365 / 454
【2020/05 冀求】
《第4週 木曜日 朝》⑤
しおりを挟む
こちらでの検死が終了次第、こちらで検めた際の歯牙状態の記録を歯科チームに引き継ぎ、歯牙治療記録や顎の状態を照合して個人識別の最終確認後に警察官立ち会いのもと身元確認に訪れている遺族に情報提供し、確認が取れたものから検案書を作成する。
確認が完了したものは整容面を考慮し整復し、エンゼルケアした上で納棺し、引き継ぎ。引き渡しは死亡証明書を発行する行政担当者が実施する。
「先ずはテキストの内容から作業の要点だけそのまま読んだ感じではあるけど、此処までで気になることある?」
小林さんは帳票の見本にメモを取りながら、何度もテキストを行き来して見返している。
「普段からやってるにしても、此処での仕事は勝手が違うから一通りやってみないとわかんないよねえ」
綾子先生は優しく小林さんに言う。小林さんの手は、或る所で止まっていた。
「藤川くん、いいですか」
「ん、何?」
開いているページは今実際に説明した箇所とは違う章だ。通常であれば「それは後で、」と咎めるのだろうけど、発達特性により読むのが早く、思考が多動がちな人間は説明箇所の理解が済むと次に興味が向いた箇所を先取りしたくなる。そういう人間はある程度居て、自分にもその感覚はわかるので、それについてはおれは何も言わない。
「親族のための情報センターを設置するとあるんですが、これはわたしたちが収集した情報を基に行方不明や無くなった可能性の高いご家族を探す作業を行っていただく別室になるわけですけど、此処には警察官や医師は常駐するんでしょうか」
「我々の作業区域内にも現地警察の検視官がつくけど、そこにも部外者の侵入を防ぐため警察官は置かれると思う。あと基本としては引き渡しのための手続きがあるので行政担当者が対応してくれる。但し心理的支援が必要になったらおれは作業離脱してそっちの対応に行くと思う」
小林さんは続けてメモ書きを基に今度はページを遡って手順の説明箇所に戻る。
「あと、清拭やエンゼルケアから納棺については看護師に一任してよいかと思いますが、整復が必要な場合その作業については担当医師が行うのか看護師が行うのかどちらでしょう」
「外部の挫創縫合や内部の挫傷の侵襲的補修など医師でないと行えない部分はあるのでそれが済んだらあとは任せてもいいのだけど、自分だったら表情とか体勢の乱れも気になるからそういうところまで補正してしまいたい。文字通りの変わり果てた姿でお渡ししたくないから。一通り検死が済んだらエンゼルケアと納棺進めてもらって、その間に他を進めておいて終わったら声かけてもらって改めて取り掛かる。立て込んできたら並行して複数対応することもある」
借りたテキストに直接書き込むわけにはいかないので、小林さんは帳票の見本の裏に書き込んでいく。一通り書き込んだのを見計らって声をかける。
「あとは、何かある?」
「お話していた、災害の混乱に乗じた略奪や性的暴行などの犯罪、その後の衰弱死や自死以外に、それに伴った殺害と仰っていましたけど、実際にこれまでこのような検死の支援にあたっていて、実は単純に災害被害ではなかったことってありましたか」
「あるよ。殺したまではいかなくても実は已むを得ずではなく故意に見捨てたとか告白されたこととかね。そういう申し出があった場合引き継いで聴取は行われるけど状況的に検証のしようもないだろうね。おれはその後まで把握してないんだけどね」
綾子先生が「前に別の現場でお会いした時にもそういったお話サラっと触れてらしたことがあったのは憶えてるんですが、そういったことって、検死の段階でわかったものですか?それとも身元確認や引き渡しの段階で発覚したものですか」と声をかけてきた。
「検死から身元確認や引き渡しの流れじゃなく、遺族の心理的な支援を依頼されて面談した中で出てきたものだから、フォローする人材がいない現場だとそういうことが明らかにされないまま普通に引き渡されている場合もあるんだと思う」
確認が完了したものは整容面を考慮し整復し、エンゼルケアした上で納棺し、引き継ぎ。引き渡しは死亡証明書を発行する行政担当者が実施する。
