31 / 32
29.辺境伯のタウンハウス
それからアリスは、2週間ほどグラーツ家に滞在した。
辺境伯家は、その役割故に、家族が滞在するエリアと外と接するエリアは厳重に分けられている。家族のエリアは比較的自由に行き来することができ、アリスは母と過ごしたり、伯爵の子供たちとこの国の遊びに興じたり、流行している本を一緒に読んだりして過ごした。
ディートハルトはアリスにべったり……ということはなく、辺境伯家に滞在中も公務をこなしていた。
すでに15歳のディートハルトには、王子としての役割が多少割り振られているらしい。
特にベルトラム公爵家と外交を中心とした公務を行っていることから、国境に接するこの辺境伯家に彼が滞在している間は、ヴィリス帝国からの使者や商人など、イスブルグ王国と縁を持つ者が多数訪れた。
アリスは、その仕事ぶりを見てみたいと思いながらも、彼から『またしばらくは母君とは会えなくなるから、今のうちにしっかり甘えておいで』と言われてしまい、結局はディートハルトと離れて過ごすことが多かった。
半面、アンネリーゼとはずいぶんと打ち解けた。
親子である上、アリスはアンネリーゼの容姿を受け継いだ少女であったから、まるで辺境の森に妖精が戯れているかのようで、辺境伯邸の使用人たちは、二人の様子を微笑ましく眺めていた。
時には車椅子のマックスと3人で庭に出てお茶をしたり、そこに小さな双子も加わって楽し気な笑い声が溢れた。
様子を伺いに来たダニエルにも、その様子は伝わった。
「この可愛らしいアリスの笑顔は、どちらかというと父親似なんだろうな。お嬢は何処か企みを含んだ笑みだからなぁ」
そうやって揶揄うダニエルを、アリスは頼もしく思う。
きっと、祖父であるベルトラム公爵は、このグラーツ家の豪気だけれど懐の深い部分にアンネリーゼの身を預けたのだろう。
だからこそ、母は笑顔であるし、アリスも笑顔で居られるのだ。
しばらくして、ディートハルトから王都の学園の留学の許可が下りたことが告げられた。
「そろそろ行こうか。あちらではグラーツの次男である、フランク殿が首を長くして待っているようだから」
辺境伯家から王都までは馬車で5日かかる。イスブルグはあまり大きな国ではないが、関門が多い。その度に宿泊を求められるからその日数を縮めることはできなかった。
無事に王都の辺境伯のタウンハウスに到着するとそこには、マックスの次男、フランクが待っていた。
フランクは、グラーツ家の次男だが、今は婚姻後、従属爵位を継承し、ベルナー子爵を名乗っていた。
出迎えた彼は、マックスやダニエルとは違う見た目であった。
「お待ちしておりましたよ、姫君」
揶揄う口調は丁寧ながら、ダニエルと後の繋がりを感じさせる。スラリと背が高く、筋肉質で厚みのあるダニエルと違って細身の、どこか飄々とした優男風情である。
アリスが到着の挨拶をすると、フランクは堅苦しい挨拶はいいよ、と笑った。
堅牢であった辺境伯とは違い、王都のグラーツ邸は明るく開放的な空気を纏っていた。
アリスのその感想に、フランクはこういった。
「実家は、辺境を守る城だからね。見た目も中もすごかっただろう? でもこの家も見た目よりずっと強固だよ。何せね、使用人は全員辺境の騎士団の訓練卒なんだ」
即戦力である使用人をそろえている以外に、外見からは分からないが、邸の至る所にトラップがあって、侵入者はすぐに捕縛できるようにもなっているらしい。
「姫を滞在させるだけの守りは、十分に備えているから安心してほしい。アリス嬢はその見た目がうちでは非常に危ないよね。利用されかねないから、守りは十分すぎるほどでないと、殿下が安心しないしね」
そう言って、紹介してくれたのは、フランクの嫡男・クルトだった。クルトはアリスと同じ10歳だというが、アリスより頭一つ背が高い少年だった。
「クルトがいる学校への留学が決まっているからね。クラスも同じだ。あと、我が家の警備隊長の娘も同い年でね。同じところに通っている。アリスの側には彼女を付ける予定だ」
紹介された少女は、細身で小柄であった。しかし、警備隊長の娘・エラはすでに訓練を受けているのだという。
「辺境の騎士団はね、子供もみな訓練を受けるんだよ。騎士団への入団は必須ではないけれど、あの町の領民になるには、訓練はしておいて損はない。そして、ここもあの町の飛び地のようなものだからね」
そうして、アリスは、クルトとエラという同い年の友人を得て、イスブルグ王国の子供たちが通う学校へ留学を果たしたのだった。
辺境伯家は、その役割故に、家族が滞在するエリアと外と接するエリアは厳重に分けられている。家族のエリアは比較的自由に行き来することができ、アリスは母と過ごしたり、伯爵の子供たちとこの国の遊びに興じたり、流行している本を一緒に読んだりして過ごした。
ディートハルトはアリスにべったり……ということはなく、辺境伯家に滞在中も公務をこなしていた。
すでに15歳のディートハルトには、王子としての役割が多少割り振られているらしい。
特にベルトラム公爵家と外交を中心とした公務を行っていることから、国境に接するこの辺境伯家に彼が滞在している間は、ヴィリス帝国からの使者や商人など、イスブルグ王国と縁を持つ者が多数訪れた。
アリスは、その仕事ぶりを見てみたいと思いながらも、彼から『またしばらくは母君とは会えなくなるから、今のうちにしっかり甘えておいで』と言われてしまい、結局はディートハルトと離れて過ごすことが多かった。
半面、アンネリーゼとはずいぶんと打ち解けた。
親子である上、アリスはアンネリーゼの容姿を受け継いだ少女であったから、まるで辺境の森に妖精が戯れているかのようで、辺境伯邸の使用人たちは、二人の様子を微笑ましく眺めていた。
時には車椅子のマックスと3人で庭に出てお茶をしたり、そこに小さな双子も加わって楽し気な笑い声が溢れた。
様子を伺いに来たダニエルにも、その様子は伝わった。
「この可愛らしいアリスの笑顔は、どちらかというと父親似なんだろうな。お嬢は何処か企みを含んだ笑みだからなぁ」
そうやって揶揄うダニエルを、アリスは頼もしく思う。
きっと、祖父であるベルトラム公爵は、このグラーツ家の豪気だけれど懐の深い部分にアンネリーゼの身を預けたのだろう。
だからこそ、母は笑顔であるし、アリスも笑顔で居られるのだ。
しばらくして、ディートハルトから王都の学園の留学の許可が下りたことが告げられた。
「そろそろ行こうか。あちらではグラーツの次男である、フランク殿が首を長くして待っているようだから」
辺境伯家から王都までは馬車で5日かかる。イスブルグはあまり大きな国ではないが、関門が多い。その度に宿泊を求められるからその日数を縮めることはできなかった。
無事に王都の辺境伯のタウンハウスに到着するとそこには、マックスの次男、フランクが待っていた。
フランクは、グラーツ家の次男だが、今は婚姻後、従属爵位を継承し、ベルナー子爵を名乗っていた。
出迎えた彼は、マックスやダニエルとは違う見た目であった。
「お待ちしておりましたよ、姫君」
揶揄う口調は丁寧ながら、ダニエルと後の繋がりを感じさせる。スラリと背が高く、筋肉質で厚みのあるダニエルと違って細身の、どこか飄々とした優男風情である。
アリスが到着の挨拶をすると、フランクは堅苦しい挨拶はいいよ、と笑った。
堅牢であった辺境伯とは違い、王都のグラーツ邸は明るく開放的な空気を纏っていた。
アリスのその感想に、フランクはこういった。
「実家は、辺境を守る城だからね。見た目も中もすごかっただろう? でもこの家も見た目よりずっと強固だよ。何せね、使用人は全員辺境の騎士団の訓練卒なんだ」
即戦力である使用人をそろえている以外に、外見からは分からないが、邸の至る所にトラップがあって、侵入者はすぐに捕縛できるようにもなっているらしい。
「姫を滞在させるだけの守りは、十分に備えているから安心してほしい。アリス嬢はその見た目がうちでは非常に危ないよね。利用されかねないから、守りは十分すぎるほどでないと、殿下が安心しないしね」
そう言って、紹介してくれたのは、フランクの嫡男・クルトだった。クルトはアリスと同じ10歳だというが、アリスより頭一つ背が高い少年だった。
「クルトがいる学校への留学が決まっているからね。クラスも同じだ。あと、我が家の警備隊長の娘も同い年でね。同じところに通っている。アリスの側には彼女を付ける予定だ」
紹介された少女は、細身で小柄であった。しかし、警備隊長の娘・エラはすでに訓練を受けているのだという。
「辺境の騎士団はね、子供もみな訓練を受けるんだよ。騎士団への入団は必須ではないけれど、あの町の領民になるには、訓練はしておいて損はない。そして、ここもあの町の飛び地のようなものだからね」
そうして、アリスは、クルトとエラという同い年の友人を得て、イスブルグ王国の子供たちが通う学校へ留学を果たしたのだった。
あなたにおすすめの小説
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
《完結》 どうぞ、私のことはお気になさらず
ヴァンドール
恋愛
実家の伯爵家では、満足に食事も取らせてもらえず毎日、使用人以上に働かされた。
そして縁談が来たと思ったら火遊び好きな侯爵の隠れ蓑としての婚姻だった。
次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛
Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。
全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)