Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 深度と濃度】

《第3週 土曜日 午前》④ (*)

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何事かと問う間もなくきつく抱きしめられ、呆然としていると自分の腹のあたりに熱を持った肉の塊が触れているのを感じた。
「長谷?」
胸の筋肉に圧された顔を上げてなんとか長谷の顔を見ると、深い緑色の瞳がガラス玉のように光り、水面のように潤んでいる。そして、普段見たことがない赤味に色づいた唇が下りてきて、おれの唇を塞ぎ、厚みがある舌が口腔に押し入って侵す。
おれが手を腹に押し当てられた塊に持っていき、間に差し入れた親指で撫でると、長谷は身震いして息を荒くした。スラックスのジッパーを下ろして、ベルトを引いて中の物を出すように暗に指示する。
「まったくほんと、躾の悪いわんこだな」
長谷が前綴じを解いて中の物を出し、それをおれが手にとる。
「声出しちゃダメだよ、捕まったらマジでおれら終わるよ」
壁に額を押し付けて上からおれを見つめながら息をつく長谷に囁く。
「先生となら終わってもいいです」
「バカ言ってんじゃないよ、だめ」
手で赤みを増し膨張する先端を包み、筋を扱くように上下させると長谷の息遣いが荒くなっていく。口づけをせがむ長谷を唇を開いて誘い込む。温かい感触が口の中に踊り、欲望が甘露になったかのように涎が溢れ流れ込む。
身を任せていると、長谷の手がおれの胸元を探り始める。空いている手で制そうとするが、容易に払いのけられてしまう。布の上から人差し指と中指で金具を着けているおれの胸の先の膨らみを捉えて抓み、親指の腹で撫でて転がす。
舌に犯された口は声を殺すに殺せず、声が漏れ出てしまう。
「長谷、だめ」
合間に必死に声に出して制すが、お構いなしに続けられる。幸い人の来る気配はないが、不安で気が漫ろになり、ザワザワする。そのスリルが却って異様な興奮を与えてくる。おれは観念してされるがままになった。下腹部奥が甘く疼く。
空いた手を長谷の身体の向こうに伸ばしてペーパーを引き出し、長谷のものの先に被せて、おれは愛撫を続ける。やがて身震いして小さく呻いて体温を含んだ体液が吹き出すのをペーパー越しに感じとって手を離した。
おれの体にその身を打ち付け、伸縮を繰り返しながら幾度も、ペーパーで包まれた中で射出するのを、おれは身体にかけていた鞄からアルコールを含まないウェットティッシュを出して包んだ。
先を覆ったペーパーから伝い出ている体液を拭い、そのペーパーごと包んで便座の蓋の上に放った。もう一枚出して先端を拭う。
「どう、気は済んだ?」
声をかけると、壁に腕をついて俯いて、おれを見下ろしたまま長谷は小さく頷いた。
「…ごめんなさい…」
一応謝るんだ、と思うとともに、終わるまで人が幸い来なかったことに安堵して気が抜けて笑ってしまう。
「謝るくらいならやんなっての」
笑ってると、自分の体液を拭ったものを改めて恥ずかしそうにペーパーに包みながら「だって…先生が…」とボソボソ呟く。
「いいから先に出て手洗いのとこのゴミ箱に捨ててきな」
内鍵を解いて、おれは長谷を追い出した。
自分のベルトを解き、ボトムを下ろして汚れたインナーの内側と自分のものを拭って穿き直す。
まったく、こんなとこで催すとは。
おれも重度の性依存症だとは思う、頻度が先ずおかしいし。でも場所とかは選ぶし、今は相手だって選ぶ。
長谷はもう、催したら我慢ができないんだな。相手こそ誰でもいいわけじゃないだろうけど風俗使ってたくらいだし、下手したら相手も問わないだろう。
まあ、互いに学業や仕事に差し支える事態になるほど結構重度な依存症なことにかわりはない。
もしかして、おれたちは「割れ鍋に綴じ蓋」なのかもしれない。
「先生、あの、大丈夫ですか」
個室に残るおれに壁の向こうから長谷が声をかけてくる。
「大丈夫だよ、すぐ行く」
体液を拭ったウェットティッシュをペーパーに包んで、鞄に入れていた小さいポリ袋に入れて口を縛り、鞄の中に仕舞う。
その際に予備の使い捨てマスクを見つけ、マスクを着け忘れていたのに気づいた。
「出たらドラッグストア寄るか…」
おれは呟いて個室を出た。
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