女神の気紛れ

KAORU

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4.初めての王都と園遊会 Side S

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 長らくシェリルは自領を離れず、10歳になった。自然の中で育ったシェリルではあるが、祖父母の方針できちんと貴族令嬢としての教養は施されている。
 ただ令嬢らしからず好奇心旺盛で、さらに純粋培養であるが故に、人を疑うということを知らなかった。
 自領にいる分には大仰な悪意などに晒されることもないので、それでも問題はないのだが、共に暮らす祖父にはひとつの懸念があった。

 もともとシェリルを手元に置いて育てることにしたのは、その能力の発現に立ち会いたかったからである。
 しかし、10年経ってもシェリルにこれといった特徴は何ひとつ現れなかった。いたって普通の女の子である。特徴があるとすれば歌を歌うのが好き、ということだろうか。
 かといって、その歌も皆を虜にする歌声……などということもなく。誰に聞いても『ああ、歌うのが好きなのね』という感想でしかない。声が悪いわけでもないし、音程が悪いわけでもない。普通に聞けば上手いほうであろうが、その歌声がことはなかった。

 『女神の気紛れ』により与えられた能力に付けられた通名が、『天使の歌声』であるならば、歌声に何か秘密があるはず、と考えていた前伯爵は、水色の瞳を持って生まれたシェリルが歌うことが大好きなのは啓示であると信じていた。
 しかし、何も起きない以上、フェリアが水色の瞳だからと言って『女神の気紛れ』を持っていると王家に報告を上げるわけにもいかない。そして何も起こらないということは、これ以上研究も進まない。

 そして、とうとう王家にいる息子夫婦から連絡がきたのだ。いい加減、仮病である『病弱だから療養中』も通じない。そろそろ社交界に娘を出さねばならない、と。
 水色の瞳の持ち主が、必ずしも『天使の歌声』を持つと決まったわけではないのだから、次の園遊会には連れてきて欲しい、と書かれていた。
 そこで前伯爵は考えた。
 シェリルの力は何かの条件がなくては発動しないのかもしれない。この牧歌的な領地では、その力は覚醒できないのかもしれない。
 そこで、祖父はとうとう王都の息子からの要請に応じることにしたのだ。

 かくして、シェリルは、初めて領地から出て王都へと行くことになった。

「お爺様! 本当に此度はわたしも、お父さまの王都の邸に行っていいのですか?」

 嬉々として尋ねるシェリルに、祖父は若干押され気味である。

「もちろんいいんだよ。儂もついて行くからな」

「はい! 馬で参りますか?」

「いや、シェリル、お前は令嬢なんだからね。馬車で行くよ、馬車で」

 元気いっぱいのシェリルは、勿論乗馬も習得済みである。ではあるが、とても王都まで乗れるほどではない。苦笑いする祖父にシェリルは胸を張って答えた。

「わたしは馬でも大丈夫ですよ! お爺様っ」

「シェリル、確かにお前は馬に乗れるけれどね。王都はそんなに近くない。小さいお前がずっと馬では体がもたないよ」

「でもわたし、早く着きたいのです。初めての王都ですよ! お爺様っ!」

 逸る心が、馬での道程を求める理由のシェリルは、ぴょんと跳ねて祖父に抱きついた。
 ここまでの『病弱』設定はどうしようか、と祖父が頭を悩ませていることなど、気にも留めていない。
 折々に領地に顔を出してくれる両親と兄たちに逢えることが嬉しくて堪らないのである。

 そんなシェリルを宥めつつ、祖父母は馬車で5日かけて王都へ彼女を連れて行った。道中、何を見ても感動するシェリルは、馬車の旅も十二分に堪能した。
 出迎えた両親は、元気よく飛びつくシェリルをしっかりと受け止めてくれた。

「よく来たね、シェリル」

「お父様、お母様! とってもお逢いしたかったです。 それに王都のお邸、素敵なところです!」

 燥ぐシェリルに、兄たちも苦笑しながら、挨拶と称して飛びついてくるのをぎゅっと抱き締める。可愛い妹である。お転婆どころの話ではないが、可愛いことに変わりはない。

「シェリル、遊びたいのもよくわかるけれど、貴女にはひとつお仕事があるわよ」

 邸の中へ、母に手を引かれて案内されながら、シェリルは母を見上げた。

「おしごと?」

「そうよ。園遊会のための衣装を作るの。お兄様たちとお揃いのものをね。シェリルは少し大きくなっているから、採寸からしなければならないわ。しばらくはこの邸から出られないけれど、我慢なさいね」

 折角王都まで来たのに……という顔をするシェリルの頭を撫でながら、母が笑う。
 領地の使用人たちに、『いたずら妖精』などと渾名を付けられているのは、両親も承知の上である。そんな遊びが仕事のようなシェリルに、令嬢としての装いを揃えるのは、親の仕事のひとつだ。
 これでもちゃんと教育は受けているので、人前に出すのを心配はしていない。ただ、我慢させることになるから、少しばかり可哀相だなとは思っている。

「素敵なお衣装、作りましょうね。お兄様たちとお揃い、嬉しいわね?」

 
 
 
 
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