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薬草香るハーブティー
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「今日もおばあちゃん家?」
「うん! 教えてもらいたいことがあるんだ」
「そう。気を付けてね」
「行ってきます」
鮮やかに飛び乗り、黒竜は大きく羽ばたく。空を走る馬のごとく、風を切って進んだ。黄色い屋根が足元に見え、フォリンは減速しながら接近した。地面に着地するよりも早く飛び降り、木のドアをたたく。
「おやおや、来ると思っていたよ」
祖母は何も聞かずに家に招き入れてくれた。こじんまりとした部屋の半分を占める丸テーブルには、ハナカシスの花が咲いている。そしてその横には、湯気だったハーブティーが三つ並べてあった。あいかわらず壁一面の棚からは調合前の薬草の香りが漂っている。
「好きなところにお座りなさい」
「ありがとう」
「今日は長居するつもりなのでしょう? フォリンも入れておやり」
「え、うん」
相変わらず勘の良い祖母に驚きながらも、縮めたフォリンを膝に乗せ、私たちはハーブティーに手を付けた。フォリンは猫のようにハーブティーを舌で掬っている。祖母は話し始めるのを待っているように目を閉じて穏やかな顔をしていた。
「あのね、おばあちゃん」
「なんだい?」
ゆっくりと祖母は目を開く。
「昨日、エデンさんから結婚を申しこまれたの」
「やっぱり、そう来たかい」
私は飲んでいたハーブティーを静かに置いた。
「おばあちゃんはわかってたの?」
「そうだね。わかっていたのかもしれない」
祖母は、コトンとハーブティーを置く。
「エデン様は、本気だと思うよ」
「なんでわかるの?」
「何回も私のところに来ていたのさ。あんなに遠い城から、馬で、本人に会えるわけじゃあないのに、よく来てくれたものだよ」
喉に変な力が入るほど、息をのんだ。
「おばあちゃんは、どう思う?」
「心では応援しているよ。けれど、きっとそれは私だけさ」
「お母さん、反対するよね?」
「あの子は反対するだろうね。もう彼女たちの間ではジョセフと結婚するものだと思っているからね」
「私、どうしたらいいのかな」
トーンの下がった声を聞いて、フォリンが私の顔を見上げる。そして小さく、
「グおん、グおん」
と鳴いた。
「ふふふ、フォリンもナタリアを応援するって言ってるよ」
「いい子ね」
私はフォリンの頭を丁寧になでた。
「ナタリア、エデン様は王になれる人さ。だけどね、彼は父親に面と向かって主張できないだろうから、本気なら別の手段を選ぶと思うよ」
「手段って?」
「おやおや、わかってると思ったけどね。エデン様は王に反対されるくらいなら駆け落ちすればいいと思っているはずさ」
「おばあちゃんにそんな事言ったの?」
「いんや、言わないさ。けど、顔に書いてあるくらいにわかりやすい」
「グフンッ!」
「フォリン、静かに」
「グひゅん」
「噂をすれば、彼だね」
その時ドアがノックされた。咄嗟に私はドアを開ける。
「ナタリア?」
「エデンさん!」
私たちの間に浮遊したフォリンが立ちはだかった。
「フォリン君、だよね。この前は挨拶もせずにナタリアをお借りしてすまなかった」
「グホン!」
「本当だ。フォリン君は彼女と同じ目の色をしているね」
「グウルルる」
彼を威嚇するとちらりと私の様子を窺った。
「フォリン、こっちにおいで」
すぐにフォリンはぴったりと私の横にくっつく。
「エデン様もよかったら上がっていってくださいな。ハーブティーもご用意しますよ」
いつ用意したのか、皺の刻まれた手にはしっかりとポットが握られていた。
「ありがとうございます」
「もう少ししたら私は森に薬草を採取しに行きますから、ゆっくりしていってください」
そして、バケットだけ持つと本当にすぐに出かけて行ってしまった。
「うん! 教えてもらいたいことがあるんだ」
「そう。気を付けてね」
「行ってきます」
鮮やかに飛び乗り、黒竜は大きく羽ばたく。空を走る馬のごとく、風を切って進んだ。黄色い屋根が足元に見え、フォリンは減速しながら接近した。地面に着地するよりも早く飛び降り、木のドアをたたく。
「おやおや、来ると思っていたよ」
祖母は何も聞かずに家に招き入れてくれた。こじんまりとした部屋の半分を占める丸テーブルには、ハナカシスの花が咲いている。そしてその横には、湯気だったハーブティーが三つ並べてあった。あいかわらず壁一面の棚からは調合前の薬草の香りが漂っている。
「好きなところにお座りなさい」
「ありがとう」
「今日は長居するつもりなのでしょう? フォリンも入れておやり」
「え、うん」
相変わらず勘の良い祖母に驚きながらも、縮めたフォリンを膝に乗せ、私たちはハーブティーに手を付けた。フォリンは猫のようにハーブティーを舌で掬っている。祖母は話し始めるのを待っているように目を閉じて穏やかな顔をしていた。
「あのね、おばあちゃん」
「なんだい?」
ゆっくりと祖母は目を開く。
「昨日、エデンさんから結婚を申しこまれたの」
「やっぱり、そう来たかい」
私は飲んでいたハーブティーを静かに置いた。
「おばあちゃんはわかってたの?」
「そうだね。わかっていたのかもしれない」
祖母は、コトンとハーブティーを置く。
「エデン様は、本気だと思うよ」
「なんでわかるの?」
「何回も私のところに来ていたのさ。あんなに遠い城から、馬で、本人に会えるわけじゃあないのに、よく来てくれたものだよ」
喉に変な力が入るほど、息をのんだ。
「おばあちゃんは、どう思う?」
「心では応援しているよ。けれど、きっとそれは私だけさ」
「お母さん、反対するよね?」
「あの子は反対するだろうね。もう彼女たちの間ではジョセフと結婚するものだと思っているからね」
「私、どうしたらいいのかな」
トーンの下がった声を聞いて、フォリンが私の顔を見上げる。そして小さく、
「グおん、グおん」
と鳴いた。
「ふふふ、フォリンもナタリアを応援するって言ってるよ」
「いい子ね」
私はフォリンの頭を丁寧になでた。
「ナタリア、エデン様は王になれる人さ。だけどね、彼は父親に面と向かって主張できないだろうから、本気なら別の手段を選ぶと思うよ」
「手段って?」
「おやおや、わかってると思ったけどね。エデン様は王に反対されるくらいなら駆け落ちすればいいと思っているはずさ」
「おばあちゃんにそんな事言ったの?」
「いんや、言わないさ。けど、顔に書いてあるくらいにわかりやすい」
「グフンッ!」
「フォリン、静かに」
「グひゅん」
「噂をすれば、彼だね」
その時ドアがノックされた。咄嗟に私はドアを開ける。
「ナタリア?」
「エデンさん!」
私たちの間に浮遊したフォリンが立ちはだかった。
「フォリン君、だよね。この前は挨拶もせずにナタリアをお借りしてすまなかった」
「グホン!」
「本当だ。フォリン君は彼女と同じ目の色をしているね」
「グウルルる」
彼を威嚇するとちらりと私の様子を窺った。
「フォリン、こっちにおいで」
すぐにフォリンはぴったりと私の横にくっつく。
「エデン様もよかったら上がっていってくださいな。ハーブティーもご用意しますよ」
いつ用意したのか、皺の刻まれた手にはしっかりとポットが握られていた。
「ありがとうございます」
「もう少ししたら私は森に薬草を採取しに行きますから、ゆっくりしていってください」
そして、バケットだけ持つと本当にすぐに出かけて行ってしまった。
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