Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 野火】

《第3週 金曜日 昼》③

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「英一郎さん…お父さんは今どうされているんですか」
病院で時々会うって、もしかして、お父さんが入院しているからか。
「入院してるの、段々病気で拘縮が進んで動けなくなってきてて…でもわたし自身まだ仕事しているから入れてもらってるの。時間があるときはできるだけ顔出すようにしてる」
ああ、やっぱそうか、それなりにお年なはずだもんな。…そういや、おれが自分の母親と最後に会ったのも病院だったな。
「あの、なんか、すみません、余計なこと訊いて」
「え?ううん、全然。じゃあ用意して待ってるから、今晩よろしくね。終わって近くの駅まで来たら連絡して」
おれは礼を述べて通話を切った。
ファイルを一先ず避けて、食べかけの食事を再開する。
さっき、リクエストを求められた時、具体的に思い浮かばなくて「糖質カロリー控えめでそこそこ食べでのあるおかずとなんか炊き込んだり味がついたご飯と具沢山の汁物」と伝えたが、何が出てくるだろう。
今食べているのが、アレだけ品揃えのいいとこで散々目移りした末に惣菜パンと揚げ物という割とジャンクな組み合わせだったので、ちょっと手の混んだものが食べたかったのかもしれない。
朝食べたのもパンケーキとスープとサラダだし、図々しいかもしれないけどせっかくなら和食寄りがいい、とか、もうちょっと踏み込んで言えばよかった。
…そろそろ、午後になる。
先生はどうしているんだろう。
仕事、どうするんだろう。
おれはどうなるんだろう。
グルグル頭の中で思いながら、再びファイルを開いて、父親の名前を探す。
「アキくんを発見したおまわりさんの息子さん、でしょ?」
言われた言葉が脳内で反響する。
そんなこと、一言も聞いたことなかった。事件があったのは、先生が12歳、おれが生まれるよりうんと前だから当たり前かもしれないけど。
飯野さん、当時のことでうちの父親からは直接聞いていることはないだろうか。
てか、事件のことが資料として残ってて、捜査や警戒にあたって把握しているんだとしたら、そのことも知ってるはずなのに、なんで、おれに直接言って教えてくれなかったんだろう。
「自分のところに来ると思ってなかったよ。偶然にしちゃ出来すぎているけど、ここまで条件が揃ったら、逆に会わせてみるかって思ってさ。理由はあってないようなもんだ」
それって、手癖の悪いゲイとやらかした坊主を敢えて引き合わせてみようと思ったとかそういう意地の悪いセクハラみたいな意味で言ったんじゃなくて、もしかして、本当は、そういう。
事件に関するページを改めて一枚一枚、読む度に気持ちが荒みそうになるのを堪えながら父の名前を探す。
そして見つけた。
発見当時の記録に名前が記載されている。
さっき読んていたときは気が付かなかった。
第一報は、当時先生一家の住んでいたマンションの管理人室からの「集合ポストがいっぱいになっていて、呼び鈴を鳴らしても応答がない部屋がある」という相談。
その時その近辺を警邏していた父が臨場し、鍵を持って待っていた管理人と管理会社の担当者が立ち会って開けてもらい、部屋に入ると特に荒れた様子はなし。
収納や戸棚などの中も荒らされている様子がなく、特に貴重品が奪われたような形跡もなかった。家賃や公共料金の支払いもされているようで、止まってはいない。
しかし、玄関入ってすぐ近くの電話台から電話機は撤去されていて、書斎と思わしき部屋のみ扉が中途半端に開いたままになっていて、その部屋の収納からは寝具類がはみ出して見えていた。
その中から、この家に住む小高さんの長男、明優くんと思われる児童が餓死寸前の瀕死の状態で発見された。
至急、応援と救急車の手配を要請し、引継ぎ後に現場を離れたと書かれていた。
現場を離れた後は、どうしたんだろう。
おれは席を立って、会議室を出た。
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