48 / 75
不実な婚約者は【真実の愛】を謳う(※タイトル変更しました)
20.来訪者
しおりを挟む
フェリアは父との話をした後、アランと話し合う機会を持てずにいた。
というのも、学園に隣国からの留学生が来たからで、そしてその相手役にアランが含まれているからである。
それも、留学生というのは、南に位置するピエモンテ公国のデリツィア公女殿下である。
ピエモンテ公国は、大公が治める国である。ピエモンテでは男女の差があまりなく、女性の地位も高いと言われている。女性が大公の地位に就くことも少なくない。
現在の大公であるガレッティ家の末の子であるデリツィア公女は、成人したのち、伴侶を迎えると同時に臣籍降下し、一代限りの公爵家を興すことになっている。
将来的には外交を担い、大公を支える立場となることから、その準備段階として学生のうちに他国へ短期での留学を希望したのだという。
実はこの公女、ひとつ前の留学先で騒動を起こした問題児であった。
相手役に選ばれたのはアランだけではない。婚約者のいる男性を含む5名でデリツィアが学園にいる3ヶ月の間相手をすることになっている。
そうしてやってきた公女様は、初日からアランを側付きに指名した。
それはもう、片時も離さないといった様子で、始終アランを侍らせている。この国で言えば王族にあたる大公の令嬢であるため、王城の一室に滞在しているのだが、そこから学園に通う送り迎えもアランにさせているほどである。
そうした事態になっているため、フェリアはアランと逢えずにいた。
胸に抱いた疑問も、結局のところ父との話では解決しなかったが、アランに直接そのことを聞くだけの勇気も持てず、言い出す機会を伺っているうちに公女が来てしまったのだ。
アランと同い年の公女は、最高学年に在籍している。
彼女の世話係は皆最高学年に属している。5人のうち2人は令嬢なのだが、デリツィアはその二人を快く思わず、3人の男子生徒で周りを固めている。
そんな場面をフェリアも廊下で見かけた。エスコートは常にアランである。
「フェリア様、あの軍団は見なくていいです」
隣を歩くアイリスが苦々しい表情で低い声を出した。
「まあ、公女様ですもの、仕方がないわね。アラン様もお断りできないのでしょう」
「だとしてもです。まるで恋人気取りです。あの公女サマにはあまりいい噂を聞きませんから、あんなのに捕まったらマクドエル伯爵令息も逃げられなくなるのではないでしょうか」
「分からないけれど、アラン様はお世話係に任命されたのだもの。役目は全うしなくてはならないわ」
フェリアの言葉に、アイリスは納得がいかないとばかりに頬を膨らませた。フェリアの側付きとしてフェリアの祖父が連れてきたのがアイリスだった。グリーフィルドの寄子貴族の子で、身体能力が優れていることが抜擢の理由であった。
アイリスのハーラー伯爵家は、武人を多く輩出している家であった。兄のいるアイリスは、小さなころから兄にくっついて鍛錬をしてきたために、護身術にたけている。祖父が彼女をフェリアの側に置いたのは、次期侯爵であるフェリアの身を守るためであった。
子供の頃から交流があったアイリスは、フェリアにとっては側付きというより、友人の枠に近い。アイリスは歯に衣を着せぬ物言いが気持ちよく、フェリアが心を許せる数少ない相手でもあった。
そんなアイリスは、前々からアランの在り様に苦言を呈してきた。不誠実な男にフェリアを任せられないと度々憤慨している姿を見ていたが、最近少し彼女の態度が変わってきている。
フェリアが何かに気付いたように、アイリスもアランの背後に朧気ながら何かあることを感じ取っているように思えた。
「でも、アイリスが言うのも分かるわ。相手は公国の姫君ですものね。こちらの国のほうが国力が大きいとはいえ、わたくしは侯爵家。公女様に敵う身分ではないから、もし公女様がアラン様を望まれたら、手放さなければならないかもしれないわね」
「そうならないためには、マクドエル伯爵令息が公女様に付け込まれないようにしてくださらなければならないんですよ。わかってるんですかね、あの婚約者サマは!」
「アイリス、声が大きくてよ。公女様の留学は短期と聞いたわ。3ヶ月の間でそう大きな事にはならないと思いたいけれど」
「…… フェリア様、あの公女様の噂はお聞きになりましたか? あの方、とんでもないお人ですよ?」
アイリスの話は、このハイラント王国に留学する前に、公女が起こした問題についてであった。
ピエモンテ公国は、周辺国の中では少し特殊な国である。
ある一定の権力のある者は、一夫多妻、一妻多夫は認められている。それは国の成り立ちにも関係している。
もともと、ひとつの家を祖に国が成った。その祖となる家は、一族が国を治め続けられるよう、ひとつの決まりを作る。大公家に連なる家の家長となる者は、伴侶を複数持っていいという決まりだ。
その決まりは今も生き続け、ピエモンテ公国を取り仕切る貴族の大半は、何某かガレッティ家に連なる者たちである。
実際には、多妻や多夫であるのは公家だけである。歴代の中には一夫一妻であった例もあるにはある。しかし、数は少ない。
そして、そんな君主の元だからか、それとも災害の少ない温暖な南の国だからか、恋愛に関してはかなり奔放な国民性でもあった。
そんな国で育ったデリツィア公女も、かなり奔放な女性であった。自国でも多くの男性と恋を謳歌し、すでに伴侶となる予定の者は二人いる。公女は『外交』と称し、他国の血も入れるべきとする現在の大公に倣って、他国へ側に侍らせる男を探しに積極的に外遊しているという。
そして、ひとつ前の留学先の国で、一人の令息を気に入り強引に連れ帰るため、すでに令息が結んでいた婚約を破談にしたという噂があったのだ。
というのも、学園に隣国からの留学生が来たからで、そしてその相手役にアランが含まれているからである。
それも、留学生というのは、南に位置するピエモンテ公国のデリツィア公女殿下である。
ピエモンテ公国は、大公が治める国である。ピエモンテでは男女の差があまりなく、女性の地位も高いと言われている。女性が大公の地位に就くことも少なくない。
現在の大公であるガレッティ家の末の子であるデリツィア公女は、成人したのち、伴侶を迎えると同時に臣籍降下し、一代限りの公爵家を興すことになっている。
将来的には外交を担い、大公を支える立場となることから、その準備段階として学生のうちに他国へ短期での留学を希望したのだという。
実はこの公女、ひとつ前の留学先で騒動を起こした問題児であった。
相手役に選ばれたのはアランだけではない。婚約者のいる男性を含む5名でデリツィアが学園にいる3ヶ月の間相手をすることになっている。
そうしてやってきた公女様は、初日からアランを側付きに指名した。
それはもう、片時も離さないといった様子で、始終アランを侍らせている。この国で言えば王族にあたる大公の令嬢であるため、王城の一室に滞在しているのだが、そこから学園に通う送り迎えもアランにさせているほどである。
そうした事態になっているため、フェリアはアランと逢えずにいた。
胸に抱いた疑問も、結局のところ父との話では解決しなかったが、アランに直接そのことを聞くだけの勇気も持てず、言い出す機会を伺っているうちに公女が来てしまったのだ。
アランと同い年の公女は、最高学年に在籍している。
彼女の世話係は皆最高学年に属している。5人のうち2人は令嬢なのだが、デリツィアはその二人を快く思わず、3人の男子生徒で周りを固めている。
そんな場面をフェリアも廊下で見かけた。エスコートは常にアランである。
「フェリア様、あの軍団は見なくていいです」
隣を歩くアイリスが苦々しい表情で低い声を出した。
「まあ、公女様ですもの、仕方がないわね。アラン様もお断りできないのでしょう」
「だとしてもです。まるで恋人気取りです。あの公女サマにはあまりいい噂を聞きませんから、あんなのに捕まったらマクドエル伯爵令息も逃げられなくなるのではないでしょうか」
「分からないけれど、アラン様はお世話係に任命されたのだもの。役目は全うしなくてはならないわ」
