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18.国益と政略結婚
ディートハルトの父である現王は、自分が一人しかいない子供であったことを常に罪として背負ってきた。
それは先代の王妃が側妃を認めず、王子一人しか産まれなかったからだが、そのことで血のつながりのある少女が一人、他国へ嫁ぐことを幼い頃に決められてしまったからだ。
アリスの母は、その王家の犠牲であった。
アリスの母、アンネリーゼ・ベルトラムは公爵家の長女として生まれた。
世代の違う王子は、たった一人。女児が生まれることを期待された王家には、その後待てども子供は出来なかった。
王子が15歳のころ、アンネリーゼは生を受けた。女児だと判明するとすぐに、王命が下った。
どこかの国に嫁ぐことを課せられたのだ。
かくして、アンネリーゼ16歳の時、事件は起こった。
ディートハルトは当時5歳だった。
本宮に出入りをしていなかったディートハルトでさえ、城内の空気が変わったの分かったほどだ。
あとで知ったことだが、結局この代での他国との姻戚は結ばれなかった。アンネリーゼは、隣国との境界に近い辺境伯の後妻となった。30歳ほど年上の伯爵にはすでに後継がいる。その婚姻はアンネリーゼが望んだものらしい。その直前、隣国の皇太子は自国の令嬢を娶っている。
ディートハルトは最初この騒動からは遠く離れたところにいた。しかし、アンネリーゼの産んだ子供が女児だったことで情勢が変わった。何れは臣籍降下するであろうディートハルトに監視する役目をさせようという動きが出てきたからだ。
「ディーには重たい役目をさせるかもしれん」
10歳を迎える頃、父と王太子となる1番目の兄にそう言われたとき、ディートハルトはにっこり笑ってこう答えた。
「いえ、僕は3番目です。それも母は側妃。何の替えにもなれない王族です。兄様達の出来ない役は僕が負う。それが役目ではないですか」
それからディートハルトは、アンネリーゼの事件について詳細を知った。件の女児には監視されるような瑕疵などない。全て大人たちの事情だ。それもタイミングの問題であった。
きっと時期さえ間違えなければ、彼女は皇女として生まれてきたはずだった。しかし、若い二人の間違いにより生まれた子供は秘されることとなった。
監視対象は、アリスという名が付けられた。父方の国へ引き取られ、公爵令嬢として育てられることが決まり、彼方の国で何も知らされないまま大きくなっていく。
ちょうどディートハルトがアリスの情報を追い始めたころ、アリスは仮の婚約者と交流を始めたと報告があった。
国の取り決めにより、将来的にはイスブルグ王国へ居を構える予定の彼女に、余計な縁談が齎されないように皇国が付けた彼方の監視人である。
何れはディートハルトが監視する予定のアリスは、報告書の上で恋する少女になっていくのが手に取るように分かった。
国同士の体面が優先とはいえ、なんと酷なことをするのか。何も知らない幼い子供に期待だけを持たせて、結果その恋は実らない。
ディートハルトは自身の境遇もさほどいいものではないと思っていたが、それ以上に業を背負うアリスに同情した。
彼女の生まれは仕方ないとして、いずれこちらに引き取るのであれば、なぜ彼方の国に行かせたのか。それが必然であったとしても、最初からディートハルトを宛がっておけばよかったのではないのか。
ディートハルトはそこまで考えて、はたと気付いた。
そこには、全員に逃げ道が用意されていることに。国同士で決めたこととはいえ、公にはされていない。
成人したらアリスをイスブルグに輿入れさせること。
監視はヴィリス側はシルヴァンが、イスブルグ側はディートハルトがするということ。
遡ればアンネリーゼが罰のため、辺境伯の後妻になったこと。
すべては、後からどうにでもなる状態で留め置かれているのだ。
後戻りできないように見えるのは、ヴィリスの皇太子だけである。
この頃、ヴィリスの皇太子はすでに自国の令嬢と婚姻し、皇子を設けている。
イスブルグにも王女が3人産まれている。しかし、前の代で成されなかった姻戚政治は今のところ約束されていない。
アンネリーゼとの婚姻は成らなかったが、皇太子の血を引いたアリスがイスブルグに輿入れすることは、姻戚関係を結ぶという意味では同等の意味を持つからだ。。
どちらかと言えばヴィリスに不利な状況である。正妃との皇子の前に、婚外子がいるのである。両国はその秘密を共有することで互いに繋がったのだ。ある意味普通の姻戚関係より強固である。
ヴィリスの皇太子は、すぐに後継を設けた。そして間を置かずしてスペアも設けた。ある意味義務は果たしたと言える。皇太子妃も元の婚約者とは婚約を解消している。そして、相手の元婚約者は未だ独身を貫いている。
大人の事情は子供たちを幸せにするとは限らない。
ディートハルトは自分に課せられた使命は、アリスがイスブルグへ来たとき、意図せぬ害意に晒されることのないよう見守ることだと理解した。
_________________________________
あけましておめでとうございます。
新年3日ほど、忙しくてお休みをいただきました。申し訳ありません💦
今年もよろしくお願いいたします。
それは先代の王妃が側妃を認めず、王子一人しか産まれなかったからだが、そのことで血のつながりのある少女が一人、他国へ嫁ぐことを幼い頃に決められてしまったからだ。
アリスの母は、その王家の犠牲であった。
アリスの母、アンネリーゼ・ベルトラムは公爵家の長女として生まれた。
世代の違う王子は、たった一人。女児が生まれることを期待された王家には、その後待てども子供は出来なかった。
王子が15歳のころ、アンネリーゼは生を受けた。女児だと判明するとすぐに、王命が下った。
どこかの国に嫁ぐことを課せられたのだ。
かくして、アンネリーゼ16歳の時、事件は起こった。
ディートハルトは当時5歳だった。
本宮に出入りをしていなかったディートハルトでさえ、城内の空気が変わったの分かったほどだ。
あとで知ったことだが、結局この代での他国との姻戚は結ばれなかった。アンネリーゼは、隣国との境界に近い辺境伯の後妻となった。30歳ほど年上の伯爵にはすでに後継がいる。その婚姻はアンネリーゼが望んだものらしい。その直前、隣国の皇太子は自国の令嬢を娶っている。
ディートハルトは最初この騒動からは遠く離れたところにいた。しかし、アンネリーゼの産んだ子供が女児だったことで情勢が変わった。何れは臣籍降下するであろうディートハルトに監視する役目をさせようという動きが出てきたからだ。
「ディーには重たい役目をさせるかもしれん」
10歳を迎える頃、父と王太子となる1番目の兄にそう言われたとき、ディートハルトはにっこり笑ってこう答えた。
「いえ、僕は3番目です。それも母は側妃。何の替えにもなれない王族です。兄様達の出来ない役は僕が負う。それが役目ではないですか」
それからディートハルトは、アンネリーゼの事件について詳細を知った。件の女児には監視されるような瑕疵などない。全て大人たちの事情だ。それもタイミングの問題であった。
きっと時期さえ間違えなければ、彼女は皇女として生まれてきたはずだった。しかし、若い二人の間違いにより生まれた子供は秘されることとなった。
監視対象は、アリスという名が付けられた。父方の国へ引き取られ、公爵令嬢として育てられることが決まり、彼方の国で何も知らされないまま大きくなっていく。
ちょうどディートハルトがアリスの情報を追い始めたころ、アリスは仮の婚約者と交流を始めたと報告があった。
国の取り決めにより、将来的にはイスブルグ王国へ居を構える予定の彼女に、余計な縁談が齎されないように皇国が付けた彼方の監視人である。
何れはディートハルトが監視する予定のアリスは、報告書の上で恋する少女になっていくのが手に取るように分かった。
国同士の体面が優先とはいえ、なんと酷なことをするのか。何も知らない幼い子供に期待だけを持たせて、結果その恋は実らない。
ディートハルトは自身の境遇もさほどいいものではないと思っていたが、それ以上に業を背負うアリスに同情した。
彼女の生まれは仕方ないとして、いずれこちらに引き取るのであれば、なぜ彼方の国に行かせたのか。それが必然であったとしても、最初からディートハルトを宛がっておけばよかったのではないのか。
ディートハルトはそこまで考えて、はたと気付いた。
そこには、全員に逃げ道が用意されていることに。国同士で決めたこととはいえ、公にはされていない。
成人したらアリスをイスブルグに輿入れさせること。
監視はヴィリス側はシルヴァンが、イスブルグ側はディートハルトがするということ。
遡ればアンネリーゼが罰のため、辺境伯の後妻になったこと。
すべては、後からどうにでもなる状態で留め置かれているのだ。
後戻りできないように見えるのは、ヴィリスの皇太子だけである。
この頃、ヴィリスの皇太子はすでに自国の令嬢と婚姻し、皇子を設けている。
イスブルグにも王女が3人産まれている。しかし、前の代で成されなかった姻戚政治は今のところ約束されていない。
アンネリーゼとの婚姻は成らなかったが、皇太子の血を引いたアリスがイスブルグに輿入れすることは、姻戚関係を結ぶという意味では同等の意味を持つからだ。。
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ディートハルトは自分に課せられた使命は、アリスがイスブルグへ来たとき、意図せぬ害意に晒されることのないよう見守ることだと理解した。
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