4 / 11
ユイの昼下がり
しおりを挟む春の風が吹いた日、ユイはミルクの隣に座りながら、胸の奥にふわふわした違和感を抱えていた。
最近よく来るあの男の子。笑い方も、声も、なんてことない仕草までも——やさしい。
並んで座るカウンターも、必ず一つ椅子を開けてくれるその距離感も。やることなすこと、ユイの怖がりな心を脅かさない。
そんなやさしすぎるひとなのだ。
やさしすぎて、ちょっと怖い。
「わたし、ほんとは人付き合いがあまり得意じゃなくて。話すことより、黙って誰かと同じ空間にいることのほうが、ずっとラクなの」
前にそう言ったとき、彼はただ「それ、わかります」とだけ言ってくれた。
それが、うれしくて、じんわり沁みて、少しだけ寂しくなった。
決して人が嫌いなわけじゃない。仲良くしたくないわけでもない。でも、心の奥にあるトラウマがちょっとしたことで顔を出す。
それは、自分の心の弱さだと知ってる。傷つきたくないというただそれだけで遠ざけていることも。
誰かに近づくと、うれしいと同時に、どこかで「壊れる日」を想像してしまう。
そんな不器用な自分を、ミルクだけはいつもまるごと包みこんでくれる。
あたたかい毛並みと、気まぐれにくっついてくるおでこ。 やさしく指先を舐めて、【大丈夫】って伝えてくる。
——そして今、彼の手のひらも、同じようなぬくもりを持っている気がする。
「……こわくても、一緒にいてもいいのかな」
心の中で、そっとつぶやく。
その瞬間、ミルクが彼女の膝の上にぴょんと飛び乗り、くるんと丸まった。
「……答え、出ちゃったかもね」
ユイはそうつぶやいて、やわらかく笑った。
3
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる