241 / 454
【2020/05 野火】
《第3週 金曜日 昼》②
しおりを挟む
「あ、はい、あの、え…?」
いきなり言われて、混乱した。うちの父親が、先生を?
「もしかして、知らない?」
「え、今ちょうど、事件に関する資料読ませてもらってたんですけど…何処か書いてるのかな…」
食べていたものをこぼさないように一旦避けて、ファイルを開いて探していると、その人は笑って「まあ、後でゆっくり確認したらいいじゃない」と言った。
そして、大石先生からは週末午後できるだけ早く会いたいと言っていたと聞いてたので、よかったら今日晩御飯でもご相伴にいらっしゃいと誘ってくれた。
「感染症のアレで、面会禁止かもって言われてたんですけど、大丈夫ですかね」
「うちはサービス付き高齢者住宅の一般型って言って、基本的には住人が高齢者だけの賃貸住宅なの。スタッフも常駐なわけじゃないし、対策してきてくれる分には問題ないから。念の為マスクして、手洗い消毒はしっかりやってもらえればいいかな」
声は柔らかいが、案外さばけた物言いをする。なんとなく、先生に似ている感じがするように思えた。
「ねえ、長谷くんは何か好きな食べ物ってある?普段は一人分だし作り甲斐がないの。いい機会だしお題出して」
「え!そんな!おれなんでもいただきますよ」
なんかそうやって人を試そうとするとこもなんか似てる気がする…ステップファミリーとはいえ、一緒に住んでた期間は長くないとはいえ、やっぱり一緒に暮らしてると似るのか。
「やだぁ、なんでもいいが一番困るんだってば~!なんかない?」
そう言われても、食べてる途中だったこともあって腹ペコでもないので、具体的に何か食べたいという欲求が湧きづらい。普段、そんなに家で食べないし、仕事ある日は外食とか食堂で食べたりするからそういうとこで食べてるもの以外がいい。
「ん~…じゃあ、夜ですし、糖質カロリー控えめでそこそこ食べでのあるおかずとなんか炊き込んだり味がついたご飯と具沢山の汁物がいいです…」
「…具体的な品名で言わないあたり、なかなか長谷くん勝負に出るね…わかった考えとくね」
手元でメモしているのか、ペン先が紙の上を滑る音がする。
「長谷くんはお酒は飲むの?」
「いえ、おれは飲まないです、飲めないってことはないんですけど…」
あんな事があると、酒というものがつくづく怖い。只でさえ結構公私の切り替えというかオンオフが激しい世界で、集まりがある度にその恐ろしさを余計に身に沁みて知っているので、自ら飲もうと思わなくなってしまった。
「アレルギーは?」
「特にないです、ちょっと春先花粉症っぽくはなるんですけど、ひどくはないです…あの、質問いいですか」
結構矢継ぎ早に話しかけられていたので、一旦声をかける。
「先生…玲さんとは、よくお会いになるんですか」
「病院で時々会うくらいかな。でもあの子やっぱり無意識に警戒してるのか、引け目があるのか、来たり来なかったりするし、メンタルも不安定だから連絡取れなくなることもあるし、まちまち。こないだ珍しくお外でデートしたけど、そのときは安定してて楽しかったな」
あ、そうか、あの日だ。
先生追いかけて路上で捕まえた日、初めて先生を抱いた日。
思い出して、それまで冷や汗をかきっぱなしだったのに、急激に体温が上がる。
「そうそう、あのね、そのとき、初めて手をつないでくれたのよ」
え、初めて?反応に困っていると、先生のお母さんは本当に嬉しそうに言った。
「長い道のりだったわ、目も合わせてくれなかったのが手をつないで歩いてくれるようになるなんて、ほんと夢みたいだった…あの瞬間、英一郎さんにも見せたかった」
いきなり言われて、混乱した。うちの父親が、先生を?
「もしかして、知らない?」
「え、今ちょうど、事件に関する資料読ませてもらってたんですけど…何処か書いてるのかな…」
食べていたものをこぼさないように一旦避けて、ファイルを開いて探していると、その人は笑って「まあ、後でゆっくり確認したらいいじゃない」と言った。
そして、大石先生からは週末午後できるだけ早く会いたいと言っていたと聞いてたので、よかったら今日晩御飯でもご相伴にいらっしゃいと誘ってくれた。
「感染症のアレで、面会禁止かもって言われてたんですけど、大丈夫ですかね」
「うちはサービス付き高齢者住宅の一般型って言って、基本的には住人が高齢者だけの賃貸住宅なの。スタッフも常駐なわけじゃないし、対策してきてくれる分には問題ないから。念の為マスクして、手洗い消毒はしっかりやってもらえればいいかな」
声は柔らかいが、案外さばけた物言いをする。なんとなく、先生に似ている感じがするように思えた。
「ねえ、長谷くんは何か好きな食べ物ってある?普段は一人分だし作り甲斐がないの。いい機会だしお題出して」
「え!そんな!おれなんでもいただきますよ」
なんかそうやって人を試そうとするとこもなんか似てる気がする…ステップファミリーとはいえ、一緒に住んでた期間は長くないとはいえ、やっぱり一緒に暮らしてると似るのか。
「やだぁ、なんでもいいが一番困るんだってば~!なんかない?」
そう言われても、食べてる途中だったこともあって腹ペコでもないので、具体的に何か食べたいという欲求が湧きづらい。普段、そんなに家で食べないし、仕事ある日は外食とか食堂で食べたりするからそういうとこで食べてるもの以外がいい。
「ん~…じゃあ、夜ですし、糖質カロリー控えめでそこそこ食べでのあるおかずとなんか炊き込んだり味がついたご飯と具沢山の汁物がいいです…」
「…具体的な品名で言わないあたり、なかなか長谷くん勝負に出るね…わかった考えとくね」
手元でメモしているのか、ペン先が紙の上を滑る音がする。
「長谷くんはお酒は飲むの?」
「いえ、おれは飲まないです、飲めないってことはないんですけど…」
あんな事があると、酒というものがつくづく怖い。只でさえ結構公私の切り替えというかオンオフが激しい世界で、集まりがある度にその恐ろしさを余計に身に沁みて知っているので、自ら飲もうと思わなくなってしまった。
「アレルギーは?」
「特にないです、ちょっと春先花粉症っぽくはなるんですけど、ひどくはないです…あの、質問いいですか」
結構矢継ぎ早に話しかけられていたので、一旦声をかける。
「先生…玲さんとは、よくお会いになるんですか」
「病院で時々会うくらいかな。でもあの子やっぱり無意識に警戒してるのか、引け目があるのか、来たり来なかったりするし、メンタルも不安定だから連絡取れなくなることもあるし、まちまち。こないだ珍しくお外でデートしたけど、そのときは安定してて楽しかったな」
あ、そうか、あの日だ。
先生追いかけて路上で捕まえた日、初めて先生を抱いた日。
思い出して、それまで冷や汗をかきっぱなしだったのに、急激に体温が上がる。
「そうそう、あのね、そのとき、初めて手をつないでくれたのよ」
え、初めて?反応に困っていると、先生のお母さんは本当に嬉しそうに言った。
「長い道のりだったわ、目も合わせてくれなかったのが手をつないで歩いてくれるようになるなんて、ほんと夢みたいだった…あの瞬間、英一郎さんにも見せたかった」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
【完結】 同棲
蔵屋
BL
どのくらい時間が経ったんだろう
明るい日差しの眩しさで目覚めた。大輝は
翔の部屋でかなり眠っていたようだ。
翔は大輝に言った。
「ねぇ、考えて欲しいことがあるんだ。」
「なんだい?」
「一緒に生活しない!」
二人は一緒に生活することが出来る
のか?
『同棲』、そんな二人の物語を
お楽しみ下さい。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる