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夜間飛行
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その夜、思わぬ来客があった。
「グフン!」
聞きなれた声に目覚めると、窓の外に大きな影があった。
「フォリン?」
窓を開けると彼は首を私に向けてくる。うんと手を伸ばしてさすると、一気に縮んだ。闇に馴染む姿が懐かしい。大型犬くらいの大きさになったフォリンは、カーペットに座り込んだ。
「グルッふ」
「置いて行ってごめんね」
喉の奥から絞り出すようにフォリンは鳴いた。
「これからはここにいていいよ」
「グおん!」
エメラルドの目が煌めく。優しくなでていると、突然ドアがノックされた。
「僕だけど」
その声にフォリンは強く反応した。そのまま優雅に扉の方へと飛んでいく。ゆっくりドアを開けた主に彼はダイブした。
「う、うわぁ?!」
信じられないものを見たというように彼はフォリンを抱えていた。私は慌ててフォリンを呼び戻す。しゅんとしている姿を見て彼は、
「見た目は怖いけど、可愛いな」
と笑った。なんだがフォリンも嬉しそう……。じゃなくて!
「黒竜のフォリンです」
後付けで紹介をしておく。
「僕が見た茶竜よりもずっと小さいな」
「本当はもっと大きいんです」
「え? そうなの?」
曖昧に笑って誤魔化そうとするが、彼は興味を持ってしまったようだ。
「人が乗れるくらい?」
「え、まぁ」
「乗ってみたい」
飛ぶのが好きなフォリンは硬いしっぽをぶんぶん振った。
「……昼間はだめですよ。目立っちゃうから」
乗り気な二人に水を差すが、もう効かなかった。
「じゃあ、今からだな」
フォリンはすぐに窓から出ようとする。
「わかりました。少しだけですよ」
しぶしぶ窓を開けるとフォリンは私たちを乗せて夜空を駆け上った。風を味方にして安定したところで、彼は突然口を開いた。
「思い出したよ。全部」
「え?」
「ナタリア、遅くなってすまなかった」
「エデンさん?」
彼の背中にそっと触れる。振り返った彼は泣き出しそうな顔をしていた。
「君のことが好きだ」
深い森の香りが私たちを包む。
「私もエデンさんが好きです」
フォリンは飛ぶのに夢中で静かだ。
「あの日の帰り道、僕は馬で近道を選んだんだ」
すぐに指輪をくれた日だとわかった。
「その途中、急に馬が暴走して僕は振り落とされた」
「あんなに穏やかな馬なのに?」
彼が連れていた馬は年を重ねた馴染み深い子なはずだ。
「僕も驚いて、うまく受け身が取れなかった」
「それで、どうなったんですか」
エデンさんは何故だか言うのを躊躇っていた。
「その後、地鳴りのような音が響いて、あの茶竜が現れたんだ」
彼は夜空の旅の中、私に詳細を語ってくれた。茶竜は苔色の混じった手の長い凶暴な生き物だったということ。すぐに剣を抜いて茶竜の顔に刺したもののむしろ怒らせただけだったことや、その上に跨っていた黒マントの男の存在。茶竜の爪が目の前に来たタイミングで誰かに助けられた事実。その後山小屋に連れて行ってもらったが、水を口にした途端意識が遠のいたという。
窓から私の部屋に戻ると、心地よい眠気に襲われる。彼がすべて思い出してくれた安心感や、新たな謎の登場で頭がパンクしてしまいそうだった。ぐるぐると頭が回る中、彼におやすみを告げると早速ベッドに入ったのだった。
「グフン!」
聞きなれた声に目覚めると、窓の外に大きな影があった。
「フォリン?」
窓を開けると彼は首を私に向けてくる。うんと手を伸ばしてさすると、一気に縮んだ。闇に馴染む姿が懐かしい。大型犬くらいの大きさになったフォリンは、カーペットに座り込んだ。
「グルッふ」
「置いて行ってごめんね」
喉の奥から絞り出すようにフォリンは鳴いた。
「これからはここにいていいよ」
「グおん!」
エメラルドの目が煌めく。優しくなでていると、突然ドアがノックされた。
「僕だけど」
その声にフォリンは強く反応した。そのまま優雅に扉の方へと飛んでいく。ゆっくりドアを開けた主に彼はダイブした。
「う、うわぁ?!」
信じられないものを見たというように彼はフォリンを抱えていた。私は慌ててフォリンを呼び戻す。しゅんとしている姿を見て彼は、
「見た目は怖いけど、可愛いな」
と笑った。なんだがフォリンも嬉しそう……。じゃなくて!
「黒竜のフォリンです」
後付けで紹介をしておく。
「僕が見た茶竜よりもずっと小さいな」
「本当はもっと大きいんです」
「え? そうなの?」
曖昧に笑って誤魔化そうとするが、彼は興味を持ってしまったようだ。
「人が乗れるくらい?」
「え、まぁ」
「乗ってみたい」
飛ぶのが好きなフォリンは硬いしっぽをぶんぶん振った。
「……昼間はだめですよ。目立っちゃうから」
乗り気な二人に水を差すが、もう効かなかった。
「じゃあ、今からだな」
フォリンはすぐに窓から出ようとする。
「わかりました。少しだけですよ」
しぶしぶ窓を開けるとフォリンは私たちを乗せて夜空を駆け上った。風を味方にして安定したところで、彼は突然口を開いた。
「思い出したよ。全部」
「え?」
「ナタリア、遅くなってすまなかった」
「エデンさん?」
彼の背中にそっと触れる。振り返った彼は泣き出しそうな顔をしていた。
「君のことが好きだ」
深い森の香りが私たちを包む。
「私もエデンさんが好きです」
フォリンは飛ぶのに夢中で静かだ。
「あの日の帰り道、僕は馬で近道を選んだんだ」
すぐに指輪をくれた日だとわかった。
「その途中、急に馬が暴走して僕は振り落とされた」
「あんなに穏やかな馬なのに?」
彼が連れていた馬は年を重ねた馴染み深い子なはずだ。
「僕も驚いて、うまく受け身が取れなかった」
「それで、どうなったんですか」
エデンさんは何故だか言うのを躊躇っていた。
「その後、地鳴りのような音が響いて、あの茶竜が現れたんだ」
彼は夜空の旅の中、私に詳細を語ってくれた。茶竜は苔色の混じった手の長い凶暴な生き物だったということ。すぐに剣を抜いて茶竜の顔に刺したもののむしろ怒らせただけだったことや、その上に跨っていた黒マントの男の存在。茶竜の爪が目の前に来たタイミングで誰かに助けられた事実。その後山小屋に連れて行ってもらったが、水を口にした途端意識が遠のいたという。
窓から私の部屋に戻ると、心地よい眠気に襲われる。彼がすべて思い出してくれた安心感や、新たな謎の登場で頭がパンクしてしまいそうだった。ぐるぐると頭が回る中、彼におやすみを告げると早速ベッドに入ったのだった。
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