猫のいる古本屋 ~やさしい時間と、ふたりと一匹のものがたり~

KAORU

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ユイの昼下がり

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 春の風が吹いた日、ユイはミルクの隣に座りながら、胸の奥にふわふわした違和感を抱えていた。  
 最近よく来るあの男の子。笑い方も、声も、なんてことない仕草までも——やさしい。
 並んで座るカウンターも、必ず一つ椅子を開けてくれるその距離感も。やることなすこと、ユイの怖がりな心を脅かさない。
 そんなやさしすぎるひとなのだ。

 やさしすぎて、ちょっと怖い。

「わたし、ほんとは人付き合いがあまり得意じゃなくて。話すことより、黙って誰かと同じ空間にいることのほうが、ずっとラクなの」  

 前にそう言ったとき、彼はただ「それ、わかります」とだけ言ってくれた。  
 それが、うれしくて、じんわり沁みて、少しだけ寂しくなった。

 決して人が嫌いなわけじゃない。仲良くしたくないわけでもない。でも、心の奥にあるトラウマがちょっとしたことで顔を出す。
 それは、自分の心の弱さだと知ってる。傷つきたくないというただそれだけで遠ざけていることも。
 
 誰かに近づくと、うれしいと同時に、どこかで「壊れる日」を想像してしまう。  
 そんな不器用な自分を、ミルクだけはいつもまるごと包みこんでくれる。  
 あたたかい毛並みと、気まぐれにくっついてくるおでこ。  やさしく指先を舐めて、【大丈夫】って伝えてくる。

 ——そして今、彼の手のひらも、同じようなぬくもりを持っている気がする。  

「……こわくても、一緒にいてもいいのかな」  

 心の中で、そっとつぶやく。  
 その瞬間、ミルクが彼女の膝の上にぴょんと飛び乗り、くるんと丸まった。

「……答え、出ちゃったかもね」  
 
 ユイはそうつぶやいて、やわらかく笑った。

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