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第4章 王都へ
第42話 和邇(わに)
しおりを挟む私は、自分の杖を持ち慌てて後を追った。
現場に着くと、ムサシが地引網を持ち綱引きをしていた。
漁師達は、街道近くまで避難している様だ。
サキとマリーナは、ムサシの左右で綱引きの様子を見守っていた。
【マリア、何か水に強い魔法を使えるか?】
「雷ができるわ。」
【よし、じゃあ、そいつを沖合いにぶっ放してくれ、狙う必要は無いから大きいのを頼むぜ!】
私は、ムサシに言われた通りに、杖に思いっきり魔力を込めて沖合い目掛けて放った。
「ライトニングー ストライク!」
すると、沖合いに雷鳴と共にいくつもの落雷が起きた。
沖合いを見ると、巨大な魚がお腹を見せてプカプカと浮かんでいた。
ふと、ムサシの方を見ると、何故かブルブルしている。
ちょっと、やり過ぎたかも知れない。
慌てて、ムサシに回復魔法を掛ける。
あ、プルプルが治った。
ムサシは、猛烈な勢いで地引網を引き始めた。
私達も引き揚げるのを手伝った。
やがて、網に絡まった巨大な魚が陸に近づいてきた。
そして、ある程度近づいたところで、網がミシミシと破け始め、これ以上は引っ張る事が出来なくなってしまった。
この浜は、どうやら遠浅で、魚が海底に引っかかっているようだ。
ムサシは、網ではこれ以上引っ張り揚げる事が出来ないと考えたのか、太い綱を肩に担いで海に飛び込んでいった。
ムサシは、魚の所に着くと、魚の尾に綱を結んでいるようだ。
やがて、綱の先を持って戻ってきた。
避難させていた漁師達を呼び、皆で綱を引く様に頼んだ。
【オーエス、オーエス】
ムサシが掛け声を掛け始めると、皆は掛け声に合わせて綱を引き始める。
『オーエス、オーエス』
次第にサキが音頭をとりだした。
魚は、遠浅の海をグイグイと引き摺られて、陸に近付いて来た。
魚が波打ち際まで来た時に、その巨体が露わになった。
長さは馬車2台分程で、流線形で背中と左右にヒレを持っている。
そして、小さな丸い目と大きく前に突き出た鼻の下には、大きな口があり、鋭い尖った歯がぎっしりと生えている。
皆がその容姿に驚いている。
ムサシが漁師達に、この魚は何だと尋ねても、誰も見た事も無い魚だと、首を横に振った。
サキが剣で魚の鼻を突いて遊んでいる。
私がサキを注意しようとすると、突然、魚が暴れ出し、サキに襲い掛かって来た。
サキも急な事態にびっくりして、固まってしまっている。
私が危ないと叫ぼうとした時、ムサシが魚に飛びかかる。
ムサシの剣がキラリと光ったかと思うと、魚は頭が真っ二つに斬られて、動かなくなった。
サキは余程怖かったのか、大声をあげて泣き出してしまった。
ムサシは、泣いているサキを抱き抱えて、何も言わず背中を擦っていた。
「こりゃ、サメだな。俺のいた世界の魚だ。こんなに大きいのは初めて見たが。」
【こいつは、神話の中では、わにとも呼ばれているんだ。】
【しかし、何故この世界に。】
ムサシは、そうつぶやくと、何やら考え事をしている。珍しい。
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