Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 邂逅】

《第2週 月曜日 夜半すぎ》

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藤川先生のことは、正直なところ苦手です。
プライベートや事務処理のことはともかく、仕事はパーフェクトだし、それなりに尊敬はしてるけど。
穏やかそうに見えるけど神経質で、人を自分の内面に立ち入らせない。静かにキレてる。激昂するようなことはないけど沸点は低いと思う。
観察していてわかったけれど、愛想よく微笑んでるような時のほうが余程怒ってて、怒ってる時はだいたい悲しいか不安になってるかのいずれかっぽい。あまりにも感情表現が支離滅裂で、医者になる前は心理学者だったなんて、到底信じられない。自分のことは別なのか。
精神医学者や脳科学者や医薬業界と協同でガチのトラウマ研究や記憶の再構築技術の研究をやってたような人だし、「研究者やカウンセラーじゃできることに限界がある、現場に出て当事者を救いたい、精神科医になろう」となるのはなんとなく想像できる。
それはそうとして、そこから更にわざわざ法医学者になったのかよくわからない。博士課程で精神科領域で医学博士になった後、急に法医学に転向したのは流石になんなのか。

おれは卒業後も好きなことを続けるためには親から医者になることを条件につけられてたから踏ん張っただけで、志のようなものはまるで無かった。単純に父親は武道系のたしなみも有り、厳しい人物だったので逆らえなかっただけだ。
しかしうちは開業医じゃないから、研究者か勤務医になるしかないし、絶対忙しすぎて本来やりたかったことは結局できなくなる。そもそも自分の性格では頭を下げて回って雇用され他人に従って生きるというのは絶対に無理だった。
何処か興味のある分野で研究者として潜り込んでそこそこに給料とか細々した仕事もらって合間に好きなことやれたらな、くらいの気持ちで院進して学校に残ったが、結局修士課程の終わりが見えても行き先が決まらず、博士課程に進み共同研究で博士号をいただき、博士課程の終わりが見えてもまだ行き先が決まらず、途方に暮れていた。
そこに、親同士が知り合いという縁で「実質パシリみたいなもんでいいから」と半ば強引に藤川先生のところに捩じ込まれた。ひとりで仕事したいであろう故に敢えてイレギュラーな働き方をしているあの先生にしたってそんなの「はぁ…」って感じだったと思う。実際、藤川先生のお父さんに連れられて初めて挨拶に来たとき、当時まだ講師で教授の小僧さんでもあった藤川先生は、あの書庫で疲れ切った完全に死んだ魚みたいな目で「はぁ…」と言っていた。
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