アリス 観察者《オブザーバー》の弟子

御魂

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全ての始まり

1. 天《そら》より舞い降りし者

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 “運命”という言葉がある。意味合いによっては歩んできた人生に対しての表現方法だったり、あるいはこれから先の未来に対しての決まった進路の名称だったりなどの言い方があるが、それでも俺はこの“運命”とやらはあんまり信用しない人間である。



 自分の人生は自分で決めるものだと思っているし、仮にこれから先の人生がこの“運命”とやらで決まっていようが変えられる自信があるからだ(しかし人生が必ずしも自分の力だけで決められるものではないとも十分理解はしている)。



 しかし、あの時だけは“運命”をあまり信用しない俺でも何か心の奥で感じるものがあったのは確かだ。



 転の儀場【てんのぎじょう】、名称についてはここ数年から数十年、いや数百年ぐらい昔からころころ変わっているのでよく覚えていないが、ほとんど俺しか来ないのでどうでもいい。



 儀式が行われる場所だというのも理解してはいるが、殺風景すぎて溜息が出てしまう。昔からの掟だというのもわかっているが、恐らくもう数百年前の原風景が残っているのはこの転の儀場がある魔杖の森【まじょうのもり】だけではないだろうか?それほどまでに木々や緑で生い茂っている。



 ふと、愛用している懐中時計を手に取り時間を確かめた。



「……遅いな、珍しい」



 いつもならもう儀式による現象が起こるはずなのに、このときばかりは数分ほど遅れていた。



(日付は間違えてないよな? 今日は無し? 今までそんなことは一度も無いはずなんだが、それとも俺の時計が狂ったか? いや、二日ほど前にちゃんと時刻合わせはしたぞ? もし狂ったとしても数分程度だろ?じゃあなんでだ?)



 今までに無かったことが起き、少し焦り始めた時だった。俺の焦りを何者かが悟ったのかは分からないが、少しずつ転の儀場の中心、もうかすれて読めない魔法陣に向かって風が吹き始めた。



(ふう、どうやら。俺の時計が少しだけずれてたのか。なら説明がつく。しかしなあ、結構愛用してんだぜ? もう替え時かあ……ん?)



 儀式の遅れをこの時計と認識しようとした時、俺はいつもとは違う空気を感じた。何故なら一目瞭然、普段の儀式よりも風が強いからである。



「おいおい! いつもより風が強くありませんかね!? おかしいだろ!? いつもこんな風でしたっけ? 何が起きるんですか!? ちょっと俺怖くなってきたよ!?」



 違和感を感じた俺は得体のしれない恐怖により少し言葉数が多くなってきた。しかし、次の瞬間である、風は無風になり魔法陣の遥上空にこれまたいつもとは桁違いに輝く光の球体が現れたのである。



 しかしそれは輝き方はいつもより桁違いだが、物は同じ花の蕾だった。



「……ふふふ、ははは! もう訳分かんねえや! もうどうにでもなりやがれ!」



 俺は色々と考えるのをやめた。



 蕾はゆっくりと降下し、魔法陣の中心に降りるとゆっくりとその花びらを開こうとする。



「……あ、やっべえ! 布! 布! 普段と違うからすっかり忘れてた!」



 俺は急いでカバンから大きめの布を取り出した。



 蕾がゆっくりと開きだし、最後には大きな一輪の菊の花を見事に咲かせた。その中心には黒髪の少女が生まれたままの姿で膝を丸めて安らかに眠っていた。



 しかしそれを見た俺はあっけにとられてしまった。



「……え? あんなに普段と違う前振りがあったのにこれだけ? この女の子だけ? いつもと風も光り方も違うのにこれだけ? おかしくない? ほかの特典? みたいなやつがちいさいとかか?」



 少女が寝ているそばをよく見ても、残念ながら何もなかった。



(前に来たやつが言ってたガチャだっけか? あれだといつもと演出が違うとレア? なやつが出てくるって言ってたんだがなあ。じゃあ、この子がそのレアキャラ? ってやつなの?)



 俺は一抹の不安と疑問に駆られながらとりあえず裸で寝ている少女に布をかけようと思い、少女に近づく。すると少女は寝返りをして横から仰向けの状態になった。



 その時である、俺の目には少女の胸元のほくろに目が行った。医者ではないがこういう職業柄人間の裸に対して何も感じることはないと自負する俺だったが、この時だけは違った。



 別に変な感情が湧き出たわけではない。普通に一般的な感情、名称化するのであればそう【懐かしい】である。



 しかし、胸元にほくろがある人間なんて珍しくとも何ともない。普通の人間であればほくろなんて体を探せばいくらでもあるだろう。だが、この時だけは何故か懐かしいと共に安堵感と安心感がこみあげてきたのである。



 とりあえず少女に布をかぶせ背中を向き、この脳裏によぎった感情の正体を探ろうとした。しかし、それをしようとしたのも束の間である。



「うーん、ん?」



(あ、起きたか。まあ仕方がない、後にするか)



 俺は振り向き、起きたばかりで目を擦っている少女に向かって笑顔を向けて手を差し出しこう言った



「おはよう、起きれるかい? 初めまして、俺は龍【りゅう】だよろしく。君の名前は?」



 少女は目をぱっちりとあけると、俺の顔、服装、自分の状態を確認した。しかも何度も、頭でちゃんと理解しようとして。



 そして少女は満面の笑みで微笑みかけると俺の予想とはまた違ったものを返してきた。
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