬には『レギュラーになりたい』とあり、その日、レギュラーとして初試合だったのだと言う。
あの時に、神様ごっこに参加した6人の内、一人は行方不明、二人が亡くなっている。
お願い事が叶うと死ぬのなら、それなら、次はリナの番ではないか。
「え、やだ。なんでそんな事、今言うの?」
「だから辞めようって言ったのに」
「リナが聞きたがったんじゃん」
「だってそんなの気になるじゃない!」
「かみさま、だーれだ?」
「はい、あたし!」
ユキミが手を上げると大きな石の上に座る。
ユキミの前にティッシュの箱が裏返しに置かれ、その上に持ち寄ったオヤツが置かれる。
「かみさまは、おそなえものがなくっちゃね」
大きな段ボールをかぶせ、扉を書く。
「かみさまは、おやしろがなくっちゃね」
ハサミで段ボールに横長の穴を開けると、折り紙で作った絵馬を一人ずつ入れた。
「かみさまはおねがいごとをしなくちゃね」
「かなえてくれるまで、でちゃダメなんだよ」
「がんばってかなえてね」
おねがいします、と手を合わせ、声を揃えて頭を下げる。
「よきにはからえー」
ユキミが段ボールの社の中から、すました声で返し、みんなは笑いながら走って戻って行く。
残されたユキミが、オヤツを食べながら折り紙の絵馬を一枚一枚眺め、解読を始める。
と、外で気配がした。
先生かな? とユキミが息を潜める。
オヤツの事がバレたら、怒られるだろう。
数日して、ユキミの行方不明の件は、子供達も知る所になった。
ユキミの母親が、半狂乱で幼稚園の子達に何か知らないかと迫ったからだ。
だが、誰からも何の情報も得られなかったらしい。
ユキミは子供達から好かれていなかった。
すぐにズルいズルいと言うので、ズルいズルい病なのだと子供達の間で言われていた。
「いないんだって」
「ねぇ、かみさまって、めにみえないよね」
「そうだよね」
「でも、いるよね」
「いるよね」
「おそなえ、なくなってたよね」
「たべたのかな?」
「おやしろ、こわれてたね」
「また、あたらしいの、つくらなきゃね」
「えま、なくなってたね」
「なくなってたね」
「はやく、おねがい、かなうといいなぁ」
夢を、見た。
あの日の夢だった。
ユキミがどうなったのかはわからないし、あの後警察がどう結論付けたかわからない。
「あらおはよ。やぁね、飲み過ぎ? 顔すごいわよ」
リビングへ入ると母が一目見てそう言った。
「そんな顔でトシヤくんに会えないでしょ。顔洗ってらっしゃい」
今回は、トシヤとはそれぞれ実家へ帰省している。
昼にこちらに顔を出し、夕食はあちらへ行く事になっていた。
洗面台で鏡を見ると、なるほど、ひどい。
水死体の様だなと思った瞬間、寒気がした。
風呂を沸かしながら湯船に浸かる。
そう言えば、ナナキとマリエは絵馬に何と書いたのだろうか?