「先ずはテキストの内容から作業の要点だけそのまま読んだ感じではあるけど、此処までで気になることある?」
小林さんは帳票の見本にメモを取りながら、何度もテキストを行き来して見返している。
「普段からやってるにしても、此処での仕事は勝手が違うから一通りやってみないとわかんないよねえ」
綾子先生は優しく小林さんに言う。小林さんの手は、或る所で止まっていた。
「藤川くん、いいですか」
「ん、何?」
開いているページは今実際に説明した箇所とは違う章だ。通常であれば「それは後で、」と咎めるのだろうけど、発達特性により読むのが早く、思考が多動がちな人間は説明箇所の理解が済むと次に興味が向いた箇所を先取りしたくなる。そういう人間はある程度居て、自分にもその感覚はわかるので、それについてはおれは何も言わない。
「親族のための情報センターを設置するとあるんですが、これはわたしたちが収集した情報を基に行方不明や無くなった可能性の高いご家族を探す作業を行っていただく別室になるわけですけど、此処には警察官や医師は常駐するんでしょうか」
「我々の作業区域内にも現地警察の検視官がつくけど、そこにも部外者の侵入を防ぐため警察官は置かれると思う。あと基本としては引き渡しのための手続きがあるので行政担当者が対応してくれる。但し心理的支援が必要になったらおれは作業離脱してそっちの対応に行くと思う」
小林さんは続けてメモ書きを基に今度はページを遡って手順の説明箇所に戻る。
「あと、清拭やエンゼルケアから納棺については看護師に一任してよいかと思いますが、整復が必要な場合その作業については担当医師が行うのか看護師が行うのかどちらでしょう」
「外部の挫創縫合や内部の挫傷の侵襲的補修など医師でないと行えない部分はあるのでそれが済んだらあとは任せてもいいのだけど、自分だったら表情とか体勢の乱れも気になるからそういうところまで補正してしまいたい。文字通りの変わり果てた姿でお渡ししたくないから。一通り検死が済んだらエンゼルケアと納棺進めてもらって、その間に他を進めておいて終わったら声かけてもらって改めて取り掛かる。立て込んできたら並行して複数対応することもある」
借りたテキストに直接書き込むわけにはいかないので、小林さんは帳票の見本の裏に書き込んでいく。一通り書き込んだのを見計らって声をかける。
「あとは、何かある?」
「お話していた、災害の混乱に乗じた略奪や性的暴行などの犯罪、その後の衰弱死や自死以外に、それに伴った殺害と仰っていましたけど、実際にこれまでこのような検死の支援にあたっていて、実は単純に災害被害ではなかったことってありましたか」
「あるよ。殺したまではいかなくても実は已むを得ずではなく故意に見捨てたとか告白されたこととかね。そういう申し出があった場合引き継いで聴取は行われるけど状況的に検証のしようもないだろうね。おれはその後まで把握してないんだけどね」
綾子先生が「前に別の現場でお会いした時にもそういったお話サラっと触れてらしたことがあったのは憶えてるんですが、そういったことって、検死の段階でわかったものですか?それとも身元確認や引き渡しの段階で発覚したものですか」と声をかけてきた。
「検死から身元確認や引き渡しの流れじゃなく、遺族の心理的な支援を依頼されて面談した中で出てきたものだから、フォローする人材がいない現場だとそういうことが明らかにされないまま普通に引き渡されている場合もあるんだと思う」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】 同棲
蔵屋
BL
どのくらい時間が経ったんだろう
明るい日差しの眩しさで目覚めた。大輝は
翔の部屋でかなり眠っていたようだ。
翔は大輝に言った。
「ねぇ、考えて欲しいことがあるんだ。」
「なんだい?」
「一緒に生活しない!」
二人は一緒に生活することが出来る
のか?
『同棲』、そんな二人の物語を
お楽しみ下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる