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第壱夜
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紅い瞳の赤ん坊が産まれたのは、娼館の地下、日の射さぬ昼日中でも薄暗い一室であった。
母は生まれつき目の見えぬ、体の弱い少女である。
少女もまた、娼館で産まれ、父の顔も知らぬまま育った。
産まれた時に、産婆からは長生きは出来ぬだろうと宣言された。
長くて3年。ともすれば明日にでも。と。
しかし、少女の母親は、育てると言ってきかなかった。
そもそも、産むと言って頑固に腹の中で育て続け、産んで見せたのだ。そして、産後の状態が宜しくなく、呆気なく死んだ。
その子となれば、もう、その館のみんなの子供みたいなものだった。
だが、日に触れれば日膨れが出来、高熱を出し、何度も死にかけた。
それが、10になる頃、恐らく、思いがけず長生きをしたとでも言えば良いのか。過保護だった娼婦達や主人の目が、監視が、弛んだ。
誰も入れないはずの地下の部屋に籠りきりの筈の少女が、嘔吐を繰り返して、とうとう寿命なのかと皆が思い始めた時に呼ばれた医者によって、妊娠が発覚した。
勿論、先ず疑われたのは館の中の男衆だが、少女は誰かを庇ってか首を横に振り続けた。
違う違うと。名の知らぬまま行きずりの相手と一度きりの逢瀬で子が出来たと。そう言った。
大事に大事に育ててきた少女を誰が汚したのかと、女主人の怒りは烈しく、危うく男衆全員宦官にされる所だった。
だが、頑なに彼等は悪くない。自分が男を引き込んだのだと告げる少女の健気さに、娼婦全員で女主人を止めた。
少女の腹は日に日に膨らみ、少女は日に日に衰えていった。
そして、膨らみきったある日、産気付き、少女は母と同じ運命を辿った。
産まれた赤ん坊は、息をしていなかった。
ただ、見開かれた其の目だけが赤く輝く宝石の様に輝いていた。
妙な夢を見た。
人形は夢を見るのか、とは誰の命題であったか。
兎にも角にも、夢を見たのだ。見るのだろう。
其れとも此れも眼鏡ニイサンの力の片鱗なのか。
夢の中で、自分は第三者で在ったのは間違い無い。いや、存在していたか如何かも怪しい。
大体夢とは不確かで朧気で覚束無い空漠たる幽かで曖眛な物なのだ。
夢の中で死産した赤子と目が合った等と訴えた所で鼻で笑われるのが関の山だろう。
無意識に鼻を撫でて居る事に気付き、此処半年、その実とても気にしていたのだとやや肩を落とす。
洗濯挟みで鼻を摘まんだり、其の痕が付いて眼鏡ニイサンを悲しませたり、ネイサン青年に付け鼻を付けられたり、色々有ったりしたりしていた。
やっと、元に戻った所だと云うのに、妙な夢に悩まされる事になるとは。
そもそも、今迄夢と云う物を見た事が無い。
なのに夢と断じられるのは、その夢の中の世界が現実とは思えないからだ。
地下のある娼館、重厚な石の壁。色とりどりの髪の色、瞳の色の女達。
恐らくは日本では無いだろうが、彼女等の声は、何かで耳を塞がれてでも居るかの様にくぐもってよく聞こえないし、何となくの理解は恐らく脳内で適当にアテレコしただけであろう。
脳は未だ無いが。
いや、人形なのだから無くて正解なのだが。
しかし。と思う。
しかし、あの死産の赤ん坊と目が合って現実に引き戻されるのは、心臓に悪い物だと、思う。
『私』には心臓も未だ無いが。
二日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊の首が、ゴ キ リ とはっきりと音を立てて動き、此方へ顔毎向けた。
三日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊の首が音を立てて此方へ向き、右手が此方へ伸ばされた。
四日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊が、身体毎、此方へ向いた。
五日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊が、身体毎此方へ向き、一歩、這いずって来た。
六日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊が、二歩、這いずって来た。
七日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊が、三歩、四歩、這いずって来た。
八日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊が右手を伸ばし、其の指先が 触 れ て き た 。
九日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊の右の掌が、頬に触れた。
十日目。
「何か云う事は無いのですかね、この姿を見て」
「いや、面白いなぁとしか」
「そんな感じも可愛いよ」
「妙だとは思わないんですか! 夢の中で毎日毎日毎日毎日赤ん坊が少しずつ迫って来るんです!!! 怖いんです!!! 赤ん坊とか会話の成り立たない何がしたいのか解らないじゃないですか!!! 挙句此れですよ、此れ!!!」
顔面と言わず、全身に小さな手の痕が浮かび上がっている此の人形の姿に、ネイサン青年と眼鏡ニイサンは危機感皆無の様子でお茶を啜って居た。
「人形と会話が成り立つのも充分妙だもんねぇ」
其れもそうですが!
其れもそうですが!!!
大体さぁ……、とネイサン青年が言う。
「大体、この家に居てそんな事になる方がおかしいんだよ」
眼鏡ニイサンの力の影響下で心霊現象が起きて居るのなら其れは
「其れ、夢って事でしょう?」
言葉少なにネイサン青年が言うが、理解出来る。
夢とは、記憶。体験したこと、目にしたものが断片的に表れ、そこに想像や空想が取り込まれ作り上げられる物。
ならば、“誰”の体験した事だと云うのか。
外部の悪意の及ばない結界内に“誰”の意識が入り込んだと言うのか……。
自分自身の、だろうか?
人形になる前の、其の記憶の一部だとでも云うのか。
しかし、明らかに「何者か」の目線では無かった夢の構造に、まるで画面の中の出来事を観賞しているか様な其の感覚であった夢に、自分の体験だとはとてもではないが思えない。
それに、「人形は夢を見るのか?」と言う大問題も残っている。
「だから、ヤギリン。君、忘れているかも知れないけれど、呪いの悪霊人形だからね?」
其の言葉に、そう云えばと思い出す。
否定と反論を繰り返しても、「呪いの悪霊人形」と繰り返すのは何故なのか? ネイサン青年のその言葉の意味は、真意は何だと言うのか?
悪霊は、悪霊と成ってしまった彼等は、一体何処へ消えたと言うのか?
炎に浄化され、転生か天国か地獄かそんな場所へ逝ったのでは無かったとしたら?
何故、自分だけか無事にあの焼却炉から這い出る事が叶ったのか。
あの溶けてくっ付いていた諸々の先輩方は如何成ったのか。
「だから、君、呪いの悪霊人形でしょう?」
呪いの悪霊人形。
此の言葉に如何程の意味を篭められているのか。
呪いとは、恨み辛み嫉み妬み憎しみ哀しみが根底にあり、人が人に対して行う物では無いだろうか?
人。人で在った物。否、動物や神と呼ばれる存在にも其れは有りえる話だろう。
が、主にやはり、現在人であるか、嘗て人で在ったモノあと考えるのが一般的ではないだろうか。
悪霊。文字通り悪い霊、災禍を齎す邪悪な霊的存在なのだろう。自分が今迄に何か災厄を引き起こした事が有るだろうか? 否。無い。覚えて居る限り無い。此れはきっぱりと言える。
人形。人の形をした物。ヒトガタ。容れ物。身代わり。形代。依り代。
恐らくは、恐らくは自分は、自分は中に容るモノなのだろう。
誰か意識の固まりか浮遊霊か、自己分析するに、そう云う「嘗て何かで在ったモノ」なのだろう。
人の信仰や恐怖や噂話や妄想が具体性を増すに従って、其の存在が確固たるモノになる成り立ちを持つ神話や怪談が真実に成る。そんな存在も在ると言うのなら、なんとなく「放置された人形、気味が悪い」で存在する様になる呪いの悪霊人形も居るのではなかろうか?
寧ろ、ネイサン青年の繰り返されるその言霊に因って自分は成り立って居るのではないかと思い始めてしまう位には。
「あー……そおっか。話してないんじゃね?」
新しい釘バットの作成をしながら、ネイサン青年が話してくれた。
「お前が燃えてる時な、根性あるなぁと思って見てたんだけど、あれな。悪霊達がワーッてお前ん中入ってったの見てたんだわ」
木製のバットに五寸釘を打ち込み乍なので、聞き取り難い。
「それと、お前、ちょいちょい反応無くなるけど、気付いてる? 多分、其の時に寝てるか夢見てるんだと思うんだけど」
其れには薄々気付いては居りましたとも。
短期の記憶が飛び飛びだったり曖昧だったりしますので。
ワーッてですか。ワーッて。
ワーッて入って来たんですか。
て言うかお久し振りですね、釘バットさん。
「あいつ、二重人格とか言ってたろ。違うんだよね。俺ら双子なの、双子。バシニングツインてやつ。まぁ、元々の身体はあいつのだから、中々出て来れないんだけど」
せっせと釘バットを仕上げ乍、独り言の様に呟く。
「自分の法具は自分の分身だから、自分の手で作る方が良いって言ってるのに、あいつ聞きゃしないんだもんなぁ」
「ぼくはどっちの弟も可愛い弟なんだけどねぇ。兄弟喧嘩出来るのも仲が良い証拠だよねぇ」
間の抜けた台詞で口を挟む眼鏡ニイサン。
無視して此方を完成した釘バットで指し示すネイサン青年(釘バット)。
「其の赤ん坊さ、十中八九、お前の中の悪霊の一匹じゃね?」
要するに、夢の中のそいつが主導権を乗っ取ろうとしているんじゃね? と釘バットネイサンは言う。
「でも、元々の持ち主の権利の方が強いから、中々上手くいかない。俺みたいに」
出来上がった釘バットを丁寧に布に包むと、バッグにしまい、押し入れに片付けた。
「みんな仲良くすれば良いのにねぇ」
「メーベルがその悪霊に乗っ取られたら、兄ちゃん、怖がって泣いちゃうだろ」
「そんな怖いのか、イヤだなぁ。メイベルはこんなに可愛いのにねぇ」
眼鏡ニイサンの膝に乗せられ、両腕を持たれてパタパタ上下させられる。
「お前……されるがままなのな……」
笑いを堪える釘バット青年に、そういえばあの出会った時の禿げ全裸を爆笑してくださったのは此方の彼なのかと腑に落ちる。
……臓腑は無いのだが……。
しかし喋り方はバール青年だった気がする。否、声が二種類同時に出ていた様な気がしないでも無い。
構造上無理であろうと思いを巡らせ、一つの結論に辿り着いた。
「……腹話術……」
「確かに、今の状態は腹話術師とその人形にしか見えないけどね」
いつの間にやら雰囲気が変化している。
これは、バール青年の方か。
「何? 腹話術師ごっこなの? それなら確かに他の人に見られても平気だろうけど。兄さんが変人扱いされるだけだし。まぁ、兄さんが引き篭もりを辞める良い機会にもなるよね。ヤギリンと一緒なら、外に出ても怖くないんじゃない?」
ぱぁぁっ。と眼鏡ニイサンの表情が明るくなった。気がした。
数日後。
「そんなに気になるなら其の場所に行ってみようよ」
その一言で、眼鏡ニイサンとネイサン青年と一緒に機上の人形になっていた。
夢の内容、建物の内観や人の外見、状況等から地図を広げて、眼鏡ニイサンが指差した「多分此処」だけの情報で行動を起こすのだから、金持ちって怖い。
それだけネイサン青年が眼鏡ニイサンを信頼していると言う事なのだろうが、もしかしたら単に適当な理由で海外旅行がしたいだけなのではないかとも思えない事も無い。
流石に間違う事無く「恐怖! 呪いの悪霊人形!!」と成って居る此の小さな手の痕だらけでは人目が有ると言うので、縫いぐるみの皮を被らされ、前も後ろも解らない状態で恐らく眼鏡ニイサンに抱かれた儘、移動している。
何やら途中「海外の祖母の所へ……」「兄の病気の静養の為に……」「この人形は唯一の拠り所で……」「この人形が無いと……」等と聞こえたが、恐らく何か咎められたのを口八丁で言い包めたに違いない。
終始「タクシーだよ。今から空港に向かうよ」「空港に着いたよ」「お土産屋さんで何か買おうか」「酔い止めを買って貰ったから、あとで分けてあげるね」「手続きするよ」「手荷物検査だよ。ちょっとの間我慢してね」「大丈夫だった?痛くなかった?」と話し掛けて来る眼鏡ニイサンは、間違い無く病気にしか見えなかったであろうし。
そう考えると、此の兄を外に引っ張り出す弟と言うのは、中々に涙を誘う健気な青年を演出出来るとイウモノダ。
とあるヨーロッパのとある街。
田舎町ではなく、様々な人種の行き交うやや大き目の街。
ピンクの熊を抱き締めた長身痩せ型眼鏡の東洋人の男と童顔の爽やかな青年が連れ立って歩いてもあまり悪目立ちしない程度には大きい街。
無関心とは優しさでも或るのだろう。
存在を許さない過干渉では無く、存在を許す無関心。
それは眼鏡ニイサンの様な人間にとっては心地良い冷たさなのであろう。
まぁ、それを当の本人が気にするかと問われれば、気にしないのだろうが。
「メイベル、苦しかったねぇ」
ピンクの熊の頭をフードのように外し、頭を出させると、やっと外の情景が見れた。
ちなみに、首から下は熊のまま。ノーパン気ぐるみである。
辛うじて顔には手の痕が最初の一つだけしか無いので、そう刳い事には成っては居ないだろう。
実際に此方を見る人は居ても「そう云う物」としか認識していない感じを受ける。
無闇矢鱈に周囲に衝撃を与える存在では無いと云う事だ。
足元はお洒落な石畳。信号機や看板も古い物と新しい物が混在し、調和が取れていた。
遠くに城か何かが見え、手前には猫がのんびりとカフェの客におねだりをしている。
ネイサン青年が店内から何やら持って出てきた。
「オープンテラスで軽く食事にしよう」
何やらカフェのオープンテラスの椅子に座らされ、眼鏡ニイサンが鞄から高そうなカメラを取り出す。
コーヒーミルクをねだりに寄って来た猫とツーショットを撮られた。
ガッシャガッシャとあらゆる角度から写真を撮る眼鏡ニイサンに店員が何やら話し掛け、流暢な外国語で返事を返す。
……何語だ……?
「兄さん、何ヶ国語か喋れるんだよ。暇だから覚えたんだって」
……暇だから……?
何やら熱心に店員に話し掛けられ、眼鏡ニイサンが首を振ったり手を振ったりしている。
これは……
「ナンパされてる最中だね」
アテレコしようかとネイサン青年が言う。
アテレコてあなたそんなお願いします。
「貴方の様なピュアでセクシーな人は初めてだ。その眼鏡を外して瞳を見せて欲しい。観光なのかい? 何処に行くの? 案内するよ。勿論君の大事な人形と弟も一緒で良い。その細い腰を抱き寄せて今すぐ折って何処へも行けない様にして僕の愛と云う名の檻で一生可愛がってあげたい云々……」
先生、質問です。
「はい、ヤギリン君」
彼は、いや、あの方はわたくしには男性に見えるのでありますが、若しくは眼鏡ニイサンを女性だと勘違いされていらっしゃるのでは……?
勘違いなら解いた方が今後の為にも……と云う前に、ネイサン青年は首を横に振った。
「失礼な事言うなよ。恋愛に性別は関係ないだろう」
……そう……ですか。まぁ、性別どころか異種族、有機物無機物関係ない方もいらっしゃいますしね……。
結局カフェの店員の誘いを断り続け、カフェを後にした。
ともすれば追い掛けて来そうな店員を、店長らしき屈強な初老の店員が止め、耳を引っ張って店内に引きずって行く。
街中を、眼鏡の或る種危ういニイサン兄さんがフラフラと彼方此方へ人形を置いてみてはカメラを構える。
隣のネイサン青年の顔には「僕は可哀相な兄の付き添いです」とでも書いてあるかの様だ。
時偶、カフェの店員の様な人種が眼鏡ニイサンに声を掛けるも、ネイサン青年を見ると肩を竦めて直ぐに立ち去る。
日本ならネイサン青年の方がそう云う方々におもてになりそうなものだが、やはり、感覚の違いと云う物だろう。ネイサン青年には全くお声も掛からず、更に云えば犬猫すら寄って来ない。
散歩中の大きな金色の犬に匂いを嗅がれ乍、違和感を覚える。
犬が、眼鏡兄さん含む他の人間には尻尾を振って愛嬌を撒いているのに、ネイサン青年を無視する様に、否、見えて居ないかの様に振舞う。
犬が、顔面を舐めて来る。
慌てて引き剥がす飼い主と眼鏡兄さん。
まぁ、ちょっと大量の涎の付着が見られるが、洗えば取れるだろう。
幸い此の身は人形なので、匂いも判らない。
「僕ね、動物に嫌われるから」
無言で居たのは喋れない振りをしているからなのだが、何やら言い訳の様にネイサン青年が言う。
「嫌われる分には全然構わないんだけど、暴れたり襲って来たりする奴が偶に居るからねぇ。面倒事を起こさない様にこれでも気を使ってるんだよ」
ネイサン青年が、爽やかに笑った。
成程、気を使ってるのですね。
気を。
「気を遣う」では無く「気を使う」に聞こえるのは、気の所為では無いのでしょうね。
そう云えば、うっかり意識を逸らすとネイサン青年が薄らと輪郭が暈けてる様な、そんな感覚に陥る。
実在しないかの様な。
成程、何と便利な。
ややあって、目当ての場所へ辿り着いた。
其処に、本当に、存在していた。
夢の中の、その、建物。
今は廃墟となっているらしく、近所の中年女性に「誰も住んでいない」「此の場所は呪いが掛かっているから近づかない方が良い」「観光ならもっと別の良い場所がある」と親切に教えて頂き、丁寧に感謝の意を述べた。
確かに雰囲気が有る。重厚な石の壁。年代を重ねて更に重みを増した存在感。黒く燻んだ色になっている其れは恐らく昔は鮮やかな色だったのだろうと簡単に想像は付く。
扉に手を掛けようとしたネイサン青年の手が、弾かれる。
静電気だろうか。
ネイサン青年が、鞄からバールのような物を取り出す。
金属音して火花が散った。ドアノブが吹き飛んだ。
先程、金物屋で購入した獲物を早速使うとは。
思わず周囲を見渡すが、誰も此方を気にしては居ない様子である。
「だから、僕だって少しは使えるんだってば」
其れは、「力」とか「気」とか呼ばれる物であろう。
恐らく其れで結界か結界の様な物かを作り出し、自分達と扉を、若しかしたら建物までもを隔絶させたと。
結構、凄い事なのでは……?
「兄さんが居ると安定して使えるんだよね」
重い音を立てて、木製の扉がゆっくりと開いた。
ぞろり。
何か黒い物が扉から滲んで見えた。昏黒の様な不安になる闇色に、胸騒ぎがする。
否、胸の中身は人形故に無いので騒ぎ様が無いのだが。
「さ、行こうか」
ネイサン青年が爽やかに云う。
眼鏡ニイサンも飄々と頷いた。
……てか、辞めません……? 辞めた方が良くありませんか? ほら、此れ、良く考えたら不法侵入ですし、思い切り犯罪者ですし、海外で警察のご厄介に成ったら大変そうですし下手したら御近所の屈強な男達に囲まれてケチョンケチョンのコテンコテンのメッタメタにされて海に沈められてしまう事だって有り得ないとは……。
訴え掛ける此方にはお構い無しに、扉の中に足を進める二人。
闇が、二人が立って居る空間だけ、ぽかりと開く。
一歩進む毎に、その部分だけ、光が差して見れる。
勿論、灯りを持参しては居るのだが、通常にしたってこの闇の深さは妙過ぎる。
2m先が後ろが、見えないのだ。
完全に建物内に入り、扉が閉まった時、水の様な「とぷん……」と云う音が聞こえた気がして、闇に包まれた。
て何故閉めるのですか!! 開けておきましょうよ!!! 逃げるのに不便じゃないですか!!
「はは、閉めたんじゃ無くて、閉 ま っ た んだよ」
眼鏡ニイサンが笑った。
「ヤギリンは怖がりの兄さんより怖がりだなぁ。おっと、テーブルがあった」
突然現れたかの様なテーブルと椅子に--どうやら食卓らしい--ネイサン青年が軽く手を付く。
その手の形に、埃が潰れて跡が付いた。
テーブルの端、視界の隅に、何やら虫の様な闇の欠片の様な何かが蜘蛛の子を散らす様に闇に紛れて行く。
「汚いなぁ」
パンパンと手を払うと、その手を……
「こらぁ、メイベルで拭いちゃ駄目でしょう」
もう、と眼鏡ニイサンが緊張感無く言う。
常々思っていたけれど……けれども!
ネイサン青年には常識とか配慮とかそう云った物が欠如シテイルノデハナイデショウカ?
「大丈夫だよう。後で綺麗に洗ってあげるからねぇ」
撫でながら言うが、眼鏡ニイサンは周囲が全く見えていないのでは無いかと疑いたくなる。
此の、何と云うか、此の、タールの中にシャボン玉の中に入って移動しているかの様な、此の不安感。そして、粘っこく蠢く闇。
いつシャボン玉が破れてもおかしくないと云うのに、余裕の表情の兄弟。
分厚い石造りの壁や申し訳程度の衝立、崩れ掛けの木の棚と崩れて同化している何か。
放置された食器類、歩く度に舞い上がる埃、廊下を進む度に触れもせずに微かに開く左右の部屋の扉。
ネイサン青年と眼鏡ニイサンは、まるで知っている場所かの様に真っ直ぐに奥へと進む。
奥の突き当たり。
突然闇の中から壁が浮き上がって来た。
ネイサン青年が軽くバールで小突くと、壁が開いて隠し扉が露わになった。
扉が、奥から押される様に、独りでに開く。
今迄、闇だと思っていた物が、薄暗がりであったと、認識を改めざるを得なかった。
ズッ……と音を立ててネイサン青年が闇に足を踏み出す。
周囲は、1m先も見えない。只の闇。真っ暗と云う言葉が真の暗闇を表していないと魂の奥底から本能から理解する様な、闇。
届かない灯りを先へ向けるが、やはり見えない物は見えない。
ぐいと身体を闇に押し付け、手で掻くが、どうやら跳ね返される様子で、やや後ろに下がる。
「兄さん、先に行ってよ」
待て! 眼鏡ニイサンはわたくしを抱いているのだぞ!? 眼鏡ニイサンが先に行くと言う事は必然的に先頭は……
「暗くて見えないから怖いんでしょう? 仕方無いなぁ」
まるで夜中にトイレに付いて来てくれと言われたかの様に柔らかく笑うと、眼鏡ニイサンがするりと闇の中に足を踏み出した。
音も無く。
するすると 何 も 無 い 様 に 進む眼鏡ニイサンの服を掴んでネイサン青年が付いて来る。
階段を一歩一歩進むが、その階段の上り下りに当然有るべき軋み音が、全く無い。
音すら闇に吸い込まれたのだろうか、二人の息の音だけがやけに響く。
足元も壁も闇に包まれ、はっきりと見えるのは、ネイサン青年と眼鏡ニイサンの全身だけで……其れもおかしな話なのだが……上も下も判らない様なグルグルと振り回される様な平衡感覚が不確かな状態に陥って居た。
ややあって、立ち止まった眼鏡ニイサンが、一つの部屋に入った事を知る。
それは、その部屋のベッドらしき場所に置かれたからなのだが。
「じゃあ、頑張ってね」
爽やかに、ネイサン青年が言う。
柔らかに、眼鏡ニイサンが言う。
「明日、迎えに来るね」
待って……と伸ばしたつもりだった手が、空を切る。
待って……と挙げたつもりだった声が、喉の奥で詰まる。
二人が扉の向こうに消えたと同時に、世界が闇に包まれる。
真暗闇の中、自分の顔に触れようとする手すら見えない闇の中。
音も何もないのに何かで埋め尽くされて居るかの様な闇の中。
痛い程の静けさ。
上も下もわからないその空間の中、不意に小さく、猫の鳴き声が聞こえた気がした。
……にゃあ……
小さく遠く聞こえた其れは
……おぎゃあ……
次第に
……おぎゃあおぎゃあ……
近くはっきりと
……おぎゃああああおぎゃああああ……
大きく
……おぎゃあああああああおぎゃああああああ……
上から
……おぎゃあああああああああああああああああ……
下から
……おぎゃあああああああああああああああああ……
右から
……おぎゃあああああああああああああああああ……
左から
……おぎゃあああああああああああああああああ……
四方八方から
……おぎゃあああああああああああああああああ……
割れんばかりの大音量へと
おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ
変貌していった。
空間を埋め尽くす、大量の、大量の泣き声。
ふと
声が止む。
真闇の中、赤子が、隣に、真横に、居た。
左右の目が、目玉だけが、何かを探す様にぐるぐると動き回り、ピタリと止まった後、
ぎょ ろ り
と、此方を、見た。
目が、合った。
口が 動く。
「 お ぎゃ あ 」
動こうと身じろぎすると、不意に髪が後ろから引っ張られた。
顎が、顔が、上を向く。
否、上なのか? 本当に其れは「上」なのか?
髪を掴んだであろう赤子の姿は、見えない。
闇しか見えない。
果たして闇とはなんぞやと問うことなかれ。
物質のような闇。
無機質のような闇。
感情の渦のような闇。
希望のような闇。
その全てのようで、全く違うようで。
……とぷん……
あの時と同じ音がした。
此の建物に入って直ぐ、扉が閉まった時と同じ音がした。
音は、自分の体内から発したようだった。
上を向かされたままの口が
決して開けられない筈の口が
柔らかい何かのように、人の口のように押し開けられ、中から、白い物が這い出ようとしていた。
白い、幼虫にも似た其れは、指のようだった。
極限を越えて真上を向いたその口から、白く輝く手が、手首が、肘が、続いてもう片方の手のひらが、赤子の頭が、まるで脱皮のように、 ず る り と這い出て来ようとしている。
壊れるかと壊れたかと思う程の、裏返ったかと思えた程の、此の人形である身体より余程大きな其れは、抜け殻を脱ぎ捨てるかの様に足蹴にすると、完全に、其処に、存在、して、いた。
抜け殻の様に脱ぎ捨てられた自分は滓でしかないのだろうか。
足蹴にされ横たわる視界の隅に、一面の闇の中、赤ん坊が「おぎゃあ」と無表情に口を開き、別の赤ん坊が「おぎゃあ」と返す。
二人が、四人、八人、十数人、何十人……何百人……
「おぎゃあ」と云う度に赤ん坊が何処からとも無く沸いて出た。
否、見えていなかっただけで元から居たのだろう、大音量の「おぎゃあ」の主達。
おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあと喚き続ける彼等が、恐らくは部屋の大きさを物理を無視した数になった彼等が、空間を一面、何重にも重なって埋め尽くす。
一人の赤ん坊が、此方を向いた。
他の赤ん坊を押し退け手を伸ばし、這い寄って来る。
他の赤ん坊達が
一斉に
此方を
向いた。
赤ん坊達が、手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を伸ばして来る。
身体中、頭も顔も目も腕も足も胴も何もかも思考さえも赤ん坊のその白い芋虫の様な手で指で埋め尽くされる。
一人の赤ん坊の指が、唇に、掛かった。
唇に掛けられた指で、一気に下顎を引き剥がされる。
開いた口の中に手を突っ込まれる。
何十ももの、何百ももの手が
手が
手が
手が
手が
口に入ってくる。
我先にと言わんばかりに、押し退けんばかりに、人形でしかない此の身の口腔内に胎内に、
手を、
頭を、
身体を、
押し込んで来る。
何十ももの何百ももの赤ん坊の。
赤ん坊の。
赤ん坊の。
赤ん坊の。
赤ん坊の。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
其れは、永遠に続くかと思われた。
空間を埋め尽くしていた赤ん坊。
それが、次々と秩序も無く押し寄せ、手を手を伸ばし、胎内に入り込み潜り込み。
赤ん坊の濁流。
其れは永遠に留まる事を知らぬ様に思えた。
何時間も何日も何年も何百年も、続いたかと思えたずるずるずるずると胎内に這入り込まれ潜り込まれ続ける時間。
が。
突如、終わった。
最後の一人、紅い目の赤ん坊が、目の前に、居た。
目の前で、対峙して居た。
「おぎゃあ」
紅い目の赤ん坊が、口を開く。
「子が出来たのかい」
女の声が聞こえる。
「ハラメとやると目が潰れるって言うからねぇ」
別の声が言う。
「仕方が無いね。ヘンルーダがまだ有ったろう」
他の声が言う。
「孕んだのかい」
若い声が聞こえる。
「不安だったね。もう大丈夫だ」
別の声が言う。
「酸漿の根を持っておいで」
他の声が言う。
「身篭ったんじゃないのかい?」
男の声が聞こえる。
「そういう趣味の御仁が居てね、丁度良かった」
別の声が言う。
「おい、一番長い編み棒を持って来い」
他の声が言う。
「腹が目立ってきたねぇ」
老婆の声が聞こえる。
「仕方無いだろう。みんなしている事だ」
別の声が言う。
「鉛粒の用意を頼むよ」
他の声が言う。
「なんだって黙っていたんだい」
中年の声が聞こえる。
「一人で抱え込んでいたって仕方ないだろ」
別の声が言う。
「玉葱を煮立たせた鍋を持ってきておくれ」
他の声が言う。
「産むまで客を取って貰うよ」
老爺の声が聞こえる。
「産まれる所を是非見たいという御大尽がいてね」
別の声が聞こえる。
「何、用が済んだら、いつも通り裏の用水路に」
他の声が言う。
「おぎゃあ」
目の前に、紅い目の赤ん坊が居る。
「おぎゃあ」
紅い目の赤ん坊が、手を伸ばして来る。
「おぎゃあ」
上げられ無かった産声を真似て
「おぎゃあ」
望まれた数少ない産声を上げて
「おぎゃあ」
叶わなかった赤ん坊達の産声を上げて
「おぎゃあ」
紅い目の死産した赤ん坊が、其処に、居る。
手が頬に触れ、髪に触れ、身動きの取れぬ人形を…きゅっ…と抱き締めた。
ひんやりとした身体はゆっくりと融ける様に角砂糖が水に溶けて崩れる様に、崩れて逝く。
「おぎゃあ」
其れは、とても淋しい声で。
「おぎゃあ」
其れは、とても優しい声で。
「おぎゃあ」
其れは、とても懐かしい声で。
赤ん坊は
消えて
逝った。
派手に鳴り響く音にハッとする。
扉を蹴破って入って来た青年は、釘バットを片手に、もう片手に彼の兄を引き摺っていた。
振り返った自分と目が合うと、力が抜けた様子で項垂れる。
彼のこんなに必死な表情は初めて見た。
ややあって釘バットを放り投げ、いつもの笑顔で顔を上げる。
「すっかりキレイになっちゃって」
気がつけば煤と埃と蜘蛛の巣にまみれて真っ黒になっている。
「わぁあ、ごめんよぉ、一人で心細かったよねぇ」
眼鏡ニイサンが抱き上げ、優しく撫でる。
「ごめんねぇ、怖かったねぇ」
ぼろぼろと作り物の目から涙が溢れる。
人形の、人形の筈の『私』の目から。
涙が溢れて落ちていた。
「ごめんねぇ」
服が濡れるのも厭わず、眼鏡ニイサンが優しく背を撫でる。
ええ、怖かったですとも。怖かったですとも。でも、違います。怖かったから泣いてるんじゃないのですよ
「まぁ、そこはどうでも良いじゃん」
如何でも良いのですかね。
そうかも知れませんね。
連れ出された館の外は、清々しい朝の日の光が辺りを照らし、まだ夜露を含んだ風が空気を洗い流す。
館の中は、あのねっとりとした闇は、すっかり消えていた。
普通の、ただの、埃が積もった古い廃墟になっていた。
入った時の足跡が、数十年前であったかの様にうっすら埃が積もっていた。
「さぁ、我が家に帰ろうか」
眼鏡ニイサンが笑って言った。
母は生まれつき目の見えぬ、体の弱い少女である。
少女もまた、娼館で産まれ、父の顔も知らぬまま育った。
産まれた時に、産婆からは長生きは出来ぬだろうと宣言された。
長くて3年。ともすれば明日にでも。と。
しかし、少女の母親は、育てると言ってきかなかった。
そもそも、産むと言って頑固に腹の中で育て続け、産んで見せたのだ。そして、産後の状態が宜しくなく、呆気なく死んだ。
その子となれば、もう、その館のみんなの子供みたいなものだった。
だが、日に触れれば日膨れが出来、高熱を出し、何度も死にかけた。
それが、10になる頃、恐らく、思いがけず長生きをしたとでも言えば良いのか。過保護だった娼婦達や主人の目が、監視が、弛んだ。
誰も入れないはずの地下の部屋に籠りきりの筈の少女が、嘔吐を繰り返して、とうとう寿命なのかと皆が思い始めた時に呼ばれた医者によって、妊娠が発覚した。
勿論、先ず疑われたのは館の中の男衆だが、少女は誰かを庇ってか首を横に振り続けた。
違う違うと。名の知らぬまま行きずりの相手と一度きりの逢瀬で子が出来たと。そう言った。
大事に大事に育ててきた少女を誰が汚したのかと、女主人の怒りは烈しく、危うく男衆全員宦官にされる所だった。
だが、頑なに彼等は悪くない。自分が男を引き込んだのだと告げる少女の健気さに、娼婦全員で女主人を止めた。
少女の腹は日に日に膨らみ、少女は日に日に衰えていった。
そして、膨らみきったある日、産気付き、少女は母と同じ運命を辿った。
産まれた赤ん坊は、息をしていなかった。
ただ、見開かれた其の目だけが赤く輝く宝石の様に輝いていた。
妙な夢を見た。
人形は夢を見るのか、とは誰の命題であったか。
兎にも角にも、夢を見たのだ。見るのだろう。
其れとも此れも眼鏡ニイサンの力の片鱗なのか。
夢の中で、自分は第三者で在ったのは間違い無い。いや、存在していたか如何かも怪しい。
大体夢とは不確かで朧気で覚束無い空漠たる幽かで曖眛な物なのだ。
夢の中で死産した赤子と目が合った等と訴えた所で鼻で笑われるのが関の山だろう。
無意識に鼻を撫でて居る事に気付き、此処半年、その実とても気にしていたのだとやや肩を落とす。
洗濯挟みで鼻を摘まんだり、其の痕が付いて眼鏡ニイサンを悲しませたり、ネイサン青年に付け鼻を付けられたり、色々有ったりしたりしていた。
やっと、元に戻った所だと云うのに、妙な夢に悩まされる事になるとは。
そもそも、今迄夢と云う物を見た事が無い。
なのに夢と断じられるのは、その夢の中の世界が現実とは思えないからだ。
地下のある娼館、重厚な石の壁。色とりどりの髪の色、瞳の色の女達。
恐らくは日本では無いだろうが、彼女等の声は、何かで耳を塞がれてでも居るかの様にくぐもってよく聞こえないし、何となくの理解は恐らく脳内で適当にアテレコしただけであろう。
脳は未だ無いが。
いや、人形なのだから無くて正解なのだが。
しかし。と思う。
しかし、あの死産の赤ん坊と目が合って現実に引き戻されるのは、心臓に悪い物だと、思う。
『私』には心臓も未だ無いが。
二日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊の首が、ゴ キ リ とはっきりと音を立てて動き、此方へ顔毎向けた。
三日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊の首が音を立てて此方へ向き、右手が此方へ伸ばされた。
四日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊が、身体毎、此方へ向いた。
五日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊が、身体毎此方へ向き、一歩、這いずって来た。
六日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊が、二歩、這いずって来た。
七日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊が、三歩、四歩、這いずって来た。
八日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊が右手を伸ばし、其の指先が 触 れ て き た 。
九日目。
紅い目の死産した筈の赤ん坊の右の掌が、頬に触れた。
十日目。
「何か云う事は無いのですかね、この姿を見て」
「いや、面白いなぁとしか」
「そんな感じも可愛いよ」
「妙だとは思わないんですか! 夢の中で毎日毎日毎日毎日赤ん坊が少しずつ迫って来るんです!!! 怖いんです!!! 赤ん坊とか会話の成り立たない何がしたいのか解らないじゃないですか!!! 挙句此れですよ、此れ!!!」
顔面と言わず、全身に小さな手の痕が浮かび上がっている此の人形の姿に、ネイサン青年と眼鏡ニイサンは危機感皆無の様子でお茶を啜って居た。
「人形と会話が成り立つのも充分妙だもんねぇ」
其れもそうですが!
其れもそうですが!!!
大体さぁ……、とネイサン青年が言う。
「大体、この家に居てそんな事になる方がおかしいんだよ」
眼鏡ニイサンの力の影響下で心霊現象が起きて居るのなら其れは
「其れ、夢って事でしょう?」
言葉少なにネイサン青年が言うが、理解出来る。
夢とは、記憶。体験したこと、目にしたものが断片的に表れ、そこに想像や空想が取り込まれ作り上げられる物。
ならば、“誰”の体験した事だと云うのか。
外部の悪意の及ばない結界内に“誰”の意識が入り込んだと言うのか……。
自分自身の、だろうか?
人形になる前の、其の記憶の一部だとでも云うのか。
しかし、明らかに「何者か」の目線では無かった夢の構造に、まるで画面の中の出来事を観賞しているか様な其の感覚であった夢に、自分の体験だとはとてもではないが思えない。
それに、「人形は夢を見るのか?」と言う大問題も残っている。
「だから、ヤギリン。君、忘れているかも知れないけれど、呪いの悪霊人形だからね?」
其の言葉に、そう云えばと思い出す。
否定と反論を繰り返しても、「呪いの悪霊人形」と繰り返すのは何故なのか? ネイサン青年のその言葉の意味は、真意は何だと言うのか?
悪霊は、悪霊と成ってしまった彼等は、一体何処へ消えたと言うのか?
炎に浄化され、転生か天国か地獄かそんな場所へ逝ったのでは無かったとしたら?
何故、自分だけか無事にあの焼却炉から這い出る事が叶ったのか。
あの溶けてくっ付いていた諸々の先輩方は如何成ったのか。
「だから、君、呪いの悪霊人形でしょう?」
呪いの悪霊人形。
此の言葉に如何程の意味を篭められているのか。
呪いとは、恨み辛み嫉み妬み憎しみ哀しみが根底にあり、人が人に対して行う物では無いだろうか?
人。人で在った物。否、動物や神と呼ばれる存在にも其れは有りえる話だろう。
が、主にやはり、現在人であるか、嘗て人で在ったモノあと考えるのが一般的ではないだろうか。
悪霊。文字通り悪い霊、災禍を齎す邪悪な霊的存在なのだろう。自分が今迄に何か災厄を引き起こした事が有るだろうか? 否。無い。覚えて居る限り無い。此れはきっぱりと言える。
人形。人の形をした物。ヒトガタ。容れ物。身代わり。形代。依り代。
恐らくは、恐らくは自分は、自分は中に容るモノなのだろう。
誰か意識の固まりか浮遊霊か、自己分析するに、そう云う「嘗て何かで在ったモノ」なのだろう。
人の信仰や恐怖や噂話や妄想が具体性を増すに従って、其の存在が確固たるモノになる成り立ちを持つ神話や怪談が真実に成る。そんな存在も在ると言うのなら、なんとなく「放置された人形、気味が悪い」で存在する様になる呪いの悪霊人形も居るのではなかろうか?
寧ろ、ネイサン青年の繰り返されるその言霊に因って自分は成り立って居るのではないかと思い始めてしまう位には。
「あー……そおっか。話してないんじゃね?」
新しい釘バットの作成をしながら、ネイサン青年が話してくれた。
「お前が燃えてる時な、根性あるなぁと思って見てたんだけど、あれな。悪霊達がワーッてお前ん中入ってったの見てたんだわ」
木製のバットに五寸釘を打ち込み乍なので、聞き取り難い。
「それと、お前、ちょいちょい反応無くなるけど、気付いてる? 多分、其の時に寝てるか夢見てるんだと思うんだけど」
其れには薄々気付いては居りましたとも。
短期の記憶が飛び飛びだったり曖昧だったりしますので。
ワーッてですか。ワーッて。
ワーッて入って来たんですか。
て言うかお久し振りですね、釘バットさん。
「あいつ、二重人格とか言ってたろ。違うんだよね。俺ら双子なの、双子。バシニングツインてやつ。まぁ、元々の身体はあいつのだから、中々出て来れないんだけど」
せっせと釘バットを仕上げ乍、独り言の様に呟く。
「自分の法具は自分の分身だから、自分の手で作る方が良いって言ってるのに、あいつ聞きゃしないんだもんなぁ」
「ぼくはどっちの弟も可愛い弟なんだけどねぇ。兄弟喧嘩出来るのも仲が良い証拠だよねぇ」
間の抜けた台詞で口を挟む眼鏡ニイサン。
無視して此方を完成した釘バットで指し示すネイサン青年(釘バット)。
「其の赤ん坊さ、十中八九、お前の中の悪霊の一匹じゃね?」
要するに、夢の中のそいつが主導権を乗っ取ろうとしているんじゃね? と釘バットネイサンは言う。
「でも、元々の持ち主の権利の方が強いから、中々上手くいかない。俺みたいに」
出来上がった釘バットを丁寧に布に包むと、バッグにしまい、押し入れに片付けた。
「みんな仲良くすれば良いのにねぇ」
「メーベルがその悪霊に乗っ取られたら、兄ちゃん、怖がって泣いちゃうだろ」
「そんな怖いのか、イヤだなぁ。メイベルはこんなに可愛いのにねぇ」
眼鏡ニイサンの膝に乗せられ、両腕を持たれてパタパタ上下させられる。
「お前……されるがままなのな……」
笑いを堪える釘バット青年に、そういえばあの出会った時の禿げ全裸を爆笑してくださったのは此方の彼なのかと腑に落ちる。
……臓腑は無いのだが……。
しかし喋り方はバール青年だった気がする。否、声が二種類同時に出ていた様な気がしないでも無い。
構造上無理であろうと思いを巡らせ、一つの結論に辿り着いた。
「……腹話術……」
「確かに、今の状態は腹話術師とその人形にしか見えないけどね」
いつの間にやら雰囲気が変化している。
これは、バール青年の方か。
「何? 腹話術師ごっこなの? それなら確かに他の人に見られても平気だろうけど。兄さんが変人扱いされるだけだし。まぁ、兄さんが引き篭もりを辞める良い機会にもなるよね。ヤギリンと一緒なら、外に出ても怖くないんじゃない?」
ぱぁぁっ。と眼鏡ニイサンの表情が明るくなった。気がした。
数日後。
「そんなに気になるなら其の場所に行ってみようよ」
その一言で、眼鏡ニイサンとネイサン青年と一緒に機上の人形になっていた。
夢の内容、建物の内観や人の外見、状況等から地図を広げて、眼鏡ニイサンが指差した「多分此処」だけの情報で行動を起こすのだから、金持ちって怖い。
それだけネイサン青年が眼鏡ニイサンを信頼していると言う事なのだろうが、もしかしたら単に適当な理由で海外旅行がしたいだけなのではないかとも思えない事も無い。
流石に間違う事無く「恐怖! 呪いの悪霊人形!!」と成って居る此の小さな手の痕だらけでは人目が有ると言うので、縫いぐるみの皮を被らされ、前も後ろも解らない状態で恐らく眼鏡ニイサンに抱かれた儘、移動している。
何やら途中「海外の祖母の所へ……」「兄の病気の静養の為に……」「この人形は唯一の拠り所で……」「この人形が無いと……」等と聞こえたが、恐らく何か咎められたのを口八丁で言い包めたに違いない。
終始「タクシーだよ。今から空港に向かうよ」「空港に着いたよ」「お土産屋さんで何か買おうか」「酔い止めを買って貰ったから、あとで分けてあげるね」「手続きするよ」「手荷物検査だよ。ちょっとの間我慢してね」「大丈夫だった?痛くなかった?」と話し掛けて来る眼鏡ニイサンは、間違い無く病気にしか見えなかったであろうし。
そう考えると、此の兄を外に引っ張り出す弟と言うのは、中々に涙を誘う健気な青年を演出出来るとイウモノダ。
とあるヨーロッパのとある街。
田舎町ではなく、様々な人種の行き交うやや大き目の街。
ピンクの熊を抱き締めた長身痩せ型眼鏡の東洋人の男と童顔の爽やかな青年が連れ立って歩いてもあまり悪目立ちしない程度には大きい街。
無関心とは優しさでも或るのだろう。
存在を許さない過干渉では無く、存在を許す無関心。
それは眼鏡ニイサンの様な人間にとっては心地良い冷たさなのであろう。
まぁ、それを当の本人が気にするかと問われれば、気にしないのだろうが。
「メイベル、苦しかったねぇ」
ピンクの熊の頭をフードのように外し、頭を出させると、やっと外の情景が見れた。
ちなみに、首から下は熊のまま。ノーパン気ぐるみである。
辛うじて顔には手の痕が最初の一つだけしか無いので、そう刳い事には成っては居ないだろう。
実際に此方を見る人は居ても「そう云う物」としか認識していない感じを受ける。
無闇矢鱈に周囲に衝撃を与える存在では無いと云う事だ。
足元はお洒落な石畳。信号機や看板も古い物と新しい物が混在し、調和が取れていた。
遠くに城か何かが見え、手前には猫がのんびりとカフェの客におねだりをしている。
ネイサン青年が店内から何やら持って出てきた。
「オープンテラスで軽く食事にしよう」
何やらカフェのオープンテラスの椅子に座らされ、眼鏡ニイサンが鞄から高そうなカメラを取り出す。
コーヒーミルクをねだりに寄って来た猫とツーショットを撮られた。
ガッシャガッシャとあらゆる角度から写真を撮る眼鏡ニイサンに店員が何やら話し掛け、流暢な外国語で返事を返す。
……何語だ……?
「兄さん、何ヶ国語か喋れるんだよ。暇だから覚えたんだって」
……暇だから……?
何やら熱心に店員に話し掛けられ、眼鏡ニイサンが首を振ったり手を振ったりしている。
これは……
「ナンパされてる最中だね」
アテレコしようかとネイサン青年が言う。
アテレコてあなたそんなお願いします。
「貴方の様なピュアでセクシーな人は初めてだ。その眼鏡を外して瞳を見せて欲しい。観光なのかい? 何処に行くの? 案内するよ。勿論君の大事な人形と弟も一緒で良い。その細い腰を抱き寄せて今すぐ折って何処へも行けない様にして僕の愛と云う名の檻で一生可愛がってあげたい云々……」
先生、質問です。
「はい、ヤギリン君」
彼は、いや、あの方はわたくしには男性に見えるのでありますが、若しくは眼鏡ニイサンを女性だと勘違いされていらっしゃるのでは……?
勘違いなら解いた方が今後の為にも……と云う前に、ネイサン青年は首を横に振った。
「失礼な事言うなよ。恋愛に性別は関係ないだろう」
……そう……ですか。まぁ、性別どころか異種族、有機物無機物関係ない方もいらっしゃいますしね……。
結局カフェの店員の誘いを断り続け、カフェを後にした。
ともすれば追い掛けて来そうな店員を、店長らしき屈強な初老の店員が止め、耳を引っ張って店内に引きずって行く。
街中を、眼鏡の或る種危ういニイサン兄さんがフラフラと彼方此方へ人形を置いてみてはカメラを構える。
隣のネイサン青年の顔には「僕は可哀相な兄の付き添いです」とでも書いてあるかの様だ。
時偶、カフェの店員の様な人種が眼鏡ニイサンに声を掛けるも、ネイサン青年を見ると肩を竦めて直ぐに立ち去る。
日本ならネイサン青年の方がそう云う方々におもてになりそうなものだが、やはり、感覚の違いと云う物だろう。ネイサン青年には全くお声も掛からず、更に云えば犬猫すら寄って来ない。
散歩中の大きな金色の犬に匂いを嗅がれ乍、違和感を覚える。
犬が、眼鏡兄さん含む他の人間には尻尾を振って愛嬌を撒いているのに、ネイサン青年を無視する様に、否、見えて居ないかの様に振舞う。
犬が、顔面を舐めて来る。
慌てて引き剥がす飼い主と眼鏡兄さん。
まぁ、ちょっと大量の涎の付着が見られるが、洗えば取れるだろう。
幸い此の身は人形なので、匂いも判らない。
「僕ね、動物に嫌われるから」
無言で居たのは喋れない振りをしているからなのだが、何やら言い訳の様にネイサン青年が言う。
「嫌われる分には全然構わないんだけど、暴れたり襲って来たりする奴が偶に居るからねぇ。面倒事を起こさない様にこれでも気を使ってるんだよ」
ネイサン青年が、爽やかに笑った。
成程、気を使ってるのですね。
気を。
「気を遣う」では無く「気を使う」に聞こえるのは、気の所為では無いのでしょうね。
そう云えば、うっかり意識を逸らすとネイサン青年が薄らと輪郭が暈けてる様な、そんな感覚に陥る。
実在しないかの様な。
成程、何と便利な。
ややあって、目当ての場所へ辿り着いた。
其処に、本当に、存在していた。
夢の中の、その、建物。
今は廃墟となっているらしく、近所の中年女性に「誰も住んでいない」「此の場所は呪いが掛かっているから近づかない方が良い」「観光ならもっと別の良い場所がある」と親切に教えて頂き、丁寧に感謝の意を述べた。
確かに雰囲気が有る。重厚な石の壁。年代を重ねて更に重みを増した存在感。黒く燻んだ色になっている其れは恐らく昔は鮮やかな色だったのだろうと簡単に想像は付く。
扉に手を掛けようとしたネイサン青年の手が、弾かれる。
静電気だろうか。
ネイサン青年が、鞄からバールのような物を取り出す。
金属音して火花が散った。ドアノブが吹き飛んだ。
先程、金物屋で購入した獲物を早速使うとは。
思わず周囲を見渡すが、誰も此方を気にしては居ない様子である。
「だから、僕だって少しは使えるんだってば」
其れは、「力」とか「気」とか呼ばれる物であろう。
恐らく其れで結界か結界の様な物かを作り出し、自分達と扉を、若しかしたら建物までもを隔絶させたと。
結構、凄い事なのでは……?
「兄さんが居ると安定して使えるんだよね」
重い音を立てて、木製の扉がゆっくりと開いた。
ぞろり。
何か黒い物が扉から滲んで見えた。昏黒の様な不安になる闇色に、胸騒ぎがする。
否、胸の中身は人形故に無いので騒ぎ様が無いのだが。
「さ、行こうか」
ネイサン青年が爽やかに云う。
眼鏡ニイサンも飄々と頷いた。
……てか、辞めません……? 辞めた方が良くありませんか? ほら、此れ、良く考えたら不法侵入ですし、思い切り犯罪者ですし、海外で警察のご厄介に成ったら大変そうですし下手したら御近所の屈強な男達に囲まれてケチョンケチョンのコテンコテンのメッタメタにされて海に沈められてしまう事だって有り得ないとは……。
訴え掛ける此方にはお構い無しに、扉の中に足を進める二人。
闇が、二人が立って居る空間だけ、ぽかりと開く。
一歩進む毎に、その部分だけ、光が差して見れる。
勿論、灯りを持参しては居るのだが、通常にしたってこの闇の深さは妙過ぎる。
2m先が後ろが、見えないのだ。
完全に建物内に入り、扉が閉まった時、水の様な「とぷん……」と云う音が聞こえた気がして、闇に包まれた。
て何故閉めるのですか!! 開けておきましょうよ!!! 逃げるのに不便じゃないですか!!
「はは、閉めたんじゃ無くて、閉 ま っ た んだよ」
眼鏡ニイサンが笑った。
「ヤギリンは怖がりの兄さんより怖がりだなぁ。おっと、テーブルがあった」
突然現れたかの様なテーブルと椅子に--どうやら食卓らしい--ネイサン青年が軽く手を付く。
その手の形に、埃が潰れて跡が付いた。
テーブルの端、視界の隅に、何やら虫の様な闇の欠片の様な何かが蜘蛛の子を散らす様に闇に紛れて行く。
「汚いなぁ」
パンパンと手を払うと、その手を……
「こらぁ、メイベルで拭いちゃ駄目でしょう」
もう、と眼鏡ニイサンが緊張感無く言う。
常々思っていたけれど……けれども!
ネイサン青年には常識とか配慮とかそう云った物が欠如シテイルノデハナイデショウカ?
「大丈夫だよう。後で綺麗に洗ってあげるからねぇ」
撫でながら言うが、眼鏡ニイサンは周囲が全く見えていないのでは無いかと疑いたくなる。
此の、何と云うか、此の、タールの中にシャボン玉の中に入って移動しているかの様な、此の不安感。そして、粘っこく蠢く闇。
いつシャボン玉が破れてもおかしくないと云うのに、余裕の表情の兄弟。
分厚い石造りの壁や申し訳程度の衝立、崩れ掛けの木の棚と崩れて同化している何か。
放置された食器類、歩く度に舞い上がる埃、廊下を進む度に触れもせずに微かに開く左右の部屋の扉。
ネイサン青年と眼鏡ニイサンは、まるで知っている場所かの様に真っ直ぐに奥へと進む。
奥の突き当たり。
突然闇の中から壁が浮き上がって来た。
ネイサン青年が軽くバールで小突くと、壁が開いて隠し扉が露わになった。
扉が、奥から押される様に、独りでに開く。
今迄、闇だと思っていた物が、薄暗がりであったと、認識を改めざるを得なかった。
ズッ……と音を立ててネイサン青年が闇に足を踏み出す。
周囲は、1m先も見えない。只の闇。真っ暗と云う言葉が真の暗闇を表していないと魂の奥底から本能から理解する様な、闇。
届かない灯りを先へ向けるが、やはり見えない物は見えない。
ぐいと身体を闇に押し付け、手で掻くが、どうやら跳ね返される様子で、やや後ろに下がる。
「兄さん、先に行ってよ」
待て! 眼鏡ニイサンはわたくしを抱いているのだぞ!? 眼鏡ニイサンが先に行くと言う事は必然的に先頭は……
「暗くて見えないから怖いんでしょう? 仕方無いなぁ」
まるで夜中にトイレに付いて来てくれと言われたかの様に柔らかく笑うと、眼鏡ニイサンがするりと闇の中に足を踏み出した。
音も無く。
するすると 何 も 無 い 様 に 進む眼鏡ニイサンの服を掴んでネイサン青年が付いて来る。
階段を一歩一歩進むが、その階段の上り下りに当然有るべき軋み音が、全く無い。
音すら闇に吸い込まれたのだろうか、二人の息の音だけがやけに響く。
足元も壁も闇に包まれ、はっきりと見えるのは、ネイサン青年と眼鏡ニイサンの全身だけで……其れもおかしな話なのだが……上も下も判らない様なグルグルと振り回される様な平衡感覚が不確かな状態に陥って居た。
ややあって、立ち止まった眼鏡ニイサンが、一つの部屋に入った事を知る。
それは、その部屋のベッドらしき場所に置かれたからなのだが。
「じゃあ、頑張ってね」
爽やかに、ネイサン青年が言う。
柔らかに、眼鏡ニイサンが言う。
「明日、迎えに来るね」
待って……と伸ばしたつもりだった手が、空を切る。
待って……と挙げたつもりだった声が、喉の奥で詰まる。
二人が扉の向こうに消えたと同時に、世界が闇に包まれる。
真暗闇の中、自分の顔に触れようとする手すら見えない闇の中。
音も何もないのに何かで埋め尽くされて居るかの様な闇の中。
痛い程の静けさ。
上も下もわからないその空間の中、不意に小さく、猫の鳴き声が聞こえた気がした。
……にゃあ……
小さく遠く聞こえた其れは
……おぎゃあ……
次第に
……おぎゃあおぎゃあ……
近くはっきりと
……おぎゃああああおぎゃああああ……
大きく
……おぎゃあああああああおぎゃああああああ……
上から
……おぎゃあああああああああああああああああ……
下から
……おぎゃあああああああああああああああああ……
右から
……おぎゃあああああああああああああああああ……
左から
……おぎゃあああああああああああああああああ……
四方八方から
……おぎゃあああああああああああああああああ……
割れんばかりの大音量へと
おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ
変貌していった。
空間を埋め尽くす、大量の、大量の泣き声。
ふと
声が止む。
真闇の中、赤子が、隣に、真横に、居た。
左右の目が、目玉だけが、何かを探す様にぐるぐると動き回り、ピタリと止まった後、
ぎょ ろ り
と、此方を、見た。
目が、合った。
口が 動く。
「 お ぎゃ あ 」
動こうと身じろぎすると、不意に髪が後ろから引っ張られた。
顎が、顔が、上を向く。
否、上なのか? 本当に其れは「上」なのか?
髪を掴んだであろう赤子の姿は、見えない。
闇しか見えない。
果たして闇とはなんぞやと問うことなかれ。
物質のような闇。
無機質のような闇。
感情の渦のような闇。
希望のような闇。
その全てのようで、全く違うようで。
……とぷん……
あの時と同じ音がした。
此の建物に入って直ぐ、扉が閉まった時と同じ音がした。
音は、自分の体内から発したようだった。
上を向かされたままの口が
決して開けられない筈の口が
柔らかい何かのように、人の口のように押し開けられ、中から、白い物が這い出ようとしていた。
白い、幼虫にも似た其れは、指のようだった。
極限を越えて真上を向いたその口から、白く輝く手が、手首が、肘が、続いてもう片方の手のひらが、赤子の頭が、まるで脱皮のように、 ず る り と這い出て来ようとしている。
壊れるかと壊れたかと思う程の、裏返ったかと思えた程の、此の人形である身体より余程大きな其れは、抜け殻を脱ぎ捨てるかの様に足蹴にすると、完全に、其処に、存在、して、いた。
抜け殻の様に脱ぎ捨てられた自分は滓でしかないのだろうか。
足蹴にされ横たわる視界の隅に、一面の闇の中、赤ん坊が「おぎゃあ」と無表情に口を開き、別の赤ん坊が「おぎゃあ」と返す。
二人が、四人、八人、十数人、何十人……何百人……
「おぎゃあ」と云う度に赤ん坊が何処からとも無く沸いて出た。
否、見えていなかっただけで元から居たのだろう、大音量の「おぎゃあ」の主達。
おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあと喚き続ける彼等が、恐らくは部屋の大きさを物理を無視した数になった彼等が、空間を一面、何重にも重なって埋め尽くす。
一人の赤ん坊が、此方を向いた。
他の赤ん坊を押し退け手を伸ばし、這い寄って来る。
他の赤ん坊達が
一斉に
此方を
向いた。
赤ん坊達が、手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を手を伸ばして来る。
身体中、頭も顔も目も腕も足も胴も何もかも思考さえも赤ん坊のその白い芋虫の様な手で指で埋め尽くされる。
一人の赤ん坊の指が、唇に、掛かった。
唇に掛けられた指で、一気に下顎を引き剥がされる。
開いた口の中に手を突っ込まれる。
何十ももの、何百ももの手が
手が
手が
手が
手が
口に入ってくる。
我先にと言わんばかりに、押し退けんばかりに、人形でしかない此の身の口腔内に胎内に、
手を、
頭を、
身体を、
押し込んで来る。
何十ももの何百ももの赤ん坊の。
赤ん坊の。
赤ん坊の。
赤ん坊の。
赤ん坊の。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
赤ん坊。
其れは、永遠に続くかと思われた。
空間を埋め尽くしていた赤ん坊。
それが、次々と秩序も無く押し寄せ、手を手を伸ばし、胎内に入り込み潜り込み。
赤ん坊の濁流。
其れは永遠に留まる事を知らぬ様に思えた。
何時間も何日も何年も何百年も、続いたかと思えたずるずるずるずると胎内に這入り込まれ潜り込まれ続ける時間。
が。
突如、終わった。
最後の一人、紅い目の赤ん坊が、目の前に、居た。
目の前で、対峙して居た。
「おぎゃあ」
紅い目の赤ん坊が、口を開く。
「子が出来たのかい」
女の声が聞こえる。
「ハラメとやると目が潰れるって言うからねぇ」
別の声が言う。
「仕方が無いね。ヘンルーダがまだ有ったろう」
他の声が言う。
「孕んだのかい」
若い声が聞こえる。
「不安だったね。もう大丈夫だ」
別の声が言う。
「酸漿の根を持っておいで」
他の声が言う。
「身篭ったんじゃないのかい?」
男の声が聞こえる。
「そういう趣味の御仁が居てね、丁度良かった」
別の声が言う。
「おい、一番長い編み棒を持って来い」
他の声が言う。
「腹が目立ってきたねぇ」
老婆の声が聞こえる。
「仕方無いだろう。みんなしている事だ」
別の声が言う。
「鉛粒の用意を頼むよ」
他の声が言う。
「なんだって黙っていたんだい」
中年の声が聞こえる。
「一人で抱え込んでいたって仕方ないだろ」
別の声が言う。
「玉葱を煮立たせた鍋を持ってきておくれ」
他の声が言う。
「産むまで客を取って貰うよ」
老爺の声が聞こえる。
「産まれる所を是非見たいという御大尽がいてね」
別の声が聞こえる。
「何、用が済んだら、いつも通り裏の用水路に」
他の声が言う。
「おぎゃあ」
目の前に、紅い目の赤ん坊が居る。
「おぎゃあ」
紅い目の赤ん坊が、手を伸ばして来る。
「おぎゃあ」
上げられ無かった産声を真似て
「おぎゃあ」
望まれた数少ない産声を上げて
「おぎゃあ」
叶わなかった赤ん坊達の産声を上げて
「おぎゃあ」
紅い目の死産した赤ん坊が、其処に、居る。
手が頬に触れ、髪に触れ、身動きの取れぬ人形を…きゅっ…と抱き締めた。
ひんやりとした身体はゆっくりと融ける様に角砂糖が水に溶けて崩れる様に、崩れて逝く。
「おぎゃあ」
其れは、とても淋しい声で。
「おぎゃあ」
其れは、とても優しい声で。
「おぎゃあ」
其れは、とても懐かしい声で。
赤ん坊は
消えて
逝った。
派手に鳴り響く音にハッとする。
扉を蹴破って入って来た青年は、釘バットを片手に、もう片手に彼の兄を引き摺っていた。
振り返った自分と目が合うと、力が抜けた様子で項垂れる。
彼のこんなに必死な表情は初めて見た。
ややあって釘バットを放り投げ、いつもの笑顔で顔を上げる。
「すっかりキレイになっちゃって」
気がつけば煤と埃と蜘蛛の巣にまみれて真っ黒になっている。
「わぁあ、ごめんよぉ、一人で心細かったよねぇ」
眼鏡ニイサンが抱き上げ、優しく撫でる。
「ごめんねぇ、怖かったねぇ」
ぼろぼろと作り物の目から涙が溢れる。
人形の、人形の筈の『私』の目から。
涙が溢れて落ちていた。
「ごめんねぇ」
服が濡れるのも厭わず、眼鏡ニイサンが優しく背を撫でる。
ええ、怖かったですとも。怖かったですとも。でも、違います。怖かったから泣いてるんじゃないのですよ
「まぁ、そこはどうでも良いじゃん」
如何でも良いのですかね。
そうかも知れませんね。
連れ出された館の外は、清々しい朝の日の光が辺りを照らし、まだ夜露を含んだ風が空気を洗い流す。
館の中は、あのねっとりとした闇は、すっかり消えていた。
普通の、ただの、埃が積もった古い廃墟になっていた。
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「さぁ、我が家に帰ろうか」
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