18 / 454
【2020/05 邂逅】
《第2週 月曜日 夜半すぎ》
しおりを挟む
藤川先生のことは、正直なところ苦手です。
プライベートや事務処理のことはともかく、仕事はパーフェクトだし、それなりに尊敬はしてるけど。
穏やかそうに見えるけど神経質で、人を自分の内面に立ち入らせない。静かにキレてる。激昂するようなことはないけど沸点は低いと思う。
観察していてわかったけれど、愛想よく微笑んでるような時のほうが余程怒ってて、怒ってる時はだいたい悲しいか不安になってるかのいずれかっぽい。あまりにも感情表現が支離滅裂で、医者になる前は心理学者だったなんて、到底信じられない。自分のことは別なのか。
精神医学者や脳科学者や医薬業界と協同でガチのトラウマ研究や記憶の再構築技術の研究をやってたような人だし、「研究者やカウンセラーじゃできることに限界がある、現場に出て当事者を救いたい、精神科医になろう」となるのはなんとなく想像できる。
それはそうとして、そこから更にわざわざ法医学者になったのかよくわからない。博士課程で精神科領域で医学博士になった後、急に法医学に転向したのは流石になんなのか。
おれは卒業後も好きなことを続けるためには親から医者になることを条件につけられてたから踏ん張っただけで、志のようなものはまるで無かった。単純に父親は武道系のたしなみも有り、厳しい人物だったので逆らえなかっただけだ。
しかしうちは開業医じゃないから、研究者か勤務医になるしかないし、絶対忙しすぎて本来やりたかったことは結局できなくなる。そもそも自分の性格では頭を下げて回って雇用され他人に従って生きるというのは絶対に無理だった。
何処か興味のある分野で研究者として潜り込んでそこそこに給料とか細々した仕事もらって合間に好きなことやれたらな、くらいの気持ちで院進して学校に残ったが、結局修士課程の終わりが見えても行き先が決まらず、博士課程に進み共同研究で博士号をいただき、博士課程の終わりが見えてもまだ行き先が決まらず、途方に暮れていた。
そこに、親同士が知り合いという縁で「実質パシリみたいなもんでいいから」と半ば強引に藤川先生のところに捩じ込まれた。ひとりで仕事したいであろう故に敢えてイレギュラーな働き方をしているあの先生にしたってそんなの「はぁ…」って感じだったと思う。実際、藤川先生のお父さんに連れられて初めて挨拶に来たとき、当時まだ講師で教授の小僧さんでもあった藤川先生は、あの書庫で疲れ切った完全に死んだ魚みたいな目で「はぁ…」と言っていた。
プライベートや事務処理のことはともかく、仕事はパーフェクトだし、それなりに尊敬はしてるけど。
穏やかそうに見えるけど神経質で、人を自分の内面に立ち入らせない。静かにキレてる。激昂するようなことはないけど沸点は低いと思う。
観察していてわかったけれど、愛想よく微笑んでるような時のほうが余程怒ってて、怒ってる時はだいたい悲しいか不安になってるかのいずれかっぽい。あまりにも感情表現が支離滅裂で、医者になる前は心理学者だったなんて、到底信じられない。自分のことは別なのか。
精神医学者や脳科学者や医薬業界と協同でガチのトラウマ研究や記憶の再構築技術の研究をやってたような人だし、「研究者やカウンセラーじゃできることに限界がある、現場に出て当事者を救いたい、精神科医になろう」となるのはなんとなく想像できる。
それはそうとして、そこから更にわざわざ法医学者になったのかよくわからない。博士課程で精神科領域で医学博士になった後、急に法医学に転向したのは流石になんなのか。
おれは卒業後も好きなことを続けるためには親から医者になることを条件につけられてたから踏ん張っただけで、志のようなものはまるで無かった。単純に父親は武道系のたしなみも有り、厳しい人物だったので逆らえなかっただけだ。
しかしうちは開業医じゃないから、研究者か勤務医になるしかないし、絶対忙しすぎて本来やりたかったことは結局できなくなる。そもそも自分の性格では頭を下げて回って雇用され他人に従って生きるというのは絶対に無理だった。
何処か興味のある分野で研究者として潜り込んでそこそこに給料とか細々した仕事もらって合間に好きなことやれたらな、くらいの気持ちで院進して学校に残ったが、結局修士課程の終わりが見えても行き先が決まらず、博士課程に進み共同研究で博士号をいただき、博士課程の終わりが見えてもまだ行き先が決まらず、途方に暮れていた。
そこに、親同士が知り合いという縁で「実質パシリみたいなもんでいいから」と半ば強引に藤川先生のところに捩じ込まれた。ひとりで仕事したいであろう故に敢えてイレギュラーな働き方をしているあの先生にしたってそんなの「はぁ…」って感じだったと思う。実際、藤川先生のお父さんに連れられて初めて挨拶に来たとき、当時まだ講師で教授の小僧さんでもあった藤川先生は、あの書庫で疲れ切った完全に死んだ魚みたいな目で「はぁ…」と言っていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
【完結】 同棲
蔵屋
BL
どのくらい時間が経ったんだろう
明るい日差しの眩しさで目覚めた。大輝は
翔の部屋でかなり眠っていたようだ。
翔は大輝に言った。
「ねぇ、考えて欲しいことがあるんだ。」
「なんだい?」
「一緒に生活しない!」
二人は一緒に生活することが出来る
のか?
『同棲』、そんな二人の物語を
お楽しみ下さい。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる