黒竜使いの少女ナタリア

杏栞しえる

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焼き付く光景

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 漆黒の竜が空を舞う。それを追いかけるように鋭く風を切る茶色の竜。黒竜は争いを避けようと急旋回し、地面すれすれを通過した。少し遅れて建物を破壊しながらも突き進む茶竜。
「お前はこっちだ」
二匹のうち幼い少女が渡されたのは、黒々とした小さな竜。そして、渡した当人は苔の色が混じった立派な茶色の竜に乗っていた。黒竜は個体差が激しく扱いが困難であるが、非常に強いという特性がある。茶竜は、扱いやすいが目立った能力がないものが多い。しかし、彼の選んだ茶竜は足より手の長さが勝っていた。というのも、人間でいえば所謂奇形。伝説の竜になりうる素質があるということなのだ。飼い主の期待を一身に背負った茶竜は、ダラクサスと名付けられ、贅沢な日々を過ごしていた。一方、少女に引き取られた黒竜は、フォリンと名付けられ、貧しくも楽しい日々を送っていた。
久しぶりに見た夢なのに、その光景は鮮烈に印象付けられた。茶竜に乗っている静かな怒りを纏った男が、少女に無理難題を押し付ける。日々ぼろぼろになっていく少女から思わず目を背けたくなった。
「お兄ちゃん……」
 自分の声で目を覚ました。朝日は完全に昇っている。勢いよく起き上がり、身支度を手短に済ませる。朝露のあるうちにクインの実を採っておきたかったが、もう乾いてしまっているだろう。私はまだ眠たそうなフォリンを連れて、隣の部屋に向かった。二回ノックすると返事がきた。
「失礼します」
「ナタリア、今日は遅かったね」
「すみません、寝坊しちゃって」
「ここのところ働きづめだったろう。今日はゆっくり休んでおいで」
「ありがとうございます」
 手招く彼の元に行くと、スケッチを見せてくれた。そこに書かれていたのは、繊細なタッチの大きな竜。夢の中の映像と重なった。エデンさんに手を握られて初めて自分が震えていたことに気が付く。
「大丈夫? 顔色が悪い」
「だ、大丈夫です」
「本当かな? 君はすぐ無理をするから」
 そう言うと彼はすっと立ち上がり、温かな紅茶を淹れてきてくれた。優しい琥珀色に強張りもほぐれていく。フォリンはエデンさんのベッドに潜り込んでいた。ベッドの端に肩を並べて座ると、彼はスケッチをめくった。そこに描かれていたのは、森の奥にぽつんと佇む山小屋。特徴的なのは、小屋の周りに咲く希少価値が高い純白のツウィンベルの花々。それらは、細かい星が散りばめられたように描かれていた。
「この場所、探してみたいな」
 ぽつりと私が呟くと、
「一緒に探そう」
 と言ってくれた。気を抜いたら彼に寄りかかってしまいたくなる。その気持ちをぐっと堪えて私とフォリンは部屋に戻った。
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