フェリアの言葉に、アイリスは納得がいかないとばかりに頬を膨らませた。フェリアの側付きとしてフェリアの祖父が連れてきたのがアイリスだった。グリーフィルドの寄子貴族の子で、身体能力が優れていることが抜擢の理由であった。
アイリスのハーラー伯爵家は、武人を多く輩出している家であった。兄のいるアイリスは、小さなころから兄にくっついて鍛錬をしてきたために、護身術にたけている。祖父が彼女をフェリアの側に置いたのは、次期侯爵であるフェリアの身を守るためであった。
子供の頃から交流があったアイリスは、フェリアにとっては側付きというより、友人の枠に近い。アイリスは歯に衣を着せぬ物言いが気持ちよく、フェリアが心を許せる数少ない相手でもあった。
そんなアイリスは、前々からアランの在り様に苦言を呈してきた。不誠実な男にフェリアを任せられないと度々憤慨している姿を見ていたが、最近少し彼女の態度が変わってきている。
フェリアが何かに気付いたように、アイリスもアランの背後に朧気ながら何かあることを感じ取っているように思えた。
「でも、アイリスが言うのも分かるわ。相手は公国の姫君ですものね。こちらの国のほうが国力が大きいとはいえ、わたくしは侯爵家。公女様に敵う身分ではないから、もし公女様がアラン様を望まれたら、手放さなければならないかもしれないわね」
「そうならないためには、マクドエル伯爵令息が公女様に付け込まれないようにしてくださらなければならないんですよ。わかってるんですかね、あの婚約者サマは!」
「アイリス、声が大きくてよ。公女様の留学は短期と聞いたわ。3ヶ月の間でそう大きな事にはならないと思いたいけれど」
「…… フェリア様、あの公女様の噂はお聞きになりましたか? あの方、とんでもないお人ですよ?」
アイリスの話は、このハイラント王国に留学する前に、公女が起こした問題についてであった。
ピエモンテ公国は、周辺国の中では少し特殊な国である。
ある一定の権力のある者は、一夫多妻、一妻多夫は認められている。それは国の成り立ちにも関係している。
もともと、ひとつの家を祖に国が成った。その祖となる家は、一族が国を治め続けられるよう、ひとつの決まりを作る。大公家に連なる家の家長となる者は、伴侶を複数持っていいという決まりだ。
その決まりは今も生き続け、ピエモンテ公国を取り仕切る貴族の大半は、何某かガレッティ家に連なる者たちである。
実際には、多妻や多夫であるのは公家だけである。歴代の中には一夫一妻であった例もあるにはある。しかし、数は少ない。
そして、そんな君主の元だからか、それとも災害の少ない温暖な南の国だからか、恋愛に関してはかなり奔放な国民性でもあった。
そんな国で育ったデリツィア公女も、かなり奔放な女性であった。自国でも多くの男性と恋を謳歌し、すでに伴侶となる予定の者は二人いる。公女は『外交』と称し、他国の血も入れるべきとする現在の大公に倣って、他国へ側に侍らせる男を探しに積極的に外遊しているという。
そして、ひとつ前の留学先の国で、一人の令息を気に入り強引に連れ帰るため、すでに令息が結んでいた婚約を破談にしたという噂があったのだ。
57
あなたにおすすめの小説
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
捨てられた聖女様
青の雀
恋愛
孤児として拾われたジェニファーは、5歳の時、聖女様に覚醒し、バルサン王家の庇護のもと、同い年の第1王子と婚約者になる。
成長するにつれ、王子は、公女様と浮名を流すようになり、国王陛下が早逝されたことをいいことに、婚約破棄されてしまう。
それというのも、公女様が自分こそが真の聖女でジェニファーは偽聖女だという噂を広められ、巡礼に行った先で、石やごみを投げられるなどの嫌がらせに遭う。
国境付近で、まるでゴミを投げ捨てるかのように捨てられたジェニファーは、隣国の貧乏国の王子様に拾われ、聖なる力を解放する。
一方、聖女様を追い出したバルサン国では、目に見えて衰退の一途をたどる。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる