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22.親元から離れるということ
それからアリスの留学は、すぐに国から認可が下りた。
ヴィリス帝国との国境際にあるイスブルグ王国の辺境伯家は、グラーツ家という。アリスの実母であるアンネリーゼが輿入れした先である。アンネリーゼは現在別邸で隠居している前伯爵の後妻として嫁いだ。婚姻後、一人子供がいる。
グラーツ伯爵家はすでに代替わりをしており、前伯爵と亡き夫人との間の嫡男が今は爵位を継承している。その現伯爵はアンネリーゼよりも年嵩で、子はアリスよりも年上の子から年下までを含めて4人いる。
アリスが預けられることが許可されたのは、グラーツ家には過去王家からの降嫁があったからだ。
その昔、グラーツ家には男子がいない代があり、守りの要である辺境伯家を守るため、王子が婿入りした。その青い血は今でも時折辺境伯家の子供に、銀色に近い髪色や、紫色の瞳などとして現れる。
そして、その血が、アリスの生まれたとされるヴィリス帝国の辺境伯家にも繋がっている。
要は、アリスが、グラーツ家に連なる家の子であると騙っても問題はないだろうとされたのだ。
グラーツ家は一族の結束が固い。王家との繋がりも深く、他国からの留学生として滞在するアリスを守るのに問題がない。
ディートハルトは、外交を学ぶ三男坊であるから、他国との国境を守る辺境伯とは親交が深い。よって、ディートハルトが辺境伯家に隣国の令嬢を迎えるのに滞在するのは問題なし―― というこじ付けも出来た。
本来なら、国の王子が力関係の上位の国の客とはいえ一令嬢のために貴族家に滞在するなど有り得ないことだ。そこには、国として他の思惑があるが、それは初めての他国、そして留学と実の母に会えるという期待を持ったアリスには全く感じとれていなかった。
留学が決まってからのアリスは忙しかった。
公爵邸以外で生活をしたことのないアリスに、義母も義姉もそれこそ盛大に心配をしたが、義父から『これも社会経験だよ』とにこやかに諭されて、泣く泣くアリスを送り出すことに了承した。
アリスが旅立つまでに、両親は準備は万端に整えてくれた。常にアリスの側にいた侍女も共に連れて行けるように手配してくれた。
ヴィリス帝国より気温の低いイスブルグ王国の気候に合わせて、ドレスなども新調してくれた。
「随分と装いが違うね」
出発の日、ディートハルトはアリスを見て感心したようにそう言った。
「まるでイスブルグ生粋の令嬢のようだ」
「お母様が用意してくださったの。わたくし、似合っているかしら。今まであまり着たことがないドレスだから……」
「大丈夫だよ、アリス。よく似合っている。
さすが公爵夫人。あちらの流行にまでお詳しい」
アリスのドレスは、イスブルグ様式であったらしい。公爵夫人とは他国の流行をも追うらしく、王都っ子のディートハルトの目から見ても違和感は感じられない様子だ。
義母から『これを着ていきなさい』と出発の日に渡されたドレスは、体を締め付けない流れるラインのドレスだった。色はごくごく薄い桃色で、淡い色合いのアリスに調和してどこの妖精か見紛うほどだった。
そんなアリスの姿を、ディートハルトは目を細めて褒めてくれた。
そして、義母と義姉と涙に次ぐ涙のまるで今生の別れかのような見送りのあと、アリスとディートハルトを乗せた馬車は出発した。
流れる景色は、徐々に色を変えていく。
建物も人も多い皇都を過ぎれば、広大な帝国の領土は農地が広がる。緑が多く平坦な土地の多い帝国を横切って、何度か宿屋での宿泊を経ると、肌に感じる空気が少しずつ冷たく感じられるようになった。北の国境近くの辺境伯領に入ったのだ。
同じヴィリス帝国内とは思えない山が近い領地である。温暖な気候と言われるヴィリス帝国でも最北に位置するその土地は、冬には雪の降ることもあり、皇都より平均の気温が低い。皇都に見えた緑とは、種類の違う植物が窓の外を流れる景色の中に見える。