聞くのを忘れてしまったなと飲み込んだ氷が溶けていくような感覚に、肩の力が抜ける。
すっかり温まり、湯船から立ち上がろうとしたその時、足首を掴まれたような気がした。
体制を崩し、そのまま湯船へと沈む。
無我夢中で浴槽の縁を掴むと、誰かに腕を引っ張り上げられた。
トシヤだった。
「何やってんだよ? ドジだなぁ」
「と、とし……」
咳き込んで上手く話せないリナを抱き上げ、バスタオルを頭からかけて水滴を拭う。
「誰かに足、掴まれて……」
「誰かって、誰がいるの、もう」
確かに、風呂場には、他に誰もいなかった。
けれども、足首を掴まれた感触は、確かに残っている。
「わぁ、トシヤ君、なにやってるの?」
びしょ濡れのトシヤに、リナの母親が呆れた声を上げた。
「ちょっとしたハプニングですよー。夏なんですぐ乾きます」
「あなた達、何やってんのよ。実家でいちゃつかないでね」
「まぁ、ちょっとくらい目を瞑ろうじゃないか」
リナの父親が、場を宥めた。
昼食を和やかに過ごし、仏壇に結婚の挨拶をしてから、家を出る。
トシヤの家まで徒歩で20分というところだろうか。
「そうそう、幼稚園、今から行ってみようか」
「え?」
「行きたいって言ってただろ?」
幼稚園は、お互いの実家から丁度10分程度、真ん中と言うわけでもないが、寄って行ったとしても大幅に時間が狂うわけでもない。
「えっと」
リナが言い淀んでいる間に、トシヤは幼稚園への道を歩き出していた。
嫌とも言えず、手を引かれてリナも歩き出す。
「懐かしいなぁ。あの頃の記憶とか全然覚えてないけど、リナ、なんか覚えてる?」
「え? 覚えてないの?」
「うーん。毎日楽しかったなーくらい?」
「え、単純過ぎない?」
「そういうリナは?」
聞かれて、今朝の夢が脳裏に浮かぶ。
「私、今朝、変な夢見ちゃって」
「ふうん?」
「幼稚園の頃の」
「どんな?」
「ほら、行方不明になった子が居たでしょ?」
「んー、そう言われると居たような……」
「その子が……」
「あ、いたわ」
リナの言葉を遮って、トシヤが口を開く。
「あれだ。何でも願いを叶えてあげるから願い事書いてって言ってきた子だ」
「え?」
初耳である。
神様ごっこに関わっているのは、ユキミと亡くなった二人とナナキとマリエとリナだけの筈だ。
「こう、五角形に折った折り紙を持ってきてさ。何でも良いから書いてって」
ユキミがトシヤに絵馬を書かせていた?
なぜ?
いつ?
「……書いたの?」
「書いたよ? 書いてって凄く頼まれたし」
「なんて? なんて書いたの?」
「なんだっけなー? なんせ20年も前の話だしなー」
「良いから、思い出して!」
「え? なんで怒ってんの?」
怪訝な表情を向けるトシヤに、リナは頭を抱えたくなった。
これは八つ当たりだと自分でもわかっている。
だけれど、こればっかりは聞き出さなくてはと言う焦燥感に駆り立てられる。
「お、見えてきたぞ」
幼稚園は、子供の減少のせいだろうか、廃園になっていた。
遊具は錆びれ、壁もカーテンも色褪せ、何年も人の手が入ってないように見えた。
「あれ? リナ?」
低い門の内側から、マリエが現れる。
「と、もしかしてトシヤ君? ひゃー、カッコヨクなっちゃってまー」
「え、マリエ、なんでいるの?」
「なんでって、そりゃこっちの台詞よ」
ガラガラと門を横に滑らせて開けるマリエに、それもそうかなと首を傾げる。
「ナナキもいるの?」
「いるよ?」
背後から聞こえたナナキの声に、思わず飛び上がる。
「やややめてよ! 脅かすの!」
「デートの邪魔はしないわよ」
「そそ、野暮な真似はしませんって」
「あ! トシヤ、ちょっと待ってて」
リナは、建物へと入って行こうとする二人を追い掛ける。
「ねぇ! ちょっと待って!」
「なぁに?」
二人が足を止めて振り返る。
電気も止まった薄暗い建物内では、顔が良くわからない。
何となく、これ以上近寄るのは躊躇われて、リナは足を止めた。
「一つだけ教えて。二人は絵馬に何て書いたの?」
二人の姿が、揺らいだ気がした。
「私はね……」
マリエの声が、頭の上から聞こえる。
「シズくんがレギュラーになれますようにって」
「私はね……」
ナナキの声が、足の下から聞こえる。
「カズくんと同じ小学校に行けますようにって」
二人の影が揺らぎながら、一歩、また一歩近付いてくる。
じりと後退りしたリナの背に、ドンと何かがぶつかった。
振り返ると、トシヤがそこには立っていた。
「一人で何やってるの? 肝試し?」
慌てて二人の方へ目をやると、マリエもナナキも消えていた。
なんだか嫌な感じも消えている。
リナは、ふぅと溜め息を付くとトシヤの腕に絡み付いた。
「ううん、なんでもない。もうトシヤん家、行かなきゃ。所で、本当に何て書いたのか思い出してよー」
トシヤの家での挨拶も順調に終わり、今日は泊まっていけとトシヤと共に客間へと案内された。
「ごめんねぇ、トシヤの部屋は早々に物置にしちゃったものだから」
「ひでぇよなー。俺の人権とか無いわけ?」
「まぁ、お金入れてない人には無いわねぇ」
トシヤと母親のやり取りが心地好い。
「良いのかな? こんなに至れり尽くせりで」
寝巻きも下着も新品だからと渡されたが、どう見てもお泊まり用に買っておいてくれたようだ。
「うちの親も楽しんでるから良いんだよ」
そう言って布団に寝転がるトシヤの寝巻きはお揃いだ。
「気恥ずかしいけど、楽しいね」
リナが横に寝転がる。
「こんな幸せで良いのかな」
「あ! 思い出した!」
唐突に、トシヤがすっとんきょうな声を上げた。
「え? 何?」
「願い事。折り紙に書いた」
「……あ、うん」
幸せな気分が一気に暗転する。
「『せかいへいわ』だ!」
「……は?」
「だから『世界平和』だって!」
「世界平和って書いたの?」
「うん、間違いない!」
笑いが込み上げる。
「あ、笑うなよ! 当時は七夕の短冊にもサンタさんへの手紙も初詣の時も必ず『せかいへいわ』って書いてたんだからな。間違いない」
「ううん、トシヤらしくて良いと思うよ。私、好きだな」
「て言いながら思いきり笑いやがってー」
ふと、リナは、狭く暗い場所で目を覚ました。
トシヤの実家で寝ていた筈なのに、と光が差し込む隙間から外を除く。
そこには、トシヤとリナが寝ていた。
リナが目を開け、起き上がる。
目が、合った。
呆然とするリナの目の前で、リナがトシヤにしなだれかかる。
「ん……、リナ、ダメだよ。流石に実家じゃ……」
「だって……ねぇ……」
「しょうがないなぁ」
目の前で繰り広げられる睦事に、思わずリナは壁を叩いていた。
だが、一向に気付く様子はない。
いや、違う。
リナは気付いている。
リナに見せ付けるかのように行為に及んでいるのだ。
「違う! トシヤ! その女は私じゃない!! 気付いて!!」
目の前で行われているのに、壁には隙間があるのに、声が届かぬ筈がないのに、トシヤのみならず家の誰にも気付いて貰えない。
やがて、果てたトシヤがシャワーへと向かった。
全裸のリナが、こちらへ近付いてくる。
薄い壁一枚挟んで、リナとリナが向かい合う。
「あなた、誰なの? 私のふりして、トシヤとあんな……あんな事して!」
「だって、リナちゃんばっかりズルい」
その声に、聞き覚えが、あった。
「リナちゃんは、トシヤくんと結婚できてズルい」
「……ユキミちゃん……?」
「リナちゃんだけ、生きてて、ズルい」
「やだ……やだよ……」
「みんな死んだのに」
「ごめんなさい! お願い! お願いだから!!」
「ねぇ、リナちゃん。かみさま、交代してよ」
ユキミがリナの顔で嗤う。
「苦しかったけど、怖かったけど、悲しかったけど、かみさまやってて良かった」
ユキミが窓を閉めるかのように隙間を消していく。
光が一つ一つ奪われる。
「リナちゃん。あたしね、『リナちゃんになりたい』て書いたの」
ユキミが最後の隙間を消す。
「ねえ! もうやめて! 消えてよ! ユキミ!!」
悲痛な叫び声が、光一つ差さぬ箱の中で響いた。
返事は、無い。
「もう、許してぇ……」
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