黒竜使いの少女ナタリア

杏栞しえる

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不思議な少女

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 昨日約束した場所に向かう途中、雨が降り出した。フォリンと離れるのは久しぶりだな。少し心細く思っていると雨はさらに強くなり、服が肌に纏わりつく。晴れている日とは表情の違う森を歩いていると、約束の地が見え始めた。
「雨でもあの青は綺麗なのね……」
 感心してつぶやく。雨が叩きつけるようになって、岩場に腰をかけた私に容赦なく降り注いだ。
「エデンさん、遅いな……」
 フォリンも遅かった。雨だからどこかで休んでいるのかもしれない。重たい水滴は、小ぶりな花たちにまで及び、その勢いでくたった花を一輪摘み取る。
「こんなになって、かわいそうだね」
 もちろん花は何も答えない。その花を岩場に置いて立ち上がろうとしたとき、ぐらっと地面が揺れたように見えて倒れた。うっすら目を開けると夢で見たことがある少女がいた。私の顔を覗き込むと、
「お兄ちゃんを助けて」
と言って、吸い込まれるように姿が消える。そのまま私の意識も遠のいていった。

「ナタリア! ナタリア!」
 聞き覚えのある声にゆっくりと目を開ける。そこには母の顔があった。
「お母さま! ナタリアが目を覚ましたわ」
 駆け寄る足音が聞こえた。
「よかった。フォリンに感謝しなきゃだね」
「ん……?」
 手が痺れて、うまく動かなかった。
「フォリンがあなたのことを見つけて家に戻してくれたのよ」
 全てに、もやがかかっているようだった。
「ねぇ、大丈夫?」
 母の声にこくんとうなずく。エデンさんのことを聞きたかったけれど、母には言えないと思い出した。
「エデン様、森で倒れていたんですって」
 だから、母の言葉がすぐには理解できなかった。
「え……」
「ごめん、おばあちゃんに全部聞いちゃったわ。でも、私が頑なすぎたってこともわかってるつもりだから、もう強制はしない」
「それで、エデンさんは無事……なの?」
「噂によるとまだ意識が戻らないらしいわ」
 体を起こそうとするが、やはり力が入らない。おまけに咳も止まらなかった。
「エデン様の看護で私は宮殿に呼ばれたんだけれど、ナタリアも来るかい?」
 その提案は実に魅力的だった。
「うん、行く」
 反射で答える自分に、今更驚きはしない。
「じゃあ、これを飲んで、早く手の痺れを取りなさい」
 この人は魔女なんじゃないかと本気で思ったことがある。そのくらい祖母の観察眼は凄まじかった。そして、煎じたハーブを水で流し込むともやが晴れたように調子もよくなった。
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