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CASE1.可憐な子爵令嬢の結婚詐欺
会計士の持つ証拠
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二人目の面談希望者は、ラッセル・ガーランドという男性だった。
「エレナが起こされている訴えについて、取り下げてもらうにはどうしたらいいか教えてもらいたい」
ラッセルは、王都内の会計事務所で働く会計士だという。
「裁判所には守秘義務があるので、内容まではお答え出来ませんが、今裁判所と関わっていることは事実です。貴方は、そのエレナさんという方とはどのようなご関係で?」
レイモンドの声が心なしか厳しい。
目の前に居る男性は、若くて見目がいい。派手な印象はないが誠実さが滲んだ好青年なのだ。
もし、彼が新しい標的ならば、守らねばならないし、被害にあっていることを認識させねばならない。
初期の段階だと、『自分は違う』と思い込みがちだからだ。
「恋人です。彼女が結婚詐欺に関わっているなんて有り得ない。有り得ないと信じているが、訴えが起こされていることは事実なんでしょうね」
ラッセルは、ここ最近連絡が取れなくなったエレナを探しており、やっと見つけたエレナの友人から彼女の状況を聞いたらしい。
言いにくそうにする友人から、聞き出した内容に驚愕した。
付き合い自体は、まだそんなに長くはない。しかし、ゆっくり時間をかけて誠実に関係を作ってきたという。
「結婚詐欺、だなんて」
「そうは言いますが、この手の犯罪は、そうは見えない人が犯すことが多いんですよ」
レイモンドの声に、ラッセルはぐっと言葉に詰まる。
「彼女は違う、とかいうのもよくあるパターンですしね」
レイモンドが挙げたのはよくある例だ。騙されたと気付くまでに時間が掛かる。それこそ恋情は人の目を曇らせる。
「もし、貴方も彼女を訴えるというのであれば話を聞きますが」
どうやらレイモンドは、もし彼が被害者なら、すでに申し立てられている3件と一緒に処理してしまおうとしているようだ。
「結婚を前提に付き合っているわけではないんです。それはエレナから断られました。
彼女は庶子とはいえ、子爵令嬢で貴族だ。僕は町の会計士でしかない」
ぽつぽつとラッセルが話し出した内容は、これまでの原告たちの話とはまるで違うものだった。
二人は、会計事務所の客と職員として出逢った。エレナが持ち込んだ仕事は、帳簿の精査だった。
子爵家なら、家にそれなりの人員がいるはずで、精査など必要なのかと思ったが、エレナ曰く、自分は唯一の子供で跡取りであり、自身がが手伝った部分もあるらしい。不安だが、家族にそれは見せたくないので、間違っていないか確認してもらいたいのだという。
エレナが会計事務所に持ち込む帳簿にはいくつか間違いがあった。帳簿も全てを持ち込むわけではなく一部分だけで、ラッセルにはエレナが『間違っている』という確証を欲しがっているように見えたという。
そうやって何度か会ううち、ラッセルは真剣に帳簿と向き合うエレナの姿に惹かれ、交際を申し込んだとらしい。
「結婚は出来ないけどいいのか、と問われたんです。
自分の結婚は、家のためのものだからと。その時は将来のことはまだ考えていませんでした。
少しでも彼女と居たくて、期限付きの恋でいい、とエレナにもそう言いました」
ラッセル自身は、ガーランド伯爵家の3男で、成人を迎えた後、会計士として働いているという。家を継ぐわけではないので、手に職が必要だからである。もともと3男という立場で、自由に育てられた彼は、国の文官という仕事より、市井での仕事を選んだ。
今はまだ一応伯爵家に籍があるが、結婚という話になれば、実家からは離れ、平民として戸籍を移すことになる。
「僕には結婚詐欺としての旨味はありません。だから最初から結婚なんて話はエレナからは出なかった。
僕も伯爵家の人間だとは明かしていなかった。あくまで『会計事務所のラッセル』として、エレナと逢っていたから。
金銭的な何かと言われたら、一緒にした食事代を僕が払うくらいのものです。僕は被害者じゃない。
それに、エレナがただの加害者じゃないと思っているのは、僕に対する態度だけではありません」
そう言って、ラッセルは鞄の中から封筒を取り出した。
「エレナから預かっているものです。僕には中を見ないで欲しい、と強く言われていました。必ず受け取りに来ると言っていたのです。
でも、これを預かった日を最後に、エレナとは会えていません。
逢うまでは、これを見てはいけないと思って開封していませんでしたが、エレナが詐欺を働いたとして申し立てられたと聞いて、中身を見ることにしました。
何か助けになればと思ったからです。きっと逢えなくなると分かっていて、エレナがこれを渡したのではと」
フィオナは、手渡された封筒の資料の数枚に目を通し、ラッセルにこう伝えた。
「この資料、預からせていただいてもよろしいでしょうか。
……エレナさんの件、しばらく静観していただきたいのです。そして、私たちが呼び出した際には、こちらまでお越しいただきたいのですが」
「エレナが起こされている訴えについて、取り下げてもらうにはどうしたらいいか教えてもらいたい」
ラッセルは、王都内の会計事務所で働く会計士だという。
「裁判所には守秘義務があるので、内容まではお答え出来ませんが、今裁判所と関わっていることは事実です。貴方は、そのエレナさんという方とはどのようなご関係で?」
レイモンドの声が心なしか厳しい。
目の前に居る男性は、若くて見目がいい。派手な印象はないが誠実さが滲んだ好青年なのだ。
もし、彼が新しい標的ならば、守らねばならないし、被害にあっていることを認識させねばならない。
初期の段階だと、『自分は違う』と思い込みがちだからだ。
「恋人です。彼女が結婚詐欺に関わっているなんて有り得ない。有り得ないと信じているが、訴えが起こされていることは事実なんでしょうね」
ラッセルは、ここ最近連絡が取れなくなったエレナを探しており、やっと見つけたエレナの友人から彼女の状況を聞いたらしい。
言いにくそうにする友人から、聞き出した内容に驚愕した。
付き合い自体は、まだそんなに長くはない。しかし、ゆっくり時間をかけて誠実に関係を作ってきたという。
「結婚詐欺、だなんて」
「そうは言いますが、この手の犯罪は、そうは見えない人が犯すことが多いんですよ」
レイモンドの声に、ラッセルはぐっと言葉に詰まる。
「彼女は違う、とかいうのもよくあるパターンですしね」
レイモンドが挙げたのはよくある例だ。騙されたと気付くまでに時間が掛かる。それこそ恋情は人の目を曇らせる。
「もし、貴方も彼女を訴えるというのであれば話を聞きますが」
どうやらレイモンドは、もし彼が被害者なら、すでに申し立てられている3件と一緒に処理してしまおうとしているようだ。
「結婚を前提に付き合っているわけではないんです。それはエレナから断られました。
彼女は庶子とはいえ、子爵令嬢で貴族だ。僕は町の会計士でしかない」
ぽつぽつとラッセルが話し出した内容は、これまでの原告たちの話とはまるで違うものだった。
二人は、会計事務所の客と職員として出逢った。エレナが持ち込んだ仕事は、帳簿の精査だった。
子爵家なら、家にそれなりの人員がいるはずで、精査など必要なのかと思ったが、エレナ曰く、自分は唯一の子供で跡取りであり、自身がが手伝った部分もあるらしい。不安だが、家族にそれは見せたくないので、間違っていないか確認してもらいたいのだという。
エレナが会計事務所に持ち込む帳簿にはいくつか間違いがあった。帳簿も全てを持ち込むわけではなく一部分だけで、ラッセルにはエレナが『間違っている』という確証を欲しがっているように見えたという。
そうやって何度か会ううち、ラッセルは真剣に帳簿と向き合うエレナの姿に惹かれ、交際を申し込んだとらしい。
「結婚は出来ないけどいいのか、と問われたんです。
自分の結婚は、家のためのものだからと。その時は将来のことはまだ考えていませんでした。
少しでも彼女と居たくて、期限付きの恋でいい、とエレナにもそう言いました」
ラッセル自身は、ガーランド伯爵家の3男で、成人を迎えた後、会計士として働いているという。家を継ぐわけではないので、手に職が必要だからである。もともと3男という立場で、自由に育てられた彼は、国の文官という仕事より、市井での仕事を選んだ。
今はまだ一応伯爵家に籍があるが、結婚という話になれば、実家からは離れ、平民として戸籍を移すことになる。
「僕には結婚詐欺としての旨味はありません。だから最初から結婚なんて話はエレナからは出なかった。
僕も伯爵家の人間だとは明かしていなかった。あくまで『会計事務所のラッセル』として、エレナと逢っていたから。
金銭的な何かと言われたら、一緒にした食事代を僕が払うくらいのものです。僕は被害者じゃない。
それに、エレナがただの加害者じゃないと思っているのは、僕に対する態度だけではありません」
そう言って、ラッセルは鞄の中から封筒を取り出した。
「エレナから預かっているものです。僕には中を見ないで欲しい、と強く言われていました。必ず受け取りに来ると言っていたのです。
でも、これを預かった日を最後に、エレナとは会えていません。
逢うまでは、これを見てはいけないと思って開封していませんでしたが、エレナが詐欺を働いたとして申し立てられたと聞いて、中身を見ることにしました。
何か助けになればと思ったからです。きっと逢えなくなると分かっていて、エレナがこれを渡したのではと」
フィオナは、手渡された封筒の資料の数枚に目を通し、ラッセルにこう伝えた。
「この資料、預からせていただいてもよろしいでしょうか。
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