そうして、山の麓に建つ堅牢な城郭を思わせる邸に到着した。国境を任された辺境伯家の邸は、華やかさとは無縁の、それこそ機能だけが凝縮された要塞のようであった。
表向きは、アリスはこの辺境伯家の頼子である子爵家の子供ということになっている。その寄り親である辺境伯家は、アリスにとって育ての父母と縁のある家である。
そして、アリスの実母がヴィリス帝国に隠された際には、この要塞のような邸に預けられ、アリスを出産した。その後、実母とアリスが1年を過ごしたという辺境伯家の別邸が、ヴィリス帝国での最終の宿場となった。
ヴィリス帝国との国境際にあるイスブルグ王国の辺境伯家は、グラーツ家という。アリスの実母であるアンネリーゼが輿入れした先である。アンネリーゼは現在別邸で隠居している前伯爵の後妻として嫁いだ。婚姻後、一人子供がいる。
グラーツ伯爵家はすでに代替わりをしており、前伯爵と亡き夫人との間の嫡男が今は爵位を継承している。その現伯爵はアンネリーゼよりも年嵩で、子はアリスよりも年上の子から年下までを含めて4人いる。
アリスが預けられることが許可されたのは、グラーツ家には過去王家からの降嫁があったからだ。
その昔、グラーツ家には男子がいない代があり、守りの要である辺境伯家を守るため、王子が婿入りした。その青い血は今でも時折辺境伯家の子供に、銀色に近い髪色や、紫色の瞳などとして現れる。
そして、その血が、アリスの生まれたとされるヴィリス帝国の辺境伯家にも繋がっている。
要は、アリスが、グラーツ家に連なる家の子であると騙っても問題はないだろうとされたのだ。
グラーツ家は一族の結束が固い。王家との繋がりも深く、他国からの留学生として滞在するアリスを守るのに問題がない。
ディートハルトは、外交を学ぶ三男坊であるから、他国との国境を守る辺境伯とは親交が深い。よって、ディートハルトが辺境伯家に隣国の令嬢を迎えるのに滞在するのは問題なし―― というこじ付けも出来た。
本来なら、国の王子が力関係の上位の国の客とはいえ一令嬢のために貴族家に滞在するなど有り得ないことだ。そこには、国として他の思惑があるが、それは初めての他国、そして留学と実の母に会えるという期待を持ったアリスには全く感じとれていなかった。
留学が決まってからのアリスは忙しかった。
公爵邸以外で生活をしたことのないアリスに、義母も義姉もそれこそ盛大に心配をしたが、義父から『これも社会経験だよ』とにこやかに諭されて、泣く泣くアリスを送り出すことに了承した。
アリスが旅立つまでに、両親は準備は万端に整えてくれた。常にアリスの側にいた侍女も共に連れて行けるように手配してくれた。
ヴィリス帝国より気温の低いイスブルグ王国の気候に合わせて、ドレスなども新調してくれた。
「随分と装いが違うね」
出発の日、ディートハルトはアリスを見て感心したようにそう言った。
「まるでイスブルグ生粋の令嬢のようだ」
「お母様が用意してくださったの。わたくし、似合っているかしら。今まであまり着たことがないドレスだから……」
「大丈夫だよ、アリス。よく似合っている。
さすが公爵夫人。あちらの流行にまでお詳しい」
アリスのドレスは、イスブルグ様式であったらしい。公爵夫人とは他国の流行をも追うらしく、王都っ子のディートハルトの目から見ても違和感は感じられない様子だ。
義母から『これを着ていきなさい』と出発の日に渡されたドレスは、体を締め付けない流れるラインのドレスだった。色はごくごく薄い桃色で、淡い色合いのアリスに調和してどこの妖精か見紛うほどだった。
そんなアリスの姿を、ディートハルトは目を細めて褒めてくれた。
そして、義母と義姉と涙に次ぐ涙のまるで今生の別れかのような見送りのあと、アリスとディートハルトを乗せた馬車は出発した。
流れる景色は、徐々に色を変えていく。
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