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30.ヴィリスへの帰国
アリスの短期留学は、短期とは言えない年月となった。
10歳の時に編入したイスブルグの学校には、高位貴族の子供から裕福な商人の子や技術職の子供まで幅広い生徒が通っている。外の世界をほとんど知らなかったアリスは、学校での教育が楽しくてたまらなかった。
そして、本来なら半年で終わるところを、5年まで延長したのだ。
ヴィリスの養父母は反対をしたが、そこはアリスの実母が押し切った。
アリスは、この留学で自身の置かれた立場をより実感することになった。
まずは見た目である。色が若干薄いとはいえ、アリスにはイスブルグの王族の血が混じっていることがはっきりとわかる色だ。イスブルグは、商人や技術者の子供たちの地位は決して低くない。貴族と平民との間が近いのだ。階級の差というよりは役割の違いに近い。
それでも王族の血は、一目置かれるものだった。さらにアリスは留学生である。大国であるヴィリスからの留学生ということもあって、最初は遠巻きにされていた。
貴族の子供であっても、それは変わらなかった。
徐々に距離が縮まってきたところで、子供たちの態度はいくつかに分かれた。一つは、純粋にアリスと友人になろうとする者、もう一つは、あわよくば取り入って王族に近づこうとする者。そして、関わることを避ける者も一定数存在した。
子供の頃からヴィリスでは、侯爵令嬢として厳しい教育を施されたアリスは、貴族のみならず、平民も通うこの学校で人を見極める術を実戦で身に着けた。
特に貴族は侮れない。表面上は友好的に近づいてきても、裏で何を考えているのかを出さない。高位であればあるほど、その特徴は顕著だ。
どの国にも、あわよくば楽に甘い汁を吸いたい者はいるものだ。高い地位を持つ者は、利用されないように常に自分を、家を守っていかねばならない。
それを、頭では分かっていても、実際にその場面になって上手く立ち回れるかは分からない。
イスブルグ王国は、技術の流出は国の存続に関わる。だからこそ、子供の頃からいろんな階級を混ぜて学習をさせるのである。
もちろん親側もそれは分かってはいるが、それでも何かしらの縁がつなげれば道は開けるかも、という期待は子供に掛けている。
そんな思惑を、少しずつ推し量りながら、人間関係を築いていく。
アリスは、いずれは自分がこの国に定住することを踏まえて、学友たちとの距離を決めていった。それが、半年の留学では短いと思ったのである。
結局、イスブルグで言われるところの【初等教育】が終わるところまで籍を置いた。13歳から15歳は、同じ学び舎であってもカリキュラムが少し異なる。クラス分けも成績上位の者から振り分けられる【中等教育】に移行する。
その手前で一度アリスはヴィリス帝国へ帰国した。あと2年の留学延長を、説得するためである。
アリスはヴィリス帝国の公爵令嬢の身だから、16歳からは帝国の学園に通わねばならない。これは留学する際にも養父母と決めたことであった。
そこまでの残り2年間を、養父母はヴィリス帝国で過ごすことを希望していた。しかし、アリスは、イスブルグで築き始めた基盤をこの2年で固めておきたかったのだ。
紆余曲折はあったものの、アンネリーゼとディートハルトの支援もあって、アリスは結局合計5年間の留学を認められた。
イスブルグの中等教育は、専門性の高い技術職を養成する学校への足掛かりということも有って、令嬢教育で受ける内容より若干高度で専門的であった。
ヴィリス帝国では、各家で子供の教育を担うことが一般的で、そこには各家が求める能力の違いが顕著に見える。さらにその家が持つ財力によっても差が生まれやすい。ヴィリス帝国は比較的実力主義であり、まともな後継が育てられなければ、家の存続は出来ない。
だからヴィリスでは、教育には自身の家でしっかり行われることが多い。下位の貴族や一部勘違いをしている者を除いて。
そうして基礎を築いておかねば、いざ学園に入学してもついてはいけないのが現実で、教育を疎かにしていた家は後悔することになる。当然留年も有り得るし、悪ければ退学になる。そうなると、子供には縁談も来なくなるし、それを理由に結ばれていた婚約が解消になる場合もあるのだ。
下位の貴族であっても、堅実な家はしっかり子供に教育を施す。ヴィリス帝国は比較的豊かな国であるから、貴族に名を連ねていれば、ある程度資金には余裕があるはずである。それでも愚か者は一定数存在する。
ヴィリス帝国が、子供の頃から学習の場を公共に設けないのには、貴族の改廃のためでもある。怠惰なものは脱落し、朽ちていくのみである。
アリスは10歳までクラヴェル公爵家で高度な教育を受けていた。その知識と、イスブルグの国を強固にするための高度な一斉教育とを修め、16歳を前にヴィリス帝国に戻った。
そして、ヴィリス帝国の学園に入学することになった。
それは同時に、それまで近くでアリスを見守ってきたディートハルトと離れることを意味していた。
10歳の時に編入したイスブルグの学校には、高位貴族の子供から裕福な商人の子や技術職の子供まで幅広い生徒が通っている。外の世界をほとんど知らなかったアリスは、学校での教育が楽しくてたまらなかった。
そして、本来なら半年で終わるところを、5年まで延長したのだ。
ヴィリスの養父母は反対をしたが、そこはアリスの実母が押し切った。
アリスは、この留学で自身の置かれた立場をより実感することになった。
まずは見た目である。色が若干薄いとはいえ、アリスにはイスブルグの王族の血が混じっていることがはっきりとわかる色だ。イスブルグは、商人や技術者の子供たちの地位は決して低くない。貴族と平民との間が近いのだ。階級の差というよりは役割の違いに近い。
それでも王族の血は、一目置かれるものだった。さらにアリスは留学生である。大国であるヴィリスからの留学生ということもあって、最初は遠巻きにされていた。
貴族の子供であっても、それは変わらなかった。
徐々に距離が縮まってきたところで、子供たちの態度はいくつかに分かれた。一つは、純粋にアリスと友人になろうとする者、もう一つは、あわよくば取り入って王族に近づこうとする者。そして、関わることを避ける者も一定数存在した。
子供の頃からヴィリスでは、侯爵令嬢として厳しい教育を施されたアリスは、貴族のみならず、平民も通うこの学校で人を見極める術を実戦で身に着けた。
特に貴族は侮れない。表面上は友好的に近づいてきても、裏で何を考えているのかを出さない。高位であればあるほど、その特徴は顕著だ。
どの国にも、あわよくば楽に甘い汁を吸いたい者はいるものだ。高い地位を持つ者は、利用されないように常に自分を、家を守っていかねばならない。
それを、頭では分かっていても、実際にその場面になって上手く立ち回れるかは分からない。
イスブルグ王国は、技術の流出は国の存続に関わる。だからこそ、子供の頃からいろんな階級を混ぜて学習をさせるのである。
もちろん親側もそれは分かってはいるが、それでも何かしらの縁がつなげれば道は開けるかも、という期待は子供に掛けている。
そんな思惑を、少しずつ推し量りながら、人間関係を築いていく。
アリスは、いずれは自分がこの国に定住することを踏まえて、学友たちとの距離を決めていった。それが、半年の留学では短いと思ったのである。
結局、イスブルグで言われるところの【初等教育】が終わるところまで籍を置いた。13歳から15歳は、同じ学び舎であってもカリキュラムが少し異なる。クラス分けも成績上位の者から振り分けられる【中等教育】に移行する。
その手前で一度アリスはヴィリス帝国へ帰国した。あと2年の留学延長を、説得するためである。
アリスはヴィリス帝国の公爵令嬢の身だから、16歳からは帝国の学園に通わねばならない。これは留学する際にも養父母と決めたことであった。
そこまでの残り2年間を、養父母はヴィリス帝国で過ごすことを希望していた。しかし、アリスは、イスブルグで築き始めた基盤をこの2年で固めておきたかったのだ。
紆余曲折はあったものの、アンネリーゼとディートハルトの支援もあって、アリスは結局合計5年間の留学を認められた。
イスブルグの中等教育は、専門性の高い技術職を養成する学校への足掛かりということも有って、令嬢教育で受ける内容より若干高度で専門的であった。
ヴィリス帝国では、各家で子供の教育を担うことが一般的で、そこには各家が求める能力の違いが顕著に見える。さらにその家が持つ財力によっても差が生まれやすい。ヴィリス帝国は比較的実力主義であり、まともな後継が育てられなければ、家の存続は出来ない。
だからヴィリスでは、教育には自身の家でしっかり行われることが多い。下位の貴族や一部勘違いをしている者を除いて。
そうして基礎を築いておかねば、いざ学園に入学してもついてはいけないのが現実で、教育を疎かにしていた家は後悔することになる。当然留年も有り得るし、悪ければ退学になる。そうなると、子供には縁談も来なくなるし、それを理由に結ばれていた婚約が解消になる場合もあるのだ。